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ヴェンデッタ  作者: 白銀悠一
第一章
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妖精の森Ⅱ

 丘の入り口である坂道を、シュウとリク、タクスとサニーが登っていた。

 黙々と登って行く三人の様子に耐えかねたのか、サニーがシュウとリクに話しかけた。

「ねえ! 二人はセフィロって人とどういう関係?」

「俺は少し前に会ったばかりだ。だが、リクはこく」

「幼馴染だよ! シュウ、変な事言わないでよ?」

 シュウがリクとセフィロの関係について教えようとしたが、リクに遮られた。二人のはっきりしない関係はまだ周りには秘密にしたいらしい。

 サニーはにやにやしながら聞き出そうとしたが、タクスに「静かにしろ」と言われて話を止めた。

 丘の上に出るとそこは平坦になっていた。木々が生い茂り、少し離れたところに泉が見える。

 あれが生命の泉だろうか?

「もうここは魔物の棲み処だ。警戒しろ」

「ここまで来てなんだが、その魔物というのはなんなんだ?」

 シュウはまだ魔物の詳細について聞いていなかった。辺りの木々を見渡しながら、タクスに質問する。

「その魔物は……」

 タクスが説明しようとすると木々の中から何かが叫び声とドシンドシンと足音を立て、近づいてきた。

 そして、その魔物の姿が露わになる。

「サイクロプスだ!」

 サイクロプスは、一つ目の巨人であり棍棒を振り回して人を撲殺する危険な魔物だ。

 しかし、一匹だけならシュウの敵ではない。

 すぐ片付きそうだとシュウは安堵した。

「確かに凶悪な奴だが、一匹だけなら……」

 だが、違う方向から気配を感じて振り向くとそこにサイクロプスがいた。それに別の木々からも一匹、また一匹と姿を現す。

 気づくと五匹ものサイクロプスに囲まれていた。

「誰が一匹だと言った」

「ええっ! 五匹も!?」

 タクスが冷静にシュウの思い込みを指摘し、リクがサイクロプスの群れを見て驚いた声を上げる。

 くそ、もう少し早く教えてくれ。

 シュウが愚痴を心の中で言った。

「来るぞ! 避けろ!」

 タクスの警告で振り下ろされた棍棒を避ける。やるしかない。

 シュウはそう思い、刀を抜いた。そして、拳銃をリクに向けて投げる。

「こいつを使え!」

「わかった。ありがとう!」

 リクは銃をキャッチし、サイクロプスに向かって撃ち始めた。あまり上手いとは言えない射撃だったが、巨人の気を引くには十分だったようだ。

 サイクロプスの一匹がリクに向かって行く。

「うわっ! こっちに来ちゃった!?」

「リク! うおっ!」

 シュウはリクを援護しようとしたが、別のサイクロプスがこちらに来た。

 棍棒をシュウに叩きつけてきたが、シュウはそれを躱して刀を構えた。

(こいつが先だな)

 シュウは再び攻撃が来るのを待った。

「ウオオオオオオ!!」

 棍棒が再びシュウに振りかかる。

 シュウは前転して避けて、巨人の股の間に入ると太い右足を横に斬った。

 巨人が悲鳴を上げながら倒れる。

 潰されそうになるのをギリギリで躱した後、倒れた巨人の首元に行きシュウはトドメを刺した。

「シュウー! 助けてー!」

「リク! 今行く!」

 シュウは木々の中を追いかけっこしているリクと巨人に向かって走り出す。

 ふと、タクスの方を見ると彼は三匹ものサイクロプスに囲まれていた。

 まずい!

