親友とTSっ娘のぱんつ(瑛)
突然だが、俺、多田直樹には幼なじみで可愛い彼女、瑛が居る。
小さいころはあどけない笑顔が素敵でアホな男の子だったが、高校1年生の冬頃にTS病にかかり、美少女になってしまった。
まあ男だった頃から仲が良くて、クラスの女子からは嫉妬の視線を感じ、一部の女子からは「イケメンと美少年…… いける!」なんて告白をもらったこともあるくらいだ。
何がいけるんだよ、って二人してそいつに話を聞いたら新たな扉を開きかけたのだが、その後で、さすがに付き合うなら異性だな! って話になり、それからも親友として仲良くしてたわけなんだが、何の因果か瑛は突然美少女になってしまった。
そこで俺が「異性だったら付き合えるな!」なんて言ったら、「じゃあ付き合うか?」なんてまんざらでもなさそうに言うものだから、付き合うことになった。
付き合ったからと言って俺達の関係が何か変わったわけではないが、周りからの嫉妬の目線は増えたし、一部からは「異性カップルになっちゃった……」と残念そうに言われた。
そんなわけで俺自身はそこまで変わったことはなかったのだが、流石に女の子になった瑛は女の子としての知識も必要だから! と積極的に女子に教えを請うようになっていった。
正直俺以外のヤツと仲良くなるのはイライラするところもあったが、俺は女の子のことには疎いし、瑛の自由に任せることにしていた。
しかし、最近瑛の様子がおかしい。
立ち振る舞い自体はそんなに変わっていない。何がおかしいかというと、服装だ。
瑛は2年に進学してからずっと女の子の制服を着ているわけだが、最近の着崩しは目に余る者がある。
ブレザーは閉めないし、ワイシャツもだらしなく着崩している。そしてスカートの丈が段々短くなっている。まるでギャルみたい。
そりゃ、そうやって着崩している瑛も可愛いよ? だけどさ、それを見る他の男子のイヤらしい視線が気持ち悪いんだよ。
しかも、俺と瑛の仲が良いのを妬んでか、瑛が他の男と遊んでいるだとか、他の男に影響されてあんな格好になってる、とか吹き込んでくるワケよ。
そんなわけねーだろ! と。
学校でもほぼ一緒に過ごし、登下校も一緒にするし、なんなら「親が海外出張で一人暮らしとかうらやましいから、お前の家で一緒に住むわ」とか言って俺の家に下宿してるんだぞ? 家事も一緒にしてるんだぞ? 流石に洗濯は別だけどな!
土日だって基本家でだらだらしてるし、たまに女子友に誘われたからと出かけるけど、そういうときだって夕食前には帰ってくるんだぞ? そんな他の男と遊んでいる時間が無いことくらい知っているわ!
そりゃね? 俺だってその格好は目に悪いって言ったことがあるよ。
でもさ、女子に流行りだって言われた! なんて言われたら、そうか、としか言えないじゃん。そんな女子の流行りに敏感なわけじゃないし。
ここ数日はそんな感じでもやもやしながら過ごしてたんだけど、今日はけっこう風が強かったんだよ。
こんな風の強い日にそんな短いスカートではやばいんじゃないかと思ってたら、案の定スカートがめくり上がって。
いやね? 他の子なら見ないよう目をそらすよ。でも好きな女の子だぜ? ついつい見てしまうよね……?
そうして目に飛び込んできたのは、黒色で。って、なんか真ん中部分に肌色が見える気がするけど、気のせいだよね……?
流石に他の奴らに下着を見られるなんてのはイヤなので、瑛を人気の無い空き教室に引きずり込み、説得することにする。
「おい、そんな短かったらパ、パンチラしてしまうだろうが! 現に今さっきも見えたぞ!」
「大丈夫大丈夫! ボクのは見せパンだから!」
そう言って笑顔でスカートをまくり、見せつけてくる。
ついチラッと見てしまう…… が、とっさに目を離す。
黒のレースだったよ! しかも真ん中部分に布無かったけど! あきらかにアダルティーなやつでしょ!
