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第二話(2) トイレとネコとエリカと

「んっ……」

今日は目覚まし時計より早く、全身に降り注ぐ日光で目が覚めた。

体がしっかりと朝を認識しているから体調も頗るいい感じだ。

「ははは。早朝ランニングにでも行きたい気分だな」

(気分だけ、気分。基本体を動かすのは嫌いだから絶対実行はしないけどな)

「さてと、アサナンデスの占いコーナーでも見ますかぁ」

部屋のTVをつけて、登校の準備をする。

「乙女座は何位かな~♪」

オレの毎日のちょっとした楽しみである。 

この占いを見ることで学校モードに入るスイッチだったりする。

「……なんでクッキリが入ってるんだ? スペシャル?」

嫌な予感がする。 こんな6月の半端な時期にないだろ。

『時刻は8時ちょうど、時刻は8時ちょうど! クッキリ!』

HATIJI。

画面の中央を独占するマスコットキャラが愉快そうに、俺にとっての死刑宣告を告げる。

「おぁぁぁああああああああああ!! もう8時かよ!!!」

日光とか朝を認識のくだりは関係なかったわ。

普段より一時間多く睡眠したんだから、体がすっきりしているはずだ。 

ヤヴァイ! HRは8時30分だ。

「あああああああーっ!」

オレは苛立ちと焦りを抱え、頭をかきむしりながら階段を下りる。

「おい、ババァ、なんで起こしてくんなかったんだよ!」

「…………」

『へんじがない。ただのしかばねのようだ』

って、言いたくなるくらいリビングは物静か。屍どころか、誰もいねぇ。

「あっ……ちょっと待てよ。昨日確か」


――昨晩の夜

「澪? 入るわよ」

「うわっ、良いっていう前に入ってくんなよ!?」

「あらあら、遅くまでパソコンの勉強かい? 偉いねぇ」

「そ、そ、そんなんじゃねーよ?」

「あら、風邪でも引いたのかい? ティッシュを手に取ってさ。前に屈み込んでるし、お腹でも痛いの?」

「ちちち、ちがわい! はーもう賢者タイムになった……」

「賢者さん? あんたまた勝手にお父さんの『さとりのしょ』を読んでるのかい?」

「親父の書斎にそんなのあんの?! 世界に2つしかないのに!?」

「お父さんはね、若いころは酒場で人気者だったのよ……両刀使いでねぇ」

「そんなことはどーでもいいからさ、早く出てってくんないかな? 俺も忙しんだ」

「そうだね、お勉強の邪魔になっちゃ悪いしねー」

「そいうことでさよなら~」

「はいはい。そうそう、明日お母さん健康診断あるから朝早く出掛けるからね、ご飯は作っておくから自分で起きるんだよ?」

「あぁ? わかったって! 五月蠅いなぁ」


あー……。

「ババァ、どうでもいい事ばっか話しやがって、本題を去り際に言うんじゃねーよ!!」

オレの中では『そいうことでさよなら~』で会話終了してるつもりだった。ヘッドフォンしたから適当に返事してたに決まってんだよ。

「はぁ~。やっぱ、チャットにハマって堕ち時を見失っちゃたもんなぁ」

だってさぁ、相手はあのsnoowこと雪名ちゃんですよ。

『メールだと会話のテンポが悪いからPCのメッセでチャットしましょう』って、向こうから誘ってきた。向こうからですよ。

リアルではあんな可愛い美少女だって知ると男の性としては……ね。

「べ、別に、気になってるわけじゃないんだからね」

とにかく話題が合ったら合うんだよこれが。

オレの話を聞いてくれる、稀有な女子だしねぇ。そりゃ気になるでしょ。

「って、気になってないし、別にもっと親密になりたいなんて思ってないんだからね」

なんで、ツンデレ対応なのかは我ながら意味不明だ。

「デュフフフw」

妄想に更けてる場合じゃねぇ。

「夜になれば、またチャットしようとしてだな。それよか」

遅刻しちまう! 無情にも時間は流れ続ける。

「まだだ、たかが寝坊しただけじゃないか」

悔しいけど、どんなことがあってもあきらめちゃいけないんだ。


