TSっ娘と布団(理央)
今日は日曜日。もちろん高校も休みだし、宿題は昨日のうちに済ませている。何が言いたいかというと、
「暇、なんだよねぇ」
今まで暇なときはどうしていたかというと、親友の拓人の家に入り浸っていた。いや、むしろ暇ではないときにも入り浸っていたかな。そこでゲームしたり漫画を読んだり二人でどーでもいい話をしたり…… 一般的な男子中学生らしいことをしていた。
しかし中学3年生のとき、オレこと水野理央は性転換症にかかって、童顔ロリ巨乳な美少女になってしまった。これはここ十年くらい流行っている中高生だけがかかる病気で、中高生の一万人に一人くらいが男子なら女子、女子なら男子に変わってしまうという病気だ。顔には面影が残るけれど、体格や胸の大きさについては良くわかってないらしく、そのあたりは今でも研究が進められているらしい。
それはさておき。
初めてその病気の存在がわかったときは大変だったらしいけれど、十年もすれば世間の反応も落ち着いてくる。オレは中学卒業間近にかかったので、中学までは男子、高校からは女子として過ごすことになった。
まあ世間の反応は落ち着いたとはいえ、さすがに同級生がいきなりそんなことになったらギクシャクする。体育の着替えはさすがに男女とは違う開き教室でするから良いけれど、授業は男子生徒と混じって行う。そうすれば、この無駄に大きな胸とかを見つめてくるような同級生男子も多かったり、なんなら同じ男子なんだから胸を触らせろ、なんて言ってくる不埒なヤツもいた。
そりゃ、気になるのも元男子としてわかるけれど、曲がりなりにも今の体型は女の子。それに女の子になったときに家族や病院で嫌となるほど女の子の基礎知識を叩き込まれたわけで、女の子としての羞恥心もある。
そんなわけで断ろうとしたけれど、男女の体格差はいかんともしがたく。部屋の隅に追い詰められて無理矢理脱がされそうになったとき、オレが追い詰められているのに気付いた親友の拓人が「何をしてるんだ」と、間に入って止めてくれた。
成績優秀でスポーツ万能、おまけにイケメンで先生受けも良い拓人に止められてまで襲おうという度胸のあるヤツは居なかったようでその場は解散。もっとも拓人はその話を先生に伝えたらしく、後日、風の噂でそいつらがキッチリ叱られたという話も聞こえてきた。
そんなことがあったので、男子からは距離を置かれ、女子からは元々男子である上にイケメンの拓人と仲が良いということで、距離を置かれた上に嫉妬の視線まで浴びせてくる。
そんな状況でも拓人だけは変わらず接してくれたので、卒業間近には常に拓人に守られ、べったりくっついている状況だった。
そんな状況も、高校に入ったらおさらば…… と思ったが、イケメンとべったりくっついているからか、女子からはやはり嫉妬で仲良くなれず、かといって男子は男子で拓人が怖いらしく、一人でいても近寄ってくることはなかった。
いや、入学式の日はそうでもなく、むしろ声をかけてくる子がたくさんいたのだが、あの日の放課後、拓人とともにどこかへ行ったと思ったら、次の日からはこんな調子だった。
そんなわけで今も仲が良いのは拓人くらいしかいない。
ということで、昔のように親友である拓人の家に遊びに来たのだが、なんと拓人はコンビニまで買い物に出掛けているらしい。
しかしそこはオレと拓人の仲。女の子になったからといって長年の親友関係が無くなるわけではないし、拓人の親にも長年お世話になっている。
そんなわけで拓人の部屋で帰りを待たせてもらうことになった。
勝手知ったる拓人の家。拓人の母に熱烈な歓迎を受けたオレは、玄関で拓人の母と別れ、拓人の部屋の前まで一人で来た。
部屋の主が居ないのはわかっているので、ノックもせずドアを開ける。もちろんそこには誰もいない。むしろ誰かいたらホラーだよ。
「おじゃましま~す」
一応小声で断りを入れ、そーっと部屋に入る。
入ってすぐに漂う男臭さ。
その発生源はゴミ箱で。
いや、まあ健全な男子ならそりゃするよね。オレも元男だからわかるよ。
でも、きちんと処理して欲しいな-なんて思ったけれど、勝手に遊びに来ている身だ。それくらいは我慢しよう。
まあ、部屋からする臭いはそれだけではなく。
クンクンと臭いの元をたどると、ベッドにたどり着いた。うん、これは拓人の臭いだ。いつも嗅いでいるからわかる。
でも、不思議な臭いなんだよね。なぜか不思議とイヤじゃ無いし。むしろこの匂いがあれば安心するくらい。
普段から嗅いでいるとはいえ、こうやって意識して嗅いだことは無いな。
匂いを嗅がせてくれ~ なんて言ったら嗅がせてくれるかな。
一瞬、拓人の首元で笑顔で匂いを嗅いでいるオレが頭の中をよぎったが、すぐに打ち消す。匂いを嗅いで笑顔になってるとか、どんな変態だよ! しかも相手は親友の拓人だぞ! 変態だなんて言われて嫌われたらどうするんだ!
