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ヴェンデッタ  作者: 白銀悠一
最終章
33/45

来客

 白い森の、白い草むら。

 その茂みに複数の人間が、隠れている。

 しかし、その者達は紫色の鎧を着込んでいた為、あまり上手く隠れているとは言えなかった。

 特に、一人の指揮官らしき騎士のその赤髪は、白の森の中でよく目立った。

 その男は、顎に手を当てながら、丘の下にある、港、そこに停泊している軍艦を見定めている。

「そろそろか……」

 この船は先程到着したばかりだ。

 紅い帆に、その国を象徴するケルベロスの紋章が描かれており、その血のような紅い色合いと首が三つもある獣が地獄を連想させる。

「レイモンド殿。狙撃隊、砲撃隊、共に準備完了です」

 レイモンド、と呼ばれた騎士はその報告に頷くと、再び船を睨み付けた。

 これから行うのは奇襲作戦だ。

 我らが闇の騎士の団長であるルーベルト・ディメスより下された、重要な作戦。

 騎士団の数が多くない現状で、この軍勢と教団の合流は絶対に阻止されなければならない。

(なかなか大変ではあるな)

 言葉とは裏腹に、レイモンドは、誇らしい気分でいた。

 火の国イグナイトの王族の血を僅かに流れてはいれど、戦が起きないこの大陸で、このような大役を任されるとは。

 船と騎士を繋ぐ桟橋へ、血のような色の鎧を着た男達が降り始める。

 船からある程度の兵が降りた後、狙撃と砲撃で攪乱し、そこを自分達が切り込む。

 直接船を攻撃すれば容易いが、これほど巨大、かつ堅牢な大船を奪う事を、団長は所望していた。

 レイモンドは逸る気持ちを抑えつつ、深紅の騎士達が降りきるのを待った。

 そして突然、人の出入りが止まる。

(今か!)

