聖王との邂逅
汽車を降りたシュウ達は、白く眩しい街に目を細ませた。他の国も、基調こそ属性色が多かったが、ここまで染め上げてはいない。正直、ずっと見ていると目が痛くなりそうだ。
「白いですね…」
「はい。シュトナの建造物は基本的に白いです。汽車から白い木や石が見えたでしょう?」
「…確かにあった…」
「それで?」
「家を立てる上で使う材料も皆白いので、結果的に建物が白くなってしまうんですよ」
シュウは心の中でセレナに突っ込んだ。…色は染めなかったのか?
「…シュウさん。私をバカにしてませんか? …あなたが考えているであろう事も試しました。でも、不思議と色が付かなかったのです」
「なるほど」
「何て不思議な街なの! ロマンが溢れる!」
「…それはない…」
そろそろ定番になっていたラクアとカナのやり取りを聞いた後、セレナ達は街の中を歩き出した。
目指すは真ん中にそびえ立つシュトナ城だ。この城も他の建物と同じく、雪景色のように白い。とはいえ、施された装飾のおかげで、街の建物よりかは見やすかった。
「アヴィン、アルド、レイ。あなた達もついて来るのですか?」
「いけませんか?」
セレナはアヴィンの即答を気にはしたが、それ以上何も言わなかった。来たいというのなら止める理由はない。そもそも、あの方に会うこと自体、おかしな事ではないのだ。
「まあ、そろそろ顔を出しておかないと給料を減らされそうだしな」
「また金の話か。やはりお前は気に食わない」
「金は大事さ。デート代が払えなくなっちまう」
レイがアルドに文句を言い、アルドが軽口で返す。二人は、仲間ではあるものの、友人とは言い難いようだ。
「…デート…胡散臭い奴…」
「何だい、お嬢さん。もし良かったらエスコートしますよ?」
アルドがカナにウインクを送る。しかし、カナから返ってきたのは冷ややかな視線だけだった。
「カナを口説く気か? それに…あいつはウインクは嫌いだ」
「…嫌いじゃない…あなた達がうっとうしいだけ…」
カナの言葉に兄は気を落としたが、アルドはそのまま笑みを崩さない。
「まあ、口説く訳じゃないが、俺のエスコートはラクア嬢も満足したんだぜ?」
「…ラクア…あなた…」
「ち、違うからね!」
「…ホントに…?」
ラクアが誤解を解こうとする。カナはそんな彼女に疑惑の目を向けて、なかなか納得しようとしていない。
「…微笑ましいですね」
「これがか?」
セレナはそんな様子を見て笑った。シュウにはこれが微笑ましいとはとても思えなかったが、彼女にとってはそうなのだろう。
「はい。私にとって恋愛事は一生無縁ですので」
「そうか? こう言うのは少し気恥ずかしいが、お前の容姿ならすぐ恋人が出来ると思うが」
それを聞いてセレナは少しはにかんだ後、首を振った。
「お世辞ありがとうございます。でも、仮にあなたの言う通りだとしても、私の戦いにそのような人を巻き込めませんから。先祖様には申し訳が立ちませんが、シュトナ家の血筋は私の代で絶たれます」
そこまで思いつめなくても、とシュウは思ったがセレナは頑固だ。自分の考えを変えることはないだろう。少なくとも、シュウが存在を未だに確信できない、秘宝を手にするまでは。
「着きました。ここがシュトナ城です」
そういってセレナはシュトナ城を見上げる。城門が開き、門番が出てきた。
「セレナ様、ご無事で。お帰りをお待していました」
「はい。この者達と聖王を会わせたいのですが」
「わかりました。どうぞ、こちらへ」
通された城は外観と同じく白が基調だった。他の国に比べて絵画が多い。その中の一つは聖母信仰のその中でも秘宝が強調された、“聖母と秘宝”の絵だ。とはいえ、この絵は聖母の姿より秘宝の方が尺が大きい為、あまり信者には好まれないはずだ。シュトナ王家にとっては、聖母より秘宝の方が重要なのだろう。
「ここです。…シュウ、あなたに証人を会わせます」
「わかった」
セレナはそう言って謁見の間の扉を開く。シュウ、ラクア、カナは緊張の面持ちで扉を通った。
玉座には一人の男が腰を下ろしていた。その容貌は、セレナと同じく、白髪、白眼であり、見る者を虜にする不思議な魅力があった。それに、若い。見たところ、二十代後半と言った所か。
