【超短編小説】華の都
タワーマンションの屋上にあがると、光の点がどこまでもだらしなく広がっているのが見えた。
弱々しい風が頬を撫でる。
文豪の愛した陸橋は撤去されつつあり、その下を最新型の電車が通過する。
トーキョーは巨大なイナカだと言う。
おれにはよく分からないが、イナカモンが寄り集まったマチがトーキョーだと言うことらしい。
その巨大なイナカにアコガレて来た癖に、空が四角いだの星が見えないだのと好き勝手なことを言う。
そこら辺がイナカモンだと言われる所以だろう。
その空は、おれが見て育った空だ。
だが実際にトーキョーは巨大なイナカなんだろう。
そう言うイナカモンがトーキョーにきて、オラが村を勝手に積み上げていくからだ。
おれはイナカモンが来て勝手に積み上げた巨大なオラが村の中で生きてきた。
このタワーマンションだってそのひとつだ。
トーキョーの中心部に乱立しているビルディングは天高く聳えるイナカモンの陽茎で、その壁面に赤く光る誘導灯は脈打つ血管そのもの。
そうしてその怒張に惹かれたイナカモンの雌たちが繁殖して広がった街。
それが巨大なイナカ、トーキョーだ。
だが広がり過ぎたウチューが収縮するようにトーキョーは収縮する。
それは埼玉や千葉、山梨に侵食されていると言う比喩じゃない。トーキョーは収縮している。
密集し過ぎた細胞はそれ以上の分裂を許さない。代謝することなく死んでいく。
積み上げたムラが縮み、虚な空が広がる。
巨大なイナカ、トーキョーが終わっていく。
でもトーキョーはイナカモンの孤独が詰め込まれた街なので、収縮して終わってもイナカモンにはどこにも行く先が無い。
トーキョーの終わり。
それはイナカモンの終わりだ。
イナカモンは帰るイナカすら失ってしまった。それは後ろ足で砂をかけたからじゃない。トーキョーと言う外来種がイナカで繁殖してしまったからだ。
電車に乗ったイナカモンたちが一斉におれを指差す。
「お前はトーキョーモンのくせにな」
「イナカを腐して何が悪いか」
タワーマンションの住人たちが一斉に叫ぶ。
「お前はイナカを知らない」
「お前もトーキョーを知らないだろう」
そうだ、おれたちは季節の無い街に産まれて風のない丘に育ち、のっぺりとした空を眺めてドブ臭え川に唾を吐き捨てて育った。
街を歩くのは頭蓋にナプキン詰め込んだソープ嬢とヤクザばかり。
そうだ、おれが生まれる前からトーキョーは巨大なイナカだった。
トーキョーには別に何もない。
おれの育った街は虚無だ。空はそれを写しているだけだ。
トーキョーには何もない。
イナカモンがお互いのイナカを見せ合って自慢しあっているだけだ。
トーキョーモンはその中で育つ。
中途半端なイナカだ。トーキョーには何も無い。トーキョーはイナカにすらなれない。
おれはタワーマンションから飛び降りられなかった。
風は弱々しい。
朝はまだ遠い。
おれは踵を返し、階段を降りた。
救いを期待して並んだ人間たちが、同じ様に少し残念な顔をして戻っていく。




