表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェンデッタ  作者: 白銀悠一
最終章
31/45

黒幕

 目を開けるとベッドの上にいた。

 どこだ? ここは?

 疑問を感じつつ部屋を見回すと、親友の師匠の家だという事がわかった。

 では、なぜここにいるのか?

「くっ…これは…」

 金髪の青年は頭を押さえ、今まで自分が何をしていたのか思い出した。

 宗教くさい白いローブを身に纏い、口で言うのも憚れるような、悪事に手を貸している自分。

 反吐が出る。こんなくそみたいな事をやらされていただと。

「意識が戻ったようだな」

 部屋のドアが開き、ポッドを持った老人が入ってきた。

 ラミレスだ。親友の師匠で、教科書にも載るような、伝説の討伐者。

「ラミレス。シュウはどこだ? 無事なのか?」

 自分の身より友の身を案じる若者に老人は苦笑した。

「さあな。今どこで何をしているのか。まずは自分の身を心配することだな」

 ラミレスは、そう言ってライドにコーヒーを差し出した。


 

 シュウはセレナの叫び、嘆きを間近で聞かせられ、心が張り裂ける思いだった。

 また、人が死んだ。

 また、止められなかった。

 だが、悔恨をしようとした矢先、セレナがふらついた。

 慌てて、その体を支える。

「セレナ!? しっかりしろ!」

 セレナは気を失ってるようだった。

「セレナさん!」「セレナ!?」

「手を貸してくれ! 城へ運ぶ!」

 シュウは左手がセレナの肌に触れないよう注意しながら、抱きかかえると、城へ向けて走って行った。



 シュウが気を失っているセレナを抱え、城へ飛び込んできたのを見て皆驚いたが、グラムは的確な指示をして、セレナを部屋へと運ばせた。

 たまたま雷に訪れていた(というより明らかにタクスに会いに来た)スーラが彼女を診てくれた為、シュウはやっと安心する事が出来た。

 博識なエルフに任せれば、何も問題はあるまい。

「大丈夫…ですよね」

 セレナが寝ている部屋の前でシュウとラクア、カナは会話していた。

「たぶんな。妹を失ったショックで気絶しただけのはずだ」

 その言葉にカナが疑問の声を上げた。

「本当に? セレナの隠している何かが…」

 シュウは頭を振って否定した。

「いや。以前見たことがあるが、それじゃないと思う。…それに、俺は彼女が話してくれるまで待つつもりだ」

 カナは反論しようとして、セレナとの約束を思い出し、止めた。

 本人が眠っている今は、何を言っても仕方ない。

「しかし、困りました。お願いされたのに…」

 お願い。それは、セリナがラクアに向けて、言ったものだ。

 確かにセリナは自分の姉の身体を使っていたかもしれないが、何かしら事情があったはず。

 それなら、あの世できっと…。

「ラクア?」

「いえ、ちょっと考え事を…」

「…セレナがいない今、とりあえず俺達だけで、敵を確認すべきだろう」

 シュウの言葉にラクアは納得し、口を開こうとしたが、突然の声に遮られた。

「何だ?」

 シュウは訝しげに廊下の先を見た。

 サニーだ。サニーが血相を変えて廊下を飛んでいる。

「サニー? 今大事な話をしてる…」

 いつものタクス関連かと思ったカナが、注意する。

 だが、サニーの様子は普段と違った。

「大変なの! 長老が…私達の森が!!」

「何? うっさいわね…寝てる人がいるんだから…」

 スーラが、不機嫌そうな顔で出てくる。

 それがサニーだと知って一瞬顔をイラつかせたが、すぐに彼女がいつもと違う事に気づき、事情を訊いた。

「何? 何があったの?」

「…今…森から連絡があって…襲われてるって!!」

「何だって!?」

 シュウが驚きの声を上げる。

 妖精を襲う? 襲うメリットは全くないはずだ。

 強いて言うなら、命の泉を独占できるが、それだけだ。

「大変じゃない…妖精を襲うなんて…。タクス様には…」

「ダメ! 言わないで。タクスの事だからきっと無茶を…」

 スーラは頭を掻きむしって納得した。

「それもそうね…じゃあ」

 ポン、とスーラはシュウの肩を掴み、次にサニーに触れた。

「じゃあ、あなた達、セレナ様よろしく。ちょっと行ってくるわ」

 スーラとシュウ、サニーの足元に魔法陣が浮かび上がった。

「待て…おい!」

 シュウの声にスーラは反応せず、三人は光の中に消えた。

「今の…魔法?」

「そうみたい…ロマンが…あっと」

 コホン、とラクアは咳をして、「私達でまとめよっか」と言った。

「うん…こんなことをした奴は絶対に赦さない」



「邪魔しないで!」

 ワルシーは闇魔法を飛ばしながら、白いローブの男に叫んだ。

 男は悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。

「長老! どこに!」

 ワルシーは静かな森が燃え盛る様を見ながら、長老を探した。

(こいつらは一体何者?)

