結婚の約束
ふと風呂場で思いついたのを書き起こしてみたけど、特にと言って面白みがないかなと思える作品になった。
『おとなになったらけっこんしてあげる!』
一番最初は幼稚園の頃。
隣の家同士で家族ぐるみでよく遊んでいたあいつは、俺にそう言った。
『大人になってもケッコンしよ?』
小学校低学年。
『結婚』が『ずっと一緒にいる』だと思ってたあいつは、俺に向かって何度もそう言っていた。
『だい君。結婚しようね?』
小学校高学年。
『結婚』の意味をようやく知ったあいつは、それでも俺に向かってそう言い続けた。
『大吉君。約束覚えてる?』
中学生になり、少し大人びたあいつは、俺に対する呼び方を変えると共に、しきりにそう聞きながら触れ合いを求めるようになっていた。
『大吉君。もうすぐだね』
高校1年の冬。
2人きりのクリスマスをあいつの部屋で過ごしていた時、あいつは恥ずかしそうにはにかみながら俺に向かってそう同意を求めて来た。
でも。
『ごめんなさい。好きな人が出来ました』
高校3年の春。
近所にあるでっかい桜の木の下で、あいつは俺と顔を合わせようとせずにそう言った。
『そっか……』
一言。
絞り出せたその一言を聞いた彼女は驚きに目を見開いていたが、俺はこんな日が来るんじゃないかと常々思っていた。
『約束』。
確かに俺は彼女と幼い頃から約束を交わして来た。それは事実だ。
でも、付き合っていた訳でもなければ、そうしなければならないような事情があった訳でもなかった。
俺から言い出していたら何か違っていたのかもしれない。
でも、全ては手遅れだとこの時に分かってしまった。
今年のクリスマス。
彼女には一生に一度の最高のプレゼントを贈るつもりだった。
それより後でも、それより前でもいけないと思ったから。
12月25日。
俺が恋したあいつが、初めて『約束』を口にした日。
俺はこの日に将来の誓いを立てるつもりだった。
憎悪。嫉妬。自己嫌悪。
色々な感情がごちゃ混ぜになって、俺は彼女の顔を直視できず、
『さようなら。楽しかったよ』
それだけ言って、早足でその場を去った。
これ以上彼女といるとどうにかなってしまいそうだったから。
「大吉君」
姿見の前でスーツの襟元を正しながら過去を思い返していると、懐かしい声が後ろから聞こえて来た。
振り返ってみると、そこには彼女がいた。
俺の記憶にある彼女よりも大人びていて、綺麗になった姿で。
「結婚しちゃうんだね」
そう言って一筋の涙を流しながら笑みをこぼした彼女は、それっきり俺の顔を見ようともしなかった。
もうあの頃に戻る事は無いのだろう。
俺が大好きだったあいつが、笑顔と共に、
『結婚しよう!』
と、淡く儚いひと時の夢のような約束事をしていた、あの頃には。
終わりは皆さんの想像にお任せしようかな、と。
特に練った内容でもないですから。