検索履歴にいたずら
一時間と少しぶらぶらしたあと、そのまま駅前方面に向かって塾の自習室に行くという稲城と別れ、僕たちは、フリーマーケット会場を出て、市役所前のバス停で、バスを待っていた。
「ちょうどあと五分くらいで……」
「あ、来た!」
あれ? どうやら一本前のバスが遅れて到着したようだ。ナイスタイミングすぎる。
美濃と大野さんが前に座り、僕の隣には美雨が座った。
バスの座席ってこんなに狭かったっけ……。前乗った時、隣に買い物袋を持ったぽっちゃりのおばさんが座ったけど、その時よりも狭く感じる。
もちろん美雨は全く太ってないので、これは僕が美雨を意識しているせいだろう。
それはいいとして。僕は美雨にスマホを見せた。
「このぬいぐるみ」
「え? あれ、真矢音ちゃんから優が買ったぬいぐるみのそっくりじゃん」
「やっぱりそうだよな」
「この写真、どこに載ってたの?」
「去年の全国ぬいぐるみコンクールの、銀賞の作品なんだけど……」
「えっ、すごい……うーん。ここまで可愛いと、甲斐先輩のと、どうやって優劣つけたのかわかんないなあ」
「そうだな……。そもそも、ぬいぐるみに優劣はつけがたいしな」
きっとそれは、他の芸術作品や物語と同じかもしれない。
ちなみに甲斐先輩とは、ぬいぐるみ部の前部長だ。今は静岡に引っ越している。甲斐先輩の作ったくまのぬいぐるみは、去年の全国ぬいぐるみコンクールで、金賞だった。
「ねえ雫ちゃん。真矢音ちゃんって、全国ぬいぐるみコンクールで、去年銀賞とったとか聞いてない?」
美雨は前の席の大野さんの肩を席越しに軽くたたいて訊いた。
「……いえ、そんなことは聞いてません……あ、でもこれは確かに、真矢音が作ったぬいぐるみっぽいですね」
大野さんが振り返って僕のスマホを見て言った。
「どれどれ私も見たいです」
美濃も見ようとしてきたので、僕は大野さんにスマホを渡した。前の席で二人が僕のスマホをみる。
「確かに、似てますね」
四人がそういうので、僕の気のせいとかではないみたいだ。
僕は、考える。なんとなく、変な感じがする。見た目はオッケーなぬいぐるみの中で、綿の形が少し崩れているような感じ。
そうしてしばらく考えていると……。
「うわー、優くんこんなの検索してます」
「面白いですね。ゆー先輩」
「どれどれ、私にも見せて」
しまった! スマホ渡したまんまだ。
でも見られたくないのは、履歴削除してるし、問題ないよな。たぶん。
……たぶん大丈夫。
そのあと、美雨が、にこにこしながら僕にスマホを返してきた。
怖い。何を見られたと思って、チェックしてみれば……。
「小学生 仲良くなる方法」
「おっぱい 触りたい」
いやいやいや! 僕こんなの検索してないしな。
僕が真相を見破るまで三秒。
「美濃と大野さん、あのさ、よくないと思う。こういうのは」