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はじまり

作者: 神崎さくら
掲載日:2026/03/20

これは、人間たちの知らない神話の一片です。


その日

私たち貴子は、お父様―創造神伊邪那岐様の前に集められました。


「私の産んだ中で最も貴きそなたらに、世界を統べることを許そう」


「長女。太陽である天照大御神は天を治めよ。天より万物を遍く照らせ」


お父様は言いました。


大きな大きな白い狼であるお姉様は、頭を下げました。



「長兄。月読尊は蒼海原の潮の八百重を治めよ」


「次男。素戔嗚尊は葦原中津国を」


お父様は言いました。


これまた大きな銀色の龍である月読お兄様と、人間の姿である素戔嗚お兄様も頭を下げました。



いよいよ私の番です。


私は八つの眼ぜんぶをお父様に向け、自分の治めるべき世界を伝えられるのを待ちました。



「末子。天之柱織姫あまつはしらのおりのひめ。汝には治めるべき世界はない。代わりに、姉兄たちの治める世界を支える柱を建てよ」




え?



「お父様ッ!?何故妹に世界を渡さぬのですか!織姫も私たち『四貴子』の一柱、きょうだいでしょう!」


天照お姉様が吠えました。


そう、天照お姉様、月読お兄様、素戔嗚お兄様、そして私。


『貴子は四柱』なのです。



なのに世界は三つ。


いや、正確にはもう一つあるのですが、別れた奥さんがいるのでお父様はその世界の話をするのを嫌がります。


娘を其処に行かせないという、最低限の情はあるのでしょう。


「…姉上、お控えください。お父様の御前です」



月読尊お兄様が低く唸りました。


「我らきょうだい、お父様から与えられた務めを果たすのみ。そうだろう素戔嗚尊よ」


お兄様が下兄様のほうへ水を向けました。


下お兄様は何か、戸惑うばかりで返答出来ないようでしたが。


「月読ッ…!あなたは…!」


「良いのですお姉様。」


お姉様が上兄様にまで牙を剥こうとしたところで私は遮り、お父様に頭を下げました。


「お父様。この天之柱織姫、謹んで務めをまっとう致します」


「あまつちはまだ不安定。このままお姉様お兄様たちが統べるべく降臨されても、その強大な御力で理が崩れてしまう。故に、『照らす力』も『満ち干す力』も『砕く力』でもない、『繋ぐ力』を持つ私が柱を以て支える」


そうですね?と、伺いました。


「然り」


お父様が頷きました。



「ではすぐにでも支度を」


私はお姉様の制止も聞かず、八つの脚を軽やかに動かし、その場を去りました。


目指すは天上の天井。


そこから天と海と地に向かって糸を垂らし、撚り合わせて紐に、紐を撚り合わせて縄に、綱に、大綱に、そして柱にするのです。


太く。堅く。固く。それでいて靭やかに。


緋緋色金ですら及ばない、不壊で、不滅の柱を創るのです。


しばらくして。


果たして柱は成りました。


三つの世界の理は安定し、これでお姉様お兄様たちが降臨しても世界は崩れません。



三界を貫き支える柱。


お姉様はこれを私の名を取り『天之柱』と名付けました。


『今後日本神界にこれほどの偉業を成す神は現れないだろう。その偉業を成したあなたの名前だけは奪わせない』と、言ってくれました。


優しいお姉様です。


柱を成したあと、私はお姉様お兄様に、お父様から柱創りを命じられた時からずっと決めていたことを話しました。


「私は、貴子の座を降ります」



「私は、支配する世界を持たぬ神。今後、お姉様お兄様方に祀ろわぬ神が出て来るでしょう。その者たちに、私は必ず『貴子打倒の神輿』として担ぎ上げられます。」



「だからお姉様。お兄様たち。私の存在をなかったことにするのです。貴子は三柱…『三貴子』であったと。語り継いでください。いずれ、神の記憶も、人間たちの記録も三貴子として上書きされるでしょう」



素戔嗚お兄様が口を開きました。



「なら…お前はどこに行く?」



「私の力は『世界を繋ぐ力』。これを別の概念、神格として誤魔化し続ければ、一介の神として貴子ならずとも生活出来ましょう。名も変えるつもりです。そう、私の力は今日この時より『縁結び』。そして、名は…」








ここで目が覚めました。


むくり。


顔を洗って鏡を見る。


今日も私はかわいい。


「しかしまあ…ずいぶんと、懐かしい夢を見たものですねえ」



アレから色々ありました。


名を変え『繋ぐ力』を『縁結びの力』と誤魔化し、縁結びの神として仕事をしたり。


傍ら自分と似た姿の神を集め昆虫神属を結成したり。


仕事に夢中になりすぎて悪縁の瘴気に乗っ取られ祟り神になり暴れたり。


それが元で万年規模で封印されたり。



更には造化三神より前の原初の神々との戦争『恐竜神事変』、他の神界からの侵略『偽花神戦争』。

どさくさ紛れに封印破って戦に参加して、その末に善神としての復活。


「うーーーん。イロイロ!あり過ぎな私の神生!」


笑う。

まあこれはこれで良いものだ。

お父様から統べる世界を貰っていたら、絶対に出来なかった経験でしょう。


「人間みたく、色々と試行錯誤してここまでやって来ましたよ」


そう言って私は自らの手で掴んだ『私の統べる世界』に目を向けます。


確かに存在すれど、目には見えない世界。


精緻な雷の糸が、現世中に駆け巡る世界。

 

都市と都市を。

国と国を。

人と人を。

想いと想いを。

 

総てを繋ぐ世界。


八百万の神々が、誰も手を付けなかった『人間の生み出した世界』


『電脳』


「『縁結びの神』兼『電脳を統べる神』結巫蜘蛛神ゆいみくもかみ萌留めるちゃん。今日も元気に、縁結んじゃうぞ!」

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