71. 2週目
それからしばらくすると、ゆかりのおかんが心配そうな表情で、ゆかりの部屋に入ってきた。
「ゆかり、どうしたの? しんどいの?」
ゆかりのおかんが、心配そうに布団の上で伏せたままのゆかりを見ると、やさしく声を掛けた。
ゆかりは、顔だけをゆっくりと横に向けておかんの方を見ると、おそるおそるおかんに確認してみた。
「なあ……おかん。あのな……変なこと聞くけど……さっきのアニメ観た? 魔法少女のやつ。……あの魔法少女って……1年の時にクラスメイトやった……菜の花さん……やんな?」
菜の花さんは雑誌のモデルをしてるので地元では有名で、ゆかりの店にも家族で食べに来てくれたことがあった。その時、ゆかりのおかんが店内に飾るため、菜の花さんにしつこくサインをねだって、「あの……サインなんてないので……」と、ずっと言っている菜の花さんをしこたま困らせたことがあったので、おかんも彼女のことなら多分覚えているはずだ。
「……おろおろおろ……ご……ごめんね、ゆかり。本当は同級生の友達とかと、遊びに行きたいさかりやろうに。うちらの店がこんな不幸な目に……しかも連続でおうてしもうたさかいに。ほんで……しょうもないヘラでお好み焼きをコテコテするようなマネばっかりやるような羽目になってもうて……。かんにんや……ほんまにかんにんやで。許したってや……こんなおかんを……ほんまに許したってやで〜……」
ゆかりのおかんは、関西人が絶対に使わないようなエセ関西弁でゆかりにひとしきり謝ると、悲嘆に暮れたように、その場で泣き崩れた。
(あっ! あかん。おかん、うちがおかしなった思てるわ……)
ゆかりは、予期せぬおかんの反応に驚くと、急いで布団から半身起き上がった。
「おっおっおっ、おかん。ごめん、ジョークや。ジョークジョーク……ほんのしたジョークなんや。あの……おかん心配さしたらあかん思って……それでとっさに出た、ちょっとしたナイトジョークなんや。」
ゆかりは、おかんを心配させぬよう、慌てて言い訳した。
「……ジョーク? ジョークやと!? ジョークにしてはおもんなさ過ぎんねん! それに……よう考えたら、ジョークにもなっとらんやろ! 考えるんやったら、もっとましなこと考えんか! ボケ!」
ここでおかんは、笑いに厳しい関西人のプライドが炸裂すると、すっかり機嫌が悪くなって、部屋の扉をぴしゃっと閉めると、すたすたとゆかりの部屋から出ていってしまった。
「……もしかして……思たけど……。あれって……やっぱ、うちにしか見えてへんのか? やとしたら……うち……一体どうしたらええねん? ほんま……」
ゆかりは、おかんが出ていったばかりの部屋の扉をぼーっと眺めながら、一人途方に暮れていた。
ゆかりは、それから部屋で二つのことを試みた。一つは、すでに疲労困憊で、すぐにでも寝て、少しでも心身の疲れをとりたいと思ったが、先週の放課後の出来事や子猫のこと、テレビのことなどが頭から離れず、脳がギンギンに覚醒してしまって、結局その日は一睡もできなかった。もう一つは、先週学校で放課後に目撃したことから、さっきテレビで観たまでのすべての出来事を、一度頭をリセットして、とりあえず全部なかったことにして、なんとかやり過ごせないかと思ったのである。
だが、こちらのチャレンジも結局は失敗に終わり、翌朝、ふらふらしながら家から出ると、うっかり本来乗るべき電車と反対側の電車に乗ってしまい、必死に坂道を登っている現在に至るまで、頭が混乱してグルグルと回っている最中なのであった。
そして、ゆかりとひばりは、ほぼ並行して坂道を登っていたにもかかわらず、学校に着くまで、お互いの存在にまったく気づくことがなかったのである。それから始業開始のチャイムが鳴ると同時に、二人してギリギリで2年D組の教室に飛び込んできた時、背格好もほぼ同じで、二人の動きがあまりにもリンクしていたので、クラスメイトは、ひばりかゆかりのどちらかが分身の術でも使っているのかと錯覚を起こすほどだった。
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