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ヴェンデッタ  作者: 白銀悠一
第一章
7/45

炎の男

 ドコッガタッ! 汽車が不自然に揺れた音がする。

 窓から外を眺めていた眼帯の男は、その音を不審がって向かい合って座っている赤髪の男を見た。

 すると、赤髪の男は笑いながら「気にするな」と言う。

「ここらへんは石がゴロゴロ転がってる。時折火山から石が飛んでくるんだ。だからここの区間の運転手はどの石が危険か見極めるよう訓練されてる。安心していい」

 眼帯の男……シュウはそれを聞いて安心した。

 いくらバカでも一国の王子だ。信頼していいだろう。

 シュウが失礼なことを考えていると赤髪の男、バーンはシュウに「着いたぞ!」と大声を上げた。

「見てみろ! ここが俺様の国だっ!」 

 窓を見ると全体的に黒い色合いの建物がある町が広がっていた。

 いや正確には黒ではなく灰のせいで黒くなってるように見える。だが、町はとても活気に溢れているようだった。

 シュウが駅から出て駅前の広場に入ると、まず目に入ったのは町から少し離れたところにある火山だった。

 次に真っ赤になっている空である。ここ火の国イグナイトは、活火山の影響かとても気温が高く、空も赤く染まるほどであった。

 汽車に揺られている時点で既に暑かったためシュウは思わずコートを脱いでいた。

 そもそもゼファーの時点でコートは不必要だった気がしなくもないが。

 だが、コートには装備を隠すという意味合いもあった。おかげでシュウは探索者にしては多すぎる装備をさらけ出すはめになったが、町の人は特に気にしている様子はない。

 シュウが不思議に思い、人々を観察するとその答えがわかった。

 重装備の男たちがそこらじゅうを歩き回ってる。

 これならば、装備がほんのちょっと豪華な探索者が一人増えたところで気にする者などいるはずがなかった。

「おい! この俺、バーン様が帰ってきたぞー!」

 バーンが大声を上げる。すると広場にいた人々が彼に近寄ってきた。

「おっ! バーンじゃねえか!」

「バーンの兄貴が帰ってきたぞ!」

 シュウは人々のバーンに対する出迎えを聞き少し驚いた。

 セフィロも国民寄りではあったが様づけであったし、国民もどこか一歩遠慮していた。

 だがバーンに対するそれはもはや友達に対する対応である。

「お前ら、俺のこと少し敬えよ……」

 バーンが苦笑しながら言った。

 ゼファーでのアンナとのやり取りで、自分とセフィロの扱いの違いを気にしだしたのだろうか? 