 今こそ命令を下すタイミングだと悟ったレイモンドは部下に叫んだ。

「狙撃、砲撃、放て!」

 だが、属性銃独特の銃声も、鉱石を直接打ち出す砲台の轟音も、レイモンドの耳には届いてこなかった。

 代わりに聞こえてきたのは部下の悲鳴である。

「何だ……ッ!」

 レイモンドが慌てて、狙撃隊と砲撃隊の方向を見る。

 狙撃手と砲手の死体の上に、目深なフードを被り、さらに仮面をつけた男達が立っていた。

 先程の騎士達とは違い、蒼い鎧に、胴に刻まれたグリフィンの紋章。

 その手に持つ蒼い剣に血を滴らせて、男達はこちらを向く。

「くそ! 応戦せよ!」

 レイモンドが部下に激を飛ばす。

 この連中、間違いない。ルーベルト殿が警告していた…。

 レイモンドの指示に従い、闇の騎士達は応戦し始めた。

 だが、奇襲をするはずが、逆に奇襲を受けたとあっては、せっかくの優秀な騎士達も、まともに戦う事は敵わない。

 それに加え、蒼の騎士達は途方もなく強かった。

 剣を巧みに操り、闇属性の剣を弾き、慄いた所を斬る。

 いや、彼らを騎士と表現するべきではないだろう。

 技能こそ洗礼されているものの、騎士のような誉れに値する美しい戦い方ではない。

 足技や、素手、仕込み武器などの様々な方法を用い、的確に急所を突いてくる。

 その戦い方はまるで、月影の里に住む忍達のようだ。

 レイモンドが炎の剣を振るっていると、突然近くの部下が崩れ落ちた。

 その骸が倒れた後に、蒼の騎士と同じ鎧を着た、だが仮面をつけてない男が、薄ら笑いを浮かべている。

「よくも!」

 レイモンドは激昂し、その口髭を生やした男へと突き進んでいく。

 蒼の騎士が妨害してきたが、レイモンドは持てる技能を全て叩き込み、その首を刎ねた。

 もはや、奇襲作戦は完全に失敗である。

 だが、引くつもりはない。少なくとも、脅威になるであろうこの男は殺す。

「覚悟!」

 レイモンドは剣に炎を纏わせ、男へ振るった。

 紅蓮の大剣に比べれば大した威力ではないが、人を殺すには十分。

 男は剣で防いできた。

 鍔ぜり合いになり、レイモンドは手に力を込める。

 直後、変化が起こった。

 男は炎の剣をあっさり受け流し、左手に隠してあったナイフを掴むと、ステップを踏み、レイモンドの首を掻き斬った。

 レイモンドは断末魔を上げ、力なく崩れ落ちる。

「ルーベルト殿……」

 レイモンドは主の名を呼んだ後、絶命した。



「これは、これは。ようこそ、平和の大陸へ」

 シュトナ城の謁見の間に、真紅の騎士が数名、聖王と謁見していた。

「ヴァレンティス帝国の騎士、ウストンと申します」

 指揮官らしき騎士が、名乗りを上げる。

「帝王直属の精鋭と聞いています。期待していますよ」

 セントは、騎士を称賛し、笑みを見せる。

「これはありがたきお言葉。しかし、僅かにこの国を拝見しましたが…」

 ウストンは苦笑いをし、思った事を口にした。

「あまり文明が発展していないようで」

 侮辱とも取れるその発言だが、聖王はその通りと言わんばかりに頷くだけだ。

「ええ。我が国だけでなく、この大陸は数百年、争い事とは無縁ですからね。人という生き物は争いなしには発展しない……」

 聖王は立ち上がり、ウストンの元へ歩く。

「だからこそ、あなた方を呼んだのです。戦争経験のある貴国をね」

「お任せを。帝王も秘宝を待ち望んでおられます」

 ちら、とウストンは聖王を意味ありげな視線で見つめた。

 聖王は、呆れたように笑い、

「安心してください。願いの一つはあなた方へ譲りますよ」

「これは失礼しました」

 ウストンは、聖王の横に立っている茶髪の男へ視線を移し、その剣に目を留めた。

「機甲剣を使っているのだな」

 突然話を振られたアルドは、その対応の変化に苦笑しつつ応対した。

「ええ。この剣は対魔物、対遺物、どちらにも有効ですから」

「そうだろうとも。我が国の発明はいずれ神すら凌駕する」

 ウストンは自信たっぷりに答えた。

「その必要はないかと。この大陸はこれからだいぶ住みやすくなりますので」

「ほう。なれば、いくつか武勲を立てた後、こちらに移り住むのも良いかもしれんな」

 ウストンはどこか小馬鹿にした笑い声をあげ、再び聖王に向き合った。

「では時が来るまで、待たせて頂きます」

「ええ。しかし、よろしいのですか?」

「は?」

 ウストンはその問いの意味が分からず、訊き返した。

「いえ。噂ですが、貴国の王子はあまり乗り気ではないと聞きましたので」

 その言葉を聞き、ウストンは顔を微妙に歪めた。

「あのお方は……帝王とは違う思惑で動いていらっしゃる」

 ウストンは、紅の騎士に混じる青い鎧を着た髭の男を意味深な視線で見た。

「しかし、総司令官であるとも……」

