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81. 2週目

 その時、ひばりは幸せの絶頂だった。


 こうやって高校2年生になった今でも、幼少の頃と変わらずに5色の魔法少女について親友達と語り合える日々。彼女達といると、もしかすると今年も桃色の魔法少女になれないんじゃないかという極度の緊張とプレッシャー――そんなプレッシャーを感じているようには到底見えないのだが――を一時でも忘れることができる。それに彼女達がいたからこそ、これまでの3年間、自分が桃色の魔法少女に選ばれなかった辛かった運命も乗り切ることができた。親友ともよ、これからも一年間、マジカルキティについて存分に語り合おう……などと、心の中で、そんなどうでもいいことを考えていた。


 そして、なぜかひばりの頭の中で、幼き日に薄珊瑚つかさも加わって5人でやっていた頃から、つい最近の先月文化センター前の広場で開催されたものに至るまで、プル達と5色の魔法少女ごっこをした無数の記憶が、順を追って走馬灯のように蘇ってきた。


(……あれ? こういうのって、どういう時になったら起きるんだっけ?)

 ひばりは、そんなことをぼんやり疑問に思いながら、親友達との会話を続けていた。


「いやいや、多分大丈夫だと思うよ。プル達がもしそうなっちゃったら、その時は私が試してあげるよ。」


 ひばりのこのセリフがトリガーとなったみたいに、その時、世界は時の進行を停止するとともに、教室の中が一瞬にしてさっと白と黒に染まった。


 一方ひばりは、そんなことにまったく気づいた様子もなく、自分でもあまりのおかしさに、しばらくは涙を流しながら一人愉快にげらげら笑っていた。


(……あれ? なんか急に周りが静かになったような……)

 それからしばらくして、ひばりは、ようやく目の前の違和感に気がつくと、一緒に大笑いしたままで止まっている3人の姿を、真剣な表情で眺めた。なぜかわからないが、3人とも白黒になってしまって、まったく動かない。ただし、それでも事の重大さに気づかないのがひばりである。


「も〜〜、みんな、異変が起きたみたいに止まっちゃたりしてー……しかも、ついでに白黒になっちゃったりして……ふふふ……本当にほしがり屋さんだなあ。……もう、じゃあ早速試してあげるよ。」

 ひばりは、相変わらずニコニコ笑いながら、目の前の白黒になったプルの頭に、ポンと軽く手を置いた。


 すると、ひばりの手はプルの頭の上に置かれる間もなく、そのままプルの頭を貫通して、プルの胴体を真ん中から真っ二つにすると、再びひばりの脇に戻ってきた。


(……おや?)

 ひばりは、プルの頭の上に置いたはずの手が、なんの手応えもなく自分の元に戻ってくると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、自分の手を表にしたり裏返したりして、何度も見返した。


 それから顔を上げて正面のプルを見ると、プルは顔から胴体までの全身の真ん中部分がごっそりとなくなって、体が左右に分割された状態のままで立っていた。肝心のプルの顔がなくなってしまっているので、その表情や感情はうかがい知ることはできない。


「おぼぼぼぼぼぼぼ――!!」

 ひばりは意味のわからない奇声を発しながらくるくる回転すると、その場に倒れ込んだ。そして頭を抱えたまま、しばらくはその場から動くことができなかった。


 だがひばりは、思ったより早く回復して、ハーハー言いながらなんとか立ち上がると、プルの横にいるミアに向かって、

「ど、どうしよう!? ミア! 私、やっちゃったよー!!」

 叫びながら、勢いよくミアの両肩をむんずと掴んだ……が、掴めるわけなく、今度はミアの両腕をごっそりこそぎ落とした。


「うっおおおおおお――!!」

 ひばりは、両手でなぜかガッツポーズをしながら新たな奇声を発すると、くるっと180度回転し、そのまま膝からガクンと地面に倒れ込むと、地面に両手をついた。


(……ヤ、ヤッテシモウタ……試すだけ……だったのに……)

 ひばりは、なんでこうなってしまったのかわからないが、大切な親友を、しかも2人まとめてやってしまったと思った。


 それから、ひばりはゆっくりと顔を上げて正面を見ると、自分の席に座って、ひばりのことを無表情のままじっと見つめている詩叙と目が合った。


「!?」

 するとひばりは、涙と鼻水でびしょびしょになった顔で詩叙を見つめながら、体がなくなってしまった親友達の方を静かに指さした。


「わ、私……ヤッテシモウタ……でも……ヤ、ヤルキはなかったの……」

 ひばりは力のない声で、涙ながらに詩叙に訴えた。


「うん……」

 詩叙は、無表情のままひばりにうなずくと、席からすくっと立ち上がって、ひばりの元に向かってゆっくりと歩き出した。


 まさにその時のことだった。ひばりは、詩叙の後ろ――開いた扉の向こう――教室の外の廊下を、一人の生徒がさっと通り過ぎていくのが見えた。


(……えっ!?)

 ひばりは、まさかの光景に思わず驚愕した。


 ――今教室を通りすぎていった女の子は……もしかして、グリーンキティのミクじゃないの!? それとも、単に私の見間違い? ……いやいや、この私が見間違うなんてあろうはずがない。間違いない。あれはグリーンキティのミクだ。


 ひばりの視力は両目とも2.0。視力の良さは、ひばりの数少ない長所の一つである。それに、長年追いかけてきた5色の魔法少女のことである。その自分が、まさか間違えるはずがない。まあ、いずれにしても、こんな時にひばりは一体何を考えているんだ? と思うかもしれない。だが、ひばりは人生で初めて本物の5色の魔法少女に会ったのである。それに、ひばりが現実逃避したくなる気持ちもわからなくもない。


 ひばりは、その場からゆっくりと立ち上がると、詩叙の存在など眼中になく、教室の外に向かってふらふらと歩き出した。


 そしてその時のことだった。すると今度は先ほどとは逆の方向から、3人の女の子が廊下を通り過ぎていくのが見えた。


「ぬおおおおおおお――!! あれは!!」


 ――今通り過ぎて行ったのは? ……間違いない。いや、しつこいが私が見間違うなんてあろうはずがない。あれはレッドキティのナミ、イエローキティのホタル、そしてグリーンキティのミク……マジカルキティの3人ではないか! しかも今、ナミと目が合ったような気がするぞ!


 ひばりは、ふらふらしながら教室の外まで出ると、そこからはマジカルキティの3人の後を追いかけようと、必死な形相で廊下を走り出した。


 後にひばりが語ったことによると……あの時は、なぜかマジカルキティ達だったら、自らがヤッテシマッタ2人のことを救ってくれるんじゃないかと思って、意味もなくその後を追いかけてしまったとのことである。

ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、

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