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第二話(3) トイレとネコとエリカと

「皆、席に着け。HR始めるぞ」

「……田中、伊達ぇ。なんだ伊達はまた遅刻か? まったく」

「えっ、あれ? 伊達君? 途中まで一緒だったのに」


「はぁ、はぁ、委員長、階段昇るの早すぎぃ……」

(サルコメアが悲鳴を上げてる。こりゃ、大腿四頭筋は筋肉痛なるわ。やっぱりランニングした方がいいのではないか)

昇降口まで一緒に走ってたのに階段で物凄い差をつけられた。

心の中でオレかまわずいけぇぇぇ! とカッコよく叫び送り届ける事にした。

うん、人間諦めが肝心だ。だって人間だもの。

「参った、完全遅刻だし。言い訳すれば許してくんねーかな」

あの堅物木偶の坊(担任)は正攻法で言い訳しても通じない。

なにか策を練らなければ、何かねーかな? って。

「おいおい、嘘だろ! なんでDBがこんな所に……しかも7つも」

願い事が叶っちまうじゃないかよ。

「オレ、ワクワクすっぞ!」

そう。何と廊下にはダンボールが7箱置いてあった。

本当は龍が出る球が良かったんだけど、世の中そんなご都合主義が通るわけがない。

「たぶん新しい教材かなんか入っていたんだろう、今度はオレが入るターンだ!」

つまり、オレのプランはこうだ。

伝説の蛇の傭兵の如く教室に潜入(DB装備中)→自席に着く(周りは気づかず)→遅刻扱いにしているテルオに抗議する(慌てふためくテルオが想像できるぜ)→テルオに謝罪させる(次に会う時は法廷だな☆)

普段の鬱憤を晴らす時が今来たようだ。

「オペレーション『漆黒堕天使の帰還』スタートォ!」


「……それで進路を意識するように……」

ガラガラ。

「……」

オレは無言で教室の扉を開ける。

「受験はもう……」

「……」

「……貴様っ! 何をしている?」

誰だか知らないが朝から怒られるなんてついてないな。

(オレは見えてないけどなっ!)

テルオの怒鳴り声で教室はしんとなる。

オレはテルオの前をすり抜け自分の席を目指す。

「無視とはいい度胸だな」

「クスクス」

クラスから笑い声が漏れる。

よっぽどシュールなことをしているに違いない。

「……伊達ェ。いい加減にしろっ!」

――はっ、殺意!?

「めがもりっ」

オレは急に制服の襟をつかまれて、動きを止められる。

「っちょ、触るなよっ。なんでステルスがばれてんの? なんでなんで!!」

(スネーク、スネェェェクゥゥ! 応答しろ!)

オレは状況を理解できずにあたりを見渡す。

皆オレを見ている。こっち見んなって……

「…………なんでお前ダンボールを体に巻いてんの?」

制服の件の時のいつぞやの生徒Bがにやけながら訪ねてくる。

「「「「ははははは」」」」

それを機にクラスが笑に包まれる。

「めっちゃダンボールから頭と手足でてんじゃん? ボン○ーマンみたい」

「てか、せめて屈んで来いよ。なに背筋張ってドヤ顔で入ってくるんだよ」

「っぷ、きめぇ」

「笑っちゃダメだって……ふふふ」

「それに汗ダンボールが濡れてる」

「え、っちょ、な、なに」

完璧だと思っていた、ダンボール侵入は失敗した。

それどころか普通に遅刻するより笑いものになっちまった!

「澪っ! これからダンボールアーマーって呼ばしてもらうぜ!」

「いいねぇ」

龍一の奴余計なあだ名をつけるなよ!

