68. 最初の7日間
常磐さんの予測不可能な行動に、ただただ呆気にとられた南美達は、常盤さんが出ていく様子を、ぽかんとして見送った。
「……私、常盤さんと話するの初めてだったけど、常盤さんって、なんか不思議な人だね。」
「ええ。確かに、彼女はなかなか会話が成立しづらい人なんだけど……でも、決して悪い人じゃないのよ。」
「ふーん。でも……常盤さんは本当にミカと会話できないのかな?」
「ええ。それについては、間違いなく本当だと思うわ。常盤さんは、人を少しからかうようなところがあるけど、決してウソをつくような人じゃないから。でも、常盤さんが言ってた通り、ミカと会話することはできないようだけど、ミカが会話してるってことは認識しているみたいね。でも……常盤さんだったら、十分にあり得る話だと思うわ。」
「へえ、そうなんだ。やっぱり常盤さんってすごい人なんだね。でも……だったら、尚更なんでミカのことに興味もたないのかな?」
「うーん……なんでかしら? でも、なんにせよ、常磐さんは本当に興味がないんだと思うわ。私も詳しくはよく知らないんだけど……彼女、今はものすごくつまらない研究に熱中しているらしいの。それで、それ以外のことについては、まったく興味がなくなっちゃったって……先生方も嘆いているらしいわ。」
「へえ、そうなんだ。」
南美は、常盤さんついて変に納得すると、急に何かを思い出してはっとした。
「あっ! そういえば……常盤さんにお礼言うの忘れてた……」
「あら、そういえば、私もすっかり忘れてたわ。まあ、常盤さんは終始あんな感じだったし……お礼は改めてということで、またみんなで科学教室にでも伺うことにしましょう。」
それからそうこうしていると、そろそろ始業の時間が近づいてきた。南美と三玖は2年A組の教室に戻ることに、そして少しウトウトとしてきたミカは一人生徒会室でお留守番することになった。
それでは、ここでこれまでの経緯について説明しよう。
まずは常盤さんについて……
彼女が天才なのは、彼女が小さい頃から、すでに全国でも有名な話で、彼女がこれまでに発表した研究や論文の数々は、世界中でも一大センセーションを巻き起こし、日本国としても、彼女の海外流出を防ぎ、国内で保護することを、国家の存亡を左右する一番の至上命題と位置付けているのではという噂である。
そんな彼女なので、宝箱女子高校でも彼女の存在は非常に重宝されており、その代わりといってはなんだが、自然と校内でも、ある程度の治外法権が許されており、授業中、席に座って授業とはまったく関係のないようなことをしていても、授業を途中で抜け出して、突然どこかに消えてしまっても、授業中に教室にいなくても、科学教室で一人かにすきを堪能してても……彼女だったらというわけで、特別に許されているのである。
実際に、彼女が高箱女子高等学校に入学してから、彼女のちょっとした協力によって、昨年の学力テストは平均で50点ほど上がっていたし、彼女が懇願されて関わることになった一部のクラブ活動の成績も、地方レベルから全国レベルまで一気に跳ね上がったりと、彼女一人が加わるだけで、相当な戦力の底上げになってしまうのだった。そんなわけで三玖達の生徒会も、生徒会の中に相談役という新たなポストを創設し、彼女に頼みこんで、特別に生徒会に在籍してもらっているのである。
そういうわけなので、彼女にお願いすれば、ミカを学校においてもらうことなど造作もないことなのだった。
大体のストーリーは、以下のようなものになる。
元々常盤さんの研究用ペットとして、校内で密かに飼育していた子猫が、春休み直前に彼女の元から脱走して行方不明になってしまい、その後、学校の裏庭でお腹を空かせてうずくまっているところを、南美が偶然保護して家に連れて帰った。それから南美によって新たにミカと名付けられたその子猫は、春休みが明けてすぐ、常磐さんに見つかると、その後、常磐さんと南美とでミカの親権について話し合いが行われ、ミカは南美と常盤さんの二人の共同所有という形で落ち着いた。そして、ミカは南美の家で飼っていいということになったが、常磐さんもミカの面倒がみたいので、その代わり、ミカを毎日学校に連れてくること……という条件がついたということである。
そして、そんな天才な常盤さんなのだが、先ほど三玖が言った通り、高校に入ってしばらくすると、対外的な研究をばったりと止めてしまって、現在は、学校の先生方だけでなく、世界中の学者連中が悲嘆にくれるような、意味のわからない研究を一人続けているそうである。
次はミカについて……
学校にいる時は生徒会室で飼うということになり、それは常磐さんと生徒会等一部関係者のみの秘密事項となった。しかし、そんな秘密が厳密に守られるわけもなく、生徒会がすごくかわいい子猫を飼っているという噂が、瞬く間に校内に伝わり、休み時間になると、ミカを見るため、大勢の学生が生徒会室に押し寄せてしまう事態となってしまったため、そんなルールは自然となくなっていくと、ミカは学校のマスコット的存在となって、授業中も校内を比較的自由に行き来できるようになっていった。そんな彼女の指定席となったのが、2年A組の教室の三玖の席の真後ろ、ちょうど南美のバッグを入れてある棚の上なのであった。
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