 だが、そんな王子のつぶやきを聞き、周りの人々は笑い出した。

「バーンを……尊敬? くは! ははは! おかしい!」

「兄貴……くふっ! セフィロ様に何かされたのか?」

「おい……」

 バーンは人々に笑われて少し落ち込んだようだ。

 しかも、セフィロに対しては様をつけているので別に礼儀知らずなわけではない。完全にわざとである。

 しかし、これはバーンが自分自身で人々に言ったことであった。

 父親が五年前に亡くなり、バーンは事実上の王になったわけだが、彼は国民の前で演説をした時こう言った。

「俺様は血のつながりで偉ぶるつもりはねえ! お前らは俺のことをイグナイト王ではなく、バーンという一人の男として見ろ!」

 その話を聞いた国民は爆笑し、イグナイト王ではなくバーンという一人の男として接するようになった。

 とはいえ、国民も尊敬していないわけではないが、それとこれとは別である。

「バーン様!」

「おっシンディ! お前は俺の心のオアシスだぜ……」

 バーンは落ち込んでいた顔を輝かせ、彼の名を呼びながら走ってきた少女の頭に手をのせた。

 シュウはその少女の髪の色を思わず凝視する。

 バーンのような明るい赤ではなく、真っ赤な血のような暗い赤色だったからだ。

 シュウはその髪について聞きたくなり、バーンに声をかけた。

「その子の髪……兄妹なのか?」

「まさか。彼女は孤児だよ。三年ほど前に拾ったのさ。変わった髪をしているが、色が変化するのは別に遺物のせいだけじゃないだろ? それに、俺はそんなこと気にしねえ」

 確かにそうだ。髪色の変化は別に遺物の力のだけで起こるわけではない。

 気に入った色を子どもにつけるため、鉱石の横で赤ん坊を育てるなどという話をシュウは聞いたことがあった。上手くいくことは稀であるらしいが。

「私の髪が怖いですか?」

「いや、そんなことはない。気になっただけだ。気を悪くしないでくれ」

 髪のことで何かあったのだろうか、不安げな顔でこちらを見つめる少女にシュウは優しく答えた。

「良かった……。あの、バーン様、約束の花のこと……」

「あー悪い。花はちゃんと取りに行くさ。その前に用事があるんだ。少し待っててくれ」

「はい! 私、準備してきます!」

 シンディが元気よく駆けて行く。バーンはその姿を嬉しそうな顔で眺めながらシュウを呼んだ。

「シュウ! アルドに会いに行くぞ!」

「分かった」

 シュウは真剣な眼差しで一言だけ返事をし、バーンに付いて行く。

「準備しなきゃ……とてもとっても、大事な事だから」

 シンディが家に向かいながら言ったつぶやきを聞いた者は誰もいなかった。


 

 カンカンカンという鉄を打つ音が聞こえる町を、バーンについて行きながらシュウが歩いていると、先程バーンを兄貴と言った男が走ってきた。

 その男は追い付くと、シュウの横を歩きだし突然を耳貸せと言ってきた。シュウは不審に思ったが素直に従った。

「あんた、兄貴に気をつけろよ?」

「どういう意味だ?」

 シュウは気を引き締めた。バーンには何か後ろめたいことでもあるのか?

「兄貴はな……そっちの気が……うぐわ!」

 シュウに耳打ちしていた男をバーンが突然掴んだ。「グレイブ!」と言って胸倉を掴みかかる。

「お前、シュウに何吹き込もうとした?」

「いや兄貴……。俺はその人の貞操を守ろうぎゃ!」

 シュウはこのよくわからない状況に困惑した。

 そっちの気? 貞操? 何の話だ?

「お前……まだそんなこと言ってやがるのか……?」

「だって兄貴! セフィロ様との縁談を断るなんて、どう考えたってそっちとしかぬわ! ご、ごめんなさい、許して……」

「あれはな……男の友情ってもんがあんだよ……」

 シュウは何となく状況を理解した。

 バーンがリクのためにセフィロとの縁談を断ったため、バーンが男好きという誤解が町の人の中であるようだ。

(誤解であってくれよ……)