 突然現れた白いローブの集団にワルシーは全く見覚えがなかった。

 そもそも、ここに来るのは命の泉に来る探索者か、妖精研究者が良い所だ。

 すぐ傍で妖精の悲鳴が聞こえ、ワルシーは捜索を止めてそちらへ向かった。

 子ども妖精が、殺されそうになっている。

「止めなさい! 子どもよ!」

 ワルシーは闇の球を子どもに銃を向けている男へ放った。

 子どもが助かり安堵したが、すぐに子どもが声を上げ、彼女は後ろを振り向いた。

「え?」

 ザシュッ! と何かが刺さる音がした。



「で? 結局黒幕は誰?」

 ラクアとカナは、セレナが眠っている部屋の椅子に座っている。

 カナがそわそわしながら訊いた。

 一見、プレゼントを待ち望む子どものように見えるしぐさだが、実際は違う。

「実は、結構単純なの。まあ、これは気づいても、有り得ないだろうって思っちゃうね」

「何? それは私をバカにしてる?」

 カナが少しイライラしながら言った。

「ごめん。そういう訳じゃないの。まず、その人は少し矛盾とも思える行動を取ってるの」

「矛盾?」

「うん。何でそういう事してるか分かりづらかったけど…秘宝を手に入れるって事だけに念頭を置けば、理解できる」

「…で? 早く」

 カナは我慢ならなくなってきた。ラクアはいつも回りくどい話し方をするが、それはロマンの時だけにしてほしい。

「わかったよ。教団の教祖は…」



 白いローブを着た男の腹から、剣が突き出している。

 禍々しい色の、闇の剣だ。

「無事か?」

「え…ええ。あなたは?」

「私の名などどうでもいい。早く逃げろ」

 紫の鎧に黒いマントを着けた男は、剣を抜き取ると、そのまま指示を飛ばした。

「一人も生かすな!」

 その声に呼応して、紫の鎧を着た男達が一斉に湧いてきた。

 闇の騎士達だ。

 そのまま、白い教団の教徒達と戦闘を開始する。

「ルーベルト様!」

 一人の騎士がルーベルトに近づいた。

「どうした?」

「長老はこの先のようです!」

「そうか。続け!」

 ルーベルトは騎士を従え、森の奥へと駆けて行った。



「何だこれは?」

 スーラの手違いで、少し離れた所に転移してしまったシュウ達は、到着が遅れた。

 焦燥感と共に急いで森につくと、戦闘が始まっていた。

 襲撃を受けているので当然だが、問題なのは、戦っているのが、闇の騎士と教団だと言うことだ。

「わかんないよっ! 皆!」

 サニーはそのまま戦場に突っ込んでしまった。

「あのアホ妖精…助けるわよ!」

「ああ!」

 シュウはいつもの、刀を右に拳銃を左にのスタイルで走り出す。

 だが、悩み所は騎士達だ。

 教団は間違いなく敵だが、闇の騎士達はどうか。

「シュウ・キサラギ殿ですね」

「ああ。お前達は…」

 シュウは教団の近くの兵士を斬り伏せ、遠くの兵士を撃ち抜きながら答えた。

「味方です。ご安心を。長老は奥にいます」

 闇の騎士はそう言って、剣から闇の刃を飛ばし、道を作ってくれた。

「行けそうね!」

 スーラが兵士を凍り漬けにしながら言う。

「よし! 先に進むぞ!」

