出発
「新幹線来ました!」
新幹線はホームに静かに到着するので、美濃の声が小学生のように響き、美濃は見た目も小学生なので、あれ、これ高二の修学旅行だっけ? となる。
「修学旅行始まるな」
僕は隣の美雨にそう言った……と同時に美雨が不機嫌なのに気が付いた。というか昨日から不機嫌だ。それは女子小学生と仲良くしているからだと思っていたが、今日はJSいないぞ。
「どうした美雨……?」
「べ、別に普通。新幹線では、はしゃがないだけ」
「そうか……」
目の前で減速していく新幹線を眺めていると、美濃がこっちに来て耳打ちをした。
「美雨は、真矢音さんのことを不安に思っているみたいです」
「真矢音さん? どっから出てきた?」
僕はテンションが上がってきた周りの生徒の声に紛れるほどの大きさで訊き返す。
「雫ちゃんと優くんは、割と友達オーラみたいなのがあります。でも、真矢音さんと優の関係について美雨は気になってるみたいです」
「ごめん。意味が分からん。真矢音さんと僕は話したことがないよ」
「えっ? だって、真矢音さんは雫ちゃんのお姉さんですよね? 雫ちゃんと幼馴染の優くんは当然真矢音さんとも幼馴染ですよね?」
「ああ……そういうことかよ。大野さんのご両親は昔離婚して大野さんは母親と二人暮らしだったはずなんだ……たぶんそのあと再婚したりしたのかな……僕もあんまり詳しくは知らないんだ」
「家庭の事情ってことですね」
「そうだな……」
「ま、とにかく、美雨を安心させるためにも真矢音さんと優は話したことないって言ってきます」
そう言って美濃は少し離れた乗車位置のところに移動していた美雨のところに行った。
それを見届けながら思った。もうすぐ新幹線に乗る時間だが稲城が来ていない。
まさか、いつもの癖で学校の図書室に居たりしないだろうな。集合は新横浜駅だからな……って今それに気づいてももう間に合わないし、もうすぐそこまで来てる事を願うしかない。
「新幹線の中で睡眠をとれると思って調子に乗って三時くらいまで起きてたら寝坊した。危ないところだったが結局間に合ったし特に問題なしだな」
願ったら稲城が現れた。僕が願ったタイミングで現れるのがうまいな稲城は。