「聖王、ただいま戻りました」
「よく戻りましたね、セレナ。それにアヴィン達も」
「再びお目にかかれて…光栄です」
セレナとアヴィンが跪き、頭を下げる。シュウ達も一応それに倣った。聖王と言われた男は手を上げて頭を上げさせた。
「構いません。さて、あなた達は?」
「報告にあった通り、私達に協力してくれる者達です」
セレナがシュウ達三人について説明する。こういう時はアヴィンの役目かと思ったが、彼はあまり乗り気ではないようだ。
「ふむ。では、あなたがシュウ・キサラギですね」
「はい」
「なるほど。あなたの活躍は聞いています。土を止めて下さったのもあなただとか」
「…大したことは。すべきことをしただけです」
聖王はシュウを吟味するように眺め、言葉を続けた。
「初めまして。私はセントです。さっそくですが、先に秘宝について話しましょう。ご存じの通り、秘宝とは、この大陸に伝わる、神から承った願いを叶える宝のことです。叶えられる願いは三つ。元々は失われた三英雄を復活させるだけの物でしたが」
「三英雄って、アリシア様と…」
「闇の王、ルクイドと我が国の英雄であり私の弟である、セウスです」
「…弟…?」
カナの淡々とした口調に驚きが混じる。今名前の上がった英雄は千年以上昔の人物だ。そんなことを言うのはバカか、或いは…。
「驚かせてしまいましたか。私は、エルフの秘薬、その中でも最上級の物である、永命の薬を飲んでいるので、今の今まで生き長らえているのですよ」
シュウはにわかに信じがたかったが、セレナと、セントの目は真っ直ぐ彼の瞳を覗き込んでくる。一旦そういうことにしておいた方がよさそうだ。
「つまり、あなたは秘宝について熟知していると?」
「ええ。私はこの目で秘宝が降臨するのを目撃しましたから。秘宝の場所も知っています」
シュウはその言葉に揺らぎ始めた。見た見ないは捏造することは簡単だ。しかし、場所については、そこに向かわれたら嘘をついても見破られてしまう。最も、この世にある場所であればだが。
「その場所、というのは?」
「我が国と亡国ディメスの間にあります。あの場所、あの時は今でも鮮明に覚えている…。その場所は神の門、と言われています」
セントは言葉に詰まることなくすらすらと繋ぐ。即席の嘘ではないことは確かだ。それに、在り処まで教えるとなると…。
「神の門。その伝承、聞いたことがあります。聖母が身を捧げたのもその場所だとか…」
「その通りですよ。ストリマの姫君」
「ひ、姫なんて…勿体ないお言葉です…」
ラクアが顔を染めて照れた。姫と言われることに慣れてはいないのだろう。
「…今も行くことが可能で?」
「まだ信用なされていないようですね。無理もない。あなたの兄もなかなか信じてくれませんでした。…行くことも可能です。しかし、あまり推奨はできませんね」
「なぜです?」
セントは間を置いて、シュウの疑問に答えた。
「今我々を脅かす敵が跋扈しているからです。その者達が攻撃を加えてくるかもしれない。暗黒区域にも入っていますしね」
恐らく教団の事だろう。セレナが戦っているということはセントも奴らと敵対しているということだ。
「他に訊きたいことは?」
「では、最後に…シュトナ家は秘宝を求めて何を願うのですか?」
それを聞いてセントは笑みをこぼした。そして微笑のまま、自分達が追い求めた願望を言う。
「世界平和、ですよ」
「…わかりました」
シュウはその言葉を聞いて引き下がった。セントはセレナと同じ望みではあるようだ。ここまでの話を鑑みてシュウは秘宝を信じて始めていた。この話が全て嘘なら、三年前、自分達はとんだ茶番に巻き込まれたことになる。そうは思いたくなかった。
「…嘘をついてる様子はない…」
カナがシュウに耳打ちする。そう、嘘をついてる様子はない。とはいえ、秘宝はともかく、シュウはこの男を信頼していいか迷っていた。考えに惑い、思わずセレナを見る。だが、彼女は凛々しい表情で見つめ返すだけだ。
「まだ戸惑いますか。…ではこうしましょう。私達に協力してくれれば、三つの願いの内、一つをあなたに与えるというのは?」
