深いぬいぐるみの作り手
真矢音さんが作ったぬいぐるみは深い。
確かにその通りなんだけど、少し不思議な気がした。
真矢音さんは、ぬいぐるみコンクールで銀賞をとって、そしてそこに名前は載せてない。
その一方、フリーマーケットには出ていて、ぬいぐるみコンクールで賞をとったぬいぐるみとそっくりのものを販売。
ぬいぐるみを大切にすると言ったらとても嬉しそうな顔をしていた一方、どうやってデザインを思いついたかは秘密。
全部を通して特に矛盾はない。
でも、ぬいぐるみを販売したら実物がいろんな人の手に渡る訳で、自分のぬいぐるみの作り方をさらけ出すようなものだ。それをなんで、秘密主義の真矢音さんが行うのか。
あと、自分のぬいぐるみを多くの人に大切にしてほしいと思っていたら、たくさん買ってもらえるかもしれないし、ぬいぐるみコンクールで銀賞をとったことを堂々公開した方がいいだろう。
それに、フリーマーケットで売らなくても今はネットとかいろんな方法で出品することができるはずだ。なんでわざわざフリーマーケットに出たのか。
そこが少し不思議。
でも、めちゃめちゃおかしいという訳ではなく、やはり特に矛盾はないような気もする。
そんなことを考えながら昼休みトイレに向かって歩いていると、大野さんとすれ違った。
「ゆー先輩こんにちは」
「こんにちは」
大野さんは相変わらずスカートが短い。
そして、筆箱と教科書を持っていて、筆箱に、レッサーパンダのぬいぐるみをつけていた。
「ここだと落ちにくいし、落ちてもすぐ気がつくので」
「ああ、なるほど」
と、思いながら改めてレッサーパンダのぬいぐるみの目に注目してみた。
黒色か……。
そして、他のところもよく見ると……。
「あれ? しっぽの向き違わない? 前大野さんが落としたやつと」
僕はぬいぐるみの目に注目することはあまりないから、目の色について覚えていたり、意識したりすることはないが、ぬいぐるみのポーズについてはかなりこだわる人なので、その違いに気づいた。
「え? あ、ああ。そうなんです。さすがゆー先輩です。実は、落としたぬいぐるみとこれは、違うぬいぐるみなんです」
「あ、そうなんだ……」
そう返事をしながら考える。
普通、友達から、こんな若干ポーズが違うだけのぬいぐるみをもらうだろうか。
あんまりもらわない気がする。
ということは……。確証はないけど、冗談半分の雰囲気で言ってみる価値はあるかもしれない。
「ぬいぐるみコンクールで銀賞とったものも、フリーマーケットで売ってたぬいぐるみを作ったのも、レッサーパンダのぬいぐるみを作ったのも、全部、大野さんだよね?」