 シュウはちょっとだけ不安になった。

「ったく、何度言ったって聞きやしねえ。シュウ、こいつの言う事を信じるなよ?」

「ああ……」

 再び移動し始めたバーンをシュウはちょっとだけ離れた位置からついていった。

 すると、バーンはギルドという看板が設置してある建物の前で止まった。

「ここにいるはずだぜ。待ち合わせしてある」

「……よし、行こう」

 シュウは緊張した面持ちで建物に入っていった。



「よう、バーン。おっ……懐かしい顔がいるな」

 片手をあげて挨拶した茶髪の男を見た途端、シュウの中で様々な感情が吹き荒れた。その中で一番強い感情……怒りに彼は従った。

「アルド!」

 シュウはアルドの胸倉を掴んだ。

 衝撃でアルドの座っていた椅子が後ろに倒れる。

 だがアルドは飄々としたままだった。

「おいおい……再会したばかりでこれかよ」

「シュウ!? ……落ち着け!」

 バーンに諭されシュウはアルドを離した。だが、シュウはアルドを睨み付けたままだ。

「ふう……上物の服が汚れるところだった。……ありがとよバーン」

 シュウは一言言ってやりたくなったが、バーンに手で制されたため止めた。

「まず落ち着いて話をしよう……。お前らどういう知り合いだ?」

「まあ簡単に言えば、以前俺が……シュウに雇われたのさ」

「雇われた? 雇わせたの間違いじゃないのか!?」

「まあ待て。お前らしくないぞ?シュウ」

 お前に何がわかる、とシュウはバーンに言いたくなったが、それでは完全に八つ当たりだ。

 シュウはぐっとこらえ、気を落ち着かせて話始めた。

「アルド……。俺はあんたに聞きたいことがある」

「いいぜ、答えるよ。俺が知ってることならな」

 シュウは深呼吸をし、疑問に感じていたことを質問し始めた。

「あの日、あんたは何であんな報酬で俺に雇われた?」

「デートって言ったろ? そのための小遣い稼ぎさ。まあ、あんなことがあったからな。行く気はなくなっちまったが」

 シュウは考えこんだが、筋は通っている。彼は続けて質問をした。

「あの鳥は? 正直、あれで場所を奴らに教えたんじゃないかと俺は思っている」

「まさか。だとしたら、俺は何で奴らと交戦したんだ? お前らを裏切ってしまった方が楽だろう?」

 確かにそうだ。これも筋は通っている。「奴ら?」とバーンは疑問を口にしたが、シュウは気にせず最後の質問をした。

「何で、俺が遺物を手にした時あんなに慌てていたんだ?」

 すると、今まで流暢に答えていたアルドが初めて黙った。アルドは少し間を開け、質問に答えた。

「それもデートさ。ああは言ったが、やはり早く帰りたかったからな。使えないなら使えないで一度持ち帰ってじっくり調べたほうが良いと思ったんだよ」

 理由としてはわからなくはないが、おかしい点がある。

 まだあの洞窟は調べ終わっていなかった。

 それに、あの言い方はシュウがその刀を使えると思っていたとしか思えない。

 シュウは、アルドに再び質問しようとしたが、バーンの「悪い! ちょっといいか?」と言われたため止めた。

「何だ? 大事な話をしているんだが」

「悪いなシュウ。実はお前に頼みたいことがあるんだよ。アルド、例の仕事の話さ」

 仕事? 何の話だ? シュウは疑問に思った。

 本当はアルドと話がしたかったが、状況を察するにアルドと同じことだろう。

 その仕事とやらのついでにアルドと話せばいいと彼は思い、バーンの話を聞いた。

「頼みたいことって?」

「実はな。これから、燃える山……町の向こうに見える火山に花を採りに行くんだ。だが、そこには魔物が出るし、シンディもついてくるって言って聞かないんだよ。だから……」

「……アルドもいっしょなら構わない。話が聞ければ俺はそれでいい」

「俺も人気者になったもんだな」

 アルドが軽口を言ったため、シュウは睨み付けた。おお怖い……と言ってアルドは手を上げる。

 まだ油断はできない。シュウはまだアルドを信用してはいない。

「さて、山に行くなら彼女に連絡を……」

「その相手が本当に彼女ならいいがな」

「本当さ。相手は間違いなく女だよ」

 アルドはそう言いながら建物から出て行った。

 シュウはその後ろ姿をずっと睨み付けていた。



 アルドが戻ってきてしばらくした後、「準備をする」と言って出て行ったバーンが大剣を背負ってリュックを背負ったシンディと共にギルドにやってきた。

 とても興奮した様子の彼女をなだめながら、バーンはシュウとアルドを紹介した。

「よろしくお願いします! 今日という日を三年も待ちわびました!」

「三年? ずいぶんと待ったんだな」

 シュウが疑問を口にするとシンディの代わりにバーンが答えた。

「これから取りに行く花は幻の花って言ってな。三年に一度しか咲かないんだよ。三年前、シンディはその花を探し求めて燃える山のふもとで行き倒れてたんだ。未だに無事だったのが信じられないぜ」

