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ヴェンデッタ  作者: 白銀悠一
第一章
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妖精の森Ⅰ

 豪華な装飾が施された、どこか女性らしさを感じる部屋に眼帯をした男が立っていた。近くにあるベットには緑髪の女性が眠っており、横には金髪の小柄な少年が座っている。

 眼帯の男は少年……リクに話かける。


「セフィロはまだ眠ったままなのか?」

「もちろん! だって、一度……死んだんだよ? それに毒が消えたとはいえ体はボロボロさ。しばらくは眠ったままだよ」

 

 シュウがセフィロを救出して三日たったが、彼女はリクの告白途中に気を失ったあと、そのまま眠り続けたままだ。

 そのため、シュウは城に訪問してきたというシュトナの姫の話を聞き出せず、セフィロが目覚めるのをずっと待ち続けなければならなかった。


「しかし、こうも眠ったままだとな……。王子様のキスで起こせるか試したらどうだ?」

「なっ何言ってるんだよ! そんなこと出来るわけないじゃないか!?」

 

 リクが顔を真っ赤にして叫ぶ。シュウは、その叫びでセフィロが目を覚ますかどうか期待したが、セフィロは「リク……」という寝言を言うだけだった。


「正直、しても怒られないと思うぞ。だって」

「セフィロ!!! 大丈夫か!?」

 

 シュウがリクに話しかけてる途中、大声を上げながら赤髪の男がドアを思いっきり開けて入ってきた。

 シュウは思わず身構えたが、リクの「バーン!?」という声で警戒を解いた。


「おうチビ! セフィロは問題ないのか?」

「う、うん。眠ってるけど、命に別状はないよ。お見舞いに来たの?」

「そうさ! このバーン様がお見舞いに来てやった!」

 

 リクとバーンは親しげに会話を交わす。セフィロとリクは、隣国の王子のバーンと幼馴染だという話を、シュウはこの三日の間にリクから聞いていた。

なるほど、リクが言った通り暑苦しい男らしいな」

「誰だお前? ……まさか」

 

 バーンが何かを探るような目でシュウを見つめた。

 急にこの男はどうしたんだ?


「俺のファンか!?」

「違う」

 

 こいつはバカだ。シュウは単純にそう思った。


「何だよ。ならなんでこんなところに」

「普通はお見舞いだと思うところじゃないか?」

「彼はシュウ。セフィロを助けてくれたんだよ」

 

 リクがバーンに説明する。するとバーンは「おおっ!」と声を上げる。


「お前がセフィロを救ったという男か! 同盟国として感謝する!」

「大したことはしてないさ」

「だがな、お礼にセフィロをくれとか無茶なことを言いだすなよ? あいつには先約が……」

「そんなこと言うか。それに先約についてはよくわかってる」

 

 シュウはバーンの訳が分からない話に答えたあと、リクを見た。同時に、バーンもリクを見る。


「……と、突然何さ!?」

「もしかしてチビ。お前……進展あったのか!?」

 

 バーンは嬉しそうな声を上げてリクに近づき、首に腕をまいた。


「く、苦しい……バーン……」

「よくやった! どこまで行った!?」

「告白を……したんだけど……途中で……セフィロが……ちょっちょっと……お願い……手を離して……」

「離してやれ。苦しそうだぞ」

 

 シュウが忠告すると、バーンが「す、すまねえ」と言ってリクを離す。

 リクが咳き込みながら話の続きを始めた。


「ふぅ……。えっと、告白したんだけど途中でセフィロが気を失っちゃったんだよ。だから、返事は聞けてないし、そもそも伝わったのかもわからない……」

「なんだそりゃ。結局進展はなしか。じゃあ、何で……シュウでいいよな? シュウは知ってんだ? リクはこの事周りには……」

「その告白現場に俺もいたのさ。なかなかロマンチックだったよ。俺に告白したみたいになってさえなきゃな」

「そ、その話はもういいでしょ!?」

 

 リクが叫ぶ。バーンが詳しく話を聞こうとすると「お見舞いに来たよ~!」と言いながらアンナとダイロが入ってきた。


「あれ、先客? あ! バーン様だ!」

「バーン坊ちゃんかい? 久しぶりだねえ」

「ダイロのおっちゃんと……今度こそ俺様のファンか?」

 

