第23話 ギルドの試験 3
「おっしゃオラァ!。かかって来いやオラァ!。」
目の前でこちらを睨みつける狼に対して必死に挑発する。
三下みたいな挑発になったがこれはこれでいい。
しっかりとこちらに釘付けになっているならそれでいい。
それにしても大きい狼と素手で殴り合いとか、異世界まで来て俺は何をやっているんだろうな。
『キヨシの世界って大きい狼もいないんでしょ?。十分異世界堪能してるよね?。』
冗談はよして欲しい。こんな一歩間違えたら死にそうな時に…
俺は異世界でチート使ってハーレム作りたかったよ。
なのに現実は神様のお使いで、某海賊漫画の修行編の如く世界の果てまで飛ばされて、そんな先でも恋の気配は無くて…。
『なんか最後の女々しいけど大丈夫?。』
『大丈夫だ、問題ない。』
気を取り直して…。
一旦勝利条件を確認しよう。
まず、アダプションウルフの毛皮は打撃、衝撃に強い。(だから俺は前衛から外されて中衛をやってる。)
だから俺はこいつを倒せない。
その状況で、こいつを倒せるダメージを与えられるのは後衛アタッカーのフォシスのみ。
フォシスは主に地属性を使うらしい。ならば、今は地属性の一撃を用意してるだろう。
取り敢えず、その一撃の用意が完了すれば合図がある。
そこが一番の重要点だ。
一撃を確実に当てる。
それが勝敗を大きく分けるだろう。
今の時間稼ぎも重要だが、確実に当てるのはそれよりも重要だ。
では、確実に当てるにはどうするか、一つはフォシスが狙いを定める。これはかなり不確定だし俺としてはフォシスの攻撃の命中率がわからないからだめだ。
そしてもう一つは単純、動きを止める事だ。
相手の動きを止めて仕舞えばかなり簡単に、攻撃は当たる。
じゃあ、どうやって相手の動きを止めるんだという所なのだが……。正直言って俺には難しい。鎖を操るとかカッコいい事ができればいいのだが、俺にはそんな事勿論出来ない。
出来るとすれば、空間の権能を使って空間を分ける。ぐらいしかない。
それも俺の練度で出来るかと言われると、かなり怪しいだろう。
だが試して見なければ結果はわからないし、じーっとしててもどうにもならない。
どうなるにしても、今は時間を稼がなければならないのだが。
もう少しすれば、ダァトは前線に復帰する。
それまで耐えれば、だいぶ楽になる。
空気を押し除け、迫る腕や爪は、四足歩行という姿勢からか、殆ど追撃はなく、あったとしてもそれは動きの制限されている噛み付きである。
例えばこいつが更なる攻撃手段を持たないただのアダプションウルフだった場合なのだが、
こいつはアダプションウルフのユニークなのだ。
それに魔物とはいえ野生の動物ならば、得るものが苦労に沿う物でなければ、勝てる勝てないに関わらず撤退するだろう。
今のところ少し優勢気味。
となれば相手に勝ちの一手がある可能性が高い。
なら何故使わないのかという話になってくる。
可能性1.単純に持ってない。
可能性2.現在発動できない。
可能性3.すでに発動しているが、ダメージに直結するまで時間がかかる。
可能性4.発動条件がHPがある程度減る、の為現在わざと挑発している。
今思いつくのはこれぐらいか…。
1ならばいい。
問題は残り3つだ。
どれにしても大ダメージ、苦戦は免れないし、死の危険も高くなってくる。
その場合やられるのは前線の俺か、ダァトか。
俺ならば良い、多分1番ステータスが高いから被害が少ない。
最悪死にかければアリスがなんとかする。
アリスなら他の人もなんとかするだろうし。
…意外となんとかなりそうな気がする。
気を取り直して、もう一度考えよう。
相手の動きを止めるにはどうするか。
『アリス、権能であいつの動きとめらんない?。』
『ごめん無理なの。キヨシのスキルという形で一応存在は出来てるんだけど、エネルギーがかっつかつの赤字でさ…。アドバイスしか出来ないんだよ今。いやーもう少しキヨシとの融合率が進行すればなー、エネルギーの供給も増えるんだけどさ。これって時間の問題だから無理なんだよね。』
