地軸の傾きと女の子の柔らかさについての再確認
僕は、羽有優という。
優しい天使のような名前だとごくたまに言われるけど、実際はそんなことはなく、羽などもちろん生えてない。
今は文化祭が終わって一週間と少し経った頃。文化祭モードもおしまいの学校は、テンション上げすぎて疲れた人の集合体みたいな雰囲気になっていた。
僕もそのうちの一人であるような気もするが、僕は部活の部長なので今日も部活に行く。
というわけで僕は音楽室の扉を開けた。
あ、音楽部なのかって思って人がいるかもしれないけど、そうではなくて僕はぬいぐるみ部という部活の部長をしている。
あ、興味ない……。
だいたい知ってたから大丈夫。
ぬいぐるみに興味があってこの小説を開いた人はいないはずだから。
だから僕は、音楽部のいる音楽室の描写を全カットするために、ぬいぐるみ部の活動場所の音楽室楽器置き場裏に急いで行った。
そうすれば女の子たちの紹介ができるから……。
「優くんこんにちは!」
と思ったがまだ一人しか来ていなかった。
美濃つばき。小学生に見える見た目。声はめちゃくちゃ可愛い。もちろん他も結構可愛い。放送部とぬいぐるみ部を兼部しているが、声の可愛さゆえに放送部人気ナンバーワン。
特技はすれ違う人の胸の大きさをさっと見ること。これは多分そこらの男子高校生よりうまい。
律儀にスマホに自分との勝敗を記録していて、この間後ろからのぞいて見て見たら、勝敗が片方に寄りすぎていてすごいことになっていた。桁がなんか全然違った。
「この前の水族館デートの報告をしてくださいちゃんと! 美雨とはどうだったんですか? いちゃいちゃ二十三・四回くらいはしましたか?」
美濃がいきなり話しかけてきた。今日の記録はもう済んだのかな……。わからないけど、地球の地軸の傾きが二十三・四度だってことは再確認できたな。
まあ……とりあえず美濃の質問に答えよう。
「ああ、楽しかったよ」
「あのですねその感想は……。小学生じゃないんですよ優くんは。私はまだ小学生って言っても何も問題ないわけですが……ううっうえーん。今日も全敗でしたー」
自分で言って自分で悲しくなる。それは僕もよくやる。だからこういう時は少しそっとしておいてあげて、立ち直るのを待つことにする。
ちなみに美雨というのは、後から来るからその時にでもいいんだけど、まあ簡単に言えば僕が好きな女の子だ。
「で、どうだったんですか? 私のアドバイスメモは役立ちましたか?」
立ち直り早い。美濃のそう言うところは、僕はすごくいいと思う。
「役立ちはしたけど、美雨が予想以上にいつもと違ってて……具体的に言えば……」
急に止まってもじもじもじってなるからどうしたと思ったらお手洗いに行きたいって滝登りコーナーのアユがはねる音より小さい声で言ったりとか。
レストランに入ったら、「私、少食だから……」とか言ってサラダしか食べなくて、その後カワウソコーナーに行った時にすごい音がなってへー、カワウソってこんな風に鳴くんだなって思ったら、美雨のお腹の音だったりとか。
お土産ショップに行けば、大好きなお菓子は一つも買わずに、僕とお揃いのぬいぐるみを買うと言い出してそれ以外何も買わなかったりとか。
ちなみにいつもは、美濃に「トイレ行こー」と言って仲良くトイレに行った後にそのまま帰りに購買で抱えられないくらいの量のお菓子を買って帰ってきてそれを幸せそうに全部食べて……って感じだ。
「へえー、美雨がそんな風だったんですか。でもますます可愛いって思いましたよね?」
「まあ……」
「よかったです! ところで一つ試したいことがあります」
「え?」
美濃がいきなり抱きついてきた。ぎゅうー。あれ、美濃って柔らかいんだな。そう、だって女の子の柔らかいところはおっぱいだけじゃない。
まあぬいぐるみ柔らかいんだなって言ってるもんか。つまり自明。
「それは、なんの試し?」
「いや、この状態で美雨が来たらどういう風に慌てるか見てみたら面白そうだなっておもったんです……けど?」
美濃が振り向いた、のかな? 僕は首の角度そのまんまで見える。
美雨がそこにいた。
相変わらずのくりくりした目の童顔。幼げの残る可愛さ。それに似合わず、大きくて、現在この状況において威圧感発揮、すごく役立ち中のおっぱい。
僕と美濃は動けない。美濃も僕も胸の大きさで惨敗。いや僕が惨敗なのは当たり前なんだけど。
突如、美濃が逃げ出した。
美雨は美濃の後を追う。
一人になった。さっきまであったかふんわりだったなという感覚。
大丈夫かなって思っていたら、二人で仲良く大量のお菓子を買って帰ってきた。よかった。今日もいつも通りになりそうだ。
お読みいただきありがとうございます。
これからも読んでいただけたら嬉しいです。