   ◆


「すげぇ……親父が熱中するわけだ」

オレはガレージへの、親父の「趣味」のスペースへ駆け込む。

その中の見覚えのある白いカバーをはがず。

「こいつ、違うぞ! チャリなんかと、装甲もパワーもっ!」

高校入学初日に親父から譲り受けた原付バイク。

『澪……もしもお前に守りたいものが見つかった時に使うがいい……』

『……親父……オレ免許持ってない。使えないよ』

『……うむ』

と親父から鍵を託された。名前はなんてったけな? まぁ、いいや。

去年の夏休みになんとか免許を取ったが、ガソリン代は自分で払えってババァが言うから

放置してたんだ。

「おぉ、ちゃんとメンテは行き届いてるみたいだ」

綺麗なエンジン音、白く輝くボディ。

そうだ、親父は休みの日には外に出かけもせずにガレージで機械弄りばっかしてたもんな。

「親父、オレ行くよ! 守りたいものがあるんだ……」

……皆勤賞という名の勲章さ!!

唯一オレが学校から賞状をもらえるチャンスだから!


「……って、うぉぉぉぉい!! はえええええ!!」

原付ではありえない速度で通学路を駆け抜ける。

親父ぃ、チューンアップしすぎだ。 オーバーテクノロジーになってる。 

法律的にアウトだろ。つか、もう魔改造の域に達してる。

目の前の景色と運転に集中しなければ、振り払われてしまう。

死と隣り合わせの所為かアドレナリンが湧き出てくる。

「ははは、もう生徒がちらほら見えるぞ! 抜け抜け! ごぼう抜きじゃあ!」

徒歩の愚民どもを置いて、風の向こうへ今ならいける!


「ふぃ~もう学校が見えてきたぜ」

オレは学校の時計塔を確認する。時刻は8時19分。むしろ普段より早いくらいの時間だ。

「登校だけでも疲れた……でも病み付きになりそうだ」

押して帰るのも億劫だし、この速度ならアニメの再放送に間に合いそうだ

「こいつは駐輪場と駐車場どっちに停めればいいんだろうな?」

さて、校門に入ることだし、このほどよいスリルもお別れだ。 

「スピード緩めよう……ってあれ? ブレーキが硬ってぇ!」

なんでここだけ錆びてんだよ? 

「はぁはぁ、ものすごい力を入れれば何とかなるな」

と、とりあえず……うん。駐輪場を目指そう。


   ◆


「うへぇ、チャリ、少なっ!」

ウチの学校は駅から近いし、交通のアクセスもいいから自転車通学の生徒は少数派だって聞いてたけど、ここまでとはな……

「各クラス1台がいいとこじゃねーか」

こんなにも広い駐輪所なんて必要ないだろう。

これも金に物を言わせた結果なんだろう、体裁ばかり良くてさ。

「んまぁ、これならVIP停めだって出来るなぁ……よしっ!」

「よしっじゃないわよ。VIP停めって、センスないわね」

「きゃあっ」

オレは背後からの声に驚き、情けない声で原付を倒してしまう。

「ご、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんだけど」

「だ、誰だ! 敵襲?! って、いいい、い委員長っ」

「敵じゃないわよ、クラスメイト。 伊達君、おはよう」

「お、おはよん」

「……」

「……」

「話は戻るけど、VIP停めなんて悪趣味だし、周りに迷惑掛かるからしちゃだめよ」

「はい……」

スルーされた! 挨拶噛んだ事に触れられないのも地味に恥ずかしい。

「こういう小さな意識が大きな問題を起こすかもしれないんだよ? クラスでも伊達君は……」

うぅ、またぐちぐちと説教が始まった。

やっぱりこの人は苦手だ。苦手ランキング的には小松菜のエグミと同等くらいだ。

「でも、ウチって自転車通学の人少ないし、これくらい平気かなって」

「それでもよ! 常識的に考ればわかるでしょ? 伊達君、もしも自分の席に他の人が座っていたら嫌でしょ? それと同じようなものよ」

(そういうことなのか? ……実際に昼飯の時やられてるしなぁ、あれは嫌だ。居場所がなくなる)

