親友と布団(理央)
今日は日曜日。もちろん高校も休みだし、宿題は昨日のうちに済ませている。何が言いたいかというと、
「暇だねぇ」
今までベッドでごろごろしていたが、このままごろごろと一日を過ごすのも不毛だ。
「そうだ、久々にゲームでもするか」
そうと決まれば話は早い。まずはゲームのお供の買い出しだ。
「ちょっとコンビニ行ってきまーす」
そう母に声をかけ、近所のコンビニまで自転車で出かける。
「いらっしぇー」
そんなやる気のなさそうな声に迎えられてコンビニに入る。 まずは定番のポテチ。味はコンソメかのり塩か。いやいや、ここは新しい味も良いな、なんて棚を見ていると、しっぽくうどん味なんてのがあった。面白いじゃん、これにするか。
次は飲み物。ちなみに俺は炭酸が苦手だ。どうもあのシュワシュワ感が苦手。たまに欲しくはなるけれど、一口二口でいいんだよなぁ。
でもなんとなく今日は炭酸も良いかなと、微炭酸のオレンジジュースをチョイス。
そしてレジに…… っと、アイスも良いな。最近暑くなってきたし。
どれどれ…… おっ、パピコだ。昔はこれを理央と半分こして食べてたんだよなぁ。あのころは生意気で猪突猛進なアホの男の子だったのに、今や性転換症で童顔ロリ巨乳で猪突猛進なアホの女の子に…… って、可愛くなっただけ危険度が上がっているんだよなぁ。
あんなの野放しにしてたら襲われてしまう。というかなまじ美少女なだけに、中学時代襲われかけてたんだよなぁ。俺が気づいて間に入ったから良かったものの、あのままだとどうなっていたか。 高校では入学式の後、男どもに手を出すなよとにらみをきかせたから大丈夫だとは思うけど。
中学のその一件の後はなるべく一緒に居たからか、手を出してくる男は居なかったけれど、理央は危なっかしすぎる。帰り道で知らないおじさんに声をかけられてほいほいついて行こうとするし(もちろん止めた)、下校中にバレンタインでも無いのに手作りっぽいチョコレートを食べようとしているから不審に思って聞いてみたら、知らないおじさんから貰ったーだとか無邪気に言うし(もちろんやめさせた。あとで割ってみると、中から白い液体が出てきたので即座に捨てた)、美少女というのを自覚してないからか、余計にたちが悪い。
あるときなんかは駅前でナンパされてたから彼氏面して追い払ったんだけれど、そのあとで「ありがとう」なんて言う笑顔のなんと可愛いことか。あまりの可愛さに正直告白しようかと思ったけれど、今のままだと男だからと断られかねないし(つい先日、そうやって断っている場面を見た)、もっと女としての自覚が出てからの方が良いだろうと諦めたくらいだ。
そう、俺は理央に惚れている。外見にも中身にも。そして一緒に居て気楽でもあるし。
他の人は俺のことを天才だのイケメンだのはやし立てるし、そう言って告白してくる人も居るが、そいつらの目の中には利用してやろうと言った思いが見える。
しかし理央は違う。俺に対しても自然体で変わらないし、そんな目で見てくることも無い。正直男だった時でも親友として一生そばに居て欲しかったくらいだが、女になった今は、結婚して添い遂げてもらう妄想をするくらいだ。
まあ。それは置いておいて。
アイスケースの前で悩んでいる人に見えただろうが、それでもさすがに悩みすぎな人だろう。ちらっと時計を見たら、入店して10分くらい過ぎている。さすがに不審者じゃん、これ。いくつか買っていこうかな。
久々にパピコも良いなとチョイス。横のチョコバーもチョイスしてレジへ。ポテチ用の箸もつけて貰い、会計を済ませて家へ。
家に帰ってきたら、母から20分前くらいに理央が来て、部屋で待っているとを伝えられた。
何で部屋で待っているんだよ。というか今のあいつは美少女なんだから何かあったらまずいだろ。そう母に伝えたら、『襲っても責任取ってくれれば大丈夫よ、拓人くんなら信頼できるから』って理央ママが言っていたと。その理解はありがたいけれど、周りに理解のある家族がいる状況では気恥ずかしくて襲えるわけなんて無いだろ!