 幻の花。シュウはその花を聞いたことがあった。

 見た者を虜にするという花は見た目が美しいだけでなく、死者に捧げるとその死者が安らかに眠れるという逸話もある。

 とはいえ、幻の名の通り入手困難で数日のうちに枯れてしまうという話だ。

 それに、そんな危険な山に咲いているとは知らなかった。

「へえ……誰かに捧げるのかい?」

 アルドがシンディに話しかけると彼女はビクッとなり、遠慮がちに質問に答えた。

「……亡くなった家族に……。他の目的もありますけど」

「他の目的?」

 シュウが質問するとはにかみながらシンディは答えた。

「バーン様と花をいっしょに見たいんです」

 それを聞いたバーンが「おおっ!」と目を輝かせながら声を上げた。

「感激だ! みんな俺にそんなことを言うどころか、勝手に男好きと勘違いする輩までいるってのに! シンディ、お前やっぱ俺のオアシスだよ!」

 興奮していたシンディをなだめていたはずのバーンが、逆に興奮し始めたのを見てシュウは苦笑しながらバーンを促した。

「バーン。そろそろ出発しよう。その花もいつまで咲いてるかわからないし」

「お、おお。そうだな。お前ら行くぞ!」

 バーンの掛け声と共に一行は燃える山に向けて移動し始めた。

「さて……お仕事の時間だ」

 アルドはそうつぶやくと遅れないよう小走りでシュウ達に混じった。



 火山のふもとにつくとより暑さが襲ってきた。周りには真っ赤な葉をした木々が生えている。

 遠目で見たときやけに赤い山だとシュウは思っていたが、こういうことだったのか。

 シュウは納得と同時に新たに湧いてきた疑問をバーンに聞いた。

「何でこの木はここに生えることができるんだ? それに、何で赤い葉っぱが……?」

「ああ、この山は火鉱石が取れるんだよ。その影響かはわからんが、葉の色は鉱石と同じ赤でおまけに火にも強い。だからこんなに生えてる。薪には使えないけどな」

 シュウは納得した。するとシンディがそわそわしながら「早く行きましょう!」と言って走り出した。

 山道に向かっていく彼女をバーンが慌てて追いかけて行く。その様子を見ながら、シュウはアルドに振り返り彼を促した。

「行かないのか?」

「もちろん、行くさ。俺はプロだぞ?」

 シュウはアルドと共に二人を追いかけた。

 バーンたちに追いつくと、彼らは談笑しながらシュウたちを待っていた。

「遅いぞシュウ、アルド」

「すまないな、バーン。シンディも」

 アルドがバーンに応えるとシンディは再びビクッとした。バーンはそんなシンディを心配し声を掛けた。

「どうした? アルドが嫌いか?」

「いえ……でもあまり年が離れた男の人は苦手で……」

「そうだったな……」

 どうやら一回りほど離れた男に何か嫌な思い出があるらしい。

 アルドはそんなシンディを見て少し距離を取った。

「このぐらい離れれば気にならないかな?お嬢さん?」

「はい……ありがとうございます……」

 シンディが遠慮がちにアルドの気遣いに感謝する。

 シンディが問題なさそうなので、バーンたちは魔物を警戒しながら先に進んだ。

「ここにはどんな魔物が?」

「せいぜい狼か、クマとかか。とんでもなくやばい奴もいるにはいるが、そうそう会うことはないだろう」

