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戦場帰宅部  作者: 鷹の爪
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プロローグ

 時は21XX年。この時代に夢を見た者は多かった。機械猫は作られたのか?空飛ぶ車は?そんな科学文明を子供達が夢見た時代。

 だが現実と言うものは、詰まらないもので、そんな奇特なモノは無かった。と悲観するのもいいが、この時代になっても昔のような生活が続いてる事こそが奇跡だった。

 人間はいるのだ。多くもなく、少なくもなく。それはきっと現実的には奇跡と言っていいだろう。本来ならば絶滅していても不思議ではないのだ。


 "変わらない"という道を歩んだ奇跡の未来には、もう一つ変わってないものがある。それは学校である。

 未来の学校でも、そこは学業に励み、運動に努め、青春を謳歌するところだった。普通の授業に、普通の給食、普通の昼休み、ちょっと変わったのは、歴史の教科書が厚くなったことだ。

 学校は変わらなかった。つまり、「放課後」と言う時間も存在していた。部活を頑張る少年少女に、居残りをして勉学に励む優等生達。

 それと、もう一つ。部活じゃないのに、「部」という肩書きを持つ者達。勉学にも励まない、部活なんて以っての他、ただただ学校という世界から隔離された自宅に帰りたい。それらを「帰宅部」と称するのは今も昔も変わっていなかった。


 そう、彼らは変わらなかった。変わったのは時代だったのだ。 舞台は中高一貫制と言う変わったシステムを導入した学園。冴土(さえど)学園。

 冴土学園は名門校と言うわけでもなく、何かの部活がインターハイを優勝したわけではなく。かと言って不良がのさばっているわけでもない。つまり「普通」である。

 前述した通り、変わったのは、あくまで時代だった。


 その冴土学園に在学している一人の少年がいる。特にヘタレでもなく、強くもなく、ちょっとお金が好きな少年。

「お金が欲しいなぁ。」

 昼休みの時間、弁当を食べ終わり、各々に談笑していて、騒がしい2-Aの教室の中に混じって、それは呟かれた。

 少年…野江戸(やえど) 賢人(けんと)は、席に座りながら財布の中を見て溜め息を一つ。

 特にお金が必要なわけではないが、財布が寂しいと、なんらかの不安感を覚えるが人間と言うものだ。

「なにかいいバイトでもないものか。」

 野江戸は、携帯を取り出し、求人サイトを物色し始めた。しかし、パッとするものがない。

「時給が安かったり、女性希望だったり…。男には辛い時代だぜ。」

 時代に対し、不満を漏らしつつ画面をスクロールさせていく。だがスクロールさせるごとにバイトの質は落ちていく。誰もやりたがらない残り物なのだから当たり前だろう。

 しかし野江戸は、ある求人広告で指を止めた。綺麗な広告バーナーだった。そのあまりの綺麗さにクリックしてしまった。

 そして求人情報のページにジャンプした。型どおりのテンプレだったのだが、内容が奇特だった。

「全国の中高生帰宅部…体験レポート一枚で五万円!」

 野江戸は、思わず席を立ちながら叫んだ。クラス中の視線が野江戸に集まった。

 暫く教室の空間は固まったが、野江戸はハッと顔を真っ赤にして席に付くと、クスクスと微笑が飛び交った。

 だが野江戸は、それよりも破格の値段のバイトに胸を躍らせていた。

(帰宅部……か。)

 携帯を握り締め、野江戸は笑みを零していた。 そして放課後のチャイムがなった。教室では教科書を広げる者や、部活道具を持って出る者もいる。しかし、どうだろう。帰ろうとする者は、全くいない。帰らないのが「普通」なのだから当たり前ではあるのだが。

 しかし、「普通」ではない者が一人だけいた。野江戸ではない、野江戸は先生に「居残りをしない」事を言うタイミングを見計らっていた。

 「普通」ではない者は、少女だった。彼女の名前は桐咲(きりさき) 真理(まり)。特に目立った子ではなかった。だが、この放課後では、皆の話題になる。

「あの子また?。」

「正気じゃないわよね。」

「もしかしたら不死身とか?。」

「あ、かも!。」

 それが聞こえているのか、いないのか。桐咲は黙々と教室を出て行った。

「先生!」

 そのヒソヒソを打ち消すように野江戸は挙手しながら立ち上がる。皆、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「どうした?野江戸。」

