82. 2週目
「あっ……」
ひばりの予期せぬ行動に、思わず声が出た詩叙は、振り返って、ひばりが教室を出ていく様子を、しばらく目で追いかけていた……が、すぐに平静を取り戻すと、ひばりの後をものすごい速度で追いかけ始めた。
ところで……ひばりは、教室の外にいる南美、蛍、三玖の3人が、マジカルキティであることを瞬時に見分けることができたのに、目の前にいる青色の魔法少女・ブルーキティである詩叙のことを、なぜブルーキティのシノだと認識することができなかったのだろうか? それは、ひばりが5色の魔法少女を認識する能力より、詩叙が自身の存在感を消す能力の方が、わずかに上回っていたからである。そのため、ひばりとしては、目の前にいる詩叙のことを、その時は同じD組のクラスメイトの一人くらいにしか認識できなかったのである。そして詩叙の方は、これからもひばりの前では存在感を消し続ける予定でいたので、詩叙自身がひばりに直接伝えるようなことがなければ、ひばりには詩叙をブルーキティのシノだと認識する日は永遠に訪れることはないのかもしれない。
ひばりは、無意識にふらふらと教室から出ると、そこからは一心不乱に、廊下を駆けていったマジカルキティ達の後を追いかけた。そして、そのひばりの後を、詩叙が猛然と追いかけた。
残念ながら、勉強同様に運動も苦手なひばりである。そしてひばりとは反対に、身体能力は、おそらく宝箱女子高校でも一番の詩叙である。体育の運動能力テストも、もしまじめに受けていたら、走力を含め総合値では南美や他の運動部員をも確実に上回ってくるはずである。
詩叙は、すぐにひばりの真後ろまで迫っていた。一方ひばりは、詩叙がすぐそこまで迫ってきていることにはまったく気づかず、必死に3人の後を追いかけていた。
(……あっ!?)
その時ひばりは、必死な気持ちに体がついてこれなくなって足がもつれると、受け身もとれない危険な態勢のまま、勢いよく前のめりで地面に倒れかかった。
その瞬間、詩叙はとっさに地面を蹴ると、空中にふわっと跳び上った。
そして、上からひばりの後頭部をガシッと掴んで、ひばりの頭を寝かせると、ひばりの体全体をくるっと押し下げた。
(えっ何!?)
急に後ろから、誰かに自分の頭をむんずと掴まれ、そのまま真下に押しつけられたひばりは、結果、前転の態勢になって、そこに地面に倒れかかった勢いが加わると、マンガさながらにぐるぐると地面を擦りながら廊下を一直線に転がり回った。そして、前転の姿勢のまま廊下に倒れこんだ。
――それからしばらくの間、ひばりはずっと意識を失っていた……が、体中の激痛を感じると、徐々に意識が戻ってきた。
体中のあちこちが打撲して、手足のすり傷なんかもかなりひどいみたいだ。体を動かそうとすると、今までに経験したことないくらい、全身がズキズキヒリヒリとしてきて、すごく苦しい。もしかすると、どこか骨折してるかもしれない。
「大丈夫……?」
その時、ひばりの頭上から心配そうな声が微かに聞こえた。
ひばりは、なんとか顔を上げると、そこには普段はポーカーフェイスのはずのブルーキティのシノが、心配そうな顔で、ひばりのことをずっと見つめていた。
「シノ……」
ひばりは、シノを確認すると、一言言葉を振り絞った。
「うん……」
詩叙は小さくうなずいた。
「つっ……」
「立てる……?」
「……うん。」
ひばりは、全身が痛くて苦しくて仕方なかったが、ブルーキティのシノに応援されると、なぜだか大丈夫な気がする。
ひばりは、いててて……と言いながらも、なんとか我慢して、よろよろと地面から立ち上がった。
するとシノは、ひばりの両肩に、やさしくそっと両手をあてた。
ひばりはその時、シノが助けてくれると心の底から安心した。そして、そっと目を閉じた。
「ごめんなさい……」
シノの口から、そう言う声が微かに聞こえた気がした。
直後、詩叙は左足を大きく空中に振り上げた。詩叙の左足は空中に大きな弧を描きながら、ひばりの顎先を微かにヒットした。その瞬間ひばりは気を失って、その場からストンと地面に倒れ込んでしまうところを、詩叙が体ごと受け止めた。
「おーい……大丈夫かあ?」
その時、遠くから声が聞こえた。
詩叙は声がした方を振り向くと、ゆかりが小走りで二人の元に近づいてきた。
「……うわっ!? なんでこの娘、こんなにケガしてんの?」
ゆかりは、全身キズまみれのひばりを見ると、びっくりした。
「それに……この娘、なんで気ぃ失ってんの?」
「うん……仕方なく、攻撃しちゃった……」
詩叙は、いつも通りの無表情で、ゆかりに答えた。
「えっ!? なんで!?」
それに対し、ゆかりは詩叙の言ってる意味がまったくわからず困惑した。
「うん……でも……大丈夫……だから……」
詩叙は、そうつけ加えた。
「うっそー!? ぜんぜん大丈夫ちゃうやん!」
ゆかりは詩叙の補足の意味が分からず、ドン引きした。
「えっと……この世界線では……死なない限り……何があっても大丈夫……だから……異変が終われば、すべて元に戻るはず……私、前に試したことがあるから……」
「……そ、そうなんか!?」
ゆかりは、「この娘、一体どこまで試したことがあるんやろ?」と想像すると、少し恐ろしい気持ちになった。それに支子さんの気を失わせたのも、口下手な彼女としても、何かそれなりの理由があってのことだったんだろう。とりあえずゆかりは、今は詩叙の言うことを信じることにした。
詩叙は、気を失っているひばりを背中に担ぐと、その後二人は、静かに2年D組の教室へと引き返した。
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