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夜の詩

作者: 日下祈京

祈祷師として高名な「神薙家」の跡取りとして育てられた神薙祷魔。ある年の冬の終わり、一つの強力な悪霊を祷伐し、隷属させた代わりに自分の霊力を殆ど失ってしまう。隷属させた悪霊は少女の姿をし、祷魔によって夜半と名づけられた。

2001年2月17日午後6時19分。

昼過ぎから降り続いている冷たい雨が、舗装されてない地面に吸い込まれていく。

いや、吸い込まれてはいかない。

地面が吸収できる限界量を超えたのか、それともただ単に吸収が追いつかないだけなのか、大小いくつもの水溜りがいたるところに出来ており、雨粒が着水するたびに波紋が広がる。

そこは町外れにある、古い神社。

そこでは、縁日にお祭が開かれるわけでもなく、特に御利益があるというものでもない、何の変哲もない、小さな神社。

滅多に人は来ないらしく、あまり手入れのされてない賽銭箱は、所々木が腐って穴が開いていた。

本殿の方も、扉の格子の木はいくつか折れてしまっていた。

振り返って鳥居を見れば、注連縄は今にも千切れそうな様相を呈していた。

それらの様子は、三日前までのこと。

今では賽銭箱は砕け散り、跡形も残っていない。

本殿は、辛うじて半壊といった所ではあるが、これではもはや神社とは呼べないであろう。

鳥居は片方の柱の下部が半分ほど抉られ、他の場所にも無数の斬り付けられた様な痕、銃弾でも打ち込まれたかのような痕が残っている。

その鳥居に、一人の男が背を預けて座り込んでいる。

全身は傷だらけ、着ていた高価なものと思われる黒い皮のコートはボロボロになっていた。

男は肩で息をしており、まさに満身創痍といった所か。

大きく息を吸い込むと、冷たい空気が気持ちよかった。

しかしソレも一瞬で、心地よさは激痛に変わり、咽る。

数回咽ると、少量の血液の混じった唾液が、地面に落ちて、雨にかき消された。

ふと気が付くと、傍に誰か立っていた。

予想以上に雨足が強いのか、それとも別の理由でか、顔はよく見えない。

「お…………た。だか………う。」

「は…っ、ワリ……、よく聞こえね…ぇ。」

雨の所為か、それとも先ほどの争いで耳の調子がおかしくなったのか。

殆どの内容は聞き取れなかったが、恐らくは少女の声。

「…まない、コレで聞こえるか。」

目の前の人物はかがみ込み、男に顔を近づけてきた。

右頬に擦り寄る形で、少女は話し掛ける。

少女の長い髪は雨にぬれ、男の顔に、胸に張り付いた。

くすぐったい感じがしたが、身体のいたる所が軋み、そのくすぐったさは僅かにしか認識できなかった。

「なんとかな…、で、嬢ちゃん誰だ。傘も差さねぇで。」

「貴方の、奴隷だ。」


5年後。

2006年3月27日午後9時36分。

住宅街、ともいえない程度の家の集まり。

その中にある、一つの古いアパートの最上階、とは言っても3階であるが、その一室のドアが開く。

「おう、ただいま。」

スーツを着て、ドアを開けたのは一人の男。

「おかえりなさいっ!アナタ!」

元気良く出迎えたのは、千早、緋袴を着た一人の少女。

「……。」

少女のその様子に、男は一瞬呆れたような顔をするが、一息おいて何食わぬ顔をし後ろ手でドアを閉め、鍵をかけながら靴を脱ぎ始める。

少女は満面の笑みを浮かべ、両手を男の方に差し伸ばしたまま、暫く固まっていた。

が、男が靴を脱ぎ終わるとほぼ同時に表情は一変し、無表情になり、ふうと短い息を漏らす。。

つまらなそうに腕を下ろすと、玄関から六畳一間の部屋にスタスタと歩いていく男の後を付いていきながら言い放つ。

「まったく…少しは反応したらどうですかね。結構恥ずかしいんですが。」

「だったらやるなよ。毎回毎回…。」

「貴方の無機質無香料無着色な人生に彩りと芳香を与えようとしているんじゃ無いですか。」

「余計なお世話だよ。ったく。」

男は手に提げた買い物袋を床に置き、小型の冷蔵庫の扉を開ける。

そして食料や飲料などを無造作に冷蔵庫に放り込んだ。

次に冷凍庫を開け、同じように冷凍食品を投げ込んだ。

買い物袋に残っているのは、チョコレート菓子が一つ。

板チョコとも言う。

それを掴み、男は少女の方にほいと投げた。

「ほれ、いつもの。」

「有難う御座います。」

少女はそれを受け取ると包装紙を取り、銀紙をぴりぴりと破って小さくかぶりついた。

「最強と歌われた悪霊さんが、板チョコに目が無いとは、滑稽な物だよな。」

「む?」

「なんでもね。」

「ん。」

男の呟きが聞き取れなかったのか、それとも聞き取れていたが聞き取れなかったフリをしたのか、少女は板チョコを齧る口を一瞬止めて一度男に目をやったが、すぐにまた板チョコを齧り始める。

