第7話 初めての街[アカアシ]②
疲れたぁぁ。夏休みがもう終わる頃かな?。
それといつのまにかステータスが死に設定になってる希ガス……
団長の言葉を聞き、少しざわめく団員達。そして俺達。
魔族というのは、生態系上位に現在立っている人間種の、頂点に君臨する種族。
基本的に北の魔国で活動しているが、現在は様々な国で見かける。
魔族の中でも色々な部族が存在し見た目は変わるようだが、魔族内で一番多く見られるのが魔王族。
魔王族は、青白い肌、ヤギのような角、耳たぶが変化した翼などの俺達異世界人にとって典型的な見た目らしい。
魔王族が多い理由は、(全員が記録にある)初代魔王の子孫であるからである。
ただそれだけだが、それほどに初代魔王の血は濃い。らしい。
ここまで、らしい。とつけて来たが、これには空知川より浅い理由がある。
…全部アリスからの入れ知恵だからである。
…まぁ、それは置いておいて、本題に入る。
大陸北は、極寒の地であり、その上弱肉強食の世界すら生温いような、血で血を洗うといったようなヤバい場所。つまり暗黒な大陸的なのとでも思えばいい。
その過酷さは、レベル50の精鋭だけを集めた60人程の部隊が北方面に入り数時間程で30人に、そして数日で10。2週間ほど経つともう全滅。といった記録が残っているとか。
魔族は、大陸全体で見ると、エルフとかとどっこいどっこいぐらいの数らしい。
その数で、北方面を支配できるほどの力を持っていると考えると、魔族の強さは想像がしやすく…なったかな?。
…まぁ、いいや。簡単に言うと、俺達人間の強さの数値を10とすると、魔族は一体で200オーバーかそれ以上くらいってこと。まぁ盛りすぎかもしれないが。
全員がざわめいたのは、その魔族に対して団長が[抗戦]を選んだからである。他にも、魔族にバレないように救い出すとか、平和的交渉的なのがあるのだろうに。
『なんで、他の方法とか使わないん?。』
『知らないよ。平和交渉は無理だし、バレないようにやっても魔族に追いつかれでもしたら全滅する可能性もあるし。ここで魔族と戦わせて、経験をつけとくくらいしか思いつかない。』
『ほへぇ。よぉわからん。』
団長は、続けて言った。
「そして、我々の共同作戦について詳しく決定するため、私は少数と共に一度エグリサ内部へと潜り込む。共同作戦が実行される時。その時がオウルム王国に侵略する魔族達への逆転の始まりとなるように祈る。」
そう言って締めくくった。
次に、それぞれの師団長が、それぞれの師団へと命令を行い、自由行動となった。
どうでもいいが、訓練の成果かあっちにいた時に比べ立っているのも疲れなくなった。
しばらくすると、団長が少数の部隊とともに移動を始めるようだ。
メンバーは、隠密に長けた面々と団長。
黒い衣服を羽織っている。空を見るともう夜だ。
おそらく暗闇に紛れていくんだろうな。
団長が出発し、訓練が終わり夜御飯を食べ、そして寝る。
起きたら魔法関連の修行を行い、御飯を食べて、訓練ののち夜御飯を食べて寝る。
そうして2日程経った日の昼ごろ。
団長が戻ってきて、会議を開いた。
どうやら、各師団ごとに予定ポイントで冒険者達に合流し、協力しながら街の中枢部を制圧。
そして制圧した中枢部に相手が気を取られているうちに住民の避難誘導。避難誘導は、ルーカスさんの小隊と俺たちで行う。それと数人かの冒険者達も手伝ってくれるようだ。
作戦決行は今日から5日後に行うようだ。それまでは鍛錬…うぅ、筋肉痛が……。
それから4日間、俺たちは訓練を続けた。
といっても、4日目は訓練の疲れが出るといけないという感じで、理論的な武器の使い方や応急的だが手入れ
の方法を、そして戦術の意味などの勉強をした。…勉強の筈なのに見回りの先生役が腕立て伏せしながらとかどうなってんだ………。
なんやかんやあって。そうして、訪れた決行の日。
空はこれ以上に無いほどの快晴で、まるでこちらを見守るように照りつけている。ついでに言うならば、空気はカラカラと乾燥していて、涼しく過ごせそうである。
しかし、今日は涼しく過ごしている暇は無い。すこし残念だが仕方無い。
作戦の確認は万全。アカアシ内部の地図もなんとなく覚えた。いざという時のための携帯非常食なども持った。準備は万端だ。
テントの前に一部の団員を除いた全員が整列する。
テントや馬車はそのままで、その一部の団員がここに残るらしい。馬も残していくため、世話係などで必要なんだとか。
団長が、台に立つ。台の上から見る整列はさぞ壮観だろう。
「各部隊!出撃!」
団長の号令で、それぞれの師団が一斉に動いた。