「っ!?」
シュウは動揺を隠せなかった。秘宝。それがあれば…。一度、その存在を確信すれば、これほど魅力的な提案はないだろう。愛した者達を失った彼にとってそれは、天使の祝福、もしくは悪魔のささやきといえた。
「…考えさせてもらっても?」
シュウの口から出せたのはその言葉だけだ。彼の中では様々な感情が渦巻いていた。どうすればいいのか、彼は即決することが出来ない。
「構いません。ただ、仲間になるのならば、あなたに一つやって頂きたいことがあります」
「聖王?」
セレナが戸惑いの余り、玉座を見上げる。シュウに向けられた提案はセレナを困惑させるのにも十分だった。
「試練ですよ。実力を確かめたい」
「どういうことです?」
アヴィンが閉ざしていた口を開いた。聖王はアヴィンを見下ろす。
「当然でしょう。私が何かおかしな事をいいましたか?」
「…。いえ…」
アヴィンは反論こそしなかったが、何か言いたげなのは明白だった。
「…試練、というのは」
「闘技場にて、戦ってもらうだけです。遺物を使わずにね」
「…いいでしょう」
「…シュウ…?」
シュウは快諾した後、一礼をし、部屋から出て行った。ラクアとカナ、セレナがその後ろ姿を追いかける。セレナは聖王に一度振り返ったが、何も言わずにシュウを追った。
「…我々もこれで」
「お待ちなさい。アルドはここへ」
「分かりました。アヴィン、先に行っててくれ」
アヴィンとレイも部屋を出る。アルドは王と共にビジネスの話を始めた。
「予定通り、ですね?」
「はい。報酬は応相談ということで」
「もちろん。あなたの働きには感謝しています。おかげで敵に先手を取られなくて済む。彼らにもよろしくお伝えください」
「わかってます。…ちゃんと、伝えますよ」
アルドはそう言うと会話を終えてシュウ達の元へ向かった。
「おかげで順調です。ここまで順調なのは十三年振りでしょうか…」
セントは天井を仰ぎながらひとりごちた。天井には絵が描かれており、そこには秘宝の絵が描かれていた。
行く当てもなく、街をぶらついていると、自分を呼ぶ声が聞こえた。セレナ達だ。
「何だ? …今考え事をしてるんだが」
「大丈夫ですか?」
ラクアがシュウを心配そうに見上げる。しかし、シュウは頭を振った。
「独りにしてくれ…」
「…シュウ…」
カナも心配してくれているようだったが、今のシュウに構っている余裕はない。シュウは無言で歩き出した。
「…お二人は、アヴィン達と合流を。…私がシュウさんとお話します」
「でも」
「…わかった。ラクア、こっちに」
「カナちゃん? まだ…」
「いいから…」
ラクアはカナに手を握られ連れていかれてしまった。それを見送ったセレナはシュウが向かった方向に探しに行った。
「シュウさんは…」
セレナは街の中を走る。彼女には彼を追いかけるだけの理由…責務があった。三年前、シュウを巻き込んだのは自分だ。そこに、やむを得なかった、などという言い訳は存在しない。存在してはならない。彼に償いをするはずが、気づくとまた、より深く巻き込んでしまった。
『なぜ…こんなことに…』
セレナの頭の中で疑念が渦巻く。自分は何をしていたのか。彼と旅をする上で、どこか気が緩んでいたのかもしれない。彼の負担を減らすどころか、増やしてしまったではないか。
「情けない…。私はどこか甘えていたのかもしれませんね…」
セレナが自責をしていると目の前に黒いコートと刀の剣士が見えた。シュウだ。
「シュウさん!」
「シュウさん!」
自分の名を再び呼ぶ声にシュウはいらついた。普段のシュウなら何でもないことではあったが、今の彼は冷静ではない。些細な事でも、実にストレスを感じる。
「何だ! 独りにしてくれと言ったはずだぞ!」
「ダメです。お話があります」
「…さっさと言ってくれると助かる」
シュウの毒のある言葉に、セレナはぐっと耐える。これも自分の身から出た錆びだ。責めるべきは彼ではなく、彼にそんな事を言わせてしまった自分だ。
「…」
「どうした?」
お話がある、などと言っておきながらセレナにはふさわしい言葉が思いつかない。その為、彼女は、彼と初めて出会った時の言葉を伝えた。
