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第七章

あと3日の私の幸せ


7.微かな優しさ、暖かさ


あと3日...でこの私の醜く彼を傷付ける運命は幕を閉じる。

あと3日...3日の辛抱。そうすればすべては終わるんだ。

嘘を吐く事、偽る事もなくなる。

空に苦笑いをさせる事もなる。沁に心配をかける事もなくなる。

日向君を地獄に突き落とす事もこれが終わればすべてが泡になって消える。


消えろ、消えろ。

私の記憶からも人々の記憶からも。


でも...今の私は...。

とても幸せな気持ちで一杯にいた。

あの日がなければ、私はきっと暗いどん底の人生を歩んでいたのだろう。


微かな希望は閉ざされたと思っていた。

実際は間逆で。

微かな希望は大きな光を見付けて必死に掴み取ろうとしていたのかも知れない。

幸せと言う名の暖かな光...。


カレンダーの数字を指でなぞりながら数を数える。

1...2...3...。

何度数えてもあと3日。如何足掻いてもあと3日。

この関係が始まった頃は自分の手でこの運命を打ち壊してやとうとまで考えていた。

でも今は、辛くても悲しくても嘘を吐いていると判っていても偽りだと判っていても...。

もう少しだけ、長く続けていたいと可笑しな感情を持ってしまっていた。


12月...24日...。

クリスマス・イヴとか言う日だっけ?

そうとも言うし私の誕生日だとも言い張れる。

事実。私はある意味で神の近くで生まれ、生まれた私は神の足元に辿り着き、蹴り飛ばされた。

醜い怪物をただ当たり前のように蹴り飛ばしただけ。

神は酷いお方だ、なんて言えやしない。怪物が言ったって説得力0。


はぁーと浅い溜息。

誰にも聞こえない。教室だけど誰もいない。

皆さんはちょっとしたご用事で此処にいないだけ。

私にとってその用事は関係のない事だったからついて行かない。

用事の内容は...秘密。


机の上に顔を伏せて、眠る準備OK。何時でも眠れる。

訳ない...。

別に睡魔なんて襲って来ない、だから寝る気なんて更々ない。


「千...?」

「え...?誰...」

「僕、日向だよ」


後の教室の入口から顔を出すのは、日向君。

Aクラスの授業は何ですか?って聞きたかった。

でも訊かない。

にこにこと微笑んで私に向かって手を振る。

一応、答えて軽くてを左右に動かす。力が抜けていて手首が曲がっている。


皆如何したの?と言う質問に、ん...用事と軽く返答。


「入ってもいいかな?」

「いいよ、多分...もうこの時間は戻って来ないだろうし」

「僕のクラスはね...そろそろクリスマスだから少し教室の飾り付けしてるんだ。僕は絵を書いてたんだけどセンスないからデザイン考えて来いって追い出されたんだ」

「へぇー...楽しそうだね」

「そうでもないけど」


だってさぁ...と楽しそうに話を進める日向君を見て自然に頬が緩む。

彼の話しは凄く面白くて、聞いてて全然飽きない。

自然に会話に馴染、ずっと敬語ばかりを語っていた私が急にタメになったり。


話はクリスマスの話になっていた。


「千はさ、思い出に残ったプレゼント貰った事ある?」

「ない...プレゼント貰った事なかったし、クリスマスも誕生日も」

「誕生日何時?」

「イヴ」

「僕は、プレゼント貰ってもすぐに捨てちゃってたみたいで親が困って困って」

「問題児系?」

「そう!」


人は見かけに寄らない。

プレゼント貰ってもすぐに捨てちゃうとか...なんて羨ましい言葉なんだろう。

私の親は...毎年毎年プレゼントをくれた。

貰った事がないとかは嘘だけど...真実。

5才の時まで。

1才は愛情。2才も愛情。3才も愛情。4才は...温もり。

そして...5才は死と言う最低最悪のプレゼントを残して親は私の目の前から消えた。


愛情、愛情、愛情、温もり、...死...。

思い出したくもない汚れた記憶。


最低な思い出しかない、この12月と言う季節には。


「千にお願いがあるんだ今日から放課後、僕と一緒にいてほしいんだ」

「放課後?」

「学校にいる時は空とか沁とかがいるから駄目だけど、放課後のフリータイム僕と一緒に過ごしてほしいんだ」

「.......私でよければ」

「よければとかさぁ言わないよ、普通は。頼んでるのは僕の方なんだから」

「あ...ぁ...そう...判った、いいよ」

「ありがとう」


すっと微笑み私の頬に手を添える。

凄く大きくて暖かい掌。


「じゃあお願いね」


彼の暖かさと優しさが私を軽く包む。

さっき思い出した忌々しい過去の記憶も消えるような、温もり。

とても...心地いい...。


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