引きこもりがコンビニに行くだけ
この世には様々な人達が生きている。
家族の為や社会の為に貢献して懸命に働く人。挫折を繰り返しても挫けずに前を向く人。何かに対して本気になれる人。沢山の親しい友達がいて楽しい生活を送っている人。大金を稼いで鮮やかな日常を送っている人。彼女がいて結婚して幸せに暮らす人。田舎の畑で汗水垂らし作物を育てる人。上下関係に苦しめられてなお、こつこつと真面目に頑張る人。
じゃあ俺は一体何なんだ?
高校受験に失敗して家に引きこもり続けてから約2年、ベットの上でふとそんな事を考えていた。俺は自分が穢らわしくて醜くて見難くて仕方がない。
いっそもう、死んでしまいたいと思う。
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その夏のある朝。太陽が南中する前にと白シャツに着替え、外に出る。両親は家には不在だった。仕事だろう。ああ、もちろん俺は働くのはごめんだ。かといって優雅な気分になれるわけでも無い。何とも言いようのない感じだ。
靴を履き、玄関のドアを開ける。力強い日差しが差し込んで、一瞬くらっと吐き気がした。
午前9時、夏の空の明るさはいつもの部屋の暗さとは雲泥の差だ。
外に出るのは結構久しぶりだった、一応週に一度買い出しに行く。が、一週間というのは俺にとっては長い長い日にちが経っている。
買うものと言ったら、炭酸ジュース、スナック菓子、カップ麺とかだな。カゴいっぱいに入れて。
お金はいつも母親がくれている。月に2万円。
父親は、クズなんかにやるものなどない、家に住まわせてるだけ感謝しろ。と言う。顔を合わせるび働け働けと、もううんざりだ。
自分が悪いということはもちろん分かってる。働かないといけないことは分かってるんだがな、考えることならできる、イメージすることなら。でも実行できるかと言われたらそうではない。
だから受験も失敗したんだな。
動くのは口だけ。
あー、悪いのはこのダメな性格を授けた神だな。畜生。
ネットでしか生きることが、活きる事が、イキることができない俺は本当にクズだわ。
気づくとコンビニ前にいた、暑さで倒れてしまいそうだ、自動ドアを抜けると涼しい空間に入った。キシリトールガムが体いっぱいに広がるようだ。スースースースー、扇風機一つで部屋を過ごしている俺にとってはもうここに一生いられる、願わくばそうしたい。
「いらっしゃいませー」
レジの可愛らしい女の子が出迎えてくれた、夏休みバイトの女子高生か?元気が良すぎて、俺とは対照的だ。目も合わせられない俺は直ぐに目をそらした。
別に俺はコミュ障ってわけでもない、学生の時はクラスのみんなを笑わせる人気者だった。良い意味で。
今頃仲良くしてた彼奴らは一体何をしてるのか、部活に恋愛に楽しんでるんだろうな。嗚呼、遠退き蘇る記憶達。あの頃はニートwwwwと馬鹿にしてたけど、いつの間にか、自分がニートになってんな。
お菓子の列棚からどれにしようかと悩んでいるとごっつい腕を組んだおっさん店員さんがじっと俺の方を睨んできた。え、?見上げた先の巨体に俺は腰を抜かした。なんだなんだ?
でかい色黒のおっさんは細い目でこちらを睨んでくる。闇のオーラ全開な俺を万引き犯だと疑っているのか?
「お前、ちゃんと食ってんのか?顔色おかしいぞ。そんなもんばっか食ってないで、しっかり食うものは食え。」
ふぅなんだ、良かった。取り敢えず。うん。
っていうかなんでこいつはこんなに世話好きというかやけに俺を気遣うんだ?気持ち悪いな、ほっとけっつーの。こんな店員世の中にいんだな。
生まれて初めてだ。
「...うっす。」
久しぶりに声を発したので、ブルブルと震えてしまっていた、あぁ恥ずかしい、赤面状態だ。
俺は散乱したポテチをカゴに入れて、おっさんに背を向け、離れようと足を運んだ。
ハァと溜息をつく音が聞こえた。
俺は何故か、要りもしないおにぎりを1つと、パックに包まれた野菜をカゴの中に加えた。あとアイスも。
そういえば田舎に住む年上の従兄弟がこっちに遊びに来た時言ってたな。「都会のコンビニとかってめっちゃ人並んでるから大変そう」的な。俺はその時なんか勝ち誇ってた気になってたな。何でだ?
まぁ、
そんな感じで
俺はコンビニバイトを始めた。
俺は大学受験を受けることを決めた。
年齢でいうと、二浪になるが、
東大に受かることが出来た。(最難関の理科三類)
(んなわけあるかボケェ!)