 バーンが目を輝せながらアンナを見る。

 だが、アンナの「ううん、違うよ? 私セフィロ様のファンだもん!」という答えに肩をがっくりと落とす。

 シュウは、その様子を見ながら珍しい組み合わせについて聞いてみた。


「アンナとダイロは知り合いだったのか?」

「まさか。この嬢ちゃんはたまたま城であったんだよ。とはいえ、あの事件でいっしょだったからな。おじさんとも友達みたいなもんさ。そうだろう? 嬢ちゃん」

「えーどうかなあ?」

 

 肩をがっくり落とす者がもう一名増えたが、アンナは全く気にせずリクに「はいこれ!」と言って果物が入ったバスケットを渡した。


「ありがとうアンナちゃん」

「どういたしまして! ついでにこれもどう?」

 

 アンナがリクに渡した物をシュウは思わず二度見した。

 ……何で煙幕が?


「アンナちゃん……なぜ煙幕?」

「だってすごいんだよ煙幕! リク君も見たでしょ!?」

「いやそれはそうだけど……」

 

 セルンの反乱から城に避難してきたアンナは、たまたま城内にいたリクに転んだときの怪我の治療をしてもらった。

 その後、リクと話しながら城内をぶらついていると、何かが割れるような音がした。慌てて音がした部屋に向かうと、レットとセフィロの話声が聞こえた。

 その会話の内容を聞いてリクとアンナはタイミングを合わせて部屋に飛び込み、レットと揉みあいになった。

 その時に一役買ったのがアンナがたまたま持ち歩いていた煙幕だった。


「お兄ちゃんの話を聞いて、使えるかもって思って使ってみたらびっくり! あの悪者も何もできなかったもん! お父さんも、「へへ、どうだ! 俺の判断は間違ってなかったろ!」って得意げになってたよ! でも、無断で品物を注文してたのがばれてお母さんに怒られてたけど」

 

 ダイロとアンナを除く全員が何ともいえない表情になった。「わかる。わかるぜ」とうなずいていたダイロを見て、シュウは彼とバーンの関係が気になった。


「ダイロ、バーン……様、との関係は? ただの牧場主じゃなかったのか?」

「様づけなんかやめろよ。バーンでいい」

「じゃあ、バーンとはどういった知り合いなんだ?」

 

 ダイロはふっと意味ありげに笑ったあと話始めた。


「よく気づいたな! 何を隠そう、この私は!」

「ただの牧場主だろ。何言ってんだ。セフィロとリクと三人でダイロの牧場によく遊びに行ってたんだよ」

「懐かしいね。バーンが豚に追いかけられて泣いて……」

「泣いてねえ!」

「せっかくおじさんノリにのったのに……」

 

 シュウはなるほどと思う。いくらセフィロが国民寄りとはいえ、馬を献上しにきたただの牧場主が謁見の約束を取り付けたことに疑問を感じていたが、これで納得した。


「ねえねえ、リク君。セフィロ様はまだ起きないの?」

「そうだね。せめて命の水があればな……」

 

 命の水。命の結晶の元となるその水は、生き返らせることこそ出来ないものの、回復効果はそこら辺の薬とは比べ物にならなかった。

 だが、命の結晶と同じく最近は市場に出回ってないようだ。


「そんなものがなくても、王子様の口づけでなんとかなるんじゃねーか?」

「おっ、いいねえ! おじさんそういうの大好き!」

 

 バーンがシュウと同じ提案をしダイロがそれに乗っかる。だが、リクは大慌てで「しない、しないからね!?」と言い、話を逸らすためにシュウに話かけた。


「ところでシュウ。シュトナの姫様ならバーンが何か知ってるんじゃない?」

「それもそうだな。……バーン、シュトナの姫について何か知らないか? それと、アルドという討伐者と灰色の髪の男についても!」

「何だ突然? ……まあ、シュトナの姫ならガキの頃一度あったな」

「本当か!?」

 

 シュウは思わずバーンに詰め寄る。バーンは少し驚いたが話を続けた。


「急にどうしたよ? ……あー会ったことは覚えてるんだが、他のことは何も覚えてないんだよ。悪いな。ただ……」

 

 シュウはがっかりしたが、バーンの話を最後まで聞くとそのがっかりはふっとんだ。


「アルドって討伐者なら今俺の国にいるぞ」

「何!?」

 

 アルド。旅の目的である人探しのターゲットの一人だ。シュウはいてもたってもいられなくなった。


「今すぐ火の国に向かう!」

「ま、待って!」

 