男の名は、神薙祷魔。

平素はIT企業のしがない社員として働いているが、この男は一流の祈祷師であった。

あった、つまりは、過去形。

今ではその力は殆ど残っておらず、せいぜいそこらの浮遊霊を成仏させてやることくらいしかできない。

その原因ともいえるのが、床に座って煙草を吸いながらつまらなそうにテレビを見ている祷魔の横にちょこんと座っている少女である。

彼女の名前は、神薙夜半。

せいぜい中学生くらいにしか見えない彼女は実の所は悪霊だった。

こちらも過去形。

祷魔に「祷伐」されて以来、彼のしもべとなっている。

しもべといえども、彼女には自分の意思や信念は当然あり、勿論のこと祷魔もそれは解っている。

「で、今日は?」

「依頼の方は察してください。」

「まぁ…無い方が楽で良いンだけどな。」

「依頼は無いですけど。」

「じゃぁこのままメシ食って風呂入って寝るか。」

「その前にした方が良いことがありますよ。」

「耳掃除でもしてくれンのか?」

「掃除には違いありませんけど。」

「部屋はきれいだが。」

「いい加減にしないと右耳から左耳に耳カキ貫通させますよ。」

「解った解った…。一緒に風呂に入って身体の掃除をしてくれってこ」

「良いから、さっさと準備していきますよ。」

「あぁー…めんどくせぇなぁ。」


「あぁ、そういや今日俺の誕生日なんだが。」

「親に感謝はしましたか?」

「今心ン中でアリガトさんって言っといたよ。こんな面倒な力をオマケにつけてくれて有難い限りですーってな。」

「親孝行な息子さんで、両親もきっと喜んでるんじゃないですか。」

「心の声が聞こえてればな。」

「電話でもしてあげたら如何です?人間にはそういうモノがあるじゃないですか。」

「この「ボランティア」の後で、覚えてたらな。」

「殊勝な心掛けです。」

「で、お前からのプレゼントは無いのかよ。」

「悪霊だったモノにプレゼントを要求するなんて、滑稽ですね。」

「いえてる。」

午後10時33分。

住宅街のはずれ。

「暮ヶ丘公園」と書かれた石柱が入り口にさびしそうに立っている。

ブランコ、シーソー、鉄棒、滑り台、ベンチなどなどがある、公園らしい公園。

辺りには住宅は無い。

正確に言えば、「人の住んでいる住宅」は無く、公園周辺にあるのは廃屋と薄気味悪い雑木林。

その入り口に祷魔と夜半は立っていた。

「まったく、メンドクセェな。依頼の方が金入るから良いんだがね。」

「近所の小学生からもらえる金銭なんて、はした金じゃありませんか。」

「小銭を馬鹿にするやつは小銭で泣くんだよ。」

「じゃぁ巻き上げたら如何です?」

「人間性を疑われるっての。」

「なら、諦めていつもどおり「ボランティア」しますよ。」

祷魔の仕事はIT企業の社員として働くことである。

が、彼はもう一つ夜の仕事をしている。

というよりは、やらされていると言うほうが正しいだろう。

その仕事は「祷伐」。

人に仇なし、危害を加える人ならざるもの、即ち悪霊を祈祷師の力を以って討伐すること。

成仏させるのではない、「討伐」するのだ。

普段は一般人から一般じゃない人からの依頼を受け、金銭を受け取り討伐する。

しかし、悪霊であった夜半は悪霊の存在を察知できる能力を持っている。

実害は無くとも、以後人類に害を成そうとする悪霊は、依頼でなくとも祷伐することがある。

むしろ最近はこのボランティア的な活動の方が多い。