 先生は居残りのためのプリントを握りながら、聞く。

「俺、帰ります!。」

 クラスの空間は、再度固まった。そして、それを打ち破ったのは野江戸以外、全員一斉の「えーー!?」だった。

「本気か、野江戸!?」

「あんた、バカァ?」

「死にたいのかよ!」

「なんでなんで!?」

 野江戸は、質問攻めに合いながらも、さっさと帰り支度を済ませる。

 すると先生が「みんな落ち着きなさい!」が、ざわめく教室を鎮めた。

「野江戸。」

「はい、先生!。」

「"特別外出誓約書"はあるのか?。」

「なんですか?ソレ。」

 先生は頭を抱えながら溜め息を吐く。

「本当に帰宅部に入りたいなら、顧問の杵築(きつき) 祥子(しょうこ)先生のところに行って説明を聞きなさい。」

「職員室にいますか?。」

「ああ、まだいらっしゃるだろう。」

「分かりました、ありがとうございます!。」

 野江戸は、急いで教室を出ようとすると、先生は野江戸を呼び止めた。

「野江戸!……無理はするなよ。」

 それに頷きで返し、野江戸は職員室に向かった。「杵築先生はいらっしゃいますかー?」

 野江戸は職員室の入口で叫んだ。すると一人の女性が立ち上がってコチラに向かってきた。

 似合わないジャージ姿で、巨乳がはち切れている。思春期の野江戸にはソレしか見えていなかったが、茶髪のポニーテールで顔立ちも綺麗だ。

「私が杵築だが、何か用か?」

 男勝りな口調で杵築先生は野江戸に問う。野江戸は胸に視線を取られていたため、ハッとして、それに応える。

「あ、はい!帰宅部に…入りたくて…。」

 それを聞いた杵築先生は、野江戸の身体を足元から頭まで舐めるように見る。

 中肉中背で、顔立ちも普通、髪は短髪の黒髪。何処からどう見ても、「普通の高校生」だ。

「ま、体格じゃないわよねぇ…。いいわ、入りなさい。」

 杵築先生は、さっきまで自分が座っていた席に再度座り、書類やらなんやらで散らかった机の上を漁っている。

「いやねぇ、入部者なんて中々いないからサ。特別外出誓約書が……あ、あった。」

 杵築先生は、くしゃくしゃになった紙切れを野江戸に渡した。

 誓約書には余白がかなり余っていたが、「私と私の親族は、帰宅する際に起こった事故に関しての一切の責任を自分で負います。」と短い文と、サインを書くアンダーラインが右下にあった。

「ご両親とかのサインがいるのだけど?。」

「あ、俺、親とか親族いないんですけど…?。」

 野江戸は、小さい頃に両親が蒸発した。唯一の親族が両親だけだった野江戸は、小さい頃から生活保護を受けて暮らしていた。

「そう。じゃあんたのサインだけでいいわよ。」

 杵築先生は、重い話を聞かなかったようにアッサリと言った。優しさ等ではなく、単に興味がないのだろう。

 野江戸はサインをして、杵築先生に誓約書を渡した。杵築先生は確認して、立ち上がる。

「帰宅部にようこそ。」

「あの、入部届とかは…?。」

「部活じゃないんだからいるわけないでしょう。」

 野江戸は、意味が分からなかったが、そういうものなのだろうと無理矢理自分を納得させた。

「じゃあ、詳しい事は外で話すわ。みんないるはずだから、部員とも顔合わせをしなくちゃね。」

 他の部員…、野江戸は少しだけ興味があった。どんな物好きなんだろうと、妄想しながら杵築先生の後に付いていった。 集合場所は、どうやら玄関だった。そこには何人か人影があった。想像よりは人数がいた。そして、その中には「普通」じゃない少女の姿もあった。

