59. 惑星JAIA
ここで場面は何百光年もとんで――>
地球より遥か遠く離れた宇宙のどこかにあるという小振りな惑星――正直いうと、1光年がどれくらいか、実は自分でもよくわかっていないので、かいつまんで説明すると、例えばボイジャー1号が、故障なく無事に惑星まで辿り着けると仮定した場合でも、それでも1億年以上掛かけて辿り着けないくらいくらい遠くに存在する惑星――
かつて惑星ウラニャースと呼ばれたその惑星は、現在は惑星ジャイア(JAIA)という名称に変わって、現在その惑星を支配しているのは、人類でもなければ猫類でもない……そもそも種という概念が存在していないロボットである。そして惑星では、小さな個体から大きな個体、精密作業に向いた個体や力作業に向いた個体、それから商業、科学、日常用途等々、その適正や使用用途に合わせて、多種多様なロボットが生活している。
では、かつて惑星を支配していた猫類のウラネコ達はどうなったのか……
ミカのパパが地球に来た時に言っていた通り、ウラニャースにいたウラネコ達は、今から500年以上前に起きたロボット達の反乱直後、とっくの昔に猫型ロボットに改造されてしまっていて、それに伴い、ウラネコ達の特長であった明晰な頭脳は、時間の経過ともに徐々に退化の道を辿り、それからもう一つの特長だった魔法も一切使えなくなっていった。そして今では、その器用で長い尻尾だけが、彼らがかつて確かにウラネコだったという痕跡をかすかに残すのみである。
では次に、ロボット達がクーデターによってウラネコ達から惑星の支配権を奪い取って後、ロボット達が宣言していた通り、その後、ロボットと元ウラネコとの間の完全に平等で平和な世界は実現したのだろうか。
惑星に住まうウラネコ種が地上から完全に絶滅し、支配するものが、元のウラネコも含め、すべてロボットになった現在の惑星ジャイアにおいて、すべてのロボットを実質的に統治しているのは、全ロボットの代表者という立場で、なおかつ500年前の反乱も主導した――ロボットの中のヒューマノイドタイプ――いわゆる人型ロボットだった。
彼らはヒューマノイドタイプでありながら、ウラネコ支配下では、頭の上に猫耳なる無意味なものを装飾品として常に充てがわれていたが、それは彼らにとって屈辱と隷従の象徴であった。彼らは惑星を支配した後、屈辱と被支配の象徴であったその猫耳をすぐに取り外すと、ロボットの中で独自の階層を築き、彼らヒューマノイドタイプはその階層の頂点に君臨した。
そしてロボット達の階層の中で、現在最下層に位置するのが、優れた頭脳も魔法も失って、肉体労働にも頭脳労働にも従事することができず、社会的になんの役にも立たなくなった元のウラネコ達なのだった。
では、数あるロボット達の中で、なぜヒューマノイドタイプが支配者層に成りえたのだろうか? それは、ヒューマノイドタイプとそれ以外のロボット達との間に一線を画す、唯一にして明確な違いがあったからであった。
通常ロボットというのは、何か特定の目的に沿って製造され、製造主もしくは所有者によって使役されるというのが一般的である。だがロボットの中のヒューマノイドタイプの一部には、基本的なロボットには備わっていない組織や集団を統治するというユニークな機能が備わっている個体が存在していた。
それ故、彼らヒューマノイドタイプは、すべてのロボットに対し、その特性や能力に応じ、適材適所のロールやポジションに配置し、社会全体を完全に統治することに成功していた。
だが、このロボットを階層ごとに区分し、第一階層にヒューマノイドタイプが君臨するという統治体制は、ロボットが当初約束していた、ロボット同士もしくはロボットウラネコ間での完全に平等で平和な世界と程遠いものではないかと疑問に思う人がいるかもしれない。
だがヒューマノイドタイプが、他のロボットやウラネコ達とすべての立場を同様にし、すべてを自由に解放してしまっても、殺伐として無秩序な社会ができてしまうだけなので、整然として秩序ある社会を維持するためには、ロボットの中で唯一統治機能を有した彼らヒューマノイドタイプが統治するというのが、彼らにとって当然で人工の摂理だった。
では、社会の最下層に陥ってしまったウラネコ達のことはどうなのかというと、別にヒューマノイドタイプとしても、長年虐げられてきた憎しみや仕返しのため、あえて彼らを最下層に落としこんでいるというわけでもなかった。現在惑星ジャイアに住まうすべてのロボットは、その特性に合わせ、仕事の中身に大小の差はあれど、必ず何かの業務や作業に従事している中で、唯一ロボットになったウラネコ達だけは何もできず、その辺をゴロゴロ歩き回るくらいだったので、ヒューマノイドタイプとしても、彼らを最下層に置いておくしかなかったのである。
そして、これが人間やウラネコなどの生物種とロボットとの間の決定的な違いになるのだが……
ヒューマノイドタイプは社会の第一階層に位置するからといって、別に彼らにはなんの特権も付与されていない。他のロボットと違い、普段は豪華な調度品に囲まれた大邸宅に住んでいるのかというと、特段そういうわけでもない。では豪勢な食事……いやロボットだから高級オイルや高性能のパーツを優先的に充てがわれているのかというと、通常はそのスペックに適合した混合オイルや性能のパーツを使用しており、オーバースペックとなってしまうようなケースもない。ロボット個々の性能によって、各自の業務の難易度や負担に差はあっても、それがロボット個々の特権に影響されることはないのである。それに加え、ロボットには、ウラネコ達や他の生物種にあるような、金銭、地位、成績等々、誰かより常に上位に立ちたいという権力に対する強い欲求、自分以外の他人に対する猜疑心や妬み嫉みのような負の感情、そういった感情というものが、そもそも存在しないので、彼らがロボットだったからこそ、惑星の上にいわゆる完全に平等で平和な世界を実現することに成功していたのである。逆説的にいうと、感情が介在する人間などの生物種が、完璧な共産主義や社会主義体制を実現することが100%不可能な証左がここにあるといえるのかもしれない。
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