「ごめんなさい」
「…っ! …いや…」
シュウはその言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻した。自分がバカバカしくなってくる。
「…ふう。我ながら単純だな…。信じてなかった秘宝に踊らされて、あげく八つ当たりとは」
「そんなことは…」
「すまん。嫌な事言ったな。そうだ。何を悩む必要がある…」
「…シュウさん…?」
セレナにはシュウが何を考えているのか分からなくなっていた。今までのシュウならば、秘宝を手にしてそれをどう使用するか、的確に判断を下したに違いない。だが、今の、揺れ動くシュウは…。
そこまで考え…セレナは自分とシュウを重ねた。既視感がある、と思っていたが当然だ。今の彼は、父と妹を亡くし、秘宝の存在で揺らいだ自分に似ている。そう、彼女も十二年前、同じようなことを思ったのだ。秘宝を使って愛する者を救うか、愛する者の意志を尊重するか。
「そう。そうだ。この旅の目的を考えれば当然だ。俺はアクアを…」
「待ってください」
セレナはシュウの自虐的な言葉を止めた。彼の願い自体を悪いとは言わない。だが、その決断は彼が冷静な、本来のシュウの時にするべきだ。
「何だ? 俺は秘宝を…」
「その事自体は構いません。でも、その判断は今するべきではありません」
「…なぜだ。ずっと秘宝を求めてきたお前が…」
「だからこそです。今のあなたは…私が知っているシュウさんではないです」
その言葉を聞いて、一度収まったシュウの感情が再び荒れる。
「お前が何を知っているというんだ!」
「…知りません。私は何も知らない…。でも…」
セレナは近くで見ているであろう、彼の兄の名を出す。
「アヴィンなら知っているでしょう」
「兄さん…」
セレナの言葉と共にアヴィンが物陰から出てきた。様子を伺っていたのだろうか。
「弟よ、お前は何を望んでこの旅を始めた?」
「…復讐だ! 言わなくても分かるだろう!」
シュウは兄に向かって叫ぶ。今まで寄り道ばかりしていたが、彼の本来の目的は復讐だ。俺は自己満足の人助けをして時間を無駄にしていたのではないか? 怒りに我を忘れているシュウは今までの自分の行動を否定しそうになる。
「本当にそうですか? あなたは、前言ってたでしょう。今はそれだけではない、と」
「あんなものは…ただの自己満足に過ぎない!」
「そんなことはない」
アヴィンはシュウの言葉を、静かにはっきりと否定した。
「…何?」
「お前は、罪なき人の命を救ったではないか」
アヴィンがシュウを諭す。それでもなおシュウは混乱していた。
「それが何だ…それをしたからと言って…」
「俺は、復讐に焦がれて大事なものを失った者を知っている」
「……」
シュウが黙る。ラミレスも似たような事を言っていたのを思い出したのだ。
「その者は、他者を利用して復讐を始めた。しかし、心はそんな自分を責め続けていた。仲間が一人、また一人と死んでいく様を見て、ひびが入っていた心は完全に砕けてしまった。もはや復讐の執念でしか動いていない、そんな男だ。俺は、お前にそうなって欲しくはない」
「……。それは…」
「ラミレスは旅立つ前、お前に何か言わなかったか?」
シュウはラミレスの、願いを思い出した。“弟子がそのように変わり果てるのを見たくない”それが彼の師匠の願いだった。そもそも、彼にとってラミレスは家族と言って過言ではない。二人の家族の願いをいとも簡単に無碍にして良いものなのか。
「…わかった。落ち着く。…取り乱していた」
「シュウさん…」
セレナが安堵し、彼の肩を叩く。セレナはシュウに一度された気遣いをお返しした。
『手助けするつもりの相手に気遣われるとはな…』
シュウは自分自身にため息をつく。何て情けないのだ。
「…シュウ。お前はお前のままでいろ。それが一番だ」
「兄さん…?」
シュウは兄の意味深な言葉が引っかかり彼を見たが、普段の寡黙な兄に戻ってしまったようだ。とはいえ、唯一の肉親の思いやりはシュウの落ち着きを取り戻すのに十分な働きをしてくれた。今なら秘宝についてどう考えればいいか、何となくわかる。