ふと思って、瑛に聞いてみる
「おい瑛」
「な、なにさ、そんな恐い顔して」
「見せパンって意味知ってるか?」
「知ってるよ? 見せてもいいパンツでしょ?」
そうだな、そう言う意味だな。だけどな。
「それはもっとおとなしいヤツを使うべきで、そんな過激なのを使うなよ!」
「え? でも他の子からは、こういうのが当たり前だって聞いたよ? 真ん中に記事がないからトイレもしやすいって」
いや、いくらなんでもそう言われたからって、それを信じるか? 普通……
「それは穿いてるのを見せてもらったのか?」
「見せてもらうわけ無いじゃん! 元男だよ? それくらいのデリカシーはあるよ!」
アホの子なのに、妙なところで真面目だな…… それを知っててここまで放置してしまった俺も悪いのだが。
「わかった。とりあえずそれはもう穿くな」
「なんで?」
不思議そうな顔で聞いてくる。いやこっちがなんでそんなの穿いてるのか聞きたいわ!
「なんでって…… ちょっとはおかしいと思わなかったのか? 下着コーナーに行っても、そんなの置いてなかっただろ? どうやって手に入れたんだよ……」
「たしかに無かったような…… これは今の流行りだからってもらったんだよ!」
「誰に」
「えーっとね~」
2、3人の女子の名前が挙げられた。仲良くしているヤツの名前だ。
「よし、そいつらとは縁を切れ」
「ええっ!? なんでさ。女の子らしくなれないよ?」
「なあ」
わちゃわちゃしている瑛を落ち着かせようと、一拍おいて話しかける。
「なんで女の子らしくなりたいんだ」
「それは、直樹に女の子として見てもらいたいから」
「俺は女の子として見てるぞ?」
「嘘。だっていつも一緒に居るけど、襲ってこないもん」
そんなことを真顔で言われた。
「いや、襲うわけ無いだろ、学生なんだから」
「なんで?」
「間違いがあったらいけないから……」
「そんなこと言って、元男だからイヤなだけでしょ? 好きだなんて言ったのは冗談でしょ? それならそうと、はっきり振って欲し……」
「冗談なんかじゃない!」
冗談、なんて縁起でも無いことを言うから、つい強く否定してしまった。
「でも、一緒に暮らしてても襲ってこないし、今日だってちょっとえっちな下着にしてみても襲ってこないし」
流石にえっちだとは思ってたのか。ちょっとじゃないけど。
「そりゃ、えっちだからって襲うようじゃ性犯罪者だろ」
「でもこれだけ誘ってるのに」
「なあ」
改めて語りかける。
「襲っても良いって言ったか?」
「言うわけないじゃん! 直樹がどう思っているか知らないのに!」
「俺もだよ。瑛がどう思ってるか知らないんだから、襲うわけ無いだろ!」
「でも、こんなに誘ってるんだよ?」
「相手の気持ちを知らないのに襲ってくるヤツは性犯罪者だよ!」
「じ、じゃあ、今なら……!」
「そ、そりゃ今なら気持ちはわかったけど、こういうのは順序が大事だろ」
「じ、順序?」
「ああ。俺達ちゃんと付き合っているのか、それとも冗談だったのか今までわからなかったからこうなってるんだろ?」
「確かに冗談かもって思ってたからそれとなく誘ってたけど……」
「だからこれから言うのは本心な」
瑛の両肩をつかみ、まっすぐと目を見る。
「俺は瑛、お前が好きだ。付き合ってくれ」
「ボクは元男だけど、大丈夫?」
「お前が男だとか女だとかは関係ない。瑛、お前だから好きなんだ」
じっと見つめる瑛の目は、だんだんと潤んでいき。
「はい! よろしくおねがいします!」
そんな涙を受け止めるよう、瑛をぎゅっと抱きしめた。
「でもさー、さすがにあの下着はやりすぎじゃね?」
「だからよ。流石にアレ見て幻滅しないって事は無いでしょ」
「まーねー。ウチらでもひくもん」
「だいたい、元男があんなイケメンと付き合うとか、おかしーんだよ」
「そーそー」
「さっさと別れてくれりゃ、あたしらにもチャンスあるのになー」
マシなトイレで着替えてくる、と瑛が言っていたので、流石に女子トイレの前で待つのも不審者だし先に教室に戻ってきたのだが、教室に入ろうとしたとき、中からそんな会話が聞こえてきた。この声は、瑛が仲良くしているヤツらか……?