「みんなー生きてる?」

 杵築先生は手を振りながら、その集団に語りかけた。

「えぇ、杵築先生。今日も重傷者・死亡者数は0です。」

 それを言ったのは、赤眼鏡がよく似合う長身の女だった。制服を着ていなければ、学生とは思わないだろう。

「…その子は?。」

「ああ、コイツ。新入部員。あれ?名前なんだったけ?。」

「あ、俺は高校二年の野江戸 賢人です!よろしくお願いします!。」

 野江戸は深々と頭を下げて、挨拶をした。赤眼鏡の女は、それに少し笑う。

「ふふ、礼儀正しいわね。私は大空(おおぞら) 恵美子(えみこ)、高校三年生よ。」

 大空は、そう自己紹介をして「じゃまずはみんなで自己紹介ね。」と言い、他の部員に語りかけた。

「あ、僕!。尾野(おの) 大輔(だいすけ)です!。高一です!。」

 まず最初に声を上げたのは、あどけない少年、尾野だった。小柄で、マスコットのような雰囲気を醸し出している。

「元気だな、大輔!。良いことだ!。俺は静川(しずかわ) 大地(だいち)。高三だ!。で、こっちは妹の波奈(はな)だ!。中一な!。」

 大声の、見るからに体育会系の男、静川兄は、無口で目を合わそうともしないロングヘアーの女の子も静川妹も一緒に紹介した。

「うるせーんだよ、ゴリラ!。…チッ…あたしは岡見(おかみ) 月子(つきこ)、高三だ。ナヨナヨしやがったら、この木刀をケツに突っ込むからね!。」

 野江戸に向かって木刀を突き出すスケバン女、岡見。今にも噛み付いてきそうな、牙のような歯が見え隠れしている。

「ケツじゃなくてお尻だよ、岡見ちゃん。あ、俺ね、柏木(かしわぎ) 宏樹(ひろき)。そこの眼鏡おっぱいと同じ高三。よろしく。」

 チャラい男、柏木は、「眼鏡おっぱい」と大空を指差して言う。実のところ、この二人、クラスメイトである。

「……苗床(なえど) 伸介(しんすけ)。高校一年。」

 その二人を無視して、自己紹介をする黄目の少年、苗床。ハーフのようだ。

「同じクラスだから自己紹介はいらないよね。」

 桐咲は、そう言って野江戸の方を見ずに髪を弄っている。

「二人とも同じクラスなんだ!」

 大空が言う。柏木と同じ関連性がある二人に、親近感が湧いたらしい。

「えぇ、一応。特に話した事もないですけど。」

「はいはい!。自己紹介はおしまい!。新入部員がいるから説明しないとなんだから。」

 杵築先生は手を叩きながら、皆を制す。

「うん、じゃ…ええと…野江戸?だっけ、」

「はい。」

「いつまでも私の後ろにいないで、そっちに。」

「あ、すみません。」 野江戸は、同じクラスである桐咲の隣に並ぶ。確かに会話という会話は、したことはないものの。放課後の話題に必ず浮上する桐咲に野江戸は興味があった。

「なに?。そんなジロジロみて。」

「いや…いくら見ても普通の女の子だなぁって思って…。」

「当たり前でしょ。普通の人間が戦争しまくる時代なんだから。」

 桐咲は、相変わらず目を合わそうとせずに髪を弄りながら言う。

「野江戸!。聞いてんの!?。」

 杵築先生が喝を野江戸に入れる。野江戸は「は、はい!。」と反射的に背筋をピンとさせる。

「…あんた、帰宅部が本来どんなものか知っている?。」

「えっと…よくは分かりません。」

 杵築先生は、「そこからか…」と言う顔をしながらも言う。

「本来、帰宅部って言うのは部活も居残りもしない。ただ帰るだけの存在だった。…うん十年前までは。でも―…。」

 でも、それは、ある国。いや、正確には日本以外の国の宣告によって変わってしまった。

 それが「無差別攻撃宣告」。日本時間午後5時から午後7時までの2時間の「オールハザードタイム」に、日本全国が戦場になる。

 それについて日本が、国民保護のために取った方法は、"外出禁止令"だった。公共施設や主要施設、避難場所をシェルターで囲み、保護するために。もちろん、この学園も例外じゃなく、シェルターに囲まれてため、近隣住民も避難している。

