第三章
欲しくないモノ
3.要らなかったモノ
友情とか持っていても疲れるものは要らない。
私はもう、すべてが要らなかった。
感情も友情も愛情も親切も優しさも裏切りもすべて、全部。
私には勿体無いものだから。
だから神は何も授けてはくれないのだろう。
教室に一人取り残されたような私。
別に取り残されたとかじゃなくて唯一人で居たかったから。
自分が何なの判らなくなって来た。
元から感情が無いから元から判らないから。
夕暮れに沈む太陽は私の瞳には映らない。
雫が邪魔をしていた。
「翠咲さん!」
「え...?」
クラスメイトに初めて、しかも大声で名前を呼ばれるなんて初めてだ。
私の名を呼んだ彼女は扉の前でニコニコと微笑んでいた。
私には其れが、高笑いをしているように見えてしまう。
空の笑みも日向君の優しい情けも全部。
私には、悪口に聞こえてしまうんだ。
さて、彼女は私に何をしに来たのだろう?
悪口を言いに来たか、水を掛けに来たか、睨みに来たか。
悪者は絶対悪人には見えないんだ。
「えっと...」
「あぁ、覚えてもらってなかったかぁ...残念、私は那岐沁だよ覚えてね」
にっこりと私に軽く微笑む。
何で?私なんかに自己紹介してるの。
何で、本当に残念そうにするの?
疑問ばかりが浮かび上がる。
きっと冗談だろう。
「其の...那岐さんが私なんかに何のよう?」
「用件は唯一つっ!私と友達になろう!」
「...止めといた方がいいよ、那岐さんだって知ってるでしょ?那岐さんみたいな人私なんかと関らない方がいいよ」
「如何して?そんな事言うの?」
「一緒に居ればきっと貴女は苛められるよだから...」
私は本当に弱い人間だ。
自分で自分が本当に憎い。
人を傷付けたくないから私に触れないで。
貴女に悪い事したくないから近付かないで。
全部全部全部。
自分の都合に合わせた言葉じゃない。
彼女はきっと、強い人間なのだろう。
だって私の前から下がろうとも、去ろうともしない。
唯、一直線に私の目を見詰めていた。
「私は翠咲さ...千と仲良くしたいのっ!千を苛める奴が居たら私がぶっ飛ばしてやる!」
「那岐さん...如何して其処まで私の事を...」
「千が好きだから」
「え...?」
「この学級になって初めて千を見た時、あの子だっ!て思ったんだ、私の理想の子は」
「那岐さん...有難う」
「硬いよ言葉使いが、敬語は要らないし私の事は沁でいいよ、ね千」
「うん、沁...?」
「上出来」
初めて初めて。
気軽な友人というヤツが出来たのだろうか。
欲しくなかった、要らないと思っていたモノが...。