55. 宝箱女子高校の少女
翌朝、南美は昨日同様ミカをバックパックの中に入れると、少し後ろめたい気持ちを抱えながら学校へと向かった。
ミカには、朝学校に着いたら若葉さんと話ができるタイミングまで、学校の屋上で待ってもらうつもりだったのが、天気予報が大きく外れてしまって、空は昨日までとは打って変わって、あいにくの雨模様だった。
だったら、今日は南美のママがミカのために洋食屋を休む予定でいたので、若葉さんに相談するのは翌日以降にして、ミカには家でお留守番してもらうという選択肢も、昨日までだったらあったのが……昨日ミカの故郷からロボットの襲来が初めてあって、次にいつ再び光の塔が出現し、ミカを連れ戻しにロボットが現れるかわからない。そのため、南美は常にミカの側から離れるわけにいかなかった。
そんなわけで、若葉さんが5色の魔法少女かどうかということは抜きにしても、いずれにせよ、ミカの安全のために、南美はミカを学校に連れてきてもいいという許可を学校側から得るという困難なミッションを喫緊に遂行する必要に迫られていた。
南美は、いつもより少し早めに学校に到着して、2年A組の教室に入ると、バックパックを大事そうに抱えながら、若葉さんの席の真後ろの棚にそっとしまった。
若葉さんは、すでに教室に来ていたが、幸い下を向いて真剣な表情でノートの上にペンを走らせていた。
しかし、南美が若葉さんの前をこそっと通りかかろうとすると、
「あら、緋色さん。おはよう。」
すくっと顔を上げて、いつも通りの落ち着いた様子で、南美に挨拶してきた。
「えっ!? あっ……お、おはよう、若葉さん。」
南美は一瞬ビクッとしたが、若葉さんを見習って、できるだけ自分も普段通りになるよう努めた。
「緋色さん。今日は約束通り遅刻しないで来てくれてうれしいわ。……あっ、そうそう。例のあなたの子猫の件なんだけど……いい解決策が見つかったから、よければ、昼休みにでも少しお話できないかしら?」
「えーっ!? もう見つかったの? ありがとう。……だ、だったら、昼休みに一緒にお弁当でも食べながら話しよっか?」
南美は、若葉さんのあまりの手際のよさに驚いたが、わざわざ若葉さんの方から時間を作ってくれたのは、南美の方としても、むしろ好都合だった。
それから授業が始まって、一限目が終わると、南美はそそくさとミカの様子を見に行った。
(あっ!!)
南美がバッグに近づいてみると、バッグの中からは、昨日と同様に、スースーとミカの気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
南美は、おそるおそる若葉さんの席を振り向いた。
若葉さんは、いつも通りの落ち着いた様子で、幸い下を向いて何やら先ほどの続きでもしてるようだった。
(ほっ……よかった……気づいてないみたい。)
とは、南美は決して思わなかった。
おそらく、若葉さんのことだから絶対に気づいているはずだろう。
果たして、南美の予想は見事に当たっていた。
それから午前の授業が終了するとすぐ、若葉さんは席をすくっと立ち上がって、トコトコと南美の席にやってきた。
「緋色さん。それじゃ、一緒にお昼にしましょうか。それに……ここじゃ都合が悪いみたいだから、どこか他へ行って食べようか?」
「う、うん、そうだね。……じゃあ、どこか空いてそうな教室がないか探そっか……」
南美は、棚にしまってあったバックパックを大事そうに抱えると、若葉さんと二人教室を出た。すると二人の後を、あたふたと蛍がついてきた。
「あら、菜の花さん。申し訳ないんだけど、私達、これから大事なお話があって……」
「あの……若葉さん。その話なんだけど……実は、蛍にも関係があって……」
南美が若葉さんに説明すると、蛍も横でうんうんとうなずいた。
「あら、そうなの? ……それじゃ、一緒に行きましょうか。」
若葉さんは少し合点がいかない顔をしたが、特に気にしてる様子はなかった。
その後、三人でどこか空いている教室がないか校内を少し歩き回ったところ、なんか科学教室が空いてそうだったので、若葉さんを先頭に南美達は教室の中に入った。
すると教室の奥の片隅で、何やら鍋料理の準備をしている白衣姿の女の子がいるのが南美の目に入った。
「あれ? 誰かいるよ。」
南美は、教室に他に生徒がいたので、別の教室を探すため外に出ようとした。
「ええ、あの娘ね。あの娘だったら別に問題はないから、私達は教室の反対側の席に行ってお弁当を食べることにしましょう。」
若葉さんは、その生徒のことはまったく気にならない様子で、その娘がいる席とは反対側の席へ向かってスタスタと歩いていった。
南美は、こういうルール事に関しては人一倍厳しいはずの若葉さんが、明らかに問題行動をとっている生徒のことを完全にスルーしたのが少し気になって、その生徒が誰なのか確認した。
そのぼさぼさ頭の生徒の正体は、学校の内外でも有名人である同じ2年生の常盤香さんだった。
彼女の名前は、常盤香。
支子ひばりや江戸紫ゆかりと同じ2年D組の生徒で、周囲からは、規格外の天才だとか、国家の至宝などといわれている。校内の学年テストでは、いつも1位。全国でも、受けたらおそらく1位。そのため、中学時代の学年テストはいつも1位だった若葉さんも、高校になってからは、全教科満点を取る以外には1位を取るのは現実的に不可能なミッションになっていた。そして若葉さんと同じく、常磐さんも宝箱女子高校の生徒会に所属しており、若葉さんは生徒会の副会長で、常盤さんは生徒会の相談役を務めている。若葉さんが、至って普通の感性をもった常識人だったら、常盤さんは至って普通とかけ離れた感性をもった非常識人と思われており、そのため、たとえ常盤さんがどんな行動をとっていようが、それは彼女自身にとっては至って平常運転なのである。若葉さんも、そんな彼女の行動に対して、理由あって、なぜか黙認する以外他なかった。
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