 でも外出禁止令に従えない事情がある人達が現れた。いくら規制しても外出しようとする人達に対し、国家は業を煮やし、"特別外出法"を制定した。

 特別外出誓約書にサインをした者に限り、保護下から外すってものだった。つまりは国家の責任を、自己責任にしたのだ。

 そして私達は、特別外出誓約書にサインをした者として外出すること、…―帰宅することが許された。

「そして国家の保護下にない私達は、自分の身を守る権利を有しており、オールハザードタイムに限り武器の所持、携帯、使用が認められているわ。」

「あの、先生!。」

 野江戸が手を挙げると「何?。」と問いに応じてくれた。

「武器の使用って…つまり人を…。」

「殺すわ。」

「え!。」

「もちろん敵兵に限ってよ。その場合は国家防衛法が適用されて罪は免除されるわ。」

「でも…殺人なんて…。」

 野江戸が俯いて言うと、杵築先生は強い口調で言った。

「言ったはずよ。私達は国家の保護下から自らの意志で抜けたの。自分の命を狙う奴の頭をぶち抜くのは、自分しかいないの。」

 野江戸は、それ以上は何も言わなかった。言えなかった。戦って貰う事が出来なくなってしまっては、自分で戦うしかないと思ったから。

「貴方達は、たった2時間のために命を懸けてる。それが如何に奇特かは言うまでもないわよね。」

 その言葉に、野江戸は胸を押さえていた。お金欲しさに気軽に入部したことに罪悪感があった。本当は今すぐ「やっぱやめます。」って言いたかったが、格好悪いと思った。多分、まだ甘えていたのだろう。

