86. 2週目
すると、クリスは増々不機嫌になった。
「はあ? おい! 一体何を言ってるんだお前は? お前の目的はパタパのガキをジャイアに連れて帰ることだろう。なのに、なんでお前はこんなところでチンタラ暇を潰してんだ?」
クリスは、その可憐な見た目とは正反対な言い様で、クスに悪態をついた。
「ああ……まあ、そうしたいことは、私としても山々なのだが……残念ながら、今回はこれ以上の容量を地球に送り出すのは不可能なのだ。……ふーむ。そうだな。では、とりあえず先ほど地球に派遣した現場ロボ班どもに、子猫の捕獲の指示を出すようにするから、我々は彼らからよい知らせが来るのをここでおとなしく待つことにしよう。」
クスは、いつものクリスの不機嫌な様子など、さほど気にした風もなく、落ち着いた様子で、実験の成功に浸って少し顔に笑みを浮かべながら、クリスに軽く返事してみせた。
「はあ? さっきから何を寝ぼけたことばかり言ってるんだお前は! お前も行くんだよ!」
クスの発言を受けて、クリスは増々不機嫌になると、もう少しでキレそうだった。
「はあ? いやいや、お前こそ何を言ってるんだ。どう考えても今回は現場ロボットクラス4体が限界だ。……それに、私のような5大長官の一人が光の通路の中に入ろうとでもすれば、余裕でキャパシティオーバーになってしまう。下手をすれば、私はもとより、惑星自体が爆発してしまう恐れさえあるぞ。」
(これだからこの女は……)
そう思って、クスは光の方に向きを返ると、クリスのことは無視することにして、腕を後ろに組んで再び光の通路の様子をじっと眺めた。
「くっ……」
クスの背後から、歯ぎしりしてくやしがるクリスの声が漏れ聞こえた。
(ふん。恥をかくのがいやだったら、最初からおとなし側で見学していればいいものを。)
クスは、5大長官という立場にはふさわしくない、クリスのいつもの激情的な性格になかば呆れていた。
(これに懲りて、少しは落ち着いて物事に取り組むことができるようになればいいのだが……)
クスは光の塔を見つめながら、そんなことを考えていたが……
一方クリスの方はというと、クスに諭されて反省するなど到底ありえず、格下のクスにバカにされることが我慢ならず、彼女の怒りは沸点に達していた。
「うっせー!! 早く行けー!!」
クスは、後ろからクリスの叫び声が聞こえたと思うと、突然背後から臀部を思い切り蹴とばされた。
いきなり無防備に後ろからケツを蹴られる形となったクスは、なんら抵抗することができないまま、勢いよく体ごと光の中にダイブした。
「うわ〜〜!!」
情けない声を出して光の中へと吸い込まれてしまったクスは、目を瞑って両手でとっさに顔を覆いながら、「爆発する。もう終わった。」と思った。
「ふん!!」
クスの背後からは、クリスの不機嫌な声が微かに聞こえた。
一体それからどれくらい経ったのだろうか? 実際はほんの一瞬の出来事だったが、クスには、それが永遠のように感じられた。まぶたの外側は、目を開けていられないような眩しさが急になくなって、逆に真っ暗なように感じられた。
(えっ? これを起動停止状態というのだろうか?)
クスは、自分が光の中で木っ端微塵になってしまったと思った……が、意識があるようなので、どうもそうなっていないみたいだ。
クスは慎重にまぶたを開けてみた。
すると、周りは一面白黒の世界だった。正面を見ると、先ほど地球に派遣した4体の現場ロボット達が、呆れたように自分のことを見つめていた。
「……あれ?」
もしかして……助かったのか? ふーよかった。クスはほっとした。
(……いやいや、なんで通れるんだ? 通れたらダメじゃん。私は5大長官なんだぞ。)
しかし少しすると、クスは自分にツッコミを入れた。
実は、光の塔を通過できる総量の限界というのは、その個体の質量といったものも、もちろん関係はするのだが、単にそれだけでなく、その個体が持つ頭脳や身体能力、その他付加機能などもつけ加えた総合的な能力が関係している。
(もしかすると……私の存在価値って、現場ロボット一体分より、はるかに低いっていうことなの?)
クスはそう考えると、大きなショックを受けた。
(これでも自分は5大長官の一人なのに……)
クスは頭を抱えると、しばらくその場から動くことができなかった。
だが、やがて立ち直ると、
(うーむ。少しショックだが、それよりも今は落ち着こう。)
クスは気を取り直して辺りを観察した。
(ふぅー。それにしても……地球という星は、なぜか一面白黒の世界なのだな。パタパから報告があった通り、理由はわからないが、光の塔の開設の影響なのか、この惑星にあるものは、すべてどこかの場所に一時転移されているようだ。……ふむ。私もこのような用事がなければ、一つ地球観光というものを楽しんでみてもよいのだが……まあ、今はそうも言っていられない。それに、子猫を連れ帰ってしまいさえすれば、もうこの星に用事はあるまい。別にこの星が白黒になっていようがいまいが、私には関係はない。)
「はははは。」
クスはそう考えると、急に気が軽くなって、顔には自然と笑みがこぼれた。
「あら? 何がおかしいのかしら?」
(……うん?)
自分の左から急に声が聞こえたので、クスは思わず声がした方を振り向いた。
すると、ミカと3人の魔法子猫達が目の前に立っていて、クスのことをじっと見つめていた。
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