第24話 どう答えるか
書き溜めはここまでです。
半年近く掛かってこれだけって…。
泣きたい。
話の流れはわかる。
どうしてそうしたいのかも、説明されてしまったのでわかる。
俺がどうしたいのかもわかる。
問題は…どう答えるかだ。
理想は、相手を傷つけることなく相手の申し出を断る事。覚悟を決めて、あっちから持ちかけて来てくれたからだ。
しかし気遣いは毒になる事も多い。
ちょっとした言葉の違いで人は傷つき、怒り、時には諍いに発展する事もある。
人間関係って面倒くさいなぁ。
まぁそれはともかく、答えは出さなければいけない。なるはやで。後腐れなく。
「ど、どうでしょうか…。」
決定は今。えぇい、ままよ!
「ごめんな。…すまないが断らせて貰いたい。」
「…そっか。確かそっちの本業は海賊だったな。戦闘、護衛もできる海の冒険者だっけ。そっちはそっちで大変そうだし、仕方ないものか…。いつまでも待ってるぜ。」
「あぁ、ありがとう。…明日出発だからすぐに居なくなる訳じゃないが、また会おうな。」
「おう。必ずだな。…でもあんまり待たせると、お前の位置無くなってるかもな。」
「それは困るな。せっかく誘って貰ったのに勿体ない。」
「ははは…。……んじゃ、またな。」
そういって彼らは去っていった。
別れを惜しみながらもすぐ会えると。まるで帰り道の途中でさよならする様に軽く。
「疲れたぁ…ってか最近さぁ?。喋らなくなったよなアリス。」
『いやいやー。ちょっと野暮用でして。』
あれ?これ悪い雰囲気なのでは。
俺はこれから何をさせられるのだろうか。
闇のゲームか、生死を賭けたバトルロワイアル系か、もしくは虚無ゲーRTA七連戦だろうか?
『なにもするつもり無いって。というか武器屋とか寄らないの?』
「そういえばそうだな。魚人達との戦闘も増えてくるだろうし、手入れしやすい長物が欲しいな。」
それにしても、つい先日街1番の商会が攻撃されたのに呑気なんだな。みんな。
あそこの酒屋なんてほら、大繁盛…なんか見覚えがえるかと思ったらカストフ達か。まぁとにかく、カストフ達以外のところも人が大勢いる。
『ヤケ酒の可能性も…』
『それならあんなにも騒がしくは無いでしょ。』
いいや、カストフ達はスルーしておこう。まだ酒が飲める年齢でも無い。
「ってか武器屋どこだろうなぁ…。」
『それは私にもわからない…。神が全知全能ならここまでの事にはなって無かっただろうに…』
突然のネガティブ発言。
まだ希望は潰えてないぞー。というかそもそもまだ楽観視できる状況だぞー。と念を送る。
『いやー……そもそも不肖私自然神完全体が分離してる時点でって話だよ。自然を操り、自然を保つ神の中の神!。』
なるへそ。お前がここにいるのは、本来負ける事のない種族の中でも不敗の個体が負け、死亡したって事だからか。てかそれ何気に重要では?
『そうだよ!重要だし、言いたい事も言ってくれたね!…それはそれとしてキヨシ今日察し良くない?不自然だよ?。』
それはお前に操られないようにする為だというつまらないジョーク。
そもそも俺は日によって性能がピンキリ。ご機嫌とりが必要なのだ。だからほら、褒めちぎれよ。
『いやー、褒めるのって要求する事じゃないと神様は思うなぁー。それはそれとして復活したらその分褒めちぎってあげることにするよ。』
マジで褒めるのか…。
「さてと…気づけば港。…武器屋ってどこだろうな。」
「ん?なんだにいちゃん。鍛冶屋を探してるのか?。」
「え?あっはいそうですけど…どちら様で?」
声を掛けて来たのは、顔の赤い男性だった。小太りで俺より二回り程小さくて、ついでに立派な髭が生えている。
もしかして、もしかしなくてもこの人は…?