でも今は拓人も居ないし、この布団の香りを嗅ぐくらいなら、セーフ、だよね?
掛け布団を抱きしめ、匂いを堪能する。うーん、安心できる匂い。落ち着くぅ。
そこでひらめいた。
抱きしめているだけでもこんなに落ち着くのだから、布団の中で丸まったらもっと良いのでは?
ものは試しと敷布団の上で猫みたいに丸まり、上から掛け布団を被る。おっ、これいいなぁ。拓人に全身を守られているみたいで、すごい落ち着く……
気づいたら、意識は深い闇の中に……
「おい、何で俺の布団で寝てるんだよ! って、うわ!」
そんな声とともに布団が剥がされた。もう、気持ちよかったのに……
というか。
「お帰り拓人~ って、なにさその叫び声」
丸まったまま寝ぼけ眼をこすりつつ拓人の方を見ると、コンビニ袋を手に持った拓人はなぜか明後日の方向を向いており……
「おい、理央。スカート直せ」
そういう拓人の顔は、ほんのり赤く……
言われて下腹部を見ると、丸まったからだろうか、スカートが持ち上がって、おしりのパンツが丸見えに…… 恥ずかしくて顔が熱くなる。絶対赤くなってる。慌ててスカートを直し、顔を布団に埋める。
「……見た?」
「いや、見てないぞ」
「ホントに?」
「ホントホント」
「じゃあ、パンツに書かれてた絵は?」
「見てないって言ってるだろ!」
「そっかー、拓人、目悪いもんね」
「悪くないわ! 両目とも2.0だわ!」
「じゃあ見えたよね」
「おうともよ! パンダだろ!? って、あっ」
「うわーん、やっぱり見たんだー!」
泣くフリをしながら顔を伏せる。これで先ほど顔が赤かったのはごまかせたかな。なんだろう、男に見られたからってそんなに恥ずかしがることなんて今まで無かったはずなのに、拓人に見られたと思ったら、なぜか顔が熱くなっちゃったんだよね。謎だ。
「いやいや、見えたけれどさ! だからといってそれでどうこうなるわけ無いだろ! おまえは元男なんだし!」
なぜだろう、今の言葉で熱がすっと消えた。そしてなんだかイライラすらしてくる。
「ふーんだ」
と不機嫌を表してみると、背後で拓人がおろおろしている様子が感じ取れる。
「そ、そうだ、おまえパピコ好きだろ!? ちょうど今さっき買ってきたから一緒に食おうぜ!」
「パピコ! 食う食う!」
それだけで不機嫌な気持ちが飛んでいってしまった。我ながら現金だ。
その後は、パピコを仲良く半分こして、対戦型ゲームを楽しみ、ポテチとジュースを食べて帰ったわけだけど。
ジュースを飲んでいるとき、間接キスとか言うからもう少しで吹き出すところだった。
確かに昔は気にしてなかったけれど、確かに間接キスだよな。でも男同士でなら、それくらい……
と、そこでオレは今女なんだということを思い出した。そう考えると恥ずかしくなり、つい拓人の顔をはたいてしまった。
でも、そのはたかれた拓人はというと、なぜか笑みを浮かべてたので気持ち悪かった。