 バーンがシュウに説明したが、すぐにアルドに否定された。

「いや、そのとんでもなくやばい奴がこっちに来るぞ」

 アルドは赤い空に向かって指を指した。その先にいた赤い、翼の生えたトカゲのようなものがこちらに向かってくる。

「くそっ! ドラゴンがきやがった!」

「何でどいつもこいつもすぐ教えないんだ!」

 シュウは文句をいいながら銃を取り出した。

 鉱石はすでに水に交換してある。

 この辺りに生息する竜は火竜であるため、水の攻撃が一番効く。

 シュウはドラゴンに向けて水の閃光を撃ち始めた。アルドも同じように射撃を始める。

「だめだ、迎撃できない!」

「仕方ねえ……シンディ、下がってろ! バーン様の本気を見せてやる」

 バーンはそう言いながら背中から大剣を引き抜いた。

 紅蓮の大剣イグナイト。

 燃える炎のように赤いその剣はセフィロの槍と同じく上級聖遺物であり、この国の名前にもなるほどの代物だ。

 接近してきた竜はシュウたちの前に着地し、咆哮した。

 うるさいその鳴き声を聞きながら、シュウとアルドは抜刀する。

 攻撃の機会を伺っているとバーンが先に動き出した。

「先手必勝ってやつさ! 見てろ!」

「待て、バーン!?」

 シュウはバーンを止めようとしたがバーンは聞く耳を持たない。

 火属性の竜に火属性の大剣を構えながら突撃するバーンにシュウは頭が痛くなった。火竜に火は全く効かない。

 竜はそんなバーンに炎のブレスを吐き出した。

 炎の塊がバーンを襲う。

 だが、バーンは気にもせず真っ直ぐに進んだ。

 よく見ると炎のオーラのようなものがバーンを包むように輝いている。

 火竜と同じく、火の攻撃はバーンにも全く効かないらしい。

「おらっ! 喰らえよ!」

 バーンは竜の右前足を横斬りで斬った。切断こそしてないものの、竜が悲鳴を上げながらのけぞる。

 その隙にシュウとアルドは接近した。

 アルドとバーンは、腹に回り大剣でその柔らかい肉を斬り始めた。

 竜の体は硬い鱗で守られているが、それは全身ではない。

 腹の下と尻尾の付け根、首元は他の部位に比べて柔らかい。

 ドラゴンが腹を斬りつける二人に気を取られているうちに、シュウは刀をしまって、無防備だった左後ろ脚からドラゴンの背中に上った。

 狙うのはその先にある首だ。

 だが、背中にのった不届き者を振り落とそうと竜が体を左右に揺らし始める。

「くそ! 大人しくしろ!」

 シュウが愚痴をこぼすがドラゴンは大人しくする気はないようだ。

 尻尾をシュウに叩きつけようとしてくる。

 だが、その尻尾が目標を叩き潰す前にバーンが尻尾を切断した。

 悲鳴と共にドラゴンが前にのけぞる。

「うおっ! バーン、もう少し静かに切ってくれ!」

 背中にいるシュウが振り落とされそうになり思わず文句を言った。

「無茶言うなよ!」というバーンの返事を聞きながら、シュウは首の付け根に辿りついた。

「よし……今……何!?」

 ドラゴンが顔を振り返るようにこちらに向けた。口から炎が見える。

 先程のブレスを再び吐くつもりだろう。

 ドラゴンに掴まっているためシュウは防御が出来ない。

「シュウ! くそ!」