「わしゃドワーフ族のガルラってモンだ。世界各国の鍛冶屋を練り歩きながら記事を書いている。『月刊ヘファイストス』って雑誌なんだが…しらねぇか。」
うん、知らない。そもそも通信手段、移動手段が限られているだろうこの世界で月刊の雑誌がある事に驚きだし。
「その様子だと本当にしらねぇか…。まぁ無理はない。紙が未だ貴重な時代に雑誌なんか作ればどう見積もっても高くついちまう。買えるのは一部の貴族だとか金持ちか…。そのうえ鍛治という題材でなんか、冒険者のギルドや弟子入り希望の鍛治師、もしくはよっぽどの好きものでなきゃかわねぇだろうよ。」
ネガティブぅ。そもそも存在を知らなかった。他にどんな雑誌があるんかね?。
「まぁネガティブはここまでにしておいて。この街の鍛治師だったな。どういうのをお好みだ?。安さ、品質、対応。それぞれのニーズに出来るだけ合わせて鍛冶屋を紹介するのも俺の仕事でい。」
「ありがとうございます!。いま予算が銀貨30枚くらいなんですけど…。」
「それぐらいあれば、最上級とはいかなくてもそこそこの装備は買えるな。他には…」
「あ、耐久性の高いやつがいいです。」
「成る程。ただ手入れしなきゃどんな物も長持ちしないぞ。」
「あぁはい。手入れに関してはやった事があるので…。」
「そうか。……で、この条件だとあそこだな。着いてこい。」
感謝感激なんとやら。
ありがたくついていこう。
でも一応…
『アリスさん一応警戒しといて』
『あぁうんおっけおけ。警戒心高いねきみ』
なんだその返事。
インキャは警戒心が高いから初対面の人と喋れないのが7割、8割…。ごめんやっぱ3割くらい。
なので仕方ないと思ふ。
「着いたぞ。ここが、わしが君に紹介する工房じゃ。」
連れてこられたのは、工業地区の端の端にある鍛冶屋だった。…どこからどう見ても思い描いていた鍛冶屋のイメージである。
怪しいぐらいに標準なその店の看板には、[鍛冶屋ムラマサ4号店]と書かれていた。
「失礼するぞぅ。バイサーいるかぁ?。」
扉を開け、中へと入るガルラにひっつく様にして建物へと入った。
内装も…普通かな。
壁や部屋中央の鎧立てには、それぞれ鍛治師の渾身の一作であろう武器や鎧が飾られている。
本当に怪しさが増して来たがそんなことはいい、重要な事じゃない。
本当に重要なのは武器が手に入るかどうかなのだ。
「あん?ガルラか。どうした。」
と言いながら、店の奥から武骨な男性が現れた。
つい先程まで鍛治をしていたのか手には金槌を、額には大粒の汗をかいている。
「港で見つけたこのあんちゃんなんだけどよ。どうやら武器が欲しいらしくてな。安め、そして耐久性といったらやっぱりお前ん所が1番だって訳よ。」
「そいつぁありがたいが…。坊主、お前が依頼者か?。」
「あ、はい。」
「そうか…。どんな武器を御所望だ?。」
「そうですね、長い武器でお願いしたいんですけど、どんな武器が自分に合ってるかわかんないんですよね。」
取り敢えず出来るだけ魚人には近づきたくない。なんというか、あの生臭さは独特すぎて慣れる気がしない。
「成る程ぉ。ガルラ…また厄介な仕事を…。んで、予算は?タイムリミットは?。」
「タイムリミットが明日の朝まで。予算が銀貨30枚くらいです。」
「あぁ…こりゃ間に合わせの物でなんとかするしかねぇな。そうだな、長い武器とはいうが、どういう用途で使うつもりだ?。」
やっぱりこう来るか…。
魚人の事だとか話していいのだろうか?。多分この人知らないと思うんだけど。
『しかし、そんな事をまぁいいかと思える程にキヨシは疲労していた。取り敢えず殆どほんとの事をぶつけてみようと短絡的思考でキヨシは喋り始める…』
なんか勝手に道筋決められた。
まぁ何かあったら元凶のアリスが責任とってくれるだろうしその案でいこう。
『物凄く責任転嫁したくなって来た。』
「実は…」
俺は、バイサーに、海賊船に所属している事、魚人から距離をとって戦いたい事を伝えた。
「成る程、生理的に無理だと。…それにしても魚人って。物騒な世の中になったモンだ。まぁいい、この仕事引き受けた。間に合わせの武器だが勘弁してくれよ。」
そういいながらバイサーは奥に入っていった。
それにしてもなんで引き受けてくれたのだろうか。
「魚人とは…数十年ぶりだの。前回は1.2隻の船が沈められる程度の被害だったが、今回はどの程度なのか?。」
「そうですね…。今のところうち以外の船が被害に遭ったって話は聞きませんね。」
「そうか、なら良いのだが…。昨日だかにも商会が崩れたというのに、どうしてこう嫌な事は連続するんだろうな。」
そうだな、そりゃ魚人の話と商会が崩れた話の関係性とか怪しまれるよな。同時期だしな。
それにしても魚人達が前も活動してたなんて初耳だ。それなら昔の資料とか調べてみても良かったかもしれん。
そうしてしばらく経つと、長い槍を携えて、バイサーが戻ってきた。
「坊主、これはどうだ?。簡素なスピアだが、耐久性に定評のある素材で作った奴だ。ついでに、ほらよ。」
そう言って投げ渡された物は、石だった。
「まさかこれ…。」
「あぁ、砥石だ。そのスピアの耐久性は勿論高いがそれでも永久って訳じゃねぇ。だがちゃんと手入れさえすれば長持ちはする。スペアとしてでもメインとしてでも末永く使ってやれ。」
そう言って槍も渡される。取り敢えず鑑定しとこ。
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鋼の槍
バイサーによって鍛えられた鋼の槍。
壊れにくいながらも、良くしなり、また硬い木材と、シンプルながらも、丁寧にそしてしっかりと鍛え上げられた鋼のスピア。
長さ210cm
重さ38kg…ぐらい
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…ぐらいとは?。
「ありがとうございます。ところで代金なんですけど。」
「あぁ、俺が銀貨23枚でガルラが銀貨2枚だ。携帯用の砥石を追加で買うなら、一つ銅貨40枚で、3つセットで買えば銀貨1枚だ。」
「じゃあ砥石の三つセット一つ追加で。どうぞ。」
「おう、1、2、3…。んで、砥石三つセットがこれだ。今後ともご贔屓に!。」
「月刊ヘファイストスも宜しくだぞ!。」
気づけば、既に夜になっていた。
月明かりが照らす海は見惚れる程に綺麗と言えよう…。俺は船で親の海より見たからほぼ何も感じないが。
「よし、帰るか。」
依頼もこなした。武器も買った。
これで後は何も無いはずだ。今日は疲れた。寝よう。
結局ユニークモンスターの能力がなんだったのかとかほぼ不明な気がするけどどうでもいい!。
俺は暖かい布団の中でぬくぬくとした時間を過ごすんだ。
またしばらく書き溜め期間に入ってしまうと思います。