「しゃぁねぇな。っていうかお前、今日まで何にも感じなかったのかよ。」

「えぇ…。ですから、「霊気」をコントロール出来るレベル…。」

「上位霊か。」

「怨霊レベルではありそうです。」

「まぁ、あんまりハデにやりすぎるなよ。近所迷惑だ。」

「解ってます。」

祷魔は手に持っている長い棒状のものを包む布をとった。

それは黒く長い柄の先に銀色に輝く刃のついた武器。

派手ではない。

しかし、その洗練された刃は月光を反射し、薄く銀色に光っていた。

祷魔はそれを夜半に渡した。

その直後、公園の奥、ジャングルジムにかけられた青いビニールシートから、一人の浮浪者が出てきた。

「おぉ、どうした兄ちゃんたち。こんな時間にこんな公園なんぞにくるなんて…。」

浮浪者はフラフラとした足取りでコチラにゆっくりと近付いてくる。

何ヶ月か解らないが、とにかく長期間洗っていないと見える髪の毛は不衛生に伸び、絡み合っている。

服は所々が破れ、擦り切れている。

「デートに見えるかい?」

「へっへ、だとしたら兄ちゃんはロリコンってことかね。」

「まぁ、デート目的だったらそうなるけどな。」

「デートにしちゃ物騒なものもってるねぇ、お嬢ちゃん?」

浮浪者と二人の距離は5メートルほどにまで詰まった。

そこで夜半は手に持つ武器を構える。

刃と柄の接合部から軽い金属の衝突音が聞こえる。

静かな夜にその音は不思議なほどはっきりと聞こえた。

「残念ながら、逢引きではありませんよ。」

「ほっほ、では何でこんな時間にここに?」

近付くのを辞めた浮浪者が、変な笑みを浮かべる。

「ここ数日、この辺りで妙なウワサがありましてねぇ。ご存じないッスかね。」

祷魔はおどけた調子で聞く。

「ほほゥ?どんなウワサかね。」

クックと喉を鳴らし、浮浪者が尋ねる。

「いやぁ、アンタが一番詳しいんじゃ無いですか?」

祷魔がそう言うや否や、夜半が素早く武器を浮浪者に突き出す。

浮浪者は人間離れしたスピードで後ろに飛びのいた。

「ヒヒィ、感ヅクノガ早イナ!」

「祈祷師ですから。」

「祈祷師…?ソウカ。ソノ槍…「天叢雲」…、キサマ「神薙」ノ小僧カ!」

「ご名答。結構有名なんだな俺って。」

「お喋りしてる余裕は、あまり無いんじゃ無いですか?」

夜半は手に持つ槍、天叢雲を構えながら、すでに浮浪者との距離を詰めていた。

「キッ!」

横薙ぎに振るわれる槍を浮浪者はまたもひらりとかわす。

「ヒヒ。小娘ヲ扱ウト聞イテイタガ、本当ノヨウダナ。キサマガ力ヲ失ッタトイウノハ嘘デハナイヨウダ。」

「力の残りカスなら、一応あるがな。」

公園内を縦横無尽に浮浪者は飛び回り、それを追うように夜半は槍を振るう。

ブランコの鎖が切れ、滑り台の梯子が折れ、シーソーが砕ける。

浮浪者は余裕さえみせていた。

「ヒヒッ、ドウシタ小娘。チットモアタリハシナイゾ?」

浮浪者が夜半を挑発するように言う。

しかし夜半は表情は崩さず、槍を振るい続けた。

接触から10分ほどたったであろうその時。

「夜半、もう良いぞ。」

不意に祷魔が言った。

祷魔はなにやらメモを取っていたようで、手に持っていたノートをパタンと閉じ、ペンを胸のポケットに挿した。

「ソイツは怨霊なんかでもなんでもない。地縛霊だ。ただちょっと、恨みの力が強いみたいだな。恐らく数日前ここで少年の暴行を受けて死亡した浮浪者の霊だ。その霊が別の浮浪者に乗り移ったってトコだろう。人に乗り移れば、霊気のコントロールは少しは簡単になるからな。」

