観測者の青
「この惑星の青色は、とても美しい」
青を愛する宇宙人は、宇宙船の窓から地球を見つめた。
惑星の半分を染めるあの青に心を奪われ、すぐさま降り立った。
「……なぜだ」
宇宙人は首をかしげる。
あれほど輝いていた青が、どこにも見当たらない。
海は白い泡と灰のような波を打ち、川も湖もただ鈍く濁っていた。
手のひらにすくった水は、何の色も映さない。
透きとおるどころか、自分の指さえ虚ろに見えた。
「おかしなこともあるものだ……」
途方に暮れ、宇宙人は空を仰ぐ。
その瞬間、息をのんだ。
「──そこに、あったのか!」
天を覆う雲の切れ間、無限の深みを湛えた青。
それは地上にはなく、上空にあった。
宇宙人は微笑み、再び宇宙船に乗り込んだ。
しかし、高度を上げるたびに、青は淡く、やがて闇に溶けていく。
「不思議だ……」
宇宙人は小さく呟く。
「この惑星は幻のようだ。
本当は青など、ないのかもしれない。
観測する者の位置によって、真実は変わる」
地球は遠ざかり、再び青く輝いた。
宇宙人はため息をひとつ、操縦桿を握る。
次こそは、心の奥に宿る青を、確かに見つけると願いながら。