「私は帝王に仕える騎士。王子に仕える者ではありません。……ああ、今の話で思い出しましたが」

 すっかり失念していた、といわんばかりの表情で、ウストンはとある人物の末路を訪ねた。

「我が国から逃走した裏切り者は、どうなりましたかな」

「ああ……アレなら、散々利用し尽くした後、裏切りを働こうとしたので殺しました。そこのアルドが手を下しましたよ」

 アルドの目が一瞬鋭くなったが、すぐにいつもの飄々とした顔に戻り、応えた。

「ええ。私が銃で頭を撃ち抜きました。簡単でしたよ」

「だろうとも。アレはただの子供だったからな。兄妹でこうも変わるとは……」

「そういえば、帝王の娘だったとか。我々で処分してよろしかったのですか?」

「構いませんとも。裏切り者の末路はロクでもないと決まっていますからね。ではまた」

 ウストンはそう言って部下の騎士と共に出て行った。

「……なかなか面白い者達ですね。利用しがいがある」

「まあ、戦力としては申し分ないでしょう。……私は最後の仕上げがあるので、これにて」

「私はあなたにとても期待してますよ、アルド。先程の騎士達以上にね」

「ええ。期待に応えてみせます」

 アルドは踵を返し、広間から下がった。

「後少し……。後少しで、全てが変わる……」

 聖王は独り、恍惚とした表情でつぶやいた。




 雷の国、その王城の門の前で、シュウとセレナ、ラクアとカナが会話を交わしていた。

「本当に一人で行くのですか? 私も……」

「いや、一人の方が素早く動ける。それに……」

 シュウはセレナを見つめた。

「君はまだ休んでいた方がいい」

 セレナは反論しようとして、今度はカナに諭される。

「セレナはだいぶ無理をしてる……貧血の事もあるし……」

 カナは貧血、という部分を強調しながら言った。

「う……。しかし」

「ダメですよ。ゆっくりしててください」

 ラクアはセレナを諫めつつ、カナを見つめる。

「気をつけてね」

「大丈夫。里に帰るだけだし……」

 カナとラクアが会話し始めたのを見て、セレナはシュウに近づいた。

「シュウ。あなたも気をつけてください。暗黒区域は未だ魔境です。何か新しい種が出るかもしれません。それに教団もそうですし、盗賊にも注意を…」

 シュウはセレナに捲し立てられ、困惑した。

 気持ちはありがたいが、いくら何でも心配しすぎだ。

「大丈夫だ。信頼してくれ」

「あ、ごめんなさい……。信頼していないわけではないのです」

 心の中で、でも、と付け加える。

 心配ではないが、不安ではある。

 この矛盾した気持ちは愛する故に沸き起こるものなのだが、戦いと探索に明け暮れていたセレナには知る由もない。

「じゃあ行ってくる」

「行ってくる」

 シュウとカナは全く同じセリフで、別れの挨拶をし、シュウは駅へ、カナは森へと進んで行った。

 ラクアが、島国の血が同じ別れ文句を吐かせたのではあるまいか、などという無意味な妄想をしていると、セレナが声を掛けてきた。

「何ですか?」

「……一つ、相談したい事があるのですが……」



 シュウは記憶を辿りながら、ルーベルトの家へと急いだ。

 理由は、秘宝を開ける鍵となる遺物が、闇と光の物だけ揃っていないからだ。

 セレナ曰く、光の上級聖遺物に関しては手を打ってあると言っていたが、聖王が裏切り者であったと知れた今、どうするつもりなのか。

 だが、今は、闇の遺物を手に入れる事が先決だ。

 魔物をやり過ごし、教団に見つからないよう仮面と気づきを最大限に生かし、シュウはゆっくりと、だが確実に闇の里へと進んで行った。

 少し手こずったのは、左腕を失った時の記憶が所々途切れている為に、あやふやな道があった事だ。

 あの時はセレナに掴まり、自分でもバカなのではないかと思える程、だいぶ無茶をした。

 だが、不思議と後悔はない。

 むしろ誇らしいくらいだ。

 セレナ・シュトナという、聡明かつ優しさに溢れた、素晴らしい女性を救う事が出来たのだから。

(アクアに申し訳ないな……)

 シュウは心の中でアクアに詫びを入れつつ、慎重に黒い草原を進む。

 アクアを思い出して、自分はこの後どうするのだろう、とふと思った。

 元々、この旅は復讐のためのものだ。それは今も変わりはない。

 だが、もし全てが上手く行き、皆を見事説得して、アクアを生き返らせたとして、自分は彼女に想いを口にする事が出来るのだろうか。

 寝る時や、暇を持て余し、空想に耽る時、シュウはいつもこの問いに揺さぶられた。

 脳裏にセレナの顔がちらつくのだ。

 あの時から三年、シュウはアクアの事を一日足りとも忘れたことはない。

 しかし、アクアと同じようにセレナも、シュウの中で大きな比重を占め始めていることは明白だった。

 

