49. お好み焼き屋の少女
「なんや!?」
ゆかりが立ちあがって、教室のドアに向かって歩き出そうとしたしたまさにその時だった。
ゆかりは、なぜか突然いやな気配を感じると、とっさに両手を顔に当てて、本能的によくわからない何かからの攻撃に身構えた。
ゆかりが目をつむると、教室の廊下側からゆかりのいる窓側に向かって、周囲の彩り(カラー)がなくなって、教室のすべてが白と黒に染まった。そして一瞬、何かゾッとしたものが、自分の体を通り抜けたように感じた。
ゆかりは、その姿勢のまま、しばらくは見知らぬ何かに身構えていたが、もう大丈夫だろうと思って、構えていた両手を降ろすと、ゆっくりと両目を開いた。
「……ほえっ?」
なぜか教室のすべてが白黒になっていた。黒板も机もイスもロッカーも、教室の中にある何もかもが、それに、放課後カラオケやクレープを食べに行こうと話していたクラスメイトも、教室の片隅で5色の魔法少女について熱く語り合っていた残念な4人組も含めて、教室にいるすべてのクラスメイトが白黒になって、しかも、楽しそうにしゃべっている表情のまま、完全に停止していた。
ゆかりは、振り返って教室の窓から外の景色を見渡した。
すると、気持ちよさそうな青い空は、画用紙に鉛筆でラフにさっと斜めに線を走らせた感じに、周囲に見える建物や植物なんかは、それより少し念入りに線を走らせた感じで描かれていた。
「……どういうことや!? 外も中もみんな白黒やないか! ……しかも、クラスメイトなんか、みんな止まってしまっとるやないか!」
ゆかりは、信じられない光景を前に、一瞬、頭が真っ白になった。
「……いやいや、うちが真っ白になってどないすんねん。」
ゆかりは自分にツッコミを入れると、なんとか正気を保ちながら、おそるおそる下を向くと、自分の両手を確認した。
幸い、自分はクラスメイトと違って肌色のままだった。
「ふぅー……よかったぁ。……いやいや、ぜんぜんよくないわ。……でも……それにしても、一体どうゆうことなん?」
(……まあ、とりあえず確認せんとしゃーないか……)
ゆかりは、教室の廊下側にいるひばり達の元に近づくと、ためしに声を掛けてみた。
「おーい! 聞こえてるかー? もしもーし?」
4人からはまったく反応がなかった。やはり何も聞こえてないようだ。
「なあ。」
ゆかりは、4人の中で一番幸せそうに笑っているひばりの肩に、軽く手を当てた。
すると、ゆかりの手は、なんの手応えもなくひばりの肩を通過して、再び自分の脇へ戻ってきた。一方ひばりは、ゆかりの手が通過した部分が、そのままごっそりなくなっていた。
「うわっ!?」
ゆかりは、心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。
(……もしかして……この娘、死んでへんやろな? )
ゆかりは、おそるおそるひばりの顔を見てみた。ひばりは、自分の体がごっそりと削り取られているにもかかわらず、何がそんなに楽しいのかわからないくらい満面の笑みを浮かべていた。
(……まあ、左手削り取ったん、うちなんやけどな。)
あの笑顔をキープしてるくらいなのだから、まさか死んではいないだろう。
「……でも、まあクラスメイトには近づかん方が得策みたいやな。」
ゆかりは、そろりと自分の席に戻ると、これから自分はどうすべきなのか、じっくりと考えた。
しかし、こういう場合、大抵の人間は正常な判断ができない傾向にある。
「……まあ、とりあえず家に帰るか。」
ゆかりは、バックパックを背負うと、クラスメイトに触れてしまわないよう、慎重に教室を出た。
廊下を出ると、まあ多分そうなんやろなとは予想していたが、やはり廊下にいる生徒も、周りに見える景色も、何もかもすべてが白黒だった。
ゆかりは、至って平静に……というより、現実を直視したくなかったので、何も見えてない体で、ゆっくりと廊下を進んだ。
(うわっ……くそっ、なんやねぇん……やっぱり、白黒なんは教室だけやなかったんや……)
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、内心ではビビリまくっていた。
それからゆかりは、なんとか靴箱までたどり着くと、不器用にローファーに履き替え、たどたどしく校舎の外に出た。
学校の外に出ると、やっぱり外も、すべてが彩り(カラー)のない白黒の世界だった。
その時、ゆかりはすべてを理解した。
「……ほう……なるほど……わかったぞ。これは夢なんや。……もしかすると、最近働きすぎやから、体が自分にSOSを発してくれてるんかもしれんな。……まあ、今見てんのが夢なんやとしたら、別にそんなに慌てて家に帰る必要もないな。」
ゆかりは、自分自身にそう納得させると、学校の方を振り返った。
すると、学校のグラウンド辺りから、なぜか光の線が天空に向かって大きく伸びているのが見えた。
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