言い訳しなきゃよかった。

とりあえず、話題を変えて機嫌を伺うとでもするか。

「と、ところで、しのののめさんって自転車通学なんだ?」

「『の』が多いわよ……そうね、家がちょっと遠いけどバスに乗るまでの距離じゃないし、自転車の方が経済的にもいいしね」

「へぇ~(棒読み)」

ぶっちゃけ興味ないわ。

「それに自転車に乗ってる時の風の中を泳ぐ感じが好き」

「あー、それはオレもわかるかも」

あの速度だと泳ぐというより、魚雷になった気分だけど。

「もう、風をズバババーって抜けるのがいいわね。どこまでも飛んでいけそうな気がするわ」

「っぷ、なんだそりゃ?」

意外と子供っぽい表現するなぁ。

「もう、笑わないでよ」

しのののの……もう、委員長でいいや。

頬を膨らませ、拗ねた感じもなんか普段との凛としたイメージとのギャップが可愛らしい。

なんて言ったらまた怒られるだろうな。

「それに私って、運動部所属してないし、運動がてらにね。やっぱり、夏服になったからには体のラインとか気になるし」

「そうかな? 委員長って、全然太ってるようには見えないけど?」

「失礼ね! 別に太ってないわよ! それに太ってからじゃあ遅いの! この体系を維持するのって結構大変なんだからねっ!」

「いや、そんなつもりじゃ」

「いーよね。伊達君はすごいすらっとしてるし、肌白くてさぁ」

ちなにみオレはひきこもりでもやしなだけだ。

肌のケアなんてしないから、ひじは常にかさかさで粉が吹いている。

「わかった?! 今度から女の子にそういういい方しちゃダメだよ? そういう女の子に対する扱いもなってないから……」

あー。なんか、地雷踏んじまった。どうでもいい事をベラベラと。

「はいはい」

「『はい』は1回でよろしい!」

「はいっ!」

「ちなみに伊達君? なんで原付で登校してるの? 私の知ってる限りではあなた歩きだったはず」

まずい、ものすごいジト目で見られてやがる。

不機嫌にさせちまったし、これ以上説教じみたことはめんどくせぇ。

「今日からオレも自転車通学にしようかなって、ははは……」

「でもバイクって、こういうのって校則違反なんじゃあ……」

「んや。原動機付自転車だから。自転車っていうくらいだからいいだろ!? はい。この話題は終わり」

「でも、自転車通学するなら生徒会に通学届を提出しなきゃだめよ、にい……生徒会長がOKしてくれるとは到底思えないけど」

「ふん。知ったこっちゃないね。委員長には関係のないことだろ?」

もう、ああいえばこういうし、しつこいんだよ。

「もうっ! なによその言い方。いいわよ、伊達君が困るかなって思って忠告したのに、確かに私には関係のないことだから知らない! お節介焼きですみませんね」

「あ、え? あのっ」

キッと委員長はオレを睨み付けてくる。怖ぇぇ。完全に怒らせてしまった。

そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどな、もうオレなんかに構わなくてもいいのに。

「キーンコーンカーンコーン」と気まずくなった空間を壊すように予冷が鳴る。

「いけないっ。ついつい話に夢中になった所為でHRが始まっちゃう! 伊達君!?」

「ひゃい!」

「急がなきゃ遅刻になっちゃう? ほら行くよ!?」

「あぁ、そうだな」

知らないって言っておきながら、オレを気に掛けるってどっちなんだよ。

「なんか委員長って本当に委員長なんだな」

「えっ、なんか言った?」

オレは原付を他の自転車と同じく並べて、先を急ぐ委員長の後を追うのであった。


相変わらず、話の中での時間の進みは遅いです……

一応、前の話は繋がってますからね。

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