しかし、そんなことを言われたから、襲っているところを想像してしまった。顔が熱くなってきたのがわかる。気恥ずかしいので、自分の部屋へと猛ダッシュ。扉の前で、深呼吸、深呼吸……
よこしまな妄想を振り払い、よし、と気合いを入れてドアを開ける。
「理央、家で会うのは久しぶりだな」
そういってドアを開けたのだが、そこには誰もおらず。
あれ? と思って見回すと、ベッドの上がこんもりとしてる。あれか、俺の布団の中で隠れてるのか。
バッと剥いで驚かせよう。そう思ってこっそりと近づくと寝息が聞こえてきた。
ははーん、寝ているのか。隠れているうちに寝てしまったんだな。しかし、男の部屋でそうやって寝ているとか、襲ってくださいと言っているものだぞ。まあ俺は告白してOK貰うまでは襲わないけどな! それ以降は知らんけど!
なんて考えていたけれど、自分の部屋で他人が断りもなく気持ちよさそうに寝ているというのはイライラする。そのイライラは布団を剥いで起こすことで晴らそう。
「おい、何で俺の布団で寝てるんだよ! って、うわ!」
怒り声を出しつつ布団をめくったのだけれど、そこには丸まり、スカートがめくれ上がってパンツ丸見えな理央がいた。好きな人だから直視したい。したいけれど、それはさすがに変態だ。しかし、起きるまでなら良いよな?
そう自問自答し、じっくりと目に焼き付ける。パンツから伸びた太ももが柔らかく気持ちよさそう。そしてパンツはお子様パンツ、しかもバックプリント。白と黒の愛らしいデザイン、あれはパンダか。パンツからはみ出ている部分も柔らかそうで、くそ、目が離せん!
とかなんとか思っていたら、目をこすって、こちらを向きはじめる。ってガン見してたら変態じゃん!
慌てて目をそらし、理央に注意する。
「おい、理央。スカート直せ」
しばらくして、ごそごそと音がした。そして聞かれる。
「……見た?」
「いや、見てないぞ」
当然しらを切る
「ホントに?」
「ホントホント」
疑り深いなあ。まあ? ちらっとみたかもしれないけれど、言わなきゃわからないでしょ。
「じゃあ、パンツに書かれてた絵は?」
「見てないって言ってるだろ!」
その手は桑名の焼ハマグリってな。そんな簡単にのせられない。
「そっかー、拓人、目悪いもんね」
「悪くないわ! 両目とも2.0だわ!」
少なくともおまえよりは良いわ!
「じゃあ見えたよね」
「おうともよ! パンダだろ!? って、あっ」
しまった。乗せられてしまった。普段なら、いやコイツで無ければ乗せられないんだけれど。まあコイツになら乗せられても良いけれど。
「うわーん、やっぱり見たんだー!」
ところが泣き出されたとなれば話は別。他の子ならともかく、コイツの涙には勝てない。
えーっと、どうしよう。
そ、そうだ! 見られて恥ずかしいんだから、見ても何とも思ってないってことを言えば良いんだ! ガン見してただろって? いやいや、確かに本音としてはごちそうさまだけれど、時には方便も必要なのさ!
「いやいや、見えたけれどさ! だからといってそれでどうこうなるわけ無いだろ! おまえは元男なんだし!」
なぜだろう、空気が固まった気がする。俺、なんか間違ったかな。
「ふーんだ」
めちゃくちゃ不機嫌そう。先ほどまでの泣いているのよりはマシだけれど、この空気はいたたまれない。
何か無いかな、ときょろきょろして気づいた。そういやさっきコンビニ行ってきたんだった。手を突っ込むと冷たいものが。そうだよアイス買ったじゃん。確か理央はパピコが好きだったはず。
「そ、そうだ、おまえパピコ好きだろ!? ちょうど今さっき買ってきたから一緒に食おうぜ!」
パピコを手に取り、時間稼ぎにとそんな提案をしてみたら、理央の機嫌はあっさり治り、
「パピコ! 食う食う!」
なんて言って俺の手からパピコを奪い、さっさと開けて半分に割り、片方を渡してきた。
ああ、なんか昔と変わらないなぁ。なんて感慨にふけりつつ受け取る。パピコを受け取ったときに触れた理央の手は温かく、少しどきっとした。
アイスを食べた俺たちは、対戦型ゲームをすることにしたのだが。
昔から理央はゲームをするとき、片膝を立てる。 そして今の理央はスカート。スカートが持ち上がって見えそうなのだ。
見ちゃダメだ見ちゃダメだ…… と思いつつも、ついついちらちら見てしまう。自分、青少年ですから。しかし、見えそうで見えないな。ゲームに合わせて体が揺れているけれど、絶妙に見えない。くそう。