祷魔はそういうと、公園の入り口のすぐ傍にある花壇の煉瓦に腰掛けた。

「どうせお前はこの公園から出られないだろう?地縛霊は自分のフィールドを持ち、その中でしか動けない代わりに、そこでは大きな力を発揮できる。この公園がお前のフィールドだ。コレだけ大きなフィールドを持つのは珍しいがな。地縛霊の中でも、そこそこの力を持つようだな。」

祷魔がそういうと、浮浪者は口を歪めて歯軋りをした。

「…ッ、ハッ、ダカラナンダ。キサマノ言ウ通リ、俺ハ地縛霊ダ。コノフィールドデ俺ニ敵ウモノナドォー!」

「居るよ。」

「…ァ?」

「居るといったんだ。敵う者がね。」

浮浪者が、いくつかの骨組みの折れたジャングルジムの上から、下に居る夜半を見下ろした。

夜半は俯いており、浮浪者からは顔が見えない。

「何ヲ言ッテ…ッ!」

「キサマのような雑霊に、私を如何にか出来ると思っているのか?」

夜半がそう言いながら顔を上げ、浮浪者を睨めつけた。

目を細め、口元を歪めた不気味な薄笑いを浮かべる夜半を見、浮浪者はたじろいだ。

「さぁ、続きをしようじゃないか。雑霊。」

夜半の背中から、一枚の翼が生える。

いや、翼と呼ぶにはあまりに不完全すぎる。

翼から羽毛をむしりとったような、骨組みだけの翼。

それが夜半の左の肩甲骨あたりから大きく伸びていた。

「ッ!コ、コケオドシナド!」

浮浪者はジャングルジムから勢い良く飛び降り、夜半の身体目掛けて飛び掛った。

鈍い音がした。

その音は、骨の間接が外れ、肉が千切れ、血管が分断される音。

夜半の左腕は、あるべき場所には無く、浮浪者の右手につかまれていた。

「ヒヒッ、ク、口ホドニモネェ…ッ!」

浮浪者は引きちぎった右腕のから滴る血を舐め、不気味に笑う。

夜半は、微動だにしない。

肩口から滴る血が、きている純白の千早を紅く染めるのも気にも留めない。

「一つ。」

そう呟くだけで、何もしない。

「ヒヒ、ツッタッテルト、殺シチマウゼェ!?」

浮浪者は夜半の左腕を放り捨て、人間のモノとは思えないような鋭い爪で、夜半の背中を上から下に切り裂いた。

千早が裂け、背中の4本の傷から紅い血が流れる。

「二つ。」

そう呟くだけで、夜半は動かない。

「ドウシタドウシタ?スグニ死ンジマッタラツマラネェジャネェカ!抵抗シテミロヨォオオォ!」

浮浪者は夜半の頭を鷲掴みにして持ち上げ、自分と向き合わせた。

そしてそのまま、空いてる手の指で右目を貫いた。

気味の悪い音がした。

浮浪者が指を引き抜くと、眼窩から血があふれ出した。

「三つ。」

「サッキカラ何ヲ数エ…ッ!!」

残った左目を見た瞬間、浮浪者の動きが固まった。

全てのものを威圧する眼。

浮浪者は自分の身体が引き千切られ、細切れにされるような錯覚に陥った。

「ホトケの顔も三度まで…まぁ私は仏教徒じゃないからそんなことは知ったことでは無いがな。」

低く小さく、ゆっくりだがはっきりと通る声。

浮浪者の膝がガクガクと震える。

目を間近で合わせただけで、体が動かない。

夜半の頭を掴んでいる浮浪者の右手が不意に何かにつかまれた。

右手には槍を持ったまま。

左手は浮浪者が千切って放り捨てられたまま。

浮浪者の右腕を掴んだのは、夜半の背中から生えている翼。

いや、もはや翼とは呼べない。

背中から生えているソレは、根元は小枝のように細いくせに浮浪者の右腕を掴んでいる部分は、腕全体を覆うほどの物になっている。

「イツまで私の頭を掴んでいる気だ。痴れ者が。」

直後、肉が潰れる音がする。

夜半の足が地面に付く頃には。

