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80. 2週目

 ここは南美達の2年A組の教室を二つ跨いだ2年D組の教室。


 放課後になって、クラスメイトの露草詩叙つゆくさしのから、これからあの奇妙な異変が再び発生すること、詩叙が5色の魔法少女のブルーキティであること、そして、実は自分も5色の魔法少女には存在しない紫色の魔法少女?であることなどを、次々と打ち明けられたゆかりは、それから更に追い打ちをかけるように、なぜか本日新たな魔法少女が誕生したことを詩叙から打ち明けられた。


「えっ? まさかあの4人組か?」

「うん……そう……」

「そ、それで……誰やねん?」

「……さん。」

 そうぼそりとつぶやくと、詩叙はそっと自分の席へ戻っていった。


「えっ? なんてぇ?」

 ゆかりは、詩叙の声が小さすぎてなんと言ったのか聞き取れなかった。


 ゆかりは、詩叙の行方を目で追うと、詩叙の耳がなぜか少し赤くなっているように見えた。


「ふぅ――。」

 ゆかりは、ゆっくりと長く息を吐きながら、席に深く腰掛けると、まずは落ち着いて状況を整理した。


(それにしても……あの4人組の中の誰が魔法少女なんやろ?)

 ゆかりは、詩叙が誰と言ったか聞き取れなかったので、今から詩叙の席に行ってもう一回確認しようかと思って席を立ち上がりかけた……が、詩叙を見ると、詩叙はいつものように周囲から完全に自分の存在を消して、しかも、私にしゃべりかけないでのオーラを全開にして、小説か何かでも読んでいるみたいだった。


(うーん……やめとこ。)

 ゆかりは、詩叙への確認を止めた。


 もし自分が場の空気を読まずに、つかつかと詩叙の席まで行って、「なあ、さっき誰って言ったん?」て聞けば、多分彼女は普通に教えてくれるだろう……が、そんなことをすると、なぜか全体の雰囲気とか流れが悪くなるような気がしたのだった。ゆかりは一見がさつそうに見えるが、ちゃんと空気が読める娘だった。


 それに、詩叙とは1年の時もクラスメイトで、1年の時もほとんど言葉を交わすことはなかったものの、ゆかりの学校の弁当の、延々と終わらないお好み焼きと焼きそばのローテーションが、ついに三週目に突入した時、ナポリタンスパゲティがパンに挟まれたスパゲティパンを、そっとゆかりの机に差し入れた生徒というのが、他でもない露草詩叙なのであった。


 ――まあ、焼きそばもナポリタンも、同じ麺類で炭水化物なんで、実際はそんな大差ないんやけどな。


 ともあれ、普段は無口で無表情で、何を考えているのかよくわからない娘ではあるのだが、少なくとも悪い人間でないことだけは確かだ。なのでゆかりは、とりあえずは詩叙の言うことを信じることにした。それに異変が起きてしまえば、4人の誰が魔法少女なのか、いやでもわかることになる。


 ゆかりは、次に視線を詩叙から例の4人組に移すと、4人を一人ずつ、じっくりと観察し始めた。


(うーん……まあ、同じ魔法少女になるんやったら、チンチクリンの娘(プル)か、普通ぽい娘(ルーシー)の、どちらかの二択かなあ? まあ、いずれにしても、せめてあのアホっぽい娘(ひばり)だけは勘弁してほしいなあ。)


 ゆかりは4人を観察しながら、そんなことを考えていたが、ゆかりも、ひばり同様、悪い意味でもっている人間であり、こういう時は、だいたい一番ありがたくない予想が当たるものである。


 ゆかりは、本当は早く家に帰って、夜からのお好み焼き屋の開店準備を手伝わなければならなかったが、今は自分の生命が関わる非常事態なので、そんなことは言ってられなかった。それに、これから異変が起こるのだとしたら、時間も何もかも止まってしまうわけなので、家に帰ろうとしたところで、なんの意味もない。