なんだ、ただの無能ではないか。
アリスがなんとかするっていう考えは捨てよう。
となると、かなり分が悪い気がする。
どんな魔術が使えるかフォシスに聞きたいが、今は無理だしな。
「悪い!、待たせた!。」
ようやくダァトが前線へと復活した。
それを確認し、相手の攻撃を無理矢理弾いて、中衛の位置へ後退する。
攻撃を弾いたからか、相手の攻撃のタイミングがズレた。
背中が前よりものけぞり、バランスを崩したのだ。
しかし、それは相手も想定済みだったようで、半歩ほど後ろへと後退りし、立て直す。
ダァトとアダプションウルフの睨み合い。
両者とも視線で威圧し、視線で挑発する。
正直言ってダァトは力不足なのだろう。その目は威圧を続けているが、細かな震えが手に出始めている。
先に動いたのはウルフの方だ。
俺たちはこのまま睨み合いを続けても勝つ事が出来る。
だから、魔術が発動する前に動く必要があった。
少しのタメも見せず、こちらへと飛ぶ。
その速さは今まで見せた事がなく、文字通り電光石火だった。
油断していた。だから対応が遅れた。
狼が狙ったのはフォシス。
綺麗な三角跳びで方向を逐一変えながら、華麗にフォシスへとウルフは向かう。
その姿は慣れたのか、捉えられる程ではあったが、初速が違う。追い付かない。
「フォシス!」
フォニアが叫ぶ、同時にメリッサの矢がウルフを捉える。
音もなく飛翔した矢は綺麗にウルフに突き刺さるが、致命的ではない、速度を落とす程ではない。
ウルフは止まる事なく、フォシスへ向かい、その前足を振るった。
フォシスの体が、まるで特撮や中国映画の様に吹き飛び、森の中は消えた。
まずい、非常にまずい。フォシスがいなければ持久戦になり、その場合先に倒れるのはおそらくこちらだ。
逃げようにもフォニア達は、フォシスを見つけなければ撤退する事はないだろう。こっちとしてもフォシスを救出してからじゃ無いと寝覚めが悪そうだし。
問題は時間をどう稼ぐか、どう倒すかだ。
フォシスがいない以上、こちらはあっちを倒せないし、フォシスを救出しにいく時間も作る事は出来ない。
どうする…
「くっそおぉっ![ウォークライ][威圧]!!!」
ダァトが、ウォークライを使い再びヘイトを集める。
連続して威圧も発動させたが…効果がわからん。相手の行動を阻害するものだろうか。
直後に明らかにウルフの動きが止まった。
ピタリと一瞬だけだが、そこから攻撃に繋げられればかなりの時間を稼げる。
「[スマッシュ]!!」
狼が再び動き出した瞬間、ダァトの腰の入ったフルスイングが、ウルフの顔面へとクリーンヒットする。
ウルフが、大きくよろめきながら後退する。
眉間に大きな傷を作りながらも、それは致命傷には至っていなかった。横一線の傷から、カーテンの様にして血が広がっている。
再び、電光石火の速度でこちらへと迫るウルフ。
避けられない一撃。ヘイトを最も集めたのはダァトだった。
「っく……!」
自分へとまっすぐ突っ込むウルフをダァトは迎え撃つ。
俺たちはまた、間に合わない。
「[カウンタースマッシュ]!」
ダァトが自ら弱点を見せる様にして、斧を振りかざす。
ウルフは止まらない、まるで流星の様に加速している。
両者は刹那の間も無く、衝突した。
ウルフは頭からダァトの弱点を狙うように突撃するが、何かが行手を阻んでいる。それは赤く、半透明に輝く板だった。
ダァトを守る様にしてそこに在るそれは、やがてその形状を変える。
網のように糸と糸にわかれながらウルフを型どり、包んでいく。
それにより、ウルフの動きは阻害されたがしかしウルフは再び加速を始めもがく。
包まれているため動いてはいない、しかしそれでも加速している。
「ッッギギギギガガガッ!」
まるで某モンスター育成RPGの某巨人のように変な声を上げながらも、ダァトはひたすら耐える。
ウルフを完全に包み込むまで耐える事で、カウンターが成立するのだろう。
しかし、これでは…。