「ヒギィイイイイィイイィァアアァァアァアッッ!!!」

浮浪者が此の世の物とは思えない叫び声を上げていた。

右腕が二の腕の真ん中あたりからなくなっている。

換わりに、夜半の背中から生えているものの先の、黒い大きな塊の部分から紅い液体が滴り落ちていた。

浮浪者は膝をつき、左手で傷口を押さえている。

指の隙間からは止め処なく血が溢れている。

「結構痛いだろう?腕がなくなるのは。」

夜半と浮浪者のとの距離は、1メートルも無い。

膝を付いた浮浪者と立っている夜半の目線は、同じくらいであった。

「眼を抉られるのも、なかなか痛いものなんだがな。」

そういうと、夜半は口元をゆがませ、笑う。

「ヒ…ィッ!」

浮浪者が後退ろうとしたが、夜半の背中から生えているものに身体ごと頭を抑えられていた。

「ヤ…メロ…ッ!」

その声に夜半はハンッと笑い、柄を短く持った槍の柄で、右目を突いた。

再び絶叫が木霊する。

浮浪者の右目から流れる血は止まる所を知らず、流れ続ける。

「そろそろ日が変わってしまう。今日は野暮用があるのでな。あまり長時間雑霊には構ってられないのだよ。」

夜半はそう言うと、転がっている右手が鴉に姿を変えた。

三本足のその鴉が数羽夜半の左腕があったところに集まったと思うと、其処にはなくなったはずの右腕が、何事も無かったかのように存在していた。

抉られたはずの右目も、既にそこにあった。

「そろそろ閉幕だ。」

夜半がそう言い、槍を大上段に構え。

「逝け。」

振り下ろした。

浮浪者の身体が真っ二つに裂けようとするその瞬間。

静かな破裂音がし、その身体は砕け散った。

血飛沫が辺りに広がり、夜半にもかなりの量の血が浴びせられた。

「祷伐、完了。」

時刻は、午後11時48分。


「御実家に電話はされないのですか。」

「は?」

「誕生日だったのでしょう?」

「あ?……あぁ、こんな時間にかけても…いや、ウチならこの時間が妥当か。むしろ昼間にかけたほうが怒鳴られるな。」

「夜のお仕事ですからね。」

「変な言い方をするな。」

時刻は午前0時30分。

家に着いた二人は、それぞれやるべきことをやり始めていた。

夜半は出発前に食べた夕食の後片付け。

祷魔は先ほど祷伐した霊についてのレポートをパソコンに入力している。

「電話か。こんな用事でしても、ウチの親は聞く耳もたねぇよ。」

「そうですか。」

「そうですよ。」

水が流れる音。

キーボードのタイプ音。

食器がぶつかる音。

マウスのクリック音。

水道の蛇口を捻る音。

椅子の軋む音。

板の間を、裸足の者が歩く音。

マウスホイールを回す音。

紙袋が揺られ、擦れる音。

外は異様なほど静かだ。

「主。」

「ん?」

「こう言う時は、誕生日おめでとう、で良いのですよね。」

「…あぁ。」

「受け取ったらありがとうでは無いのですか?」

「そういう台詞は催促するものではない。」

「催促させるものでも無いですよ。」

「いえてる。……ありがとさん。」

「よろしい。」

「そういう時はどういたしまして、だ。」

「催促する台詞じゃありませんよ。」

「催促させるものでもねぇだろ。」

「仰るとおり。」

「だろ。」

「はい…。どういたしまして。」

楽しんでいただけたでしょうか。

一応コレ一辺で終わらせたつもりです。

気が向けば2話も描いてみたいと思います。

稚拙な文章でしたが、読んでいただき、本当に有難う御座います。

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