キラキラと輝く粒子を放つ木々の間を通り抜け、丘に出る。そこからは周囲の景色が一望できた。まだ1日が始まったばかり。今現在のところ、戦闘は起きていないようだ。そうなんとなく周りを見渡しながらほぼ緑一色の丘を下っていく。しばらく下っていくと、街道に出る。ここは石を使っているようだった。そこを更に進んでいった。
門に着くと、既に魔族が待ち構えていた。
「ゲヒヒヒヒ、チマツリニアゲテヤルゼェ……」
そう言った魔族は、舌をベロンと垂らしていて、呂律が回っていない。
しかし、その強さは確かなようで、その強靭な腕で鎧ごと体を貫いた。
騎士団はすぐに臨戦態勢を整えて対峙する。そして、一番前列で構えていた師団の師団長が言った。
「ここは俺たち第3師団が引き受ける!お前らは持ち場につけぇ!」
それを聞いた他の師団は、それに従って次々と裏路地へと進んでいく。
俺たちもそれに続くように裏路地へと進んでいった。
クラス21人全員が案内役の団員の後ろについて裏路地を駆けていく。
近くには生き物の気配などは無く、ただ地面を駆ける音しかしない。
ジメジメとした裏路地を右へ左へと、迷路のように進んでいくと、ちょっとした広場へと出る。
街全体もそうだったが、ここも人の手入れが無く、既に苔や蔦が張っている。
広場の中央にある噴水も、排水溝が詰まってしまったのか、水が溢れている。
花や草などは殆どが枯れ、残っているのは雑草などのみ。
荒廃した街。それをまんま表したような光景だ。
俺たちは、案内に導かれ、広場の一角にある酒場へと入った。
酒場内には、既に冒険者が来ていた。
冒険者は3人。優しそうな雰囲気を醸す神官服の男と、重そうな鎧に身を包み、背中に巨大な円形の盾を背負った男。そして、ローブを着て杖を持っている女性…多分魔法使い。
リーダー格なのか、優しそうな神官服の男が騎士と軽く挨拶する。
「僕はジャス。よろしく。騎士団さん達。」
「ご協力感謝する。私は第七師団所属のシプルだ。よろしく頼む。」
シプルは、伝令魔法を使い到着した事を伝えた。
次の行動の指令を待つ。クラスの全員が、緊張しながら、最終確認を行う。もう後戻りはできない。
そうして無言の空間で、しばらくの時間が流れた。
ふと、思った。
『第3師団の人たちは大丈夫だろうか。』
『ん?第3師団?。…あぁ、大丈夫大丈夫。あの正気保ってない魔族を路地裏で撒いたよ。今。』
アリスと念話で会話を行いながら、窓からチラリと外を見る。
外では、煙のような何かが蠢いていた。
「奴だ…」
ジャスが呟く。その呟きを聞いた結城が小さめの声で聞く。
「奴?」
「そんなことよりも、これはマズイ。息を潜めてくれ。」
そうジャスが言い、全員が素直に従った。ジッと息を潜め、見つからないようにする。
『近づいてきてる…』
アリスが言う。それが近づいてくるうちに、周囲の空間が少しずつ歪むようになってきた。それと同時にだんだんと恐怖が滲み出る。
冷や汗が、ゆっくりと滴り、落ちる。まるで時がスローになっているように感じるほど、ゆっくりと。
「…匂いがする。人の匂いが、その汗、汚れ、体内の匂いがするなぁ!」
緑色の煙が、酒場の壁、窓を通り抜けるように入ってきた。
「祭りの場所はここかぁ…!!」
「総員!戦闘配備!」
「来いよ、人間。変身!」
緑の煙が人の形を成していく。やがてそれは、緑の体色をし、一本の角がある、悪魔のような姿に変身した。
既に全員が構えをとっている。
「《リンク》!!」
魔法使いが、能力を発動した。
『いくぞ!』
脳に直接声が聞こえてきた。どうやらメンバー間で念話が使えるようだ。
いきなりで他のメンバーは少し困惑しているが、俺は経験済みのため、先に動かせてもらう。
先に攻撃を始めたシプルの後に続いて剣で斬る。
「ぐおおおお……なんて言うとでも思ったか?」
案の定攻撃が効いた素振りは無い。素早く後ろへと下がる。
それと同時に、今度は俺の番だとでも言うかのように奴が動き出した。
動きが目で見えない程にその動きは速かった。
奴はシプルの腕を掴んで投げた。シプルの腕を見ると、鎧が奴の手の形にへこんでいる。
奴は、シプルへと追撃をかけようとするが、それを止める3人がいた。
「こっからは俺様のステージだぁ!。お前ら!いくぞぉ!」
海道と取り巻き2人だ。海道が、その動きをスキルで抑えている。
スキル[剛腕]そのスキルは一定時間攻撃力ステータスに、更に触っている相手の攻撃力ステータスを乗せるというスキルだ。相手に触りさえすれば、攻撃力のみ一定時間相手を上回れる。
そして取り巻きの右海と、虎威が奴の脇腹へと触れる。それと同時に、それぞれの手に光の粒子が伝った。
「ふん、お前らみてぇな死にたがりのアホ。嫌いじゃあないぜ。」
「そうはいくかねぇ…?」
「ふん!……何っ!?…」
奴はそう言って体を動かそうとするが、2人に抑えられて体を動かすことが出来ない。
