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えわんげりうむ03:転心乱万暴想華恋ガール

 私ははな。この神田解放区に君臨するマザーよ。さあて、今日も晩ご飯の支度、頑張っちゃお☆ 愛しい愛しいあの人のために……って噂をすれば現れたわ! 私の眩しい……。

 しかし彼女は彼の隣に立つ少女を見てぎょっとした。

 な~んじゃありゃ~!


「さて、そろそろ夕食を取りに行こう」

 午後六時を過ぎた頃、伏美が言った。

()る……どこの家に行きます?」

「いや違う違う! そっちじゃない! てか飯まで奪ってたのね! 意外と悪い事してたんだね! ちょっと歩いた所に食堂があるんだ」

「そこのゴミ箱を漁るんですね」

「いや普通に料理を食すんだけど」

「さっきこいつが言ってた美味しい料理ですよ」

 斉木が伏美を指して口を挟む。

「うんそうそう……ってお前さらりと僕に暴言吐いたよね今。ほんとにクビるぞ……じゃあ行こうか」

「くろも連れてっていいですか?」

「もちろん」

「ビクニャッ!?」

「さ、行くわよくろ」

「ニャ……ニャッス……」

「だからいぶ持ち方! 持ち方!」


 三人と一匹は交差点の中心にテーブルを並べて作られた食堂へとやってきた。多くの子供達で賑わっている。そんな中、こちらをぎらぎらと睨み付ける少女をいぶは目にする。見た所彼女と同い年ほどに見える……怖い。

「や、やあはな」

 伏美は彼女に挨拶をする。

「せ~ん~せ~え~!」

 はなと呼ばれた少女はずんずんと近付いてきて、彼の胸ぐらを掴んだ。「ど……どうしたんだい?」

「この女誰よ!」

  そう叫んでいぶを指差した。

「しょ、紹介するよはな。これから一緒に住む事になった妻のいぶ」

「ああん!?」

「つ、妻になる予定の……」

「ああん!?」

「か、彼女の……」

「ああん!?」

「……と、友達の……」

「な~んだ友達か」

(ひよった)

「そ、そうそう。ただの友達。友達のいぶ」

「そっかー、友達かあ。これから先生と仲良くなって、それで交際して、それで結婚して奥さんになって……ってあ~~~~~!? お~く~さ~ん~!?」

(どう言っても怒るんじゃねえか)

「何よ先生私という者がありながらららら!!」

「いや僕君とそういう関係になった事無いから!」

「夢の中であんな事やこんな事までしておいて!」

「夢って自覚してるんでしょ!?」

 はなは伏美を溺愛しているのだ。

「ちょっとあなた! 私の先生を誘惑したんでしょ! このメス豚め!」

 いぶに詰め寄る。

「おい僕のいぶに手荒な真似はよせ。それと僕は君の物じゃない」

「正確にはいぶも伏美様の物じゃないですよね」

「黙れ殺す」

「初めまして、いぶです」

 動じず自己紹介をするいぶ。

「……ふん、何よ。私なんか眼中に無いって訳? ふーん。なかなか肝が座ってるじゃない。さすが先生が認めた女ね……だけど先生は譲れないわ」

「あの……そんなに欲しいのなら譲りますよ? 別に私の物じゃないですし」

「ああっ! そんなっいぶ!」

(確かに)

「な……何よそれ! 先生を簡単に捨てるっていう訳? あんた先生を何だと思って……!」

(やっぱりどう転んでも怒るんじゃねえか)

「こうなったらここは女らしく、先生をかけて料理で勝負しようじゃない」

「あの、めんどくさそうなので遠慮します」

「断る!」

(拒否権()え……)

「さ、行くわよ」

 いぶを無理矢理コンロの前へ連れていくはな。

「……はなはいい娘なんだけど、僕の事になると周りが見えなくなるからちょっと苦手だなあ」

「同族嫌悪っていうんですよ、それ」

 調理台の前に移動したはなはいぶに説明を始めた。

「コンロをもうひとつ用意したわ。どっちが美味しい料理を作れるのか勝負よ」

「嫌です」

「気になるメニューは……カレーよ!」

「嫌です」

「じゃあ始め!」

(やっぱ拒否権無え)

 慣れた手つきで調理をしていくはな。それに比べ手順がわからずあたふたと動くいぶ。

「家で無理矢理コックに作らせた時に少しでも見ておけばよかった……」

 どうやら拉致の経験もあるらしい。


 そして時間が経ち、ふたりのカレーが出来上がった。

「審査員は子供達よ。先生は贔屓するからね」

「わかりました」

 まずははなのカレーである。

「美味しい」

「おいしーっ!」

「うめえ!」

 とろみとコクのあるまろやかなルゥ。優しさのある味わいに子供達は大満足の様だ。よく考えると審査員が子供達の時点で仲の良いはな贔屓になる恐れもあるが、そこは気にしないで欲しい。続いていぶのカレーだ。

「……うっ、美味い!」

「凄い美味しい!」

「食べた事無い味!」

 何と、はなのカレー以上に好評の様である。驚いたはなも食べてみる。

「! こっ、これは……!」

「僕も」

「私も」

 伏美と斉木も食す。

「……確かに美味しい」

「……くっ……悔しいけどこれは私の完敗だわ……!」

「うふふ……出汁をとった甲斐がありました」

「出汁?」

「ニャ……ニャー……」

「くろおおおおおおおっ!」

「……いぶちゃんって言ったわね……とりあえず今日の所は先生はあなたに預けるけど、私はまだ諦めないからね!」

「いえ、だから欲しければ譲りますって」

「いいもん! 私には先生のパンツがあるもん!」

「え、何それ」

「すいません伏美様、実は私が……」

「斉木!? お前何やってんの!?」

「パンツを寄越せと脅されまして、それで伏美様の入浴中に……」

「しかも使用済み!?」

「はあ、先生の匂い……すりすり」

「いやさすがにそれは引くぞはな!」

「と言いつつあんたもいぶの下着があったら同じ事するんでしょ」

「もちろん!」

 いぶはテーブルの隅に座っていた野球のユニフォームを着ていた少年にカレーを薦める。

「食べないんですか? ……もしかして口に合いませんでした?」

「……」

 彼は無言で席を立ちどこかへと行ってしまった。

「気にする事無いよいぶ。彼はああいう子だから……さあさあ、それより楽しい夕飯だ!」

 伏美が仕切って子供達はがやがやと話しながら食事を開始した。

「それにしてもいぶのカレーはこの肉も美味しいよね」

 彼は肉をスプーンに掬い口に運んだ。

「ああ、それ段ボールです」

「ぶほっごほっごほっ!」

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