 二人の女性に揺れ動かされる復讐者。その姿の何と滑稽な事か。

 なれど、人の心というのは、思い通りにいかない。

 その神秘、心という存在にシュウはただただ驚嘆の念しか感じ得なかった。

 いかに罵倒しようと、情けなく思おうと、同じ事を考え始める。


 そのような、一見罰当たりな空想に浸っていると、暗い木々の間から、明かりが見えてきた。

 どうやら、いつの間にか目的地についたらしい。

 だが、以前来たときと様子が違っていた。

 紫色を基調とした家屋の外を、紫の鎧を着た者達が走り回っている。

 その中に、見知った顔を見つけた。

 妖精の森で、進路を切り開いてくれた、闇の騎士だ。

「これはキサラギ殿。ルーベルト殿をお探しですね」

 ここに来た目的はお見通しのようだ。

 シュウは会釈し、騎士について行く。

 騎士に案内された家は、シュウが左腕を失くした時、寝かせられていた家屋だった。

 騎士と別れ、ドアの前で、呼び出し鈴を鳴らす。

「入れ」

 老いを感じさせる、低い声が聞こえてきた。

 その声の指示に従い、家の中に入ると、暖炉の前で、ルーベルトが座っていた。

 地図を眺めながら、何やら思案していたようだ。

「シュウか。お前がここに来る必要はなかった」

「どういうことです?」

 いきなり来た意味がないなどと言われ、シュウは怪訝な顔をする。

「その左腕」

 ルーベルトが左腕を指し、説明を始める。

「それは七英雄の一人、ルクイド・ディメスが身に着けていた物だ。それさえあれば、保管庫を開く鍵となる」

「何ですって?」

 シュウは思わず訊ね返した。

 自分がもらった遺物が、闇の宝具であった事にも驚きだが、それよりも秘宝への鍵に必要な物が七英雄の武器だけでなかった事に驚きを隠せなかった。

 そんな事は聞いていない。

 セレナからも、兄からも。

「秘宝に関する伝聞は、あいまいだったり間違いだったり様々だ。だが、これには確証がある」

 確証がある、と言いながらルーベルトは理由を教えてはくれない。

「……私は、これから準備をしなければならない。お前もすべき事をしろ」

 ルーベルトは立ち上がると、壁に飾られていた刀を取った。

「それは?」

「これはお前には渡せない。友人の物だ」

 シュウが欲しがるのかと思ったのだろうか。シュウとしてはそんなつもりは全くなかったが、興味がわいた。

「……刀を使うご友人が?」

「ああ」

 だが、ルーベルトは詳細を答えず、いつぞやの様にどこかへ行ってしまった。

 シュウとしては様々な事を訊きだしたかったが、仕方ない。

 そもそも、ここには闇の遺物を借りに来たのだ。遺物が手中にある今、気にかかる事はあれど、長いする必要はない。

 家を出ると、先程の騎士が馬を牽引していた。

「どうぞ使ってください」

「……いいので?」

「ええ。急いで戻られた方が。何やら不穏な空気がします」

 シュウはありがたく馬を借り、跨ると雷の国へと引き返した。

 ルーベルトはその後ろ姿を眺めながら、札を取り出し、話始めた。

「アルベルト。最後の仕上げだ」




 慣れ親しんだ城門の前で、セレナは大きく息を吸い込む。

 緊張を解し、怒りや疑念を払う為だ。

 だが、少しでも気を抜くと、自らの衝動を抑えきれなくなりそうだ。

「お帰りなさいませ、セレナ様」

 衛兵が、セレナに近づいてくる。

 セレナは手でその動きを制し、聖王の居場所を尋ねた。

「聖王はどこです?」

「謁見の間です」

「そうですか。ありがとう」

 セレナは衛兵に礼を言い、城の中へと入った。

 幼い頃から過ごしたはずの城が、何やら巨大な牢獄のように見えて、セレナはぞっとさせられた。

 聖王は千年以上生きてきた。エルフの秘薬や、自身の結晶研究、神が遺した遺物を用いて。

 秘宝を手にする事を夢見て、ずっと時を過ごしてきたその男を、セレナは何の疑いもなく信じた。

 それが正しかったかどうかは、もうはっきりしている。

 間違っていた。

 結局、自分はただ利用されただけだ。

 それでも、まだ心の奥で、疑いたくない、信じたいという想いが燻っている。

 これから、それをはっきりとさせるのだ。

 

 考えに耽ってると、謁見の間の扉へついた。

 セレナは、首に掛けられたペンダントを握り、気持ちを落ち着かせると、その扉を開く。

「おや。セレナ。お帰りですか?」

「ええ。ただいま戻りました」

 セレナは玉座に近づき、跪いた。

 聖王はどこか距離のあるその行為を意外に思いながら、他に誰もいない事を訊いてきた。

「他の仲間はどうしたのですか?」

「彼らは今、これからの事を鑑み準備を進めています…私は、少しお話がしたくて参りました」

「話……いいでしょう」

 セレナは顔を上げ、聖王を見つめた。

「……後少しで、秘宝を手にすることが出来ます」

「それは朗報です。これで世界は救われる」

 セレナは聖王の白い瞳から探ろうとしたが、何もわからなかった。

「秘宝の願いの一つはシュウに渡す、という事でしたが、残りの二つはどうするのですか?」

「一つはあなたやセルシウス、シュトナ王家の皆が願った、世界平和です。もう一つは……」

 聖王はセレナの顔を見ながら、こう言った。

「セリナを生き返らせるというのはどうでしょう」

 その提案に、セレナは一瞬揺れた。だが、またシュウからもらったペンダントで、気を取り戻す。

「……それはいかがなものかと。確かに、個人的には妹を生き返らせたいという想いもあります。しかし、私を仲間と言ってくれた皆や、秘宝の鍵を貸してくれた者達に相応の報酬を与えるべきかと」

