表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第二話(4) トイレとネコとエリカと

「この様にね、手持ちルーペこと虫眼鏡はとっても便利であって、例えば……」

うむ。今日も快晴の澄み渡る空に呟く。

外で実験をするにはもってこいの天気だ。

「それにしても梅雨はいつ訪れるんだか」

時期的にそろそろなんだろうけど、北国だと遅いもんな。

「凸レンズから実態の焦点を……」

目の前でりかけいのおとこ、もとい理科の先生が一生懸命虫眼鏡の素晴らしさを享受している。

……誰一人聞いていないのが残念だが。

「うーん、待ってろ。……関東地方が梅雨入りらしいからそろそろじゃね?」

龍一が携帯から得た情報を俺に見せつけてくる。 

だから、お前に聞いたんじゃなく、果て無い空に問いかけただけなんだが。

空は答えてくれちゃしないんだな。

空元気な野郎が答えてくれただけだ。

「あー、憂鬱だ。湿気が多くなれば、朝早起きしなくちゃならない」

「梅雨と関係あんのかそれは?」

「兎にも角にも……オレは雨が嫌いなんだよ」

「なんだそりゃ?」

っと、口を滑らせてしまった。

コイツに余計な詮索はされたくないし、適当に流すか……

「雨は穢れを落としてくれるわけではないからな……青空の涙なんてみたくはないだろう?」

「ははっ、ワロスワロス」

「聞けやっ!」

龍一は携帯のメールの返信に忙しいようだ。

なんだよ、これはこれで空振りで恥ずかしい。

「しーっ! しーずーかーにー。 二人とも授業中よ」

委員長が小声でオレ達を怒鳴る。

つか、小声で話さなくても皆おしゃべりに夢中だぞ。

「へいへーい」

「なんでオレ達だけ……」

オレは委員長に怒られまいと退屈な虫眼鏡の解説に耳を傾ける。


「……以上を踏まえてですね、ここにコピー用紙があるので皆さんお好きなところで太陽の光の焦点を探してみてくださいね。くれぐれも~」

(って、誰がこんなクソみたいな授業をまじめにやるか)

オレはコピー用紙を貰い、さっさと教師の目の届かない所へ行き校庭の隅の木陰に入る。

「おいおい、こんな木陰じゃ太陽の光なんて集められないだろうが」

「るせー。小学校でやっただろうが。つか、こっちくんなよ」

「ほいほーい、よっこらせっとっ」

龍一は気怠そうに俺の隣に座りこむ。

だから、どっか行けって。

「ふぁぁあ、いくら商業高校だからって、手を抜きすぎだろうこれは」

「しょうがねーだろう、そもそも理科総合しか科目がないんだから広く浅くしないと」

「そうだな、怜宝ご自慢の商業専攻ってのも、実態は検定を効率よく受けて、資格取得のためのカリキュラムを組んでるだけだしな」

そうなのだ。

進学希望者達は大抵上位の資格を取って、推薦で大学へ入学する。世の中の高校生が試験という山登りをしている中をゴンドラで頂上へ行くような楽さらしい(学長談)

「オレはこのようなシステムがよくてここを選んだんだがな」

そう、資格をたくさん埋めれば死角無し!

進学だろうと就職だろうとバッチこいよ!!

「おおぅ……まともな資格取ってから言おうなそういうことは」

「なんだと!! じゃあ、お前はどうなんだよ?」

「んーと。この間、簿記1級とったぞ。もう1級3科目だわ」

「……っへ?」

「あぁ、でも全商のだからそーでもないけどな」

んだと! 3級ですら落ちてるオレと全商に謝れぇぇ!!

「ふんっ! 別に資格持って立って、会社では即戦力にはならんがな!! 所詮は紙上で踊っているにすぎないからな」

「一理あるな、俺達は一般教養に関しては中学生と大して変わらんし、大学は行った後で苦労しそうだ」

龍一の危惧している通り、ウチは商業科目の授業はハイレベルだが、一般科目の教師達はあまり本格的な授業を行わない。

いや、行えないというのが正しいのか。学校の本質的に。

圧倒的に授業回数が少ないからな、詰め込みすぎても意味がないし、いわゆる“お受験”の為ではないので中学校から毛の生えた程度のお遊びみたいなもんだ。

「俺も勉強頑張るからさ、お前も一緒に頑張ろうぜ!」

「はぁぁ~。勉強だけがすべてじゃねぇよ」

龍一を否定するように言いつつ、そう自分に言い聞かせる。

(わかっているさ。このままのオレではお先真っ暗だってことは)

じゃあどうすればいい? オレなんかに何ができる?

