受け取ってもらえなったぬいぐるみ
「ボランティア部っていうのはいろんなところにボランティアに行く部活です」
「名前の通りってことか」
「そうです。私は中学入学と同時にそこに入部しました。そこは人数は少なかったですが、いい雰囲気で、同じ学年の友達もできました。でも、クラスの方では私はうまくなじめませんでした」
大野さんは小さめの卵焼きを口に入れ、丁寧にもぐもぐしてから僕を見て、そして続けた。
「だから、私はボランティア部の活動が、学校関係で唯一の楽しみみたいになっていました。で、ある日、ボランティア部は病院で入院している子供たちと遊ぶボランティアに参加しました」
「おお、ボランティアって言うと、清掃とかを思い浮かべたりするけど、色々あるんだな」
「いろいろあります……それで、私は入院中の子供たちと遊びました。そこで、ぬいぐるみが大好きな、女の子と出会ったんです。その女の子はベッドからあまり起き上がれなくて、ベッドの上でぬいぐるみを使って遊んだり、絵本を読んだりしました」
入院中のぬいぐるみが好きな女の子と聞いて僕はピンクのワンピースを着たえりかが頭に浮かんだ。えりかは、前に病気の治療のために入院していたことがあるのだ。
まあ、えりかと大野さんはこの前の部活で会っているわけだから、大野さんが言っている「女の子」はえりかのことではないだろう。
「私はその女の子にぬいぐるみをプレゼントしようと思いました。ボランティア期間が終わるまでにぬいぐるみを完成させようと思いました」
「おお。すごくいい流れだ」
「でもです。受け取ってもらえなかったんです」
「え?」
「私は、二匹のウサギがじゃれあっているぬいぐるみを渡そうとしました。あの、ぬいぐるみコンクールで銀賞をとったものです」
「あれをあげようとして、受け取ってもらえなかったのか」
「はいそうです」
あんな、究極のうさぎのぬいぐるみを受け取ってもらえなかったなんて、そんなことがあるだろうか。もし僕だったら自信なくしてぬいぐるみをしばらく作れなくなるかもしれない。
「……それで、私は、『どうして、受け取ってくれないの?』と聞いたんです。そうしたら、『目が青い』って言われて……」
「目が青い……」
それがそんなに嫌だったのか……。
「結局私は、ぬいぐるみを自分で持って帰りました。そしてそれから、私は自分に自信がなくなってしまったんです」
「自信か……」
「ボランティア部の活動も、前より積極的ではなくなってしましました。それを心配したお姉ちゃんが、私に自信を持ってもらおうと、二匹のうさぎのぬいぐるみをぬいぐるみコンクールに応募して……そしたら銀賞でした。」
「おお……やはりすごいぬいぐるみだったってわけだな。で、そのお姉ちゃんっていうのは……」
「真矢音です。可愛くて私より色々すごいお姉ちゃんです」
「いや、大野さんも可愛い……」
「別にゆー先輩からそういう言葉が欲しかったわけではありません」
「……」
「私は、銀賞とっても自信が持てませんでした。だから、ゆー先輩たちに、私が作ったという先入観なしにぬいぐるみを見てほしかったんです。だから、お姉ちゃんが私の作ったぬいぐるみを売ってくれているフリーマーケットに案内しました」
「そうか……なるほど、で、そこで、僕たちはやはりすごいぬいぐるみだと言った。目が青いのも、黒いのも、ほかのぬいぐるみも」
そう言いながら思い出して考える。真矢音さんが、ぬいぐるみのデザインをどうやって思いついたかを秘密にしたのは、そもそも、自分も知らなかったからだ。ぬいぐるみを大切にするというと嬉しそうだったのは妹のことを思っていたからだ。
不思議なことが減った代わりに、わからないことが。どうして、大野さんの二匹のうさぎのぬいぐるみは、受け取ってもらえなかったのだろうか。