 ゆかりはスマホの画面を開くと、「学校で急用ができた すまんけど家に帰るんが少し遅れるm(_ _)m」という短いメッセージをおかんに送った。すると、おかんからはすぐに、「了解!! ゆっくり急用(休養)しーや」という、どうでもいい返信がきた。


 それからしばらくの間、ゆかりは自分の席に座りながら、教室の様子を真剣な表情で観察し続けた。そして、それから何事もないまま、かなりの時間が経過した。4人組の方は、いまだに5色の魔法少女の話で盛り上がっていて、一向に帰る気配が見えないし、詩叙の方は、クラスメイトにまったく興味がないように、下を向いて小説を読んでいるように見えるが、おそらく4人の様子を注意深く見守っているのだろう。その他に2,3人のクラスメイトが、まだ教室には残っていた。


 今日の授業が終わってから、かれこれもう1時間以上経過している。詩叙の言うように、本当に今日これから異変が起こるのだろうか? ゆかりは少し疑問が湧いてきた。


「ねぇねぇ、ひばり。異変の世界ってどうなってるんだろうね? 時間が止まると、私達も止まっちゃうみたいだけど、実際はどんな感じなのかな?」

 プルが、いつもみたいにピョンピョン跳ねながらしゃべっていた。


「そうだね。あの時、私達って意識とかあるのかな?」

 ルーシーが不思議そうな表情を浮かべた。


(……えっ、どんな感じやったかって? えっと……白黒になって……全員意識のうなって……もはや人間の形した何か……みたいな感じやったけどな。)

 退屈で特にやることもなかったので、暇つぶしに4人の会話を盗み聞きしていたゆかりは、心の中で適当に返事した。


「おう、そうだな。もしその時に俺達がキズを付けられたら、大丈夫なんだろな?」

 ミアが疑問を追加した。


(キズつけた本人から言わせてもらうと、ざっくり体もっていかれとったな。)

 ゆかりは心の中で再び適当に返事した。


「いやいや、多分大丈夫だと思うよ。プル達がもしそうなっちゃったら、その時は私が試してあげるよ。」

 ひばりが、3人に対ししょーもないギャグを返すと、4人はこれでもかというくらい、キャッキャキャッキャはしゃぎ合っていた。


(まあ、体もっていかれたん、お前やったんやけどな。……まあ、別になんもなかったようやから、それはそれでよかったんやけど……)


 教室の中に緩い空気が流れ続けると、ゆかりも緊張の糸がぷつりと切れて、自身もすっかり緩んでしまった。

(ふぁ〜〜……もうどうでもええわ。)

 ゆかりは大きく欠伸をかいた。


 その時だった。ゆかりは急にイヤな寒気を感じると、思わず机に突っ伏した。それからしばらくして、机から顔を上げると、教室のすべてが、前回と同じく彩り(カラー)と時間を失って、すべてが無機質なものに変わり果てて……いや、前回とすべてが同じではなかった。


 右を向くと、彩り(カラー)を維持したままの詩叙が、異変が起こる前と後でまったく変わった様子もなく、席に座って読みかけの小説のページを開いていた。しかし、詩叙は小説には目もくれず、前方の一点をじっと見つめていた。


(……あっ! そうや!)

 ゆかりは、思い出したように、右前方に陣取っていた4人組に注目した。


「……あっ!……ふ〜〜……まあ、やっぱそうなるか……」

 ゆかりは、その時実感した。こういう時は、だいたい一番ありがたくない予想が当たってしまうものである。


 ゆかりが4人を確認すると、4人の中で唯一ゆかりに背を向けてしゃべっていた、4人の中で一番アホっぽい、そして4人のリーダー格である支子くちなしひばりが、このすべてが白黒となってしまった異変の世界の中で、唯一にして彩りを維持していたのである。

ご読了ありがとうございました。続きが気になった方は、

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