いつからだろう? 他人にも自分にも期待しなくなったのは……自信はあるのに信じる事が出来なくなったのは……

オレは現実から目を背けるように、視線を少し遠くに泳がせる。


「「「らんらんるー! らんらんるー!」」」

グランドでは体育の授業の生徒達が二人一組の統一された動きで準備体操をしている。

(よきかな、これこそゆとり教育の賜物だ)

オレはぼーっと特に何も考えず眺めていた。

(あーぁ。女子のハーフパンツから咲き誇る御脚が綺麗だ)

前言撤回。煩悩たっぷりだ。

うむ、暑さの所為だ。それにしても――

「『足をぺろぺろしたいでござるぅ』とでも思ってんだろ?」

「お、思ってないよん」

「お前って動揺するとメガネをクイッってやるよな」

「そ、そんな訳は」

「ほらまた」

「……(クイッ)」

「ほらまた」

くそぅ! エンドレス・クイッに陥ってしまっている!

「むふふ、そういう事か。……確かに澪の言うとおり、勉強がすべてじゃないよな?」

「だろ?」

ネットにアニメに漫画にガンプラにギャルゲー。

やることが多すぎて勉強にまで手が回らない。

「やっぱ、恋愛も必要だもんな」

「ほへ?」

「学生といえば恋しなきゃなっ! 若さ故の特権だよな? 彼女がいれば無敵になれるもんなぁ」

「ナンデソウナル……」

出た、リア充発言。

お前らみたく『とりあえず恋人』というステータスが欲しいだけの恋愛なんてしたくねーよ。

「なんだなんだ? 澪は好きな人おるんか? おいちゃんに話してみんしゃい?! わははは」

龍一はテンションを更に一段階上げて、オレと肩組んでくる。

恋バナで盛り上がるって、女子か!? まったく。

「そ、そんなのいねーよ」

リアルにそんなフラグ全開の娘がいなくて、瞬間的に2次元の嫁が思い浮かんだ自分が情けない……

いや、誇るべきなのだろうか。

「んー。どの子なんだぁ? やっぱりお前は委員長か? それとも最近親しげにメールしてる女の子もあるな」

「委員長はないって! むしろ嫌われてる率の方が高いっての。つか、なんで雪名ちゃんとメールしてるの知ってるんだよっ!?」

「ほぉ~。かまかけて見ただけなんだけど、思わぬ収穫だわ。もしかして、雪名ちゃんって、1年の双尾 雪名? 可愛らしくて超人気者の入学早々話題のあの子? うっは、澪はなかなかハイセンスだねぇ」

「うっせぇ!」

「こりゃ委員長に大きなライバル出現かぁ?」

龍一は愉快そうに携帯を弄り始めた。

「何してんだよ? あんまり変なことをすんなよ?」

「いや~、なんかとりあえずツイートしたくなってな」

「まさか、オレの事じゃないだろうな?」

「もち、お前の事よ。澪にも春が~♪」

グッと親指を出し、鼻歌を歌い始めた龍一。

もうだれか彼を止めてぇ。

「プライバシー侵害だぞー……一応聞くけどさ……何て書いたんだ?」

「ほいよ、自信作、二人の関係性を凝縮してみた」

ニヤケ顔の龍一はオレに携帯のディスプレイを翳してきた。

なになに『れいとせつなう』……ほほぅ

「意味わかんねーし!!」

凝縮しすぎだ! つまり、どういうことだってばよ?

「あぁー! お前オレの携帯っ! まだ、買ったばっかしなんだよ」

オレは反射的に携帯を地面に叩き付けてしまう。

落ち着け、これじゃあ、誰もわかりゃしない。

「よかった、デコレーションはとれてねェ……おっ、早速返信が、なんだこりゃ?」

龍一は首を傾げて画面を眺めている。

なんとなく気になってオレも覗いて見る。

『(*/Д\)キャッ』

と書かれたツイートが速攻表示されている。

……名前表記のとこにはsnoowと書かれているようだ。

「本人かよ!!」

「おぉい! 携帯がぁぁ!」

オレは思わず携帯を地面にめり込ませる。

雪名ちゃん、何してんだよ? あんなので理解できたの? てか、君も授業中だよね?


お久しぶりです、前回の更新からだいぶ経ちました。

ははは、マイペース……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