51. お好み焼き屋の少女
それから、ゆかりは水飲み場に留まって、子猫がロボットから逃げるのを静かに応援していた。だがしばらくすると、とうとう子猫はロボットに捕らえられてしまって、光の方に連れていかれようとした。子猫はロボットに捕まりながら、「助けて!」と大声で泣き叫んでいた。これには、さすがの菜の花さんも決心がついたようで、無我夢中で子猫の元へ向かって駆け出していった。
(よっしゃ! こうなったら、微力ながらうちも力になるとするか。……このタイミングやったら別に問題ないやろ?)
ゆかりは、菜の花さんと一緒に子猫の救出に行こうと思い、その前に一応屋上をチラ見すると、露草さんは首を横に振った。
(えっ? まだダメなんか?)
なんや。うちの出番はもう少し先なんか。露草さんに命令されるんは少し釈然としないが……ゆかりは渋々、遠目から菜の花さん達の様子を引き続き見学することにした。
そしてそれから少しして、菜の花さんが急に人間にはありえないくらいジャンプすると、5色の魔法少女に変身した。
(えっ!? なんでや!? なんでそうなんねや!?)
ゆかりは、どこから夢が始まったのか……多分教室が白黒になった時くらいからやと思うけど……支子さんの左手をもっていったり、猫がしゃべってたり、ロボットが出てきたり、菜の花さんが5色の魔法少女になったり、そんなものをずーっと見せられて……もう何がなんだか訳がわからなかった。
(……もしかしたら……放課後に支子さんらの会話を盗み聞きしてたから、その影響がモロに夢に出てきてもうたんかな?)
それからゆかりは、改めて5色の魔法少女となった菜の花さんの様子を見学していると、菜の花さんはコスチュームだけでなく、本当に黄色の魔法少女になったようで、ロボットに雷をぶつけて、あっさりロボットを倒して子猫を救いだすと、ロボット達は子猫を連れ去るのをすっかり諦めたようで、とぼとぼと光の中へ消えていった。
するとその時、ゆかりの目の前を、誰かが必死な様子で通り過ぎていった。
「おーい! ミカー! 蛍ー!」
その娘は、大声で叫びながら、菜の花さんの方へ向かって全速で駆けていった。
「あれ? ……あれは緋色さんやないんか。」
その娘は、菜の花さんや露草さんと同じく、1年の時にクラスメイトだった緋色南美だった。
(緋色さんも、菜の花さんと同じ1年の時のクラスメイトや。緋色さんとは、露草さんや菜の花さんよりは少し親しかった気もするし、もう安心そうな感じやから、自分もあっちに行って大丈夫やろ……)
ゆかりは、自分も緋色さんの後ろから菜の花さんの元へ向かおうと思って立ち上がると、水飲み場に再び小石がコンとぶつかった。屋上を見ると、露草さんが首を横に振った。
「えっ? まだダメなんか?」
ゆかりはまったく納得いってなかったが、引き続き、菜の花さん達の様子を見学することにした。
(……でも、よー考えたら……なんでうち、露草さんの命令に従わなあかんのやろ?)
ゆかりが釈然とせずに菜の花さん達の方を振り返ると、その時、菜の花さん達の横に少しだけ残っていた光の線が完全に消滅した。それと同時に、周りに見えるすべてが彩り(カラー)を取り戻した。そして、止まっていた時間も活動を再開して、グラウンドにいた部活の女の子達も、停止していた態勢のまま全速で走り出した。
ゆかりは、周囲を見回して、すべてが正常に戻ったのを確認すると、再び菜の花さん達の方を見た。菜の花さんの魔法少女のコスチュームは、知らぬ間に元の学生服に戻っていた。屋上を見上げると、露草さんの姿はもうなかった。
――夢にしては、いやにはっきりした夢やったな。こういうの、白中夢いうんやっけ? でも……今まで夢見てたんやとしたら、今はなんなんや? 夢なんか? 現実なんか? ……今も夢なんやとしたら、今も夢を見てる最中っちゅうことか? それとも現実なんやったら、一体どっからどこまでが夢やったんや?
ゆかりは、ポケットからスマホを取り出して時計を確認した。
――なんや、ぜんぜん時間進んでへんやん。やっぱり夢やったんや。うち、働き過ぎやから、肉体だけやなくて、多分頭の方も大分疲れとったんやろな。……それ以外、どう考えても説明つかへん。それに……大体考えたってしゃーないわ。なんであれ……うちにとっては実家のお好み焼き屋のことが一番大事なんやからな。
ゆかりは、気持ちを再び戦場・仕事モードに切り替えると、無理やり営業用の笑顔を作った。
「よし! さあ、帰ろっと。」
ゆかりは、気合を入れると、戦場に向かって再び歩き出した。
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