ぬいぐるみ、そして胸が大きくなるマッサージ
一時間目の授業は、保健体育だ。
おじいちゃん先生が、怪我の予防について延々と話す。
全くもってえっちじゃない。
「えー、ですからこういうときは、まずは応急手当をすることが大切だのお」
「……」
みんな反応なし。朝から眠い人たくさん。
僕は前から二列目の席。ぬいぐるみ作りを机の下で密かに進めつつ、開いた教科書に時折視線をやる。
これでもまだ真面目な方な気がするな。
前は一番後ろの席だったから、みんなの様子が見えるし自分はぬいぐるみ作り放題だったけど、今は前の稲城の席が空席であるということくらいしかわからず、さらにぬいぐるみ作りがやりづらい。
一番後ろの窓際の席になりたい。そう1分おきくらいに思ってたら、授業が終わった。
休み時間。次の物理の授業のために、物理実験室に向かおうとすると、美濃が自慢げにこっちにきて僕を見上げた。
どうした。もしかして、保健体育ノート全部真面目にとったの?
「優くん。ちょっと私の話を聞いてください」
「え? いいよもちろん」
「すごい面白いことに気づきました」
「おお」
「ほら、これを見てください」
美濃はスマホで僕に画像を見せてきた。
「ほら、まずこれが、銀賞のぬいぐるみです。次にこれが、私が昨日買ったオコジョのぬいぐるみです……あっと行きすぎました」
勢い余って次の画像まで見せてしまった美濃は、慌ててオコジョのぬいぐるみの写真に戻した。
ちなみに次の画像は、「胸が大きくなるマッサージ方法⑤」だった。いつか大きくなることを願う、と心の中で応援の気持ちを送る。
「で、その二枚がどうかしたの?」
「気づきませんか? 目の色が違うんです。うさぎのぬいぐるみの目は青。オコジョのぬいぐるみの目は赤です」
「目の色が違うか……結構細かいところまで凝っているということか。参考になるな」
とここで僕は、僕が昨日買ったうさぎのぬいぐるみは、どうだろうかと気になった。
鞄から取り出してみる。銀賞のぬいぐるみが青だから多分青だろう……と思ったが、実際は、黒だった。
僕には理由が思い浮かばない。
だけど多分、真矢音さんの作るぬいぐるみは、とても深いんだろう。
お読みいただきありがとうございます。
日にちがあいてしまってごめんなさい。