 慌ててバーンが止めようと腹を斬りつけるが、竜は止まらない。

 万事休すか。シュウがそう思った時、バシュッ! という音と共に水の閃光がドラゴンの目に直撃した。

「グオオオオオオオ!!」

 ドラゴンが悲鳴を上げ吐き出した炎がシュウから外れた。

 シュウはその隙にドラゴンの首に刀を当て、落ちながらドラゴンの首を斬り落として着地した。

 首を失ったドラゴンはそのままうつ伏せに斃れる。

「これで信頼してくれたかな?」

 ドラゴンの首と共に着地したシュウにアルドは話しかけた。

 シュウはまだ納得してない部分はあるものの、アルドは少なくとも自分に危害を加える気はないと判断した。

「ああ……だが完全に信用したわけじゃない」

「そうか。だが、俺もあの日にあったことについて何も思っていないわけじゃない。その事は頭に入れておいてくれ」

 シュウはアルドの言葉にわかった、と答えた後、待ちきれず再びそわそわし始めたシンディを先頭に再び山道を進み始めた。



 山頂に向かう道中、火熊が出たものの特にトラブルもなく進めた。

 疲れてしまったシンディのために休憩を挟んだため予定より時間がかかったが無事山頂へつくことが出来た。

「つきました!」

 シンディが元気良く声を上げる。

 山頂は、大小の岩が転がる開けた平面で、その真ん中には大きな火口があった。木々も少し生えているようだ。

「あっ! あれですか!?」

 シンディが木々の先にある、火口付近に咲いた真っ赤な花を見つけた。

「間違いない。あれだ。ってシンディ! 危ないぞ!」

 花が幻の花であることを確認すると、シンディは一目散に駆け出してしまった。

 慌ててシンディを追いかける。

 すると「きゃあ!」というシンディの声が聞こえた。

「シンディ! 大丈夫か!?」

 シュウたちが木々を抜けるとそこにいたのはシンディだけではなかった。

 シンディは白いローブを着た男たちに捕まっている。

 首元にはナイフが突きつけられていた。

「お前ら! 何者だ!」

 バーンが男たちに質問する。

「これはこれは、バーン殿。我々が何者だろうと構わないでしょう? あなたはここで死ぬのだから」

「何だと!」

 バーンが大剣に手を掛ける。

 それを見た男がシンディの首にナイフを当てた。

「これが見えませんか? ……余計なことをせず武器を置いてください。そちらの二人も」

「くそっ……」

 バーンは大剣を地面に放り投げた。

 シュウもそれに倣い刀を地面に置く。アルドも剣を置いた。

「おや……その刀は……? もしやそれも遺物ですか? これはついてますねえ。……武器は剣だけじゃないでしょう? 全部出さないとどうなるかわかっているのか?」

 不審がった男がシュウとアルドに警告する。

 シュウは銃を足元に置き、アルドは両手を上げた。

「それだけじゃないだろう!」

 男が怒鳴る。腕の中のシンディがビクッと震えた。

「もういい。お前ら、こいつらを殺せ!」

 五人ほど剣やナイフを構えてこちらに迫ってきた。

 この程度の人数なら武器がなくても問題はない。

 それにシュウはナイフを腰に隠したままである。

 だが、シンディが人質に取られていた。

 どうする? 

