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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある町の話

あなた

作者: 夢都

「私、あなたと友だちになってみたかった」


私がそう言うと、あなたはとても驚いていたね。それから、少し怯えた目をしていた。そのことが悲しくて、逃げるように走って家に帰った。


私が、この町に転向してきたのは小5の冬だった。とても長閑で、自然とうまく調和してる景色が綺麗で、この町がすぐに好きになった。でも、この町は私を歓迎してくれはしなかった。いや、正しくは歓迎してくれなくなっただ。両親は、変わらず街に受け入れられているようだった。万が一、私への人質とするために。そう、私はこの町の敵になってしまった。理由なんて簡単だ。あなたがいたから。


私が転校した先の小学校に、あなたはいた。あなたはきっと気づいてないんだろう。あなたがどれほどこの町に愛されてるかを。


それは、些細なきっかけだったと思う。みんな、あなたのことが好きで、まるで神さまかのように賞賛するけど、私にはそれが不思議でならなかった。みんな、何かあると直ぐにあなたに頼って、求めて、期待した。あなたはそれら全てに完璧にこたえていた。だからかな、みんなあなたの優しさに甘えてたのね。ソトから来た私は、その歪さにすぐに気づいた。私は、それを変えたくて、あなたと友達になりたくて、だから、あなたが席を外している時に言ったの。


「とても変だよ。1人の、それもまだ小学5年の女の子になんてものを背負わせてるの。」


みんな怒った。ソトのやつに何がわかるって言われた。あなたのこと何一つ分かってないって。この町のこと何も分かってないって。私は、やり方を間違えてしまった。私は、この町の神さまを殺しにきた悪者になってしまった。悪者の私は、神さまのあなたに近づかせて貰えなくなった。孤立した。あなたは優しいから、それでも私に何度も手を差し伸べようとしてきてくれたこと、ちゃんと気づいてたよ。


ある日、聞いてしまった。神さまであるはずのあなたが悪者の私にまで、その優しさを与えようとするから、町が遂にあなたにまで刃を向けてしまった。みんなが毎日、あなたに囁いてこと知ってる。


「あなたがあの子を認めると、あなたはもういらなくなっちゃうよ」


衝撃だった。どうして、どうして。この町は、あんなに優しくて純粋な子を踏みにじるのか。そんな仕打ちができるのか。とても憎かった。でも、1番許せなかったのは、知っていても何もできない無力な自分だった。この町は、神さまを失いたくなくて、醜い自分たちを知られたくなくて。それを知ったらあなたがもう何もしてくれないと怯えて。あなたに呪いをかけた。自分たちの神さまに呪いをかけた。


それからはあなたは、私を悲しそうに時折り見ては、視線が合うと目をそらすようになった。誰だって1人にはなりたくないし、あなたも普通の女の子だから。それに、あなたは賢いから。本当はこの町の本質に気づいていて。でも、優しいから。全部、自分のせいだと追いこんだ。私、あなたが苦しんでること知ってる。私を助けたい気持ちと、1人になるのが怖い気持ちで心が引き裂かれそうになってること。だって、あなたはいつも私に手を伸ばそうと右手をちょっとだけ動かして、爪が食い込みそうなくらいに両手を握るから。ぎゅって、目を瞑るから。

だから、だからね。苦しんでるあなたが時々1人になりたくて、時々、みんなを撒いてること知ってた。ただ、どこにいるのかわからなくて、町の目をかいくぐってこぎつけた。あなたは、偶然だと思ってるけど、大切に守られてる神さまに、偶然なんかで悪者の私が近づけるわけないんだよ。私、頑張ったんだよ。言いたいこと沢山あったんだよ。なのに、言えたのは「友だちになりたかった」の一言だけ。あなたの怯えた目を見て、私、頭が真っ白になって、逃げてしまった。そんなこと、予想できたはずなのに。


私、家に帰ってから、とても後悔した。ああ、何してんだろうって。これじゃあ、意味ないって。泣いて、泣いて。次こそはって、意気込んで朝、学校に行ったら、とてもとても驚いた。みんなの手を振り払って、呪いを吹き飛ばして、私に笑いかけるから。


「おはよう。」


って言ってくるから。私、感動しちゃって、混乱しちゃって。思わずあなたに抱きついてしまったのは許してほしい。その勢いで、2人とも床に倒れちゃって。それでも、信じられなくて、私ずっとあなたに抱きついたままだった。あなたは、優しくそんな私の背中をさすってくれた。そして、あなたはそんな私に優しく囁いてくれた。


「ありがとう」


って。

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