「タクス!」

「こっちは気にするな!」

 シュウの声に返事をした後、背後から棍棒が振り下ろされて、タクスは無謀にも左手でそれを防ごうとした。

 潰される! シュウはそう思った。

 だが、棍棒は左手で受け止められていた。よく見ると、左腕がごつごつとした岩の腕になっている。

「ふっ! 行くぞサニー!」

「オーケータクス! ファイヤ!」

 サニーの掛け声とともに、棍棒を受け止められていたサイクロプスの頭が燃え上がる。

 頭を燃やされた哀れな巨人は棍棒を離し、顔を抑えながら仰向けに倒れた。

「はっ!」

 タクスは斜め右にいたサイクロプスに向かって斧を地面に叩きつけた。

 すると、サイクロプスがいた地面が隆起し、巨人は岩の塊のアッパーを喰らった。

 顎を抑えながら倒れた巨人に向けてタクスは左腕を振るい、現れた白い狼が喉元を喰いちぎった。

「タクス……何者だ?」

 シュウは思わず立ち止まってタクスを見つめた。

 すると、タクスの左斜め前にいたサイクロプスが棍棒を横に振るった。

 タクスはそれを斧で防ぐが、衝撃でフードが脱げ、濃い茶髪が露わになる。

 だが、タクスは気にせず、サニーに再び攻撃を命じ巨人を燃やさせた後、フードを被り直した。

「おい、お前の仲間は放っておいていいのか?」

「ちょっとやばくない? 捕まってるけど」

「しまった、リク!」

 シュウはタクスの戦いぶりを見ていてリクのことをすっかり失念していた。

 慌ててリクの方を見ると、サイクロプスにお手玉されて泣きそうになっていた。

 サイクロプスの知能が低くて助かった。

 シュウは安堵し、リクで遊ぶのに夢中なサイクロプスに背後から近づくと、背中に飛び乗ったあと首に上り、首を横斬りで叩き斬った。

 背中に飛び乗ったとき、リクが落ちた音が聞こえ、シュウは少し申し訳ない気持ちになった。

「ひどいよ……シュウ。助けてって言ったのに……」

「すまん。代わりに妖精とのことはセフィロに黙っておくよ」

 告げ口する気だったの! というリクの驚愕する声を聞きながら、シュウは泉に近づいていく。

 懐から瓶を取りだし、水を汲み、リクに渡した。

「これでお願いは果たしたな」

「色々納得いかない……。そういえば、ゴーストウルフはどうなったの?」

「これのことか?」

 タクスが左腕を振るい白い狼を出す。

 リクが「これがゴースト?」と不思議がる。

 シュウも同時に疑問に思いタクスに聞いてみることにした。

「その指輪はなんなんだ?」

「……エルフの指輪だ」

 タクスはあまり言いたくなさそうに答えた。

 リクが「エルフの!?」と言って驚いたが、それはシュウも同じだった。

「確か土の国にいる種族だったな。今は鎖国状態らしいが」

「くすっ! なんてったってタクスは土のもがっ!」

 サニーが何か言おうとしたがタクスの手に口を塞がれた。

「俺のことはいいだろう。水は手に入れたんだ。長老のところに戻るぞ」

「ねえ、ここにある花もらって言っていい?」

 帰ろうとするタクスとサニーにリクが声をかけた。リクの視線先にあるのは、セフィロの髪のような美しい緑色の花だ。

「構わないが、一輪だけだ」

「それで十分だよ」

 リクが花を摘んで懐にしまったのを確認した後、シュウ達は長老のいた池に戻った。



 池に戻ると妖精たちと長老がシュウ達の帰りを待っていた。

 着いた途端、妖精たちに祝福されてシュウとリクは面食らったが、悪い気分はしなかった。

「よくぞ戻った。タクス、シュウ。サニーとそこの少年も」

「サイクロプスは全て倒しました。もう泉も安全かと」

「ふむ。もう人がこの森に入っても安全そうじゃな。少年よ、人里に戻ったらここによく来ていた者に伝えてくれ。脅かして悪かった、もう安全だと」

「わかりました。……僕だけ少年……」

「くすすっ! お姉さんはあなたの名前覚えてるわよぉ? ねえ、リク君。向こうでお祝いしない?」

「け、結構です!」

 リクとワルシーの会話を聞いていると長老が真剣な眼差しでシュウに話かけてきた。

 シュウは思わず息を呑む。

「シュウよ。お前に大事な話がある。……予言によれば、お前は遠くない未来に二つの選択を迫られる。今言えるのはそれだけじゃ」

「選択……しかしそれだけですか? その選択の内容は?」

「ふむ……。悪いがのう、下手に内容を話すと未来が変わってしまうのでな。お前の父親も、わしの予言を聞いた時、すぐ引き下がってくれた。お前もそうしてくれると助かるがの」