「だってよ、サイズが小さくて入らなかったから、せめて身につければ、見えなくなるかと」

「なんだそりゃ?」

○リーポッターでそういうマントあったじゃんかよ。

「あぁ! もう、お前ら馬鹿にしやがってぇ!」

「静かにしろ伊達ぇ! 遅刻だけじゃなく、HRの妨害もするとはな」

「えっ? や、そのそんなつもりは」

「この間も、放課後指導室に来るようにとあれだけ言っておいたのに貴様は来なかったな?」

「あ……」

そうだ。そんなこともあったな。

雪名ちゃんとの出会いですっかり忘れてた。

「いやぁ、ちゃんと捕まえなかった、先生が悪いんですよ? それじゃあオレは解らないですよ?」

そう、オレに責任なんてない。

「やはり普通の指導だけではお前の生活態度は変わらないようだな。特別指導が必要のようだな。……ふん。まぁ、いい座れ」

なんか嫌な単語を聞いた。まぁでもどうせ逃げ切るけどよ。

「ちなみに今回指導を拒否した場合は親御さんに連絡を……」

「い、イエッサー! 死力を尽くしたいと思います!」

「……では処分は追って報告する」

「……イエッサー!」

処分って……。

オレはクスクスと周りに嘲笑われながら席を目指す。

飽きれた表所を浮かべる委員長と目があったのがとても気まずかった。


「おっす、澪、いや、ダンボール戦士」

龍一よ、さっきと呼び方変わってるし。

「……こんなはずじゃあ」

「てか、テルオ先生マジでキレてたな。逆に冷静になってたもんなぁ。おー、怖っ」

「親に呼ばれなかっただけ、助かったちゃあ、助かった」

「でもよっ、特別指導って何なんだろうな? くっー、これが保健体育の浅沼先生みたいな美人な先生だったら、イケない指導とかしてれるんだろうなぁ」

いいなぁ、Dカップのあの先生の放課後レッスン。手取り足取り教えてぇ。

「そんなわけあるか……ムフフ」

「っふ、ちょっと想像したな?」

「!! んなわけねーし!」

「まぁ、それがテルオ先生なら、『アーー♂』的な展開だろうな」

……っぐ。これも想像しちまった。

教育委員会よ、今日に限って視察に来てくれ。

「ほい、これ朝配られたプリント。なんか進路希望調査表みたいだぜ」

律儀に渡してこなくても、オレの机の上に置いておけばいいのに。

「進路かぁ……あー、働きたくねぇ」

アニメグッズとか買うための金は欲しいけど、社会の歯車なんてまっぴらごめんだ。

「それじゃあ、澪も進学希望ってとこか」

「ってことは、お前は進学なのか?」

「おう。っていっても、家計的に国公立しかいけないけどさ。その為に1年からバイトもしてるしなぁ」

「そうだったのか」

ちゃらちゃらしてるだけのリア充で、将来どうせホストだろうと思っていたけど、こいつはこいつなりに考えてんだな。

「バイトも社会勉強の一つだと思えば楽しいぜ? どうだお前も? オレから店長に言っとけば何とかなるけど?」

「考えとく」

絶対しないけどな。それにこいつが働いてるのはオレの家の近くのコンビニである。

ここらへんの学生がよく利用するし、客の回転数も早いからめんどくさそうだ。

なんで詳しいかって? ア○ゾンの支払いと立ち読みのリピーターだからな俺も。

「てか、オレは今が楽しければそれでいいけどな。どうせ、3流大学出て、しょぼいリーマンやって終わる人生なんだろうな」

「んなこと言わずに俺と同じ大学目指そうぜ?」

「だが断る!」

こいつと4年間も一緒なんて絶対嫌だ。

リア充の隣にいて、惨めな思いをするだけだ。

オレは話を切り上げ様と、机に突っ伏し携帯を弄り始める。

「勉強なら教えるからよ。そうだ、この際だから委員長にでも教えてもらえば? お~い! 委員長?」

「そんなことより今日のヘッドラインは~?」

「甲斐君? どうしたの」

「えぇー!」

偶然オレたちの席を通りかかった委員長を龍一が呼び止める。

っぐ、やめろよ……。

出来れば、朝のほとぼりが冷めるまで関わりたくない人物NO.1だ。

「いやぁ、澪が勉強教えてほしいってさ」

「ふーん。……そんなことより、足腰鍛えるとか目上の人に対する言葉づかいを学んだら?」

「……ぐはぁ!」

「階段の途中で居なくなったから待ってたのに全然来ないし、心配したんだから。そしたら、変な恰好で出てくるし、なんなのよもう!」

ジト目が威圧的すぎる。

「だからそれは……」

「ほら、また言い訳する! って、あれ? 伊達君、頬っぺたどうしたの?」

「あぁ、これか……」

委員長は今度は心配そうにこちらを見つめてくる。

「うぉ、湿布付けてらぁ。 澪? そんな目立ちたいのか、こういうのって後で思い出すと恥ずかしくなるもんだぞ」

「違うっての。オレは目立たない人生の方がいい」

顔に紅葉をつけている方がよっぽど目立つ。

「さっきは、ヘルメットしてたからわかんなかったわ」

「んー。ちょっと、原付の練習してたら派手に転んだんだ」

嘘です。岸里の張り手の型がまだ消えなくて、ヒリヒリするんです。

でも、女にやられたなんてみっともなくていえねぇ。

「もしかしてそれで走るの辛かった? ごめんね急かすような真似して」

「え、え、えっそういう訳じゃあ」

しゅんとしないでくれ! オレが悪いみたいじゃないか。 アンタも悪くない!

そして、隆一は何かを察したのか委員長に聞こえないように囁いてくる。

(澪、これって転んだんじゃないよな? 明らかに手の形してるし)

(うっせぇ、転んで受け身をとろうとして自分でつけたんだ)

(ふーむ、何か込み入った事情ってことか。修羅場か? 修羅場、俺に任せろって)

「あー。待て待て、委員長。俺だって言われるまで気付かなかったし、澪自身も気にしてないんだからいいだろ」

ナイスフォロー隆一! 今だけは褒める。あと、勘違いすんな。

「んっ、ごめん」

「だから謝るなって」

「ごめ、あぁっ、なんでもない……」

頬を赤らめて、手で顔を仰ぐ委員長。

(普段強気だけど、勝手に自分に非があると思い込む癖があるよなぁ)