 シュウはさっそく駅に向かおうとしたが、リクに呼び止められやきもきした気持ちで停止する。


「何だ?」

「実は……シュウにお願いしたいことがあるんだよ。この国にいる内に」

 

 シュウとしてはさっさと火の国に行きたかった。だが、アルドについて聞き出せたのはリクのおかげだ。

 シュウは冷静になり、リクの頼みを聞くことにした。


「お願いって何だ?」

「さっき言ってた命の水を取りに行ってほしいんだ。妖精の森に。シュウは探索者だったよね?」

 

 妖精の森はゼファーとイグナイトの間にある森だ。

 そこには名前の通り妖精が住んでおり、命の水や結晶が取れる生命の泉もその森にあるとシュウは聞いたことがある。


「なぜだ? いや、確かに俺は探索者であるが、水や結晶を取りに行く専門の探索者がいるんじゃないのか?」

「そうなんだけど……その探索者が、数年前から森に行かなくなっちゃったんだよ。狼の幽霊が出るとかで」

「なんだそりゃ。ゼファーから結晶がなかなか回ってこないと思ったら、そういうことだったのかよ」

 

 狼の幽霊。城の掲示板に貼ってあったゴーストウルフのことだろうか。

 シュウはその張り紙を不思議に感じながら見ていたことを思い出した。ゴーストウルフという魔物は聞いたことがなかったのだ。


「その、ゴーストウルフか? 張り紙が貼ってあったが、討伐者が倒しに行かなかったのか?」

「行くには行ったんだけど……再起不能になっちゃって」

「じゃあセフィロは……って無理か」

「うん。セフィロは無理だよ。幽霊苦手だし」

 

 バーンとリクの会話からセフィロの意外な弱点を知りながら、シュウは思案する。

 今を逃せば、アルドの行方が掴めなくなるかもしれない。だが、セフィロが目覚めなければシュトナの姫の話は聞けない。

 それどころか、教団と呼ばれる謎の敵がセフィロを再び狙ってくる可能性もある。

 さんざん悩んだあげく、シュウは妖精の森へ向かうことを決めた。


「わかった、行こう。バーン、アルドは滞在期間について何か言ってたか?」

「あーそういやデートがどうとか。しばらくいるみたいだったぜ。そんなに気になるなら伝令に伝えとくぞ?」

「頼む。行くのは俺だけか?」

「僕も行くよ。バーンは留守番ね」

 

 リクに留守番と言われバーンは反論した。


「ああ? チビ、俺も行く……ちょっと待て、妖精?」

「そう、妖精。苦手でしょ?」

 

 バーンは焦りながら反論した。


「べっ別に怖くねえよ! あんな奴ら!」

「僕は苦手って言ったんだけどなあ……。まあ、セフィロを守ってて。何があるかわからないし」

「苦手じゃねえよ? まあ、セフィロをお前の代わりに守ってやる……。それに、シュウの実力も気になるからな。後で教えてくれよ?」

「わかったよ。シュウ、行こうか」

「それならおじさんの馬を使ってくれ。城に献上したばっかでぴちぴちだぞ!」

「わかった。ダイロ、ありがとう」

 

 シュウはダイロの気遣いに感謝した。すると、アンナがキラキラした目で煙幕を差し出してきた。


「お兄ちゃん! 優れものの煙幕だよ! 持って行って! リク君も!」

 

 シュウは苦笑したが、元はと言えばシュウが煙幕を使えると言ったのだ。それに丁度切らしてもいた。

 シュウはありがたく頂戴することにし、煙幕を受け取っている最中にバーンがアンナへ話しかける。


「なあ、そのリク君ってのは何だ?」

「え? リク君はリク君でしょ?」

 

 返答らしい返答ではなかったが、気持ちはわかった。

 リクは、思わず君づけをしたくなるほどの童顔だ。

 だが、バーンは険しい顔になってアンナに忠告した。


「間違ってもセフィロの前ではそう呼ぶなよ? あいつはリクがバカにされると物凄い怒るんだ。しかも、箒を振り回しながらな。それに、バカにしてなくても、そういった風に聞こえちまう言い方もダメだ」

 

 シュウは、リクを少年と呼んだときのセフィロの反応を思い出した。リクがすぐ来なかったら、シュウは箒どころか槍を振り回されてたかもしれない。


「うーん、わかったよ! ありがとうね、バーン!」

「呼び捨て……まあ自分で言ったからな。男に二言はねえ!」

 