「だから武器が必要よね。」

 杵築先生は、見た目は掃除ロッカーのものに歩み寄って、その鍵を開け、戸を開ける。

 すると、武器が溢れ、音を立てて地面に落ちる。それらは多種多様で、銃器もあれば、剣から槍と原始的なものまであった。

 その中から杵築先生は、黒い腕輪のようなものを取った。それはモニターが付いており、見ただけでは何なのか、全く分からない。

「これは、"ライセンスリング"。帰宅部であるという認証よ。それと同時に通信機器でもあるわ。」

「…あの、よく分からないんですけど。」

 手渡された野江戸ではあるが、正直、得体が知れない物以外の認識が出来ない。

「ま、そこは実戦で覚えなさい。貴方、どっち方面に帰るの?。」

「南区ですけど…。」

「じゃあ…桐咲ちゃん。お願いね。」

「え!?。」

 野江戸が知る中で、初めて見た桐咲の大袈裟なリアクションだった。露骨に嫌そうな顔をして桐咲は呻く。

「やですよ…。トロそうだし。」

「確かにトロそうだけど、貴女も最初はそうだったでしょ。先輩として教えてあげなさい。大丈夫、私も付いていくから。」

「……分かりました。」 桐咲は嫌々承諾した。野江戸は内心ズタズタだったが、何処かドキドキしていた。

「んなもん、どーでもいいからよ。早くイこーぜぇ。」

 柏木が不満を漏らし始めた。杵築先生は、「そうね。」と言い、「各自好きな武器とライセンスリングを取って!」と続けた。

「オッケェイ!」

 楽しそうに柏木は言うと、真っ先に武器を漁りにいった。それに皆が続く。

「あの…桐咲…さん?。」

「なに?。」

 武器を取りに行こうとする桐咲を野江戸は呼び止めた。

「武器って、どれがいいのかな?。」

「そんなのテキトーよ。」

「え。」

「死ぬ時は死ぬわ。どんなイイ武器使ったって。だから、テキトーでいいのよ。」

 そう言って桐咲は、日本刀一本だけを取って、リングを左腕に嵌めた。

 野江戸は困惑しながら、桐咲の言う通りにテキトーな銃器を取って、皆の見よう見真似で右腕にリングを嵌めた。


 野江戸達は、学園の裏門に来ていた。正門は避難民で混雑するために、こちらを使うらしい。

「今の時間は16:50ね。」

 杵築先生が、リングを見ながら言った。ライセンスリングは、時計にもなるらしい。

「これから10分後には、外出禁止令が発令…つまり無差別攻撃が始まるわ。覚悟はいい?。野江戸。」

「は、はい…。」

 野江戸は力無く、それに応えた。

「17:00になれば学園はシェルターで完全に隔離されるわ。怖くなって戻ろうとしても無駄だからね。」

 野江戸は隔離された学園を知っている。ドーム状のシェルターに学園がすっぽりと囲まれる。シェルターには発光装置が付いているために中は昼のように明るい。そして静かだ。愉快なほどに。

「じゃあ、行くわよ。」

 杵築先生は裏門を開けて、一歩で学園を出た。それに野江戸達も続く。

 そこに広がっているのは瓦礫の街である。所々に無事な建物はあるものの、酷いところは全壊だ。シェルターに守られなかった戦場としては当たり前の景色だ。

 この時代を生きる子供達にとっては、もはや驚くこともない。当たり前のように壊れていて、当たり前のように焦げ臭い。

「それでも解散よ。なるべく団体行動を保つのよ。」

 そう杵築先生が手を叩いて合図すると、それぞれが団体を作って"帰宅"していく。

 一つは、大空と柏木。クラスメイトだけあって談笑ながら帰宅していく。その傍らには物騒な銃器が付いているが。

 もう一つは、静川兄妹。妹が無口なため、談笑等はないものの、兄が妹を肩車しながら帰宅していく。

 更に一つは、岡見と尾野という異色な組み合わせだった。互いに無口…というより岡見の威圧感に尾野が小さくなっている。帰宅方向が同じなのだろう。

 そして一人だけの苗床。杵築先生によると、彼自身が志願して一人になっているらしい。帰宅方向からして、南区のようだが。

「じゃあ、私達も行くよ。」

 杵築先生の牽引の元、野江戸も"帰宅"する。


「ねぇ、桐咲さん。」

 出発して暫くしてから野江戸が口を開いた。桐咲は、目だけで「何?」と言った。

「桐咲さんは、なんで帰宅部に?。」

「なんでって、特に理由はないわよ。」

「え?。」

「そうね、言うならば。帰ってみたいアニメがあるのよ。」

 桐咲は、極めて真面目な顔でそれを言った。

「ア、アニメ…。」

 少し呆れたように野江戸が言うと、桐咲は眉を潜める。

「くだらないって思ったでしょ?。」

「べ、別に…。」

「命が懸ける程のアニメがあっちゃいけないわけ?。」

「だから別に何も…。」「あんたねっ…」

 そこまで桐咲が言うと、何処からともなく(たちま)ちサイレンの音が響いた。その音は、耳を塞ぎたくなる程に爆音だった。かなり近いところにスピーカーがあるようだ。

 その耳障りなサイレンが止むと、スピーカーから、音声が流れた。

「17:00になりました。放課後の時間です。生きて帰りましょう。」

 物騒な音声は、繰り返される事もなく、それから先、スピーカーから何かが流れる事はなかった。

 すると、次は戦闘機が飛ぶ音が聞こえた。見上げると三機の戦闘機が列を成して飛んでいた。

 それに見とれていると、遠いどこかから爆発音や発砲音が聞こえる。だんだん聞こえて来る戦いの音。

 今まで17:00以降は愉快な程に静かだったのに…野江戸は愉快な程に煩い戦いの音に放心状態になっていた。

「ボーッとしない!。」

 桐咲がそう叫ぶ。それに野江戸はハッとする。見てみると桐咲は日本刀を鞘から抜いていた。

「私達がいるのは戦場なのよ。…私達は。」

 野江戸に突き付けるように、桐咲は日本刀の切っ先を向ける。

「戦場帰宅部なんだから。」




つづく

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