74. 2週目
「ふぐわっ!?」
ゆかりは思わず意味不明なことを叫んでしまったので、一躍クラス中の注目を集めてしまった。
それに対し、詩叙はいつも通り冷静で、表情一つ変えず、ゆかりの目の前に人差し指をそっと差し出した。
「……!? あっ、うん……」
ゆかりは詩叙にゆっくりとうなずくと、教室の左端からクラスメイトの方を向き向き、頭を掻きながら「あっ、ごめんごめん。失礼しゃしたー。」と笑ってごまかすと、その後、再び上を向いた。
「いや……それにしてもや……し、死ぬってどういうことやねん。確かに、うちの現在の労働環境は、世間でいうところの過労死レベルを軽く超えとるんかもしれんけど……」
ゆかりが困惑しながらも、小声でシャレにならないことを詩叙に打ち明けると、詩叙の方は、ゆかりの労働環境の件も多少は気にはなったが、それはとりあえず置いといて、異変のことをゆかりにどう説明したらいいか、少し上を向いて考えていた。
「……えーっと……多分……あなたが……魔法少女……だから……」
「えっ? うちが魔?」
「うん……」
「魔って……あの魔法少女?」
「うん……」
「うちが?」
「うん……」
「はーっ? なんでぇ?」
ゆかりは、詩叙の予想外の指摘に、意味がまったくわからなかった。
「えっと……実は……私も……」
詩叙はそう言ってから、ポケットに入れていたスマホを操作し出すと、スクリーンに映っている画面をゆかりに見せた。
ゆかりが画面を覗くと、それは子猫の魔法少女マジカルキティの公式ホームページで、青色の魔法少女ブルーキティのシノが紹介されていた。ブルーキティのシノは、蛍がデザインした魔法少女の衣装に身を包み、クールなポーズを決めていた。そしてブルーキティのシノは――アニメ風の作画になっているものの――目の前にいる露草詩叙本人で、おそらく間違いなかった。
「……えっ? うわっ、ほんまや! ……いや……それにしても、一体これはどういうことやねん?」
ゆかりは、詩叙のいきなりのカミングアウトにびっくりした。ゆかりは、詩叙が先週の異変とか5色の魔法少女について、何か知っているかもしれないと思っていたが、まさか5色の魔法少女本人だったとは予想もしなかった。
先週の放課後に起きた突然の異変、次にその異変が昨日の夜に5色の魔法少女でアニメ化されて、今度は5色の魔法少女本人からカミングアウトされるという度重なる異常事態の連続に、ゆかりは思わずパニックになりかけたが、日頃の接客業で遭遇した信じられないカスハラ体験の数々が、こういう時に功を奏す形となって、彼女はなんとか理性をキープしつつ、詩叙との会話の継続を可能ならしめたのだった。
「なぜ? 私もわからない……けど……私は青色の魔法少女みたい……」
(……ほーん……ほんまに知らんのか?)
ゆかりは少し疑問に思ったが、とりあえず話を進めることにした。
「ほう……それで……うちも魔法少女っちゅうわけなんか。」
「うん……異変後の世界で動くことができるし……私も……そうだった……」
詩叙はゆかりを冷静に見下ろしながら、最初からずっと同じ表情のままだった。
(……なるほど……ということはやな……5色の魔法少女っていうんは、ほんまにいる……ゆうことなんか?……ほんで……実は、うちも5色の魔法少女の一員……やったとか?……ようわからへんけど……もしかすると、そういうことなんか?)
ゆかりは、この一連の奇妙な出来事に対し、個人的には絶対に関わりたくなかったので、頭の中で全部なかったことにしてしまうつもりだったが、もうここまで来てしまうと、いよいよこの特異な問題に真っ正面から向きあわなしゃーなしの気持ちになってきた。
だが、自分が5色の魔法少女になって、これから魔法少女の業務も兼務しなければならないのかと思うと、気が重かった。今は実家のお好み焼き屋が大変な状況なのに、これ以上負担を増やしても、果たして自分はやっていけるのだろうか?
「……ふーっ……それで、とりあえずうちは何色になんねん?」
5色の魔法少女の内、赤色は緋色さん、黄色は菜の花さん、そして青色は露草さんで確定済や。やったら、残るは緑色か桃色の魔法少女のどちらかになる。できれば、物語の後半からの登場になるであろう桃色の魔法少女だと、個人的には助かる。
「えっと……多分……だけど……紫?」
詩叙はゆかりを見下ろしながら、少し困惑した表情を浮かべた。
「……えっ? ……はーっ、紫て? 紫色の魔法少女なんておらんやん!」
ゆかりは、詩叙の斜め上を行く回答に思わずつっこみを入れた。5色の魔法少女と言えば、ゆかりの知る限りでは、赤、青、黄、緑、桃色の5色の魔法少女のことであり、それ以外の色の魔法少女が登場したことなど一度も見たことがなかった。
(もしかして……この娘……うちの江戸紫ゆう苗字から、適当に連想しただけちゃうやろな?)
ゆかりは、実家が本名である「江戸むらさき」という店名で大阪風のお好み焼き屋を経営しているため、店内でたまに調子に乗った客から「店名が江戸なんだったら、東京風お好み焼きになるんじゃないの?」とか、「江戸むらさきじゃなくって、浪速むらさきに改名した方がいんじゃないの?」とかいう、ものすごいしょーもないギャグを言われることがあって、その度に「いやー、東京風にやるんやったら、もんじゃ焼きになっちゃいますよー。」とか「浪速やったら鼠色になるんで、そうなると紫の方が関係なくなっちゃいますよー。」とか、お寒い返しをするのが定番となっており、店内で自分の苗字をいらわれることが多々あるのだ。
「わからない……それと……あなたは魔法少女にはなれない……」
「はあ? なんでやねん。うち魔法少女とちゃうん?」
「多分魔法少女……のはず……だけど……魔法少女になれない……と思う……」
「はあ? どういうことやねん?」
「わからない……多分……だけど……条件が満たされてないんだと思う……」
「はあ? なんやねん、その条件てのは?」
しかし、どうやら肝心の部分は詩叙でもわからないようだった。
「わからない……でも……異変の世界は、魔法少女にとって現実の世界……あなたが先週みた光景も……昨日アニメにあった光景も……おそらく……だから、魔法少女になることができないあなたはすごく危険……それに……もう時間がない……多分……もうすぐ異変が始まる……」
「……ふーん。まあようわからへんけど……要するに、うちは魔法少女らしいんやけど魔法少女にはなれへんし危ないから、それで異変が終わるまでは教室でじっとしとけ……ちゅうことか?」
「うん……。それと……今日学校に来たら……なぜか一人、増えてたので……」
そう言うと、詩叙は教室の反対側にいる4人組の方を振り向いた。
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