 シュウが悩んでいると、アルドが隠し持っていた拳銃を抜き、早撃ちをした。

「ぬあ! お……」

 シンディを捕まえていた男が声を上げて斃れる。

 アルドの射撃は男にナイフを使う隙を与えなかった。

「怯むな! 殺せ!」

 男たちはシュウたちに向かって行ったが、人質が無事ならシュウたちの敵ではない。

 シュウは拳銃を拾って男の頭を撃ち抜き、アルドも素早い射撃で撃ち抜いていく。

 男は二人しか残っていなかった。

「負けるわけにはいかん!」

 男が意気込みながら剣をバーンに振るった。

 だが、大剣を手にしたバーンは剣を思いっきり横に振るい、剣ごと男を叩き斬った。

「そんなナマクラじゃ俺様には勝てねえよ」

 その様子を見た最後の一人はナイフを自分の首に当て、「教団万歳!」と言って自害した。

「教団……こいつらもか」

「セフィロを襲った奴らの仲間か?」

 バーンは疑問を口にしながらシンディに近づき、男の腕をどかした後彼女を立ち上がらせた。

「大丈夫か?」

「大丈夫です。……ありがとうバーン様。シュウさんと……アルドさんも」

 シンディはお礼を言いバーンと共に花へ向かって行く。

 シュウはアルドを見つめ、疑問を口にした。

「また連絡のあとに奴らが出たな」

「疑うなっても無理か。お互い無事だろ? ……まだ連中が残ってないか見てくる。お前は二人を頼む」

 シュウはまだアルドに話を聞きたかったが、アルドの指示に従い、バーンたちのところへ向かった。

 バーンとシンディは花を見て喜んでいた。

 その様子を少し離れたところで見ていたシュウは、微笑ましい気分になった。

「きれい……これが幻の花……」

「いいもんだろう? わざわざ来たかいがあったな。家族も喜んでくれるさ」

 シンディは顔を俯かせたあと、バーンの顔を見つめ彼にお願いをした。

「バーン様……私はあなたにお礼がしたいのです……目を瞑ってもらえますか?」

「な、なんだよ急に。目を瞑ればいいのか?」

 バーンは戸惑いながら目を瞑り、次の瞬間に来た感触に驚きを隠せなかった。




 なぜなら、脇腹にナイフが刺さっていたからだ。

「ぐふっ! シンディ!?」

「これが私の、お礼です」

 シンディは笑いながらバーンに言う。

 シュウはその光景が信じられなかった。慌てて二人の元に駆け寄る。

「仕方ないでしょう。教団のためには遺物を集めなければなりません」

「教団……っ! うおお!」

  バーンはシンディを押し倒した。

 その衝撃でナイフが体から抜け、バーンの体から血が溢れだす。

「殺しますか? そうでしょう。男なんてみんなそう! 私が家族を殺さないでと言っても止まりもしない! それが男の本性!」

 シンディはその鮮血のような目に暗い感情を宿しながらバーンに叫んだ。

 だが、バーンの対応は彼女の予想を遥かに超えていた。

「っ! 何を!?」

 バーンは倒れたシンディを掴み抱いた。シンディは戸惑いを隠せない。

「俺はお前が言うような男じゃねえ。俺はお前を殺さない。そしてそれはお前もだろ? 何で心臓を刺さなかった?」

「そ、それは!」

「お前、本当はそんなことする奴じゃないだろ? その幻の花だってさ。本気で探したかったんだろ?」

「そんなわけ! ただの口実よ!」

「嘘つけよ……。家族の話をする時お前は本気で悲しんでたろ? 俺はバカだが……悪者と良い奴ぐらいの見分けぐらいつくさ」

「……あなたは……」

 シンディの瞳から一筋の涙がこぼれたのをシュウは見逃さなかった。

 最初はシンディの頭を撃ち抜こうとしたが、もうその必要はなさそうだ。

 シュウは安堵して、二人に近づいた。

 シンディは、バーンに抱かれて懐かしい感覚の暖かいものに包まれていた。

 家族を殺されてこんな離れたところまで逃げてきた。怪しい白い格好をした者に、家族の復讐を手伝ってあげると囁かれてこんなことに手を出した。

 でも、もうその必要はない。

「あなたに会えてよかっ……あ……」

 バーンは何が起こったかわからなかった。バシュッ! という音と共に抱きしめていたシンディの体から力が抜けたのだ。

 バーンが事態を把握した時には既に手遅れだった。

「あ……私は……」

「シンディ!」

 バーンが叫ぶ。

 シンディは頭に被弾していた。即死しなかったのが奇跡だ。

「バーン! シンディ!」

 離れていたシュウが二人に近づく。

 今のは、まさかアルドが?

