第五章
如何してそんな顔をするの...。
5.笑っていない君の顔
「千、ほら笑って笑って」
にっと私の口元を両手の人差し指で持ち上げて笑わせようとする沁。
下を向いてお弁当に顔をくっ付けていた私。何を考えていたのか...。そうだ。
沁と日向君の関係はどんなんだろうとか、下らない事で頭を悩ませていた。
フォークを片手にずっーと悩んでいた。何でだろう。考えるのは其処からですか...。
まぁいいやと気を取り直してお弁当を食べ始める。
くすくすと笑いながらお弁当を食べる私を見て笑う沁、何で笑うの?と首を傾げるとより笑う。
不思議に思って聞こうとは思うがなかなか聞けない。
空と日向君は下に降りてじゃれ合っている。
本当に仲がいいんだなぁとこう言う時に実感。
「千って本当に可愛いよね」
「そう?」
「うん。なんか守ってあげたいタイプ」
可愛いとか守ってあげたいとか私には絶対に縁の無い言葉だと思っていた。
だけど彼女はそう言う縁の無い言葉を私にくれる。とても嬉しい。
食べ終わったお弁当箱を鞄に入れ、何をしようと考える。
視線を空に向ける。広い広い空。風が心地良い...。眠い。
と軽くあくびをするとまた隣からくすくすと声が聞こえた。また沁が笑った。
自然と私は彼女の笑顔をみると嬉しくなる。
私の隣で優しく微笑んでくれる人なんて...とか思ってた。
全部全部。何もかも縁が無い。今は違う。この空間に居るだけで幸せを感じる。
とんと肩に頭が乗る。シャンプーのいい香りがふわっと鼻に届く。
「千...」
「何?」
「...遊佐瀬の事好き?」
「なっ何でそっそんな事聞くの?!」
「何となく、で本当のところは?」
いきなりの質問に少々困る。空の事って...言われても。
昔から何気に隣を向けば空がいて、そんな事思った事も無かった。
正直なところ私は...。
「好きって訳でもないし嫌いって訳でもないし微妙って訳でもないし...でも空は何時も一緒にいるからでも...」
「ふふ、判った判った。ごめんね」
「別にいいけど...一つ訊いていいかな」
「どうぞ」
「沁は日向君と如何言う関係なの」
今までずっと訊きたかった事。知りたくは無いけど知りたい。
私が質問すると寄り掛けていた頭をあげ、無言で立ち上がる。
ちらっと見えた彼女の表情は何時もの明るい表情ではない。とても暗い。
何か悪い事を訊いてしまったのかなと少し悪く思う。少しじゃなくて大分。
初めて見た。彼女のこんな暗い顔。
まだ友達になってない頃。ただのクラスメートとしか見ていなかった時だって彼女の笑っていない表情を見た事は無い。
毎日毎日笑っていた。凄く楽しそうに明るく。
数分経ってから沁は重々しく言葉を出す。
「私と日向はね幼馴染。ただ...千と空は昔から自然と仲良しでいたって感じでしょ。でもね私と日向は違うの」
「違うって...」
「親の都合でくっ付けられた幼馴染かな。意味判んないでしょ」
「う...うん」
「判んなくていいんだよ、変な話だから」
沁は苦笑いを私に見せた。
そんな顔見たくないと思う。見たくないから少し視線を逸らす。
話の内容が今一よく理解出来ない...でも。
彼女にとって日向君は幼馴染...?
「千、おいでよ」
「日向君...ちょっと待ってね。沁も行こうよ」
「私眠いからちょっと寝てる、チャイム鳴ったら起こしてね」
沁は壁に凭れて瞳を閉じた。
私はゆっくりと階段を降りて日向君と空の中に混ざる。
沁の冷たい表情が凄く悲しかった...。
放課後。鞄に荷物を詰め込んで帰宅をする。
「千帰ろー」
「俺も」
「うん」
沁と空に挟まれるようにして廊下に出る。
まるで2人が親で私が子供のように。
A組から日向君がひょっこり顔を出す。
「一緒に帰っていいかな?」
「俺は別に構わねぇーけど」
「私も構わないよ...沁は...」
「ごめん、私用事思い出しちゃった。本当にごめん先帰るね」
1人だけ早歩きで私達の目の前から姿を消した。
とても重く冷たい態度。
日向君は心配そうな表情で沁の後姿を見送っている。