「…秘宝についてはみんなと話し合って決める。俺一人で考えるのはやめだ」
「…そうか。俺は、先に戻るぞ」
アヴィンはそう言い残してアルド達の元へ向かった。シュウはそんな兄の姿を見つめ思い出に耽った。
「変わらないな…」
「昔からですか?」
「ああ。あれは両親が死んだ時だ。兄さんは泣きじゃくる俺を、言葉数こそ少なかったが、励まそうとしてくれた。自分も辛かったはずなのにな」
シュウの思い出を懐かしむ顔にセレナは微笑む。アヴィンがいてくれて良かったと心の底からそう思った。自分だけでは、シュウが苦悩する様をただ見つめることしか出来なかっただろう。
「アヴィンは本当に素晴らしい人です。…私達の戦力の要は彼と言っても過言ではないでしょう」
「それは間違いだな。兄さんは強いが、要は俺だ」
「…ではあなたは」
セレナがシュウの軽口に反応する。それは彼女にとって、聞きたいと同時に聞きたくなかった言葉だ。
「お前の仲間に正式になるとしよう」
「…わかりました」
セレナは一瞬躊躇し、すぐ気を改めて手を差し出した。元々、シュウは教団を追っていた。ならば、仲間になるのが一番安全ははずだ。
「仲間になるからには、気遣いは無用だ。兄さん達と同じように、接してくれ」
シュウはセレナの手を取り、釘を刺した。仲間になるからには、無理をせずに背中を預けて欲しい。
「…それは…」
シュウはセレナの視線が伏目がちになるのを見て顔を近づけた。これだけは譲れない。
「…何を…?」
「はっきりしてくれ」
「…っ…」
セレナの顔にわずかに赤みが差す。シュウはセレナの戸惑う顔を見て慌てて距離をとった。これではまるで…。
「…告白…?」
「ま、まままさか! でも、あの二人なら…」
「何?」
シュウは近くの茂みから声が聞こえ、注視する。すると、白い茂みから、黒いハットが丸見えだった。ラクアに隠密行動は向いてなさそうだ。
「…何です? …ラクアさん?」
セレナがシュウの目線を辿り、同じように黒いハットを見つける。揺れ動いてたハットがビシッ!と固まった。隠れたつもりなのだろうか。
「バレバレだな…」
「ですね…」
シュウとセレナはにやりと笑い、少し茶目っ気がわいた。近くにあった石ころを、ハット目がけて投げる。
「わっ! ぼ、帽子がっ!」
「…今はダメ…」
「あ、そう、そうだね。後にしよう…っあ!」
ハットが風に乗って転がり始めた。ラクアは転びかけながら帽子を追いかける。
「あっま、待って! 飛んでかないで!」
「…ラクア…」
「ふふっ」
セレナがラクアを見て笑う。結局、回答は得られなかったが、まあ今は良しとしよう。聖王の試練とやらに受かれば、セレナの考えも変わるはずだ。シュウはそう考えて、ラクアの様子に笑った後、彼女と、完璧に茂みに同化しているカナに声を掛けた。
「もうばれてる。城へ戻ろう」
「…えっ! ど、どうして!?」
「…ラクアのせい…」
「そ、そんな!」
ラクアが狼狽する。あれで隠れたつもりだったんだろうか。それは置いといて、まず、彼女達に謝言わなければいけないことがある。
「さっきは悪かったな」
「い、いえ! あなたは命の恩人ですし!」
「…気にしてない…」
「セレナも、助かった」
「…当然でしょう。仲間、なのですから」
セレナはそう言ってはにかむ。セレナは、シュウが仲間になったことを心強く感じた。だが、だからと言って全てを許容するわけではない。シュウがこれ以上、傷つくことがないよう、細心の注意を払わなければ。
「そうだな。…当然だ」
シュウはセレナの言葉を嬉しく思うと同時に、セレナが窮地の時、この言葉と共に手を貸すことに決めた。これなら、さすがのセレナも文句を言わないだろう。
シュウとセレナはすれ違う心で互いを思いやりながら、聖王の元へと向かった。
なかなか、苦悩する場面を書くの大変ですね。ちゃんと伝わってるかどうか…。
一応1000PV行きました。たった1000ですが、初めて書いた小説なので、嬉しいものですね。…ブラウザバックでないことを祈る…。
今度はユニークが1000になるよう頑張りたいです。
読んで下さった方、ありがとうございました。




