おそろいのぬいぐるみ
「というか優くん、ぬいぐるみコンクールのHPに、受賞者の名前書いてないんですか?」
「確かに、書いてあるのが普通ですね」
あのー、二人とも話しそらさないで……。もういいや。美雨も多分美濃と大野さんのいたずらだってわかってるでしょ。
で、確かに美濃と大野さんの普通受賞者の名前あるよねという指摘はもっともだとは思う。
しかし、この銀賞のぬいぐるみは、受賞者の名前の欄は、『匿名希望』となっていた。
「匿名希望なんだよなそれが。ほら」
「本当ですね。私だったら名前が載ると嬉しいっていう気持ちがあるので載せてしまうと思いますが……真矢音なら、載せないって選択を取ってもおかしくはないですね」
「……そうか」
僕は窓の外に目をやる。
今は文化祭後の十一月。いつのまにかすでに暗くなり始めていて、僕のスマホの光が、鏡のようになったバスの窓にも映っていた。
次の日。僕は登校中、信号待ちをしている間、自転車から降り、昨日買ったうさぎのぬいぐるみを見ていた。
「おはよ優。何ぬいぐるみ眺めてんの? 今赤になったけど」
後ろから自転車でやって来た美雨が声をかけてきた。
「あれ?」
どうやら、ぬいぐるみを眺めるのに夢中になりすぎて、信号が青になったのに気づかず、また赤になってしまったようだ。
「はあ……全国のどこを探したらぬいぐるみを眺めるのにそんなに夢中な男子高校生がいるのって感じだよ」
「いや、この究極のぬいぐるみ見たら誰でもそうなるだろ」
いやならないな。とは実際思うけど。ぬいぐるみに興味がある人は少ないからな。
そう考えると、ぬいぐるみがテーマのラブコメをここまで読んでくださった人は神だな。
「ま、優がぬいぐるみを見てぼーっとしてたから私が追いつけたわけだし、まあよかったかなー、なんて」
美雨が信号を見たままそう言う。究極のぬいぐるみよりも見とれてしまいそうな横顔だった。
「あ、美雨この前水族館で一緒に買ったニシキアナゴのぬいぐるみ鞄につけてるんだ」
美雨の自転車のかごを見て僕は言った。
水族館に二人で一緒に行った時、おそろいのニシキアナゴのストラップ型ぬいぐるみを買った。美雨はお菓子も買わずそれしか買わなかったわけだが。
「う、うん」
「ちなみに僕は筆箱につけてるよ。いやー、可愛かったな。ニシキアナゴ。チンアナゴもいいけど。どっちも可愛いよな」
「そうだね……あ、青だ行こう!」
美雨は照れているのを隠すかのようにニシキアナゴのぬいぐるみを鞄の内側にしまい、僕より先に自転車を漕ぎだした。
僕は、うさぎのぬいぐるみを鞄にしまって美雨を追った。
鞄を開けた時、筆箱についている美雨とおそろいのニシキアナゴのぬいぐるみを眺めてしまったせいか、美雨とは結構離されている。
僕は頑張って漕いで、自転車のスピードを上げた。