 シュウとスーラは一人で奥に向かってしまったサニーを追いかけて、森の奥に消えた。



「…まさか…だとしたら矛盾してる」

「でしょ? でも、そうすればセリナちゃんが教団にいたことも説明つくんだよ」

 それだけではない。あの結晶。なぜ、もっと早く気付けなかったのか。

 いや、不思議に思いはすれど、疑問には感じなかったのだ。

 だって有り得ないだろう。

 まさか、自分の家族を自分の組織と戦わせていたなどとは夢にも思わなかったのだから。




「言え! 言うんだ!」

 ローブを着た男が、年老いた妖精の胸倉を掴んだ。

 老人は苦しそうな声を上げるものの、笑みは崩さない。

「下手に話すと未来が変わってしまうのでな。シュウに言わなかった事をなぜお主に言わねばならんのじゃ」

「何だと!? 妖精ごときが!」

 男は激昂し、拳で妖精を殴った。

 だが、どれだけ殴ろうと、老人は笑ったままだ。

「何がおかしい!」

「いやな。哀れでのう。お主も自分が利用されてるとは思わんのか? そこまでして秘宝が欲しいのか? あれはな、あるべきではないのじゃ」

 その言葉に男は殴るのを止め、脇に差してあったナイフを取り出した。

「言え! 最後の警告だ! この後、何が起こる? 神は蘇るのか!?」

「ホホホ。よかろう。予言を教えよう」

 老人は不敵に笑い、男を睨みつけた。

「ワシは死ぬが、お主も死ぬ」

「ふざけるな!」

 首が掻き斬られる音がして、老人は崩れ落ちた。

 男が毒づいて、仲間の元に戻ろうとして、闇の騎士、その深い憎しみがこもった双眸と目があった。

「き、貴様ら!」

 だが、男が行動を起こす前にルーベルトは鮮やかな太刀筋で、その首を刎ねた。

 そして、横たわった老人を、見下ろす。

 まだ、かろうじで息があるようだ。

「…お主は…まだ復讐を?」

「当然だ。…世話になったな」

「懐かしいのう…。レオン、セルシウス、マーサ…。皆とても楽しそうじゃった…。最後に予言を…お前は…復讐をはた……」

 老人は言葉の途中で事切れた。

 ルーベルトは老人を一瞥して、去ろうとして、仮面男と出くわした。

「シュウか」

「なぜここに? あなたは…」

「…気にするな。お前のすべき事をしろ」

「長老! そんな…」

 サニーが長老の亡骸に抱き着く。

 シュウが目を反らしたその隙に、ルーベルトは消えていた。

「くそ! 何なんだ!」

 シュウはまた悲劇を止められなかった自分と、教団に毒づいた。



「今の話は…本当ですか?」

 気付くとセレナが起き上がっていた。

 ラクアとカナは目を見開き、返事をした。

「そうです。仮定ですが…」

「ラクアの予想は当たる。私は、信じる」

 もう友人を疑わないと決めていたカナのその真摯な視線にラクアは嬉しくなった。

「可能性は高いと思います。…大丈夫ですか?」

 ラクアの問いにセレナは答えられなかった。

 何てことだ。だとすれば、今までやってきたことは全て…。

「…なんてバカなんでしょう。私は」

 セレナは自嘲気味につぶやいた。

 これなら妹が私を恨んでも仕方ないではないか。

 気づくと涙がこぼれていた。

 

