第一話 竜騎士団長と元帥
本編です。駄文ですが、よかったら読んでいってください。
ヘルヴォール王国。大陸有数の歴史と力を持つ国であり、その繁栄ぶりは他国の羨望の的であった。
そして、その国を守る騎士団の一つ「竜騎士団」の強さたるや、他の追随を許さない。竜を駆り、空を自在に天翔る様は国の象徴とさえも言われた。
そして、ある日、宮廷の修練場ーーー
「ハッ!」
鋭い気合とともに剣が振り下ろされる。新米らしい、子供っぽさが残る若い騎士の切っ先は相手ーーー年齢不詳の男ーーーの肩先を切らずに、逆から振り下ろされた剣で受け止められる。
すぐに離れ、今度は心臓めがけ突きが入る。が、胸板に食い込む前に、相手に受け流され、体勢を崩したところに、首筋へ剣を突き付けられた。
「そこまで!」
審判が勝敗を告げる。
「全体的に動きは荒いが、身のこなしは良い。しばらく精進すれば、腕は上がるだろう」
「ありがとうございます!」
若い騎士は嬉しそうに顔をほころばせると、頭を下げ、修練場を去って行った。
残った騎士は、その後ろ姿を見送っていた。
先ほど、「年齢不詳」と言ったが、二十代後半にはなっているだろう。やや癖のある黒味が掛かった褐色の短髪に、鋭い同色の目。顔立ちは知的かつ端正で、長身と相まって女性に騒がれるような容姿の騎士だった。
彼の名は、アーサー・フォン・ガレトシア。この国の防衛の要「竜騎士団」の団長である。ちなみ、年齢はまだ、23歳。知らない人間が見れば、三十路と間違うような老け顔である(本人も内心気にしている)。
「ずいぶん、熱の入った指導だな」
背後から聞こえる声に振り向く。
「ユーリ元帥・・・いらっしゃったのです、グッ!」
かという前に鼻をつままれる。つまんだ青年ーーーユーリはやれやれと言わんばかりにため息をつき、
「そう堅苦しい呼び方をやめなって言ったろう。少なくとも、公式の場以外は」
「ふぇ、ふぇも・・・」
「俺とお前の仲だろうが」
やっと、解放するとジトっとした目で男を見る。
彼は二十代半ばくらい。薄茶の長髪を束ね、男と対照的に優しげな顔立ち。灰色の目がいたずらっぽく見ていた。
正式な名はユーリ・アンゲア・シルスヴェア。この国の騎士団「竜騎士団」「近衛騎士団」「辺境騎士団」を束ねるトップである。
「あの騎士は、筋がいいので。しばらく鍛錬すれば腕を上げるかと・・・」
「ま、それは俺もわかったが。・・・それだけじゃないんだろう」
ユーリはアーサーを見据える。先ほどとは違い、真剣な様子だった。
「大方、また昔のことを思い出したんだろう」
「・・・・・・」
アーサーは黙っていた。しかし、拳をギリリと音がするほどに強く握りしめている。
「もういい。あれはお前の責任じゃない。あいつだってそうは思っちゃいない。だから、もう自分を許し・・・」
「元帥」
ユーリを遮るように彼は言った。
「理由はどうであれ、俺は何もできなかった。・・・なら、せめて俺はあいつの分もこの国を守りたいんです」
そう言い、会釈するとさっさとその場を立ち去って行った。
ユーリは複雑そうな表情でそれを見ていた。
そして、物陰から一対の目がーーー
その日の夜。
ユーリの住む屋敷に一人の客の姿があった。
どこか、子供っぽさが残る新米騎士ーーー昼間、アーサーに稽古をつけてもらっていた新人のガレスである。
「ユーリ元帥。報告書を持ってまいりました」
「おお、ご苦労さん」
出迎えたユーリは、気さくな様子で接してきた。
「悪いな、訓練で疲れてるときに使い走りに見たいなことをさせて」
「め、滅相もございません!元帥のためとあらば、火の中水の中・・・」
「いや、ふつうに火の中入ったら大やけどだぞ」
と突っ込むユーリ。
「は、はあ・・・」
「まあ、とりあえず体を休めていけ」
とユーリのいささか強引なねぎらいにおとなしく従い、応接間でくつろぐガレス。
(うう・・・居心地悪い。思いっきり別世界なんですけど)
唐突だが、ガレスは騎士だが貴族の出ではない。平民出身だが、国の「騎士登用制」で騎士になったのだ。このような、所にはかなり免疫がない。
所在無げに、きょろきょろとあたりを見回していると、ふと、壁にかかった肖像画に見入った。
描かれているのは、二十歳になるかならないかぐらいの騎士だった。
身に纏う甲冑は白銀。そして、赤い竜に跨っているーーー竜騎士の証である。
黒髪はやや長く、頭の後ろでまとめており、藍色の目が生きているような輝きをもっていた。
中性的な顔立ち。一見すると、凛々しい青年と見えるがーーー
「女性・・・?」
「よくわかったな」
唐突に、ユーリの声がした。
あわてて、声の下方向へ顔を向けると、ユーリが腕を組んで立っていた。
「いえ、ただなんとなくそのように見えてしまったものですから・・・」
「いや、大したもんだ。初見でこいつが女だって見抜けるとは、お前結構見どころあるな」
ユーリがまじまじとガレスを見詰める。
「あの、この方は・・・」
「レイ・エレイシア・シルスヴェア。俺の義妹だ」
「元帥の妹君・・・」
ガレスは肖像画の人物の名を聞き、あることを思い出した。
「確か、『救国の戦乙女』『誇り高き女騎士』と謳われた方ですよね。そして・・・」
「・・・三年前の『ゴルモンの戦い』で戦死した、ってことになってる」
「・・・なっている?」
「正確にいえば、行方不明だ」
そのまま沈黙が場を支配した。
たまりかねて、ガレスは話題を変えた。
「元帥、騎士団長と親しいんですか?」
「ああ。あいつは俺らとは幼馴染でよ。三人で行動することも結構多かったんだぜ」
と、先ほどのやや沈んだ表情から一転し、懐かしそうに頬を緩めるユーリ。
「いや、実を言うと昼間偶然お二人の様子をお見かけしまして。そのように見えたものですから・・・」
ガレスがそこまで言って、ふとためらいがちに訪ねた。
「失礼なことを申すようですが、あの団長は何か悩んでいらっしゃるのですか。稽古の時も時々、自分を追い込んでいるように思えてならなくて・・・」
ガレスの言葉にしばらく沈黙し、はあとため息をつくユーリ。
「あいつ・・・やっぱりそんなことを」
「ガレス、お前アーサーとは結構顔を合わせるほうか?」
「稽古の時とぐらいですが・・・」
うーん、という唸り声。
「時に、口は固いか?」
「人並みより軽いなんてことはありません」
戸惑いながらもガレスは答える。
それを聞いた、ユーリは「そうか・・」と言って、こう続けた。
「なら、話してもいいか」
「はい?」
「アーサーの悩みの原因さ。本来人に聞かせるようなものじゃないが、お前なら聞いても言いふらしたりしなさそうだし・・・まあ、そのうち他の人間から尾ひれがついた『デマ』を聞かされるよりはいいか」
ユーリはいつになく厳粛な面持ちになっていた。ガレスも真剣な顔つきになる。
「事の発端は、十六年前まで遡る・・・」
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