2人のスキルは、触っている間だけ、触っている敵のステータスを15%奪う事が出来る。
それぞれ15%ずつ奪っている。奴はいきなりステータスが上昇した彼らに驚きの色を隠せない。
奴は無我夢中で抜け出そうともがくが、半分パニック状態にある奴には抜け出せない。
その内に溜めていた力を集中し、海道がパンチを放つ。その軌道は綺麗に奴の鳩尾を捉えている。
「おらぁぁぁ!」
そんな掛け声とともに、パンチが直撃する。そして、奴の体に貫通し、大穴を開けた。
「なんてな。」
しかし、奴はまるでそれが効いていないかのように動いた。
体を抑える2人を軽く放り投げ、大穴を開けた海道の肩に触り自分へと近づけた。
「てめぇ!何すんだこのヤロー!」
海道が怒りをあらわにし、ジタバタと腕を振り回す。
しかし、そんな攻撃ともいえない攻撃をものともせず、海道を地面に叩き落とした。
「うるさいなぁ。これだから人間どもはなぁ!!」
既に傷は塞がり、その体を取り戻している奴はゆっくりと動きだし、名乗った。
「俺は、[密閉]の[ザナーク]。勇者共、お前らの見せ場は必要ない。」
なんかカッコいいこと言ってやがる!。やべぇ、絶対アイツ半端ないって。まじでザナークさんまじパナイっすよ。
とか思っていると、頭の中から、笑い声が聞こえた。さてはアリス、アイツツボったのか。やはり、強い。ザナーク強い。
気をとりなおして緩んだ手を握りしめ、剣をつかみ直す。
既に結城達が仇を取るように突撃を繰り返している。奴に傷は付いていない。
二つ名があるという事は、ヘェルメェール…だっけか?あのでかい奴と同レベル帯の可能性がある。
そして奴は通常はガスだと考えていい。なにせ二つ名が密閉だからな。
色々な面から見るに、ガス状生命体のザナークは、現在自身のガスの体を人型空間に密閉、圧縮することで今の体を手に入れていると考えられる。
そして、人の体で動かす利点……舐めプ?。しかし、舐めプなどしている場合でもないだろう。時間をかけすぎると増援が来る。それにここは、大分狭い酒場の中だ。奴がヘェルメェールレベルならもっと遠くに投げ飛ばせるはず…なのに奴は近めの床へ投げ飛ばすようなことぐらいしかしていない。
少し引っかかりを覚えている間にどんどんとクラスメート達が奴に攻撃を行い、そして投げられている。そうして更に怒りは大きくなっている。行かなければ、と思うが体はまだ考えろとばかりに動かない。
…ヘイトを稼いでいるのか?。煽っている仕草も出してきた。でも何のために?。
『ヘイトを稼ぐ時は、だいたいが他の何かから目を背けさせたい時。そしてここは密閉空間に近い。更にいうとあのザナークはガス状生命体。そこから導き出される答えはただ一つ』
アリスのヒントで繋がった。脳細胞のギアが上がった。確証は無いが、一応繋がる。
この答えは恐らく……毒だ。
ガバガバな理論だが、先程までの理由と、あの体。毒々しい色をしている。それに周囲の空気もどことなく緑めいてきた気もする。
それらを複合させていると、それぐらいしか考えられない。
心の中でステータス上昇スキルの発動を宣言する。
瞬間、身体が軽くなり、動き易くなる。
俺はザナークへと駆け、奴を思い切り壁へと叩きつける。奴は少しずつ気化するが、完全に変化する前に壁を壊し、奴を外へと投げ飛ばす。
奴は地面をころころと転がりながら、ガスの状態へと戻り切る。
「クックック……中々…やるじゃねぇか。勇者。まさか企みを潰されちまうとはな。これからの成長が楽しみだな…ハッハッハッ……」
そう言いながら奴は空へと舞い上がっていき、やがて消えていった。
「なんとか…いけたか…。」
俺は膝をついた。アイツを押した時にガスを吸ってしまった。肺が解けるような痛みを感じ、息が途切れ途切れになる。
『触れたものを融解するのかなぁ?。あのガス。』
『興味深そうにしてんじゃ…ねぇ。』
「大丈夫かい?、《ヒール》」
直ぐにジャスが駆け寄り、回復魔法をかけてくれる。
そうして、肺が修復された俺は痛みが消えたことに安堵し、ゆっくりとその目を閉じた。
なんとなくキャラ紹介
[密閉]の[ザナーク]
ガス状の体を持つ魔族。ヘェルメェールと同格である。その体で様々な効果のガスを作り出す。
フィールドを作り出し、内部の気体を密閉させる密閉の能力を持っており、その能力と毒ガスを併せた戦い方をするため、密閉という名が付けられた。
また、体型のフィールドを形成し、圧縮ガスを内部に詰め込むことで擬似的に人型になることができる。
また、強者と戦うことを楽しみにしており、自分より弱くとも、成長性の高いと感じた相手に対しては見逃す事がある。そのため、弱者をいたぶるのが好きなヘェルメェールとはそりが合わない。
戦法などの攻略法はあるが、殺す方法が現在存在していないと思われる。