えわんげりうむ01:恋しくて横浜
※この作品は志室幸太郎さんの作品「EVE:2108 - The Place of the Heart」の設定をベースにした二次創作品です。
元々はTwitterで連載している物です。ほぼそのままコピペしてノベルの体裁を繕っているのですが、その点を理解して頂ければと思います。
横浜の街をひとり歩く黒髪の少女。彼女の名はいぶ。齢十七にして家無き子である。彼女は腹を空かせながら、それでもあても無く雑踏を歩く。そんないたいけな少女を電信柱の陰からこっそりと覗き見る不気味な男がひとり。
「間違い無いね……」
男は静かに言った。
「どこからどう見ても彼女に間違い無い」
「私達もどこからどう見ても間違い無く不審者ですね」
付き人の男が呟く。
「それじゃあ、早速声をかけますか」
「いや待て。しばらくストーキン……尾行して様子を見よう」
ふたりはいぶの後をつけていく。
「ああ、何て可愛らしい歩き方……ああ、通行人にぶつかった! あの親父、殺す」
「落ち着いて下さい」
「見て斉木! お婆ちゃんが落とした荷物を拾ってあげたよ! 偉くない!?」
「何であなたがドヤるんですか…」
「初めてのおつかいを見てるみたいだね」
「赤の他人ですがね」
「そろそろ声をかけに行くか」
「はい」
「……」
「どうしました?」
「一言目に何て言おう。初めまして。これじゃ丁寧過ぎるかな。やあ。これじゃ軽過ぎるか」
「甘酸っぱい学生みたいですね。いい年してるくせに」
「よし決めた! これでいこう」
いぶの元に駆け寄るふたり。
「ようそこの姉ちゃん、今暇してない?」
「前世紀のナンパだな!」
「え?」
いぶは振り向く。
「初めまして。僕は伏美ひろと。君をさらいにきたよ」
「皿洗い……?」
「聞き取られてませんよ。かっこ悪い」
「君の名は?」
「いぶです」
「よしいぶ、早速僕の家に行こう」
その時、伏美の肩がとんとんと軽く叩かれる。
「邪魔するな斉木! 今いいとこなんだ!」
「はーい君ー、何してるのかなー」
警官だった。
「16時30分。少女誘拐未遂容疑で現行犯逮捕と」
「誘拐? 誰が? Youかい? 何ちゃって」
案外余裕がある様だ。
「ちょっと待て、誘拐? 僕が? 違う違う。この斉木がきちんと説明してくれるから」
「? 誰が?」
斉木は光の速さで逃げていた。
「このユダめっ!」
「君、仕事は? 何してるの?」
「宇宙の始まりぐらいから、神をちょろっと」
「警察署の前にちょっと病院行こうか」
「待って下さい!」
いぶは助け船を出す。
「この人は怪しい人じゃありません。ただ私が知らないだけで、突然声をかけてきて私の皿を洗いに来たと言っただけです!」
微妙に違う。
「未成年の女の子に何て卑猥な言葉を!」
この警官も警官である。何をどう捉えてそう思ったのか。
「とにかく怪しい人じゃありません」
「そこまで言うなら君を信じよう。もう怪しい事はやめなさいよ」
警官は去っていく。
「よかった! 無事でしたね伏美様!」
ふらりと現れる斉木。
「君、最後の晩餐は何がいい?」
「叙○苑で」
「庶民派! ……いぶ、とにかく、立ち話も何だしいぶの家に行っていいかい? そこでゆっくり話そう」
「わかりました……家と言っても段ボールなんですが、大丈夫ですか?」
「可哀想に……苦労してるんだね」
三人はいぶの家を目指して歩く。
「あ、段ボール姉ちゃんだ!」
途中子供達がいぶをそう呼ぶ。
「あのクソガキ共め……」
「気にしてません。今の時世物資不足ですから」
「そうだよね。段ボールだけでも手に入れるのに苦労するだろう」
そしていぶの家に着く。
「ここが私の家です」
そこにあったのは本格的に家の形をした、二階建ての段ボールハウスだった。屋根も壁も、全て段ボール製である。
「クオリティー高杉晋作うっ!」
「段ボールですけどね」
「段ボールなんだよね!?」
「でも、ネットも通ってるし、意外と快適ですよ」
「ほんとに意外!」
「およそ500枚……苦労しました。無理矢理奪うのに」
「この物資不足の時代にパクったの!? よくやるね!? そりゃ二つ名が付くよ!」
「どうも」
「誉めてない!」
ふたりはリビングに通される。
「それで……お話とは何なのでしょうか」
「……すー、はー……」
「? 伏美様?」
「いや、いぶの匂いを体中に巡らせてるんだ。斉木もどうだい?」
「遠慮しときます」
「さて、では話そうか。改めまして、僕は伏美ひろと。そうだな……まだ慣れないと思うから、とりあえず『ひろと』とでも呼んでくれて構わないよ」
「わかりました伏美」
「こっちは僕の召しつか……下僕の斉木」
「おい何で言い直した。何で卑しくした」
「よろしくお願いしますサイキックさん」
「違う。私は超能力者じゃない」
「実は僕は神の心を継承してて、一番初めに作った人間が凄い大好きで、君がその心を継承しているという事を知り合いから教えてもらったんだ」
「……難しい話ですね」
斉木が補足する。
「つまり、引きずってるんです」
「一途と言え」
「だから一緒に暮らそういぶ。暖かい寝床と美味しいご飯と限り無い愛が待ってるよ」
「愛……は別にいいですけど、美味しいご飯があるなら行きます」「……愛のこもった料理が欲しいってね。もちろん」
「何このポジティブ変換脳」
「よし、そうと決まれば早速出発だ!」
「段ボール持って行っていいですか?」
「もういらないよ?」
「肉まんに……」
「それ100年前のギャグだよ!」
こうして三人は伏美の家がある東京、神田に向け出発するのだった。