 だが、彼が疑問に感じた瞬間、アルドが「今の音は!?」と言いながらこっちに来たため、考えるのを止めた。今はシンディだ。

「バーンさ……ま……」

「しゃべるな!」

「私は……もう……。最後に……ありが……と……う」

「おい! シンディ! くそがああああああああ! 今のは誰が撃ちやがった!」

 バーンが怒鳴りながら周囲を見渡す。

 すると、アルドが「今のは!?」と言って走って行った。

「バーン……」

「くそ! 教団ってのはこういう奴らなのかよ!」

 バーンは取り乱していた。

 シュウはその様子を黙ってじっと見守る。

 しばらくするとバーンは落ち着きを取り戻した。

「シュウ……。帰ったら教団について詳しく教えてくれ」

「わかった」

 バーンはシンディを抱きかかえて、幻の花を採ったあと帰路についた。

 シュウもそれに倣う。アルドは放っておいても帰ってくるだろう。

「……すまんな」

 その後ろ姿を見て一人の男がつぶやいたが、二人は気づかなかった。


 町に戻ると、バーンの様子を見た人々が彼を心配したが、彼はそのまま赤色が基調の城の中へ入っていった。

 シンディの亡骸を抱えたバーンは礼拝室に安置した。

 その亡骸には幻の花が握らされていた。

 その後、バーンは傷の手当てをした。

 ここまで問題なくバーンがたどり着けたのは、シンディが本心では彼を殺す気がなかったからだろう。

 手当ての後、バーンは執務室にシュウを連れてきた。

 椅子に座り真剣な眼差しで見つめてきたバーンに、シュウは教団について教えた。

「教団……。その目的はわからないが、遺物を集めているようだ。それも国宝級の上級聖遺物を」

「だからセフィロと、俺が狙われたわけか」

 バーンは少し納得したようだ。

 だが、教団の目的が分からずもやもやしているようだった。

 そして、それはシュウも同じだ。

「連中は何を企んでやがる? 関係ない人間まで巻き込みやがって」

「わからない。だが、ろくでもないことを企んでそうだ」

 バーンは少し間を開けて、今度はシュウについて聞き出してきた。

「お前は何のために旅をしてるんだ?」

「俺は……人探しさ。友人を目の前で殺されてな。どうやら殺した連中は教団、もしくはその関係者らしい」

「それは……すまん」

「いいさ」

 シュウはバーンの気遣いに感謝しながら、話を続けた。

「ラミレスという俺の師匠の教えで今は国を跨いで旅をしている。おかげで敵の手がかりがわかったし、アルドにも会えた。次は灰の男とセレナっていう姫を探す」

「ラミレス……ってあの生きる伝説と言われてるあの討伐者か!?」

 シュウは予想外のところに食いつかれて面食らったが、話を続けた。

「そんな大声を出すところか? とはいえ憲兵もラミレスに驚いてたな……。物心ついた頃からいっしょだから実感がわかない」

「おい……。あの人は教科書にも載るほどすごいんだがな……。通りで強いわけだぜ」

「大したことじゃない」

 バーンはシュウの話を聞いて元気を取り戻してきたようだ。

 話したかいがあった。

 シュウがそう思っていると、バーンが再び質問してきた。

「お前はこれからどうすんだ? 雷の爺のとこに行くか?」

「俺は……」

 シュウは悩んでいた。

 シュウはここに来る前妖精の長老が言っていたことを思い出した。

 道に迷った時、亡き者の故郷へ行け。

 それは恐らくアクアの故郷、ストリマの跡地だろう。

 はっきり言って、雷の国には今のところ急いで行く理由がない。

 シュウは決断することにした。

「ストリマの跡地に行く。あそこにも上級聖遺物があるはずだ」

「げっ水かよ! 俺は妖精の次に水が苦手なんだ。いや、水の次に妖精か?」

 どっちでも変わらないだろうとシュウは思いつつバーンがいつもの調子を取り戻したのを見て、彼は安堵した。





 アルドは赤い城を眺めながら、手紙を書いていた。

 その内容は一言。『口封じ成功』

 手紙を鳥に括り付け飛ばしたあと、札に印を書く。

 そしてその札に向かってアルドは話かけた。

「これは……あなたが直々に出るとは。ええ、邪魔者は始末しました。……気を落とさないでください。仕方のないことです。……ええ。対象も無事です。……対象が行く候補は二つあります故、私は雷の国へ。……はい。こちらは危険度は低いかと。はっきり言ってそちらの方が心配です。……はい。ではストリマへついたら連絡をください。それと、アヴィンによろしく。……では、セレナ様の無事を祈って」

 連絡を終えたあとアヴィンは再び城を見た。そして独り言を言った。

「悪いな。プロは目的のためなら嘘をつくんだ」

 そうつぶやいた後、アルドは駅に向かった。

 

分かりづらい表現や誤字、脱字があるかもしれませんがご了承ください。

ちなみに今回はシュウは仮面をつけていません。

読んで下さった方ありがとうございました。

※バーンが血を流したままでいたため、文章を少し追加しました。

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