第九章
空視線の話です。
静かな教室の片隅
9.曖昧な答え
千が帰って教室にいるのは俺と那岐。
ルーム長とかやるもんじゃない。
本当は千を副に推そうかと思ったけどアイツは絶対に否定する。
那岐が副だが、コイツじゃなければこのクラスで俺の一番嫌いな奴がなっていたかもしれない。
そうだったら俺は絶対逃げる。逃亡。
手段はそれのみ。それかその場で挙手をして『やっぱりやめます』と発言。
山と詰まれたプリントを一枚一枚丁寧に見ていくのは本当に辛くてしょうに合わない。
でもやるには最後までやらなくては、クリスマスまで学校に来て片付け。
そんなの嫌だと、汚いけれど丁寧に。
少し意味不明。
夕暮れに染まって行く教室の片隅で山と詰まれた書類を片付けるのってめっちゃ悲しい。
何が悲しいってただの文字がびっしりと書かれている紙切れ一枚と何分も睨めっこをしなければならないから。
それが凄く悲しくて辛い。
「千いないから寂しい?」
「当たり前」
「だろうね」
いきなりの質問に当たり前の返事を返した。
那岐は本当に短い期間で千の事をよく見ていたと思う。
多分、俺より知っている事が多いと思う。
でも俺の方がアイツと何年も一緒にいる。
那岐も段々雑に書類を見て積み上げて行く。
「あのさぁ...」
「何だよ」
「遊佐瀬は千の事好き?」
「当たり前...昔から一緒にいて守ってやりたいとか何度も思った。アイツを傷付ける奴は俺が殺してもいい」
「同感、殺しても足りないぐらい」
学校では言えない事の暴言の数々。
誰も聞いていないからいいものの。
すべてが千に対する事だった。
一生懸命に、自分を犠牲にしても奴を守ってやりたいと思ってる奴。
『千が傷付いたらどっちが慰める?』と言う質問に対して。
俺は『絶対に俺が慰めるに決まってるだろ』と強気に答えた。
だけど、滅茶苦茶曖昧な答え。
アイツが泣いて、俺が慰めてやれる勇気がないかもしれない。
声を掛ける勇気があっても其処から先の考えがない。
俺頭が悪いから考える前に行動に出ちゃうタイプ。
けど、千は....。
俺の大切な大切な、大切な....。
思い人...。