とはいえドア前で立ち止まって立ち聞きするのも他の生徒の注目を浴びそうなので、こっそり教室に入って自分の椅子に向かう。
自分の席でこっそり聞き耳を立てようとしたのだが、それをめざとく見つけた奴らは、こちらに近づいてきて、「そういや瑛なんだけどさ、他の高校のやつらと二股してるって噂が……」なんて宣ってきた。
そういや瑛のことを誹謗中傷してきてたの、こいつらだったな。声に聞き覚えがある。
「おい、そのくだらん口を閉じろ」
普段そんな強い口調で人と接することはしていないのだが、瑛を変な方向に誘導して分かれさせようとしているのにイライラして、つい強く言ってしまった。
普段と違う様子にビビったのか、クラスの中が凍り付く。
「俺と瑛はな、相思相愛だ。そんなくだらん噂を作ってないで、さっさと失せろ!」
「い、いや、噂を作るって、そんな、現実の……」
及び腰になりながらも言い返してくるそいつらに、加えて言い放つ。
「失せろと言ったのが聞こえなかったのか? お前らが陥れようと画策してたのを聞いたぞ。そんなことしても無駄だ。さっさと消えろ」
そう凄んでやると、そいつらはいそいそと部屋を出て行った。
「……あれ? なんか今日は静かだね?」
あいつらが出て行って数分後、瑛が戻ってきた。
「おかえり。遅かったな」
「え? うん。さっきね、いつもお世話になってる3人から、変な常識教えてすまなかったって謝られたの」
なんとなく変だなーなんて思ってたんだよね、なんて悲しそうに笑ってる。
「怒ってないのか」
「怒るってより、悲しい、かな。嘘教えられてたって事だし。でもま、きちんとしたことも教えてくれてたからね。だから怒ってないよ」
相談できる女の子が居なくなったのは困ったけど、なんて力なく笑う瑛。
それをクラス中が静かに見守っているが、誰も助け船は出さない。まあ今の状況で名乗り出ようなんてヤツは居ないだろう。そう思っていたら
「あ、じゃあじゃあ、私が教えてあげる!」
そんな状況をぶちこわして元気に発言してきたのは、イケメンと美少年はいける、とか告白してきたヤツだった。
「いいけど、変なことを教えて見ろ。今みたいな状況になるぞ」
そう凄んでみたけれど、そいつはと言えば、
「大丈夫! 多田君にまったく興味は無いですし! 私は二人を近くで観察できるだけで、ああ……!」
なんか変なスイッチが入っているのか、妙な笑顔だ。
俺は割とイケメンだと自負しているので、全く興味が無いと言われれば、それはそれで微妙な感じがする。
と、それを察したのか、横から瑛がつんつんとつついてくる。
そちらを向くと、むー っと膨らんだ顔の瑛。
それを見て、ふくれっ面も可愛いなぁ、と笑顔になってしまう。あれ、もしかして……
「お前! 瑛が目当てか!? いやいや、こんなに美少女だからと惚れる気持ちはわかるが、お前なんぞに瑛はやらんぞ!」
声をかけてきた女に宣言する。
「違うよ!」
「何!? 瑛が可愛くないと言うのか!」
「あーもう! 可愛いけど、そうじゃないの! TSっ娘と親友、そのカップルを近くで見たいだけなの!」
どういうことだかわかるか? と瑛に目を向ける。なんだか笑顔でトリップしてる……
瑛は当てにならないので、直接聞いてみる。
「どういうことだ?」
「えーっとね、TSっ娘と親友は昔からくっつくものって決まってて、もちろん男の時も仲が良かったからあのままくっついてくれたらいいのになーって思ってたけどそれはあくまで空想の中で現実には無理だろうなーって思ってたけど、でも今は男女だからそんな抵抗もないはずで、つまりここはくっついてもらわなきゃって思って静観してたけどなんかすれ違ってるような気もしなくはなかったけど、とはいえアドバイスしてる子がいるからこっちからアドバイスするのもなーと思ってたらこんな事になって、つまりここは私が取り持ってハッピーエンドに持ち込むべきで、そのためにこの機会を……」
早口でまくし立ててくる。
あー、なんかこの雰囲気懐かしい。前も、何がいけるのかきいたら同じ用に早口で説明されたわ。
話が終わりそうにないので、こちらから声をかけて中断させる。
「わかったわかった。それなら頼む。えーっと……」
「岡本美紀。岡本はこのクラスに2人いるから、美紀って呼んでくれると嬉しいな」
「わかった。美紀、よろしく頼む」
「頼まれた! 瑛ちゃんもよろしくね! 二人がさらに仲良くなるよう尽力するよ!」
「お!? おう! よろしく?」
そんなことがあって、2人+1人は仲良くなって行くのだが、それはまた別の話。