JS名探偵のえりか
「私、わかるよ。その女の子の気持ち」
「え?」
放課後。JS名探偵が誕生した? かもしれない。
えりかがそう言ったのだ。
大野さんから話を聞いた、美雨と美濃、そしてりすとやまねも、なぜぬいぐるみを受け取ってもらえなかったのか、不思議に思っている感じだった。
でも、えりかはわかったみたいだった。
「なんか、すこし、探偵になった気分だよ」
「えりかちゃんすごいー」
「虫めがねがあれば雰囲気出たね〜高校にも理科室にあるのかな〜?」
「虫めがねはあるか微妙だな……」
「あの、それでえりかちゃん、謎解きを」
美雨がすごい聞きたそうに言う。ちなみに、今日はそこまでJSを呼んだことについてはぐちぐち言われなかった。
「謎解きって言うほどでもないよ。私も同じことを思ったことがあるだけ。うゆゆの、ランドセルを背負ったうみがめさんのぬいぐるみをもらった時」
「え? でもあれは、えりかが大切にしてくれていて……」
「うん。今は大切だよ。でも、初めはちょっと嫌だった。だって羨ましいから。ピンクのランドセルを背負ってて」
えりかが大切にしてくれているぬいぐるみの中に、ランドセルを背負ったうみがめがある。それは去年の文化祭で、えりかのお母さんが入院中のえりかに買ったものだ。
えりかが、初めはそのぬいぐるみに、そんな感情を抱いていたなんて、初めて知った。
「自分が学校に行けないのに、ランドセルを背負ったぬいぐるみを見ると、羨ましくなって嫌になっちゃう。でも、いつか、ぬいぐるみみたいにランドセルを背負いたいとも思ったよ」
「……」
僕の中で答えが見えてきた。みんなもそうだと思う。どうして大野さんのぬいぐるみは受け取ってもらえなかったのか。それは、謎でもないし、えりかの言う通り謎解きをしないと分からないことでもない。
「……ベッドから起き上がれないその女の子はきっと、そのうさぎさんたちがずるいと思ったんだと思う。自分は外で遊べないのに、青空の下で元気にうさぎさんたちは、じゃれあっているから」
えりかが静かに答えを言い、狭い音楽室楽器置き場裏は、お互いの距離は近いのに、静かな空間になる。
そうだ。二匹のうさぎがじゃれあっている。きっと青空の下で。目が青くなるのは青い空が瞳に映っているからだ。きっと、その女の子はそう考えたんだ。
僕の趣味はぬいぐるみ作りだ。たくさんの人の宝物になるようなぬいぐるみを作るのが目標だ。
だから……僕は今日、ぬいぐるみを作る上で大切なことを知ったと思う。
相手はそのぬいぐるみを見てどんなことを考えるか。
それを考えないといけない。
そうしないと、自分が心を込めていても、いくらぬいぐるみコンクールで入賞するようなクオリティでも。
ぬいぐるみのこめた想いは伝わらないことがある。
「……今度、また病院にボランティアに行くんです。私そのとき、その女の子と一緒に、ぬいぐるみを作ろうと思います。その女の子が作りたいぬいぐるみを一緒に作るんです」
大野さんは真面目な顔で言った。本当に真面目だった。今日は縞パンは、見えなかった。
お読みいただきありがとうございます。
もう少しで話がひと段落します。
その後の話については、今のところ、修学旅行について書く予定です。