 バーンがよく分からないことを言っていたが、シュウとリクはみんなに出発を告げ、世話係に馬を借りて妖精の森へ向かった。



 

 馬で駆けて行くと、木々が生い茂った森が見えた。森の中に丘が見える。リクは丘を指して「あの丘に泉があるよ」と言った。

 森の入り口で馬を止め、シュウとリクは森の中へと入った。念のため、シュウは仮面をつけリクを守るように警戒しながら移動していく。


「ゴーストは出なさそうだねえ……」

「あくまでゴーストだからな。突然出てくるかもしれない。注意して進もう」

 

 シュウとリクは慎重に進んだがゴーストの気配はない。

 杞憂だったか? シュウがそう思い始めたころ、リクの「うわっ!」という声を聞き、シュウは慌てて後ろに振り返る。

 すると、リクが人間ほどの大きさの緑色の女妖精に捕まっていた。シュウは妖精の気配を全く感じず、驚きを隠せなかった。


「くすっ! この子私の好みだわ。サ二ー、この子もらって行くわよ?」

「シュウ! 助けて! あ、うわああああ!」

 

 シュウが行動を起こす前に、妖精はリクを抱きかかえ、背中の羽を羽ばたかせて飛んで行ってしまう。

 「リク!」シュウが叫ぶが、妖精はどんどん離れて行く。

 シュウは走り出そうとしたが、上から何者かの気配を感じて横に飛んだ。

 どさっ! という音と共に緑色のフードを被った男がシュウの立っていた場所に降りてきた。よく見ると、斧が地面に突き刺さっている。


「あーダメじゃんタクス! 外しちゃったよ!」

「なかなかやり手のようだな。隠密行動を心掛けていたんだが」

「何者だ!?」

 

 シュウは暗い緑色のフードを被った男に叫び問う。

 よく見ると肩に手乗りサイズの赤い妖精が乗っかっている。だが、男は答えずに左腕を横に振った。

 左手の薬指には白い宝石がついた指輪がしてあった。すると、白い狼の幻の群れが現れ、シュウに襲いかかってきた。


「何だこれは? くそ!」

 

 シュウは抜刀して刀を振るう。

 幸いにして、一度攻撃を当てれば狼は消えるようだ。だが、斬ってもすぐ指輪が煌めき、狼が現れてしまう。

 シュウは焦る。どうすればいい? 

 すると、フードの男がシュウに警告を発してきた。


「今すぐここを去れ! 命まで奪うつもりはない」

「そーだそーだ。人間は帰れ!」

 

 殺す気はないのか? 

 シュウは疑問に思ったが、リクが攫われてしまったのだ。このまま帰るわけには行かない。


「ふざけるな! リクを返せ!」

 

 すると、妖精とフードの男は顔を見合わせた。直後に男が左腕を再び振るう。

 狼の幻がふっと消えた。


「あーあ、どうするタクス? 長老に怒られちゃうよ?」

「だが、ワルシーがこの男の仲間を攫ったのは事実だ。仲間を置いては帰れないだろう」

 

 フードの男が静かな声音で手乗り妖精と話す。どう対応すればいいかシュウが悩んでいると、男が話しかけてくる。


「仮面男。ついてこい」

 

 シュウは逡巡の後刀を仕舞い、男に従うことにした。

 後ろを歩いていると妖精がこちらを向いて快活に微笑んでくる。


「ねえ! あなたのお名前は? 私はサニーよ! こっちはタクス」

「俺は……シュウだ。君達はここで何を?」

 

 シュウが質問をするとサニーは元気よく答えた。


「私たちはね、この森に入ってきた人間を追い出してるの! あなたはね、特別よ!」

「あまり余計なことを話すな。それに、あくまでリクとかいう男を返すまでの間だけだ。そこからは素直に帰ってもらう」

 

 サニーと違い、タクスはあまり好意的ではないようだった。

 しかし、もし好意的になれば生命の泉に連れて行ってもらえるかもしれない。

 シュウは期待を込めてタクスに声をかけた。


「その斧、なかなかの一品のようだな。遺物か?」

「……これは、拾い物だ。気にするな」

 

 すると、サニーがくすくすと口元を押さえながら笑う。

 何事かとシュウは思ったが、サニーはタクスに睨まれたため笑うのを止めた。次に何を話そうかシュウが考えていると、突然タクスが停止した。

 どうやら目的地についたらしい。

 森の中の一角にちょっとした池があった。その周りを様々な色と大きさをした妖精が飛び回ってる。

 池の真ん中には、落ちそうになって必死に女妖精に掴まるリクの姿があった。

 女妖精はそんなリクを見てご満悦な様子だ。


「落ちる! 落ちちゃう!」

「くすすっ! ほら、もっとお姉さんにしっかり掴まらないと、落ちちゃうわよ?」

 

 杞憂とはまさにこのことである。シュウは深く嘆息した。

 確かに池に落ちそうにはなっているが、リクは女妖精の豊満な胸に顔を埋めながら掴まっている。

 シュウはすっかり助ける気が失せていたが、タクスとサニーは楽しそうにしている妖精を呼び寄せた。


「ワルシー! その子をこの人に返してあげてー!」

「ワルシー! お楽しみは終わりだ!」

 

 ワルシーという妖精に向かっ、て二人はリクを返すよう説得した。ワルシーは「えー、もう?」と不満を露わにしながらも、リクを連れてこちらに飛んで来た。

「いいところだったのにぃ……。この子とっても可愛いのよ?」

「シュウ! 助けにきてくれたんだね!」

「助けなくてもよかった気がするがな」

 

 シュウはリクに嫌味を漏らした。

 後でセフィロに教えよう。そう考えた後、この森に来た目的を彼らへ正直に伝えることとした。


「タクス。俺達は、生命の泉に用がある」

「ふん。ここに来る者の目的は泉か、妖精を見に来るかだ。わざわざ言わなくてもいい」

「泉は今立ち入り禁止だよー」

「どういうこと?」

 

 リクがサニーに質問する。するとワルシーが代わりに答えた。


「あそこには魔物がいるのよ。かわいい坊や」

「魔物だと?」

「ああ。あそこには……」

「何事かね?」

 

 タクスが話そうとすると奥から年老いた妖精が現れた。サニーが「長老!」と驚いた声を上げ、ワルシーは逃げるようにどこかへ行ってしまう。


「ほう、人が入ってしまったのか。うむ……? その仮面は夢で見たことがあるのう」

「すみません、長老。侵入を許してしまいました。しかし夢で見たということは?」

「おお、タクスよ。その通り、予知夢じゃよ。それに遠い昔に来た四人組みの一人にどこか面影があるのう」

 

 この年老いた妖精は何を言ってるんだろうか? それに予知夢だと? シュウは訳が分からなかった。


「そう……あの者の名はレオンじゃったかの」

「何?」

 

 レオンだと? 父さんなのか? 引っ掛かったシュウは長老に訊ねた。


「レオン・キサラギという者か? ならば俺の父親だが……」

「そうそう。レオン・キサラギ。お転婆な娘に振り回されてたからな。よく覚えておる。まあ、その話はいいだろう……。お前たちは泉に用があるのじゃな?」

 

 シュウはレオンについて聞きたかったが、長老に話を合わせた。


「そうだ。魔物がいるというのなら俺が退治する」

「命の水が欲しいんだ! セフィロを治すために!」

「ゼファーの姫か。倒れたと聞いていたが」

「くすっ! タクス、興味ある? 血が騒いじゃう?」

 

 シュウとリクの話を聞いたタクスのつぶやきに、サニーが小馬鹿にするように反応したが、タクスに再び睨まれたため黙った。


「ふむ……タクスよ、お前も魔物を倒したがっていたな」

「ええ。別に自分だけで問題ありませんが」

「いかん。お前に万が一のことがあったらどうする。だが、二人がかりならば……」

 

 長老はシュウとタクスを交互に見つめ、


「うむ、タクス、それと……そう思い出した、シュウよ。あの丘に登り魔物を討って参れ」

 

 シュウは自己紹介をしていないのに自分の名前を呼んだ長老に驚いたが、指示通りに動くことにした。


「わかった。タクス、行けるか?」

「もちろんだ。ついてこい」

 

 シュウとタクスは丘に向かって歩きだ出す。リクとサニーが「待って!」と言って慌ててついていく。

「ふむ……あれが予言の……。だがのう、あの者の道は難儀だぞ」

 

 長老が丘に向かうシュウの後ろ姿を見ながらつぶやいた。

分かりづらい表現や誤字、脱字があるかもしれませんがご了承ください。

また長くなりそうなので分割します。

読んで下さった方、ありがとうございました。

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