 何が悪い? 自分ではないか。本当に自分は愚かだった。

 聖王が…セントが黒幕だとは露知らず。

 妹が…大変な目にあっていても何食わぬ顔で。

 世界を救う。そんな夢想で、がむしゃらに旅をし。

 アヴィンを、レイを、セリナを、大勢の人を。

 ただひたすらに喪ってきたというのか。


「セレナさん…」

「セレナ…」

 ラクアとカナが、自分の身を案じる。

 セレナは二人を見て、その後ろに佇む、亡霊を見た。

「アクアさんと…レイ…レンさん…」

「セレナさん? しっかり!」

 ラクアがセレナの肩を揺さぶるが、彼女は虚ろな目で虚空を見ていた。

 

 そう。仲間などと言っているが、自分のせいで。

 自分が巻き込んで二人は家族を喪った。

 仲間…その響きの何と虚しい事か。

 自分が余計な事をしなければ、二人は家族と共に、幸せに暮らしていたはずなのだ。

 シュウだってそうだ。

 彼は、自分のせいで、恋する女性と、兄を喪った。

 もしかしたら、他の家族も自分のせいなのではないか。

 シュウは自分の事を死神と皮肉を言っていたが、死神なのは彼ではない。

 自分だ。

 間違いない。自分が死神なのだ。

 


「セレナ!?」

「ごめんなさい」

「え?」

 セレナは教えを説くような、呪詛を述べるような、淡々とした声で、謝罪を繰り返し始めた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 ラクアとカナはその様子に恐怖した。

 もちろん、セレナが恐ろしかったのではない。

 大切な仲間が、苦難を共にした友人が、壊れてしまうのでは、という疑念が、彼女達を震え上がらせた。

「ダメ! セレナ! 落ち着いて!」

 だが、セレナはひたすらごめんなさい、と言うだけだ。

 ダメだ。いけない。このままでは彼女は、本当に壊れてしまう。

 ターニャと同じ…いや、それ以上にひどい。

「ダメです! セリナちゃんの想いはどうなるんですか!」

 その言葉に、セレナは一瞬止まった。

 ラクアはほっとしたが、すぐに驚愕する事になった。

 セレナは立ち上がり、テーブルに置いてあったアヴィンのナイフを使って自害しようとしたからだ。

「いけない!」

 カナは叫んで、セレナの後ろに回り込むと、その首に手刀を振り下ろした。

 元々弱っていたセレナはその加減された一撃に気を失う。

 セレナが手に持ったナイフで傷つかないようラクアが支え、再びベッドに寝かした。

「…こんな時、シュウさんが居てくれたら…」

 ラクアはうなされ始めたセレナを不安げに見つめながらつぶやいた。





「どういうことですか?」

 雷の国から、月影の里、土の国を跨いだ所にある光の国シュトナ。

 その城の、玉座にいる男が、隣にいる男に疑問の声を上げる。

「…申し訳ありません…」

 だが、白いローブの男はただ謝罪を繰り返すだけだ。

「…もういい。下がってください」

 はっ、と男は胸に手を当て、そのまま下がった。

「困りましたね…」

「…大丈夫ですか」

 王の身を案じながら、男が歩いてきた。

 王はその男を一瞥すると、厳しそうな顔をした。

「…予言を訊き出せませんでした。あれを知れば、だいぶ有利になれたというのに」

 聖王はため息をつく。わずかにその白い鎧が音を立てた。

「もう既に有利なのでは?」

 アルドは、整えられた茶色いコートの後ろで手を組み、訊いた。

「いや、予想外の事が起きるかもしれません。ハズレだと思っていた方がアタリになる、なんて事がありましたし」

 セントは、世界を救うなどと息込んでいた、娘を思い出す。

 よもや、あのような出来損ないがここまで秘宝に近づくとは思いもしなかった。

「賭けていれば儲けられましたかね」

 アルドがにやりと笑った。

「ふふ、あなたの金への執着心は驚嘆に値しますね。…そろそろですか」

 セントはアルドを見た。

 アルドは頷き、肯定する。

「ええ。客人はそろそろ到着するかと」

「もてなしの準備をしなければなりませんね。彼らは何が好みでしょうか」

 セントは、客人に用意するにふさわしいものが何か考え始めた。



 


読んで下さった方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