 シュウはまだ納得いかなかったが、父親が引き合いに出されたため追及するのを止めた。代わりに、もう一つ気になっていることを聞いてみた。

「父さんはここで何を?」

「なに、ただの散策じゃよ。ふふ、「綺麗な花があるの!」と言いながら森を走り回る女性の尻を追っかけておったわ」

 もしかして母さんじゃないだろうな? とシュウが思っていると長老はタクスに話始めた。

「タクスよ。お前もそろそろいるべき場所へ帰ったらどうだ……?」

「時が来たら教える。そう言ったのはあなたでしょう? 俺はあなたの予言を信頼している」

「そうじゃったかの? ……年を取ると物忘れが激しくてな。まあよい。時が来たら思い出すであろう」

 シュウがタクスと長老の話を聞いてるとリクが「シュウ、そろそろ……」と話かけてきた。

 確かにもう少し経つと日が暮れる。そろそろ帰ったほうがいいだろう。

「俺たちはもう帰る。タクス、サニー。ありがとう。それに長老も」

「手伝ってくれて感謝する」

「えーもう帰っちゃうの? またね!」

「礼には及ばん。シュウよ、最後に一つだけ……。お前が道に迷った時、亡き者の故郷へ行け。道が見えるであろう」

 シュウは長老の意味深な言葉を心に刻み、リクと共に帰路へついた。ワルシーが「また来てねー」とリクに言い、リクはたじたじになりながらごまかした。

 シュウとリクが去っていく姿を見ながら、長老はタクスに再び語りかけた。

「タクスよ、シュウの顔をよく覚えておけ。近い将来力を借りることとなる」

「俺がですか? 確かにあの者は強い。だが、人の事情に巻き込むわけには……」

「力を借りたらいいじゃん! 妹に会いにいくんでしょ!?」

「そうじゃ。既にお前は巻き込んでいるし、巻き込まれておる」

 タクスは長老の言葉を聞き斧を見たあと、シュウの後ろ姿を見つめた。



 シュウとリクはゼファー城に戻ってきた。セフィロの部屋に入ると、バーンが椅子に座っていた。

「おっ、帰ってきたか! 待ちくたびれたぜ! 水は?」

 リクは瓶を取り出し、バーンに見せた。

「採ってきたよ! さっそくセフィロに飲ませよう!」

 セフィロの横に座ったリクをバーンが「おっ口移しか!?」と茶化したが、リクは首をぶんぶん横に振って否定した後セフィロの口元に瓶をあて、水を飲ませた。

「んく……ん……んぐっ! ごほっ! な、何!?」

 どうやらバーンに茶化され動揺していたらしい。リクはセフィロに水を飲ませすぎたのだ。

 命の水の効果で瞬時に回復したセフィロは、窒息という新たな脅威の前に目覚めることとなった。

「え? ……ここは? ……リク!?」

 跳び起きたセフィロが訳が分からず辺りを見渡しているとリクが抱きついた。セフィロは顔を真っ赤にして驚いている。

「え? ……リク? え?」

「セフィロ……君に一度言った言葉をもう一度言うよ」

「え? 何? ……ってそういえば私こくはっ!!!」

 セフィロは一度死という暗い闇の中に落ちる前、リクに最後の力を振り絞って告白したことを思い出した。

 白い肌を燃えるんじゃないかというほど真っ赤にさせているセフィロの前にリクは跪いて、ちゃんと伝わらなかったであろう言葉を再びセフィロに言った。

「セフィロ。僕は君のことが好きだ!」

「え……え! え? ええええええええええ!!!!」

 セフィロの肌はもう燃えるなんてどころではなかった。それは一種の噴火と言ってもよかっただろう。

 そんな状態のセフィロに、リクはトドメと言わんばかりに緑色の花を差し出した。

「付き合ってください!」

「うあ! あ! ……はい」

 リクの告白は見事成功した。二人は見つめ合っていたが、部屋の中にそんな二人を見つめる男が二人いることに全く気付いていなかった。

 シュウは黙って見ていたが、バーンは耐えかねたようでリクに大声を出した。

「よくやった! チ……じゃない、リク!」

「え? バーン!? それにシュウも!?」

 セフィロは自分が恋のロマンス劇場を一般公開していたことにようやく気付いた。

 先程とは別の意味で顔を真っ赤にし、取り乱した。

「な、な、何であなたたちが!?」

「お見舞いだよ、お前の。おかしいことじゃないだろ?」

「違くて! ……今の見てたの!?」

「そりゃばっちりと」

「シュウは!?」

「最初から最後まで、全部」