と、ちらちら見ているので割と負ける。なんやかんやで試合をすること十数回。試合の合間で理央が急に話しかけてきた。
「おい」
「な、なんだ?」
ちらちら見てたのがバレたのか、と思ったが、理央の目線はこちらを向いていない。目線の先をたどっていくと、コンビニの袋。
「何か他にも買ってきたのか?」
そう言う理央の興味は袋の中身にしか向いていないようで。見てたのはバレてないようで良かった。
「まあな」
とそそくさと袋から取り出したのはポテチとジュース。ポテチの袋を開き、箸を用意し…… って一人で食べるつもりだから一膳分しか無かったわ。
「ちょっと箸とコップ取ってくるわ」
と立ち上がろうとしたら、理央にズボンを引っ張られた。
「いや、いい。今調子が乗ってるから流れを切りたくない。同じ箸でいい。ジュースも口飲みでいいだろ?」
「良いよ」
理央が良いのであれば良いけれど。そう思って座り直し、対戦。あの箸で食べるとか、間接キスかよ……と理央が箸で食べているのをつい目で追ってしまう。とその視線には気づいたのか、理央は
「ごめんごめん、美味しいからオレばっかり食ってたわ。オレが箸使ってたら食えないもんな。ほら、あーん」
と、見当違いなことを言いつつ、箸にポテチを掴んで差し出してきた。なんだよこれ、あーんかよ。というか気にしないのかよ理央は! いや確かに今までのコトを考えたらこんなことをいちいち気にするヤツでは無いか。
そう思って気にしてない風を装って、あーんを受け入れた。美味しいだろ? なんて聞かれたからとりあえず頷いたけれど、正直味なんてわからなかった。
理央は、そうか、とにっこり笑い、そして、ジュースを取ろうと俺の前に体を乗り出してきた。
正直近くて良い匂いがする。というか良い匂いはするし、なんとなく体温は感じるし。そんなわけだから息子を静めるので精一杯。
そんなことを考えているなんて露知らないであろう理央は、おまえが炭酸なんて珍しいな、なんて言いつつ、嬉しそうな顔でジュースを飲んでいる。
ジュースを飲んでいる理央の、のど元の動きがなまめかしい。ついじっと見てしまう。
と、俺が欲しいから見ていると勘違いされたらしく、ん! とこちらにジュースを渡してくる。
お前、間接キスだぞ? と思うものの、気にしていない様子なので気にしないことにする。まあ男だった時はこういうの当たり前だったもんな。女になったのだから気にして欲しかったけれどさ。
そんなことをおくびにも出さず、一口。やばい。飲み口が温かい。理央の体温だ、なんて我ながら気持ち悪いことを考えつつ飲む。最も炭酸なので、少ししか飲めないけれど。そして残りは理央に返すと、美味しそうに飲み始めた。
その平然とした感じに、俺ばかりドキドキしてるなと理不尽さを理不尽にも感じたので、ぼそっと言ってみる
「間接キス」
それを聞いた理央は咳き込み、こちらをパシーンとはたいてきた。
なんだ、気にしてないわけじゃ無いのか。今まで気づかなかっただけか。こんな反応をするのだから、女の子として俺が男だと意識してくれてるんだな。
そう考えるとついつい顔がにやけてしまう。
よっぽどな笑みだったのか、理央はというとなんだか気持ち悪そうな顔でこちらを見ていた。なんというか、その表情もいいぞ、うん。
そんなことがありつつも、チョコバーを見せると、理央はゲームを始めたときのようなニコニコに。あいかわらずチョロい。チョロすぎて心配になる。やっぱり俺が守ってやらないとな。
そうやって眺めていたので、ゲーム自体はぼろ負けで。
そして俺にゲームで勝ちまくった理央は、ご機嫌な様子で帰って行った。
何も無かったの? なんて夕食時に楽しそうに聞いてくる母親。何も無かったよ、と事実を伝えたのに。残念そうにいろいろ聞き出そうとしてくるので面倒くさい。さっさと食べて、食卓から逃げて風呂に入る。ふう、風呂は誰にも邪魔されない至福の時間だぜ。
明日は学校があるから、と、風呂を上がったあとは、さっさと寝ることにした。
というわけで布団にくるまっているわけだけれど。
「……眠れん」
というのも、理央の残り香が凄いのだ。お昼に理央が寝ていたからか、くるまっていたから汗をかいたからか。理由はわからないが、その残り香は俺にとっては興奮するもので。
こんな状況で、寝れるわけないだろー!
結局一睡もできないまま、翌朝登校するのであった。
気が向いたら更新します。こんな感じで日常を綴るだけだと思います。