「ダァト、みんな…ありがとう。」
どこから、声が聞こえた気がした。
そして、ウルフを包む糸がパリン、と欠け亀裂が走った。
「グッグッグルルルルガッ!」
そして、ウルフを包む糸が、割れ、完全に破壊された。
加速していたウルフは目にも止まらぬ超スピードで再び動き出した。
「術式展開。フレイムバレット…[射出]」
皮も、肉も、骨も、血も。その全てを燃やし、焦がし、灰燼に帰す。
そう形容するのが正しいのだろうという一撃がウルフの動きを再び止めた。
「フォシス!」
一撃を決めたのは、フォシスだった。
ギルドを出る。
既に夕焼けに染まった空はそれを反射する海と合わせて、綺麗に輝いていた。
見慣れていた筈の、黄金色の景色も異世界に来ると違っているように見える。
という謎センチメンタルな事は今は置いておこう。
朝に出発したためか、帰ってきた時は3時くらいだったが、今は既に6時半頃だろう。
結果として、ユニークのアダプションウルフを狩った事により、試験に関しては勿論合格だった。というか一個飛ばしでCランクへの昇格となった。
しかし、何がどうしてこんがらがったのかはわからないが、これは元々Cランクへの昇格試験だったらしい。
その為、フォニア達はDからBだ。一人前だ。
俺に関しては、今回が初めての依頼だった事や、まだ審査不十分だと思われる事を考慮して、このランクだが、どうやらCはCでも、俺のCランクはちょっと特別らしく、これからある程度の実績を積む事で試験を受けずにもBランクに上がれるらしい。
ユニークさまさまだな。
そして取れた素材に関してだが、山分けとなった。
部位としては、骨、爪、毛皮。相談して、俺は毛皮を貰うことにした。
そして結局あんまりわからなかったユニークスキルについてだが、調べた結果[疾風]という風に関するスキルだったと推測された。
あまりわからなかったのは、単純な情報不足とユニークモンスターがまだ幼体だったかららしい。
あのデカさで幼体って…異世界ってすごいんすなぁ。
こういった事に関しては、国にも研究機関があるらしく、彼らによって導かれた答えだ。
「あっ、キヨスさん。」
どうやら彼らの聴取が終わったようだ。
あまり聴取とか慣れていないのだろう。全員疲れた顔をしている。俺も慣れていない。
というかギルド内で聴取するのが悪いのだ、そのせいで終わったらすぐに帰りたくなってしまう。
「こういうの慣れてないみたいだな。疲れた顔してるぞ。」
「そっちもセンチな雰囲気醸し出してんじゃん。慣れて無いんだろ。」
「は?。何故分かったし。」
本当に何故分かったし。
「何故わかったはともかく。今回は、ありがとう。」
お礼と自己紹介はこちらから。それを鉄則に頑張っていきたいですね(遠い目)
「それはこっちもだ。」
「大したことしてないんですが?。最後も、ダァトとフォシスが決めたじゃん。」
「確かに、キヨスの攻撃はアダプションウルフには効いてなかった。そもそも武器が無かった。でも、お前は俺が吹き飛ばされた後、かわりに前衛やってくれただろ?。」
「それは俺が遊撃だからというか、俺しか出来ないかなぁと思ったからだし。ヘイト管理もできなかったし大した事じゃ無いと思うぞ。」
「確かにお前はヘイトを管理できなかったし、前衛としては力不足だったろうが、それでも俺が戻るまで仲間を守ってくれただろ。」
そう言われると嬉しい。めっちゃ嬉しい。調子に乗りそうなぐらい嬉しい。感謝されるって意外と少ないしな。
「それに、最後の最後にダァトが発動させた術技[カウンタースマッシュ]は捨て身の一撃だからこそ、ダァトには使えなかったんです。それを使えたということは「俺が、後ろに居たからとか?」はい!そうだと思います。」
成る程、一時とはいえ俺は仲間として認識されていたのか…。
「それで…話があるんですが。」
フォニアがこちらに向き直る。
「私達の仲間になってくれませんか…?」
はえぇ?。
えぇ…主人公弱すぎ。
もっと強くしたいけど、他のキャラクターを立てたい…。