「ああああああああ!! なんてこと! ……ふ、ふふふ……」

 セフィロが不気味な笑い声をあげながら立ち上がった。

 だが、バーンとシュウはとても笑う気にはなれなかった。セフィロが槍を手に取ったからだ。

「ふふ……ふふふ……」

「ま、待てよセフィロ! 落ち着け!」

「何で槍が出てくる!?」

 バーンはセフィロを落ち着かせようとするが、彼女はずっと笑ったまま止まってくれそうにない。

 仕方ない、奥の手を使うか。シュウはリクに悪いと思いながら、今日妖精の森であったことを話した。

「ま、待つんだセフィロ。今日、妖精の森でリクがナイスバディな妖精に誘惑されてな。まんざらでもない様子だったぞ」

 笑っていたセフィロが固まった。

 そして対象的に、告白が成功して感無量のためか固まっていたリクが慌てて動き出す。

「う、うそつき! 言わないって言ったじゃないか!?」

「リク……ドウイウコト?」

「え、あ、セフィロ? ま、まっ! うあああああああああ!!」

 リクの絶叫が城内に響き渡った。



 しばらくしてセフィロは落ち着きを取り戻し、白い灰となったリクが淹れた紅茶を片手に椅子に座っていた。

 リクの動きがぎこちなかったのを見て、シュウは少し心配になったが、あんなことがあっては仕方ないだろうと思い考えることを止めた。

 あまり思い出したくはない。

「さて、お礼がまだでしたわね。シュウ、色々ありがとう」

「大したことはしていない。それにリ」

「何かいいまして?」

 リク、と言おうとしたが王女の有無を言わせない迫力にシュウは言うことを止めた。

「お前、まだ他人の前ではお嬢様口調なのか」

「他人って言い方は……シュウは命の恩人よ? でも、そうね。もう素でいいわね」

「おっとすまねえ。だが、その方がお前らしくていいぜ?」

 セフィロとバーンの親しげな会話を聞きつつシュウは本題に入ることにした。

「セフィロ。シュトナの姫について教えてくれ」

「いいわ。あれは私が8歳の頃。レットが城に来てすぐのことだったわ。国家交流の一貫でシュトナの姫が来たの。まあ結局すぐ交流はなくなってしまったけど。父親と妹を亡くして、とても寂しげな様子だったからとても印象に残ってる」

「あーちょっと思い出した! 庭を駆け回ってたら花を踏みそうになったんだが、その時怒られたな。えーと……「花とて一つの命です。無駄に踏み荒らしてはいけません」だったかな。そう、昔の俺は陰気な奴に訳わかんねーこと言われてむかついたが、そんなかわいそうな姫だったのか」

 セフィロとバーンの話を聞いてシュウはシュトナの姫について少しわかった。だが、肝心なことがまだだ。

「……その姫の名は?」









「セレナ様。ただいま戻って参りました」

「ごくろうさまです。何かわかりましたか?」

 真っ白な髪に真っ白な目、真っ白な鎧を着た白い女が古びた小屋の一室に佇んでいる。

 セレナと呼ばれたその女性は、黒髪の長髪を後ろで結んだ男に尋ねた。

「はい。あの者はあなたを探しているようです」

「そうですか。まあ当然ですね。あんなことがあったのだから……」

 セレナはとても寂しそうな顔をした。そんな彼女に部屋にいた黒髪の別の男が声を掛けた。

「セレナ様。心配は無用かと。我が弟ですので」

「アヴィン……」

 セレナは男を見つめその名をつぶやく。アヴィンは黒ずくめの格好をしていた。

 それは、奇しくも弟と全く同じ格好だった。

「アヴィン。監視を解いてよかったのか? 居場所がわからなくなるぞ?」

「問題ない。弟は火の国へ向かうだろう。そしてイグナイトにはアイツがいる」

「アイツか……。信用できるのか? 俺は未だに信頼できん」

「仲間をそういう風に言ってはいけません。信じましょう」

 長髪の男は「はっ」と言ってセレナに従う。

 セレナは、部屋に飾ってあったボロボロの絵を見た。

 聖母アリサと伝説の秘宝が描かれた絵だ。端には申し訳程度に神が描かれている。

「これは、世界を救う……そのための戦いなのですから」





分かりづらい表現や誤字、脱字があるかもしれませんがご了承ください。

この話は、分割された妖精の森Ⅰの続きです。

読んで下さった方、ありがとうございました。

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