意外な一面だ。こういう完璧主義者は自分が正義だと思い込んでるものだとイメージしてた。

「あれ伊達君? 湿布剥がれかけてるよ?」

「ん、どれどれ? つか、お前これいつから付けてるんだよ、黄ばんでんぞ?」

「あ、えっと、4日くらい前」

「えぇー! 信じられない……もう効力なくなってんじゃないの?」

「確かにヒンヤリしなくなったな……」

「もう、こういうのは細目に交換しなきゃ。……じっとしてて」

委員長は自分の鞄から小さな救急箱を持ってきて、湿布を取り出した。

「なんか委員長っていろんなものを携帯しすぎじゃね? 絶対、無人島言っても頼りになるタイプだろうな」

龍一が委員長に聞こえないように囁いてくる。

「あぁ、制服といいなんでこんなもんが……」

「この間だって、メガネのフレーム直すためのドライバーを貸してたぞ」

「いやいや、委員長メガネ持ってないだろ」

「学校の七不思議に入ってもいいんじゃないか『東雲四次元鞄』って」

「ごめんね、ちょっと剥がすよ?」

「って、うわぁぁ!」

気が付いたら委員長の整った顔が近くにあってびっくりした。

「わわ、びっくりした! 大きな声出さないでよ」

「す、すまん」

「じっとしててね」

委員長はおっかなびっくりにうわぁとか痛そうなど嘆きながらゆっくり剥いでくる。

(赤く腫れてるけど、見た目ほどもう痛くないんだがな)

それより覗き込んで来る委員長との距離が近くてなんだが落ち着かない。

「ひゃんっ!」

「うぅ、あとちょっとだから」

委員長のサラサラのロングヘアーがオレの顔に掛かりおもわず声を漏らしてしまった。

ふわっ、と柑橘系の良い匂いがする。コロンの類だろうか。堪らん。

「傍から見るとなんかエロいな」

「な、甲斐君、何言ってんのよ!?」

「そ、そうだぞ」

「伊達君はじっとしてる! ずれるから口も動かしちゃダメ」

「へい……」

んな、理不尽な。

「よしっ、これでお終い。どう、伊達君?」

委員長は鞄から手鏡を取り出しオレの顔を映し出してくれた。

「おぉっ! SUGEEE!」

そこには見慣れた顔に真新しい湿布が。更にガーゼまで定着させてくれている。

「まぁ、応急手当的なのしかできなかったから、気になる様だったら保健室行ってね」

「……おう」

はぁぁぁ、女の子にここまで親切にされたのっていつ以来だろう、てかあったっけ? 

ここはお礼も兼ねて、委員長が喜びそうなことを言うか。

「しのののめさん」

「な、何? 改まって」

「別に体系の事気にしなくてもいいと思うぞ? さっきもいったけど太ってないと思うし、むしろ痩せているくらいだ。 それに……出るところは出てるし、たわわに実った禁断の果実を味わせて欲しい。腰回りもキュッとしててくびれもいい感じでいやらしいくらいだ。委員長キャラなのに、短いスカートとそこから伸びる健康的な御足がたまらん。階段昇る時覗いていました! 見惚れてて、階段昇るのが遅くなったくらいだ!」

どうだ、伊達流褒め殺し。ウソとホントを混ぜ合わせる。

これで嬉し恥ずかしい気分だろう。 死因は『恥か死』になるくらいだ。

「……ななな、何言ってんのよ! 変態っ!」

「っつ」

パシッと委員長は俺の頭を叩く。なんで!?

「おー、ナイスツッコミ」

「急に真剣な顔になって、何言うかと思ったら、セクハラよ、セクハラ! もう、こっちよらないでよ」

委員長は自分の体を抱きながら顔を真っ赤にしてオレを怒鳴り込む。

まいったな、怒らせるつもりはなかったんだけど、褒めてご機嫌にさせるつもりだったんだが。

「ほ、ほんとだって、ぺろぺろしたいよ」

「五月蠅い、黙ってよ。それ以上変なこと言わないで」

また、委員長に叩かれる。岸里の一撃と違って痛くないからいいけどよ。

あーれー? 朝に制服と体について気にしてたから褒め立ったのになぁ。

やることなすこと女からの暴力につながる気がしてきた。

「ちょ、待って、だから用は委員長は綺麗だった事だよ。制服も似合ってて可憐だ!」

「え。そ、そそんな、わわた 私がきき綺麗?」

「喋り方が澪みたくなってんぞ?」

「……授業始まるわね」

委員長は結局、自分の席にそそくさと戻ってしまった。

「委員長意外だったな。セクハラに弱くて、褒めるとテンパるって」

「あぁ」

龍一の言うとおりだ。

「澪と接してる時の委員長って、イメージ変わるよな。ふーん、こういうダメ男に急に押されるのに弱いのかも」

なんでそういう答えにたどり着くんだよ。でも……

タイプ? 委員長が? オレを? マジで! 照れるやい。

「これはもしかするともしかするのかもな」

おいおい、もしかするのかよ、恥ずかしさで暑くなってきたわ。

龍一は勝手に納得し、何かメモを取り始めた。

「ところで澪?」

「ん?」

「いつまでダンボール身に着けてんだよ?」

……どうりで暑いわけだ。



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