 聖王はその言葉を聞いて、嗤った。

 その失笑、呆れ混じりの笑みに、セレナの背筋が凍る。

「それはやめた方が賢明でしょう。……この大陸に伝わる伝説を思い出してください」

 オミシャンスに伝わる伝説と言えば、神が異界から魔物を呼び出し、人々に宝具を与え、最後に秘宝を与えた、というものだ。

 今更それが何なのか。セレナは訝しげに聖王を見上げる。

「人は、既に秘宝を巡って争いました。その余波で水の国ストリマと闇の国ディメスが滅んだ。そこでやっと、争いを止める事にしたのです」

 聖王は玉座から立ち上がり、セレナに近づいてきた。

 セレナの身体が、緊張で強張る。

「もし、彼らに願いの一つを譲ったら、また同じ事が起きるのではないでしょうか。セレナはそう思いませんか?」

 セレナは冷や汗を流しながら、だが確固たる意志で、その言葉を否定した。

「私はそうは思いません。彼らは皆、人の死の痛みを知る者。むやみに戦など起こすはずがありません」

「……そうですか。なるほど、セレナは彼らを信じるのですね」

 聖王は微笑み、セレナの脇に立った。

「しかし、気をつけて下さい。人とは、想像以上に欲深い生き物。それに……あのシュウと言う男……」

 セレナはそこで、語気を荒げた。

「彼が何なのです?」

「死神に纏わる伝承、あなたもご存じでしょう。秘宝を独占せんと暴虐の限りを尽くした死神。シュウが使っている刀、あれはまさに伝承に出てくる物だと思いませんか?」

「……何が言いたいのですか」

 セレナは気持ちを落ち着かせ、訊ねた。

「あの者が、裏切るかもしれない、という事ですよ」

「……有り得ません。シュウは……」

「なぜ有り得ないと言えるのですか? 人とは恐ろしいものです。常に自分の利益を考え、行動する。他者の為に動ける者の何と少ない事か」

 セントは、教えを説くように言った。

「もし、今までの行動、行為が全てあなたを騙す為の芝居だったとしたら? あなたを誑かし、秘宝を掠め取る為の算段だったとしたら?」

 セレナは立ち上がって、怒気を上げた。

「聖王!」

「その言動、普段のあなたらしくはないと、自覚できませんか? それに…」

 聖王はセレナの胸元にある、ペンダントに触れた。

「ッ! 触らないでください!!」

 セレナはその手を払った。

「よもやあなたが、色恋沙汰に夢中になるなど思ってもみませんでした。私としては、特に口を出すつもりもありませんが……」

 聖王はセレナの瞳を覗き込んできた。

 セレナはペンダントを握りながら、その目と睨みあう。

「気をつけて下さい、セレナ。誰が味方なのか、忘れないように」

「……心得ています。……最後に一つだけ」

「もう帰るのですか? どうぞ」

「……セリナの死んだときのことは……」

「ああ……あれは痛ましい事故でした」

 セレナは目を見開くが、驚きを何とか隠して、こう付け加えた。

「いえ。妹は病死ですよ、聖王。では」

 セレナは頭を下げると、身体を巡る衝撃を何とか抑えつつ、城を後にした。

 今、聖王は事故と言った。

 もし、これがラクアの仮説を聞いてなかった状態ならば、ただの言い間違いだと思っただろう。

 だが、あの男は自分に言ったのだ。病死だと。

 いくら千年以上の時を生きているとはいえ、妹の……家族の死因を間違えるなどあるはずがない。

 そして、こうも言った。

 妹と、父親の意志をついで、世界を救いましょう。

 その言葉で、セレナはあれを受け取り、そのリスクを理解して旅に出た。

「……ッ!」

 城から出た直後、セレナは胸を抑え、ふらついた。

 倒れないよう歯を食いしばり、懐から瓶を取り出す。

(間隔が短くなっている……。急がなければなりません)

 セレナは瓶を飲み干すと、空き瓶をしまい、駅へと向かった。



読んで下さった方、ありがとうございました。

サブタイが思いつかない…

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