48. お好み焼き屋の少女
ゆかりは、教室の前の方で、何やら異常に盛り上がっている集団に目を移した。
「ねえねえ、ミア! 来週から『子猫の魔法少女マジカルキティ』が始まるね!」
「おう。やっとだな。やっぱ俺は今回も青色推しだろなぁ。ブルーキティのシノって、俺みたくクールでかっこよさそうだからな。おい、ルーシー。やっぱお前はグリーンキティを推すんだろ?」
「えーっ、私? う~ん……どうしようかな〜。……そしたら、やっぱり私は今回もグリーンキティのミクを応援しようかな? 賢くて気品がある感じだし。で……プルはレッドキティのナミなんだよね。」
「うんうん。やっぱり私はレッドキティのナミ推し! 『マジカルキティ』の主役だし、一番かわいいし、それにかっこいいんだもん。……当然ひばりはピンクキティだよね?」
「もちろん。やっぱり私は『マジカルキティ』だったらピンクキティの一択だね。なんてったって最強だからね。ピンクキティはまだ誰がやるか発表されてないけど、多分私がピンクキティになるはずだから。」
「ふふ。ひばり、またいつもと同じこと言ってる。」
「おうよ。まあ、なんつーか、そこんとこよろしくだぜ。」
「でも……多分、いつもみたいに、後からすごく落ち込むことになるんだろうけど……」
「いや、絶対になるし!」
――うわ〜~。プル、ミア、ルーシー、ひばりっちゅう4人組のクラスメイトが、高校生にもなってキャッキャ言いながら、5色の魔法少女の新作アニメについて熱く語り合ってるわ。5色の魔法少女は日曜夜7時の定番アニメなんやけど、その時間帯、うちは店で絶賛フル回転で仕事してる最中やわ。……でも、営業中に店内に設置されているテレビで、いつも5色の魔法少女を流してるから、実はうちも店内で接客しながら、チラチラ見てるから、結構知ってるんやけどな。
あの4人組、全員1年の時、同じクラスちゃうかったからよく知らんねんけど、あのひばりっていうちんまりした娘……確かフルネームが支子ひばりって言うんやったっけ?
今日の2年D組のホームルームのクラスメイトの自己紹介で、
「私、支子ひばりって言います。私、小さい頃から5色の魔法少女が大好きで、特に桃色の魔法少女が大好きです。私の将来の夢は桃色の魔法少女になることです。……っていうか絶対になります。それで、道路を走ってる車に向かってぶつかっていったら、その時の衝突の衝撃とかで、ワンチャン魔法少女になれないかなとか思って、何度か挑戦しようと思ったことがあるんですが、怖くてできなくて……それによく考えたら、それは魔法少女になるんじゃなくって、異世界に行く方法だってことが最近わかりました。」
なんて、しょーもないギャグ言うてた娘や。その後、自己紹介やのに担任の桜井先生にちょっとキレ気味で色々注意されとったわ。
そんなことを考えながら、ゆかりが四人組の方をボーっと眺めていると、ふと右側から視線を感じた。ゆかりが視線の方を向くと、唐突に露草詩叙と目が合った。
露草詩叙は、ゆかりと目が合うと、すぐに視線を反らし、教室の外へ出て行ってしまった。
――あれ? あの娘は1年の時に同じクラスやった露草さんやん。……それにしても、なんでうちのこと見てたんやろ? それとも、うちの気のせいやろか? 露草さんとは1年の時同じクラスやったけど、ほとんどしゃべったことないし……それに、授業が終わったのに、露草さんがまだ教室に残ってんのって珍しいな。
ゆかりは、不思議に思いながら、露草さんが教室を出ていく様子を目で追った。
――それにしても……新しいクラスってなんか個性的やな。……天才いわれる娘とか、孤高の地をいく娘とか、なんか年甲斐もなく魔法少女のことでキャッキャ騒いでいる娘がいたりとか……まあ、中には普通の娘もおるみたいやけど……。1年の時は、クラスメイトに緋色南美さんとか、菜の花蛍さんとか、美人でシュッとした感じの娘が多かったけど、なんか1年の時とはえらい違う雰囲気やな。2年D組は、個性的……うーん、まあ遠慮なくストレートに言わせてもらうと、なんか学年中の変人をよせ寄せ集めたクラスにも見えんくもないな。――でもあなたもその中の一人なんですけどね。――えっ? 今なんか言うたか?
(まあ、ともかく……うちは日本一不幸なお好み焼き屋の女子高生やねん。残念やけど、うちは普通の女子高生みたいに気楽に遊んでられん運命やねん。)
ゆかりは、気持ちを学生モードから、戦場・仕事モードに切り替えようとした。
だが本音を言うと、支子さん達のような、多少微妙なグループでもいいから、自分もその輪に加わることができれば、どれだけ楽しいだろうか。うらやましくないといえばウソになる。だが、実家の台所事情を考えると、そんなことは言ってられなかった。
(ふぅー……まあ、考えてもしゃーないか。……あかん! このままいくとマイナス思考の渦に飲み込まれてしまうわ。)
ゆかりは、気持ちを切り替えて、ニコッと無理やり営業用の笑顔を作った。
「さあ、仕事仕事。今日もはよ帰って店の手伝いや。」
ゆかりは、気合を入れて立ち上がると、その場をくるっと回れ右した。
「よっしゃ、帰ろっ。」
そして、その場から